異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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彩宮ゼルグラム、炎雷の業と闇の城編

32.小さいダメージと物事の積み重ねは徐々に効いて来る

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※今回、復習回になってしまいました…すんません次は話動きます(;´Д`)






 
 
「……どういう意味だと思う?」

 アドニスとの実験の後、俺達は客間に戻り、向かい合って座っていた。
 夜もけているし、そろそろ寝なければ明日がキツいのだが、あの台詞のことを思うとなかなか寝付く事も出来なかったのだ。
 なので、二人でこうやってもう数十分も鬱々うつうつと向かい合っているのだが……残念ながら、俺の問いは誰も答えてくれない。
 ブラックも腕を組んでうつむいているだけで、答えが出せないようだった。

 いや……出せない、と言うか……出したくない、と言うべきか。
 だけどいい加減、考えなくちゃいけないんだよな。
 俺は首を振ると、俺達が今まで避けていただろう言葉を切り出した。

「……バレたよな、やっぱ」

 俺の言葉にブラックは数秒固まっていたが、観念したかのように思いっきり「はぁ~っ」と大きくて深い溜息を吐くと頭を抱えた。

「そうだよなあ、それしか考えられないよなあ、あのクソ眼鏡の発言は」
「違う可能性も有り得るけど、最悪の事態を考えるならそれしかないよな」
「……でも、一体どうやって知ったんだ? ツカサ君の話では、ツカサ君の周囲に大地の気が散ってるのが見えたって話だったけど……、どうやって見る事が出来たんだ? 大地の気ってのは、基本的に僕達の目には見えない力だ。その姿を見るには夜を待たなきゃ行けない。……つまり、気の付加術が使える人間も、絶対に昼の姿やその根源を見る事は出来ないんだ。なのに、アイツは見えたってのは……」
「謎だよな」

 ここまでの事を軽くおさらいするとこうなる。
 
 まず前提として、俺は黒曜の使者の力で他人に曜気や気を与える事が出来る。
 そしてそれは唯一無二の恐ろしい力であり、悪用されるのを防ぐためになるべく隠さなければいけない。今の所はブラックとクロウ、そして地面くらいにしか使用していないので、近しい人間にしかその事は知られていない。

 そもそも、曜気はその属性を持つ物にしか見えない――炎の曜気は炎の曜術師にしか見えない、というように――だから、今までは他人の前で力を受け渡しても、全く気付かれなかった。今まで不思議と炎の曜術師に在った事が無かったからな。
 そして、その行為を俺は今回ブラックにやった。

 だが、今回の力は曜気ではなく最近使える事が解った大地の気だ。今日俺はその……“アニマ”を見事にブラックに受け渡した。
 オーデル皇国には、大地の気アニマが存在しない。だから、これは俺の力で間違いないだろう。……あと、この国では大地の気をアニマというらしいので、俺もこれからはアニマと呼ぶ事にするが……ともかく、ここまでが今までの要約だ。

 で、ここからが今までのダイジェスト&俺の予想。

 前々からアドニスは、俺がブラックと“何か”をする事で、俺に変化が起きるのではないかと予測していた。もっとも、昨日までは机上の空論だったし、アドニス自身も多分冗談で「交尾したら教えて下さいね」なんて事を言っていたんだろうけど……今日、俺の周囲に“大地の気”が散っているのを見て、その冗談が「まさかな」じゃなくて「まさか」に変わってしまったのだろう。
 だから、あんな風に血相変えて俺の事を拘束したのだと思う。

 そりゃまあ、そうだよな。今まで俺には何の変化も無かったし、俺自身バカスカ木の曜気を使ってるだけだったしね。そんな所に急に劇的な変化が起これば、俺だってビックリするだろう。冗談めかした言葉が真実に最も近い物だったと知った時のアドニスの驚きと恥辱と言ったら、想像に難くない。

 数日色々頑張って研究してた事が、ブラックといういけ好かない存在が現れた事で一気に進展してしまったのだ。……研究者と言う者が往々にしてそうなる物なのかは俺には判断できないけど……まあ、誰だって嫌いな奴に出し抜かれたら、くやしくて愚痴の一つでも言いたくなるだろう。
 だからと言って俺を変な縛り方で拘束したのは意味が解らないが。

 ……とにかく、アレでアドニスは自分の冗談に強い興味を抱いたに違いない。
 だから、さっき俺とブラックにキスさせたんだ。
 認めたくはないが、恐らくその俺達のキスでアドニスの予想は確信に変わってしまった。否定するよりも、最悪の事態を考えて肯定するのが最善の選択だろう。

 だとすれば、この先どうするべきかを考えなければいけないのだが……
 その前に二つほど俺には疑問が有った。

 まず一つ目は、アドニスには本当にアニマが見えているのかと言う事。
 仮に見えていないとしたら、アドニスは俺達に対して“別の仮説”を持っていると言う事になる。それがどんな物かは解らないが、もし相手が黒曜の使者に関しての何らかの情報を持っているとすれば……その情報を元に、俺の力を推定して、俺にカマをかけている可能性がある。

 まあ、どっちにせよ俺に謎の力があると言う確信は持っている訳だが、もしこの予想が正しいとすれば、事態はもっと深刻だ。
 ……ただ、この世界のほとんどの人間には知られていないはずの黒曜の使者の事を、どうしてアドニスが知っているのかと言う事には疑問が残るが……。

 そして二つ目の疑問は、アドニス自身の存在だ。
 彼は「緑化計画」という国を救う壮大な計画をになっているのに、何故一人で研究を進めているのだろうか。

 今日垣間見たあの謎の施設では、パーヴェル卿が他の研究員と共に、兵器開発について話し合っていた。と言う事は、この国の存亡に関わる研究は、集団で行われていると言う事なのだが……何故か、アドニスにはそのような補助する部下が全くと言って良いほど存在していなかった。
 植物園という実験施設や、実験棟という住まいがあるにも関わらず、アドニスの周囲にはロサードとパーヴェル卿、そしてヨアニスしか存在しないのである。

 なのに、彼はこの国の中枢ちゅうすうにかなり食い込んでいた。
 この国の皇帝であるヨアニスは彼をパーヴェル卿と同等の扱いにしているし、宰相さいしょうおぼしきパーヴェル卿もアドニスの事を頼りにしているようだ。
 緑化計画が本当に進められているのなら……どうして、兵器開発と同じ規模でアドニスを支援する機関が存在しないのか。

 アドニスの研究者としての意欲は手腕は、その方面には無知な俺からしても確かなものだと思えたし、皇帝もお遊びで置いている訳ではないだろう。

 あと、これは俺の勝手な憶測だけど……よくよく考えてみたら、パーヴェル卿とだけ懇意にしているって言うのが、なんか引っかかるんだよな。
 もしかして、アドニスって……兵器開発か、もしくは国に関しての後ろ暗い事に関係が有るんじゃないのだろうか。
 それもそれで、色々と疑問が残るけど。

 ……何か対策を考えなきゃって言っても、改めてアドニスが謎の存在だと言う事にぶちあたると、コレだっていう対策が全然思い浮かばないんだよなあ。

「うー…………パーヴェル卿の事もあるってのに頭痛い……」

 何だかもう考えるのに疲れてしまって、俺は座ったままで体を折り曲げて頭をひざに付けた。椅子に座ったまま死亡したみたいなポーズだがもう気にしない。
 とにかく今日は本当に疲れた……。

「相手が何故見えないはずの大地の気……アニマだっけ? ソレが見えるのかが謎だけど、こうなると厄介だね……」

 俺のポーズの意味を汲み取ったのか、ブラックもまた溜息を吐く。
 本来は俺一人の問題だけど、ブラックはこうやって一緒に悩んでくれている。
 それはまあ、その……恋人だからなわけで……それを考えると嬉しくはあるが、なんか凄く恥ずかしい。てか、迷惑かけてる申し訳なさが増してキツい。
 仲間に迷惑かけるのすら苦しいのになあ……。
 ああもう、俺がスパっと問題を解決できる力に恵まれていたら!!

 どーしてこの世界には、俺のステータスを完全に隠せるチート能力が存在しないんだろう。そう言うのってチート小説じゃ普通でしたよねえ!
 くそう、俺の飛ばされた世界はステータス画面開けない世界だからなあ。
 ホント肝心な時にダメだよな、俺って奴は……。

「……俺、最近ポカやってばっかだなあ。すまん」

 元はと言えば、俺が拉致されなきゃこんな事には巻き込まれなかったのに。
 俺自身に降りかかった事は甘受するが、付き合わされているブラックやクロウやシアンさん達は、俺が拉致されたから結果的に協力せざるを得なくなってる訳だし……ホント申し訳ない。

 だんだんと座り死に体勢が苦しくなって、テーブルに頭を載せ替える。
 テーブルに頬をくっつけながらブラックを見ると、相手は俺の姿に目を見張っていたようだが、すぐに口に手を当てて顔を背けた。

「ン゛ッ、ちょっとツカサくっ……そのカッコ反則なんだけど……っ」
「は? 何言ってんのお前」
「んもー、人がせっかく真面目に話そうとしてるってのにツカサ君はまた可愛さで僕を惑わそうとするー!」
「るぅー、じゃねーよ! お前なんでそう一々変な所で変な事考えるかなあ!」

 大体片方の頬が潰れてるってのに何が可愛いだ。ブサイクになってんだろうが。恋人補正のあばたもエクボをマジでやってどうする。
 あばたもエク……あ、やばい。俺が寝こけてるブラックにキュンてなったのも、もしかしたらソレなのでは……やだ寒気して来た。慣らされてる怖い。

「ツカサ君……まあ色々と考えなきゃ行けない事は有るけどさ、とりあえず今はぐっすりと寝て頭を整理しようじゃないか。さ、ベッドに……」
「い、いやだお前またスケベな顔になってるぞ。今日はもう疲れたから嫌だからな、絶対ヤだからな!!」
「ツカサ君、疲れマラって知ってる?」
「何でそう言う単語だけこの世界にあるんだよ!!」

 なんで!? マラって日本に昔からある言葉だから!?
 俺の言語翻訳機さん優秀過ぎませんかやめてください!

 って言うかブラックこのやろ、俺が内心でツッコんでる間に抱き上げやがって。
 やめろ、高い高いすんのやめろ!!

「ほーらツカサく~ん、高いたかーい」
「やめろ脇が痛い! 脇がもげるからやめろ!」
「やだなあツカサ君たら。ワキはもげないよ、めり込んでいくだけだよ」
「怖い事言うなばかああああ」

 さっきのシリアスな雰囲気はどこ行ったの。
 ブラックお前、さては面倒くさくなって、明日の自分に全部任せやがったな。
 おいコラ、そんなだからダメなオッサンなんだぞ、今日やれる事を明日に任せてどうにかなる訳ないだろう。自分の首を絞めるような事はやめろ!
 俺はソレを期末試験でやって痛い目を見たぞ!

「ほらほら、どうせなら疲れ切ってから寝ようよ。その方が何も考えずにぐっすり眠れるよ……? ふ、ふふふ……」
「やだこのおじちゃんこわいぃ」
「あは、何それ凄く可愛いね……今日は小さい子みたいな言葉遣いで僕を楽しませてくれるのかな? いいね、いつもより背徳的な感じで燃えるよ……!」

 いやああああハァハァしないでええええ。
 もうダメだ、こうなってはこいつを止められない。俺は高い高いの連続で、脇に深刻なダメージを負っているし、そもそも抵抗したって相手には敵わないし。
 くそ、またブラックにしてやられてしまうのか。
 明日丸一日潰れるような事をされるのだけは避けたいが……ハァハァ言ってるこのオッサンにはブレーキなどない。アカン。本当にアカン。

「さー、ツカサ君ベッドに行こうねー。今日は久しぶりに激しくやれそうだなあ」
「ああああ……」

 彩宮なんて嫌いだ、なんでこんなにベッドが広いんだ。
 目の前にベッドが近付いて来て、もう駄目だ……と、思ったその時。

 コンコンと控えめにノックする音がして、ドアの向こうから声が聞こえてきた。

「…………二人とも、起きているか」

 その声は、勇ましくて野太い。
 誰の声だと一瞬固まった俺達だったが、すぐに思い当たって目を瞬かせた。
 ドアの向こうに居るのは、ボーレニカさんだ。

「もしかして……話をしに来てくれた……?」

 その俺の言葉に、ブラックは思いっきり不機嫌そうに顔を歪めたが……今の状況を考えて自分を律したのか、当てつけのように大きな溜息を吐くと、俺を降ろしてドアへと足を向けた。

「全く……なんでこう最悪の間でやってくるかな……」

 ブツブツ言ってるけど、俺にとっては最善のタイミングですよオッサン。

 しかし……こんな夜中に話に来るなんて、どうしたんだろう。
 そんなに話しにくい事だったのかな。

「…………悪い話じゃ無ければいいけどな」

 パーヴェル卿の事が解るのはありがたいけど、悪い過去ならなるべくは知りたくない。でも、知らなきゃ前に進めないことだってある。
 アドニスと同じように、俺達も知りたくない事も知らなきゃならないんだ。
 だけどせめて、どんな事を明かされたとしても、取り乱さないようにしたい。
 それがボーレニカさんに対しての礼儀だと思うから。

 俺は思いっきり息を吸って気合を入れると、開いたドアの向こう側に立っていたボーレニカさんを見て、ぐっと拳を握った。







 
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