異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

文字の大きさ
456 / 1,264
彩宮ゼルグラム、炎雷の業と闇の城編

39.不穏な終わりは新たな始まり

しおりを挟む
 
 
 翌日、体調もそこそこ回復した俺は、ブラックとクロウ、それにロサードというお決まりのメンバーと一緒に、とある場所を訪れていた。
 そのとある場所と言うのは、二度目のリュビー財団本部である。

 彩宮さいぐうの中は今バタバタしているし、何よりヨアニスに関係する事柄を話すので、アドニスが他人に話を聞かれるのを嫌ったのだ。
 あと、シアンさんにも話を聞いて貰わなきゃならんからね。
 俺達の事がアドニスにバレたんだから、それに関しても話さないとなあ。でも、アドニスがあっさりシアンさんの同席を許したのは意外だった。

 相手も俺の能力が黒曜こくようの使者の者だとは思ってないみたいだけど……まあ、異常な力ではあるんだし、世界協定の監視下にあってもおかしくないと考えた可能性はある。性根は悪いがコイツは世界を飛び回る凄腕の木の曜術師なんだから、意外とその辺にはさといのかもしれん。

 そんな訳で、俺達は防音設備ばっちりの会議室を借りて集まったのだが。

「……貴方がツカサ君を拉致らちした時から、あやうい事になるかも知れないとは思っていたけれど……まさか、こんな事になるとはね……」

 溜息を吐くシアンさんに、アドニスは大げさに肩をすくめて眉を上げる。

「心外ですねえ。私を野放しにしているのだから、こうなる事も想定済みでは? そうでなければ、貴方がを許しているはずが無い」

 やけに強調するように最後の一言を放ったアドニスに、シアンさんはひたいに白魚のような指を当てると、沈痛な面持ちで二度目の溜息を吐いた。

「不毛ね。貴方には貴方の思惑が有るように、私にも私の思惑が有ります。けれど今はそれを探り合う時間はないわ。……優先事項は、早急にこの国を統治する皇帝陛下をお救いする事です。……ツカサ君達には、大変な事件に巻き込んでしまったわね。本当にごめんなさい」
「あ、い、いや……俺達から関わって行った事ですから……」

 まあブラックやクロウは完全にとばっちりだけど、俺はシアンさんに謝って貰うような事なんて何もないしな。大体、世界協定には今回の事件で色々と協力して貰ったんだ。こっちが感謝こそすれ、謝られる事など何もない。
 むしろ一緒に動いてくれてありがとうございます、と感謝を述べると、シアンさんは少し驚いたような顔を見せたが、いつもの笑顔でふわりと笑ってくれた。

 うーん、それそれ、その笑顔ですよ。
 やっぱ女の人は笑顔じゃなくっちゃね。

 しかし……アドニスとシアンさんはどうやら面識があるみたいだけど、どんな仲なんだろうか。世界協定からすれば相手は凄腕の薬師なんだし、何らかの協力要請とかをした事が有るのかな?
 でも、二人の口ぶりだと、何かビジネスパートナーって感じじゃないんだよな。
 なんかこう……身内に話してるみたいな……。うーん解らん。

「で……これからどうするんだ? 面倒事は早く終わらせたいんだけどね」

 うんざりしたようなブラックの言葉に、アドニスはやれやれと言わんばかりのジェスチャーをかまして来ると、ゆっくりと立ち上がった。

「では、説明しましょうか。……まず、君達にはある場所に同行して貰います。ああ、もちろん皇帝陛下も一緒にね。全てはそれからですよ」
「行先は?」

 クロウの言葉に、アドニスは懐から地図を取り出してテーブルに広げる。
 その地図は、大昔の人が書いた空想地図のように縮尺が滅茶苦茶で、所々にモンスターとかが描かれている、地図と言うよりも芸術作品のような、あんまり信頼性のないものだった。

 実際、この世界の地図ってのはこれが普通だ。
 俺達が普段使っている何もかもが高水準の地図は、かつてブラックの仲間だったと言う【伝説の測量士】の称号を持つアナンって人が書いた、かなり精巧せいこうな物だ。
 彼の地図は縮尺もはっきりとしており、道や地形も正確でかなり分かりやすい。俺の世界では当たり前の事だけど、その精巧さはこの世界では特別なのだ。

 そんな物を使って旅をしているから、俺達も精巧な地図があって当たり前だと思っている節がないでもないが……そのレベルの地図が伝説と言われるのだから、他の地図がアナンの地図より劣っているって事は火を見るより明らかだろう。
 だから、普段使いされる地図はこんな空想地図が普通なのだが……それにしても思いっきりファンタジーし過ぎてて、ちょっとどころかかなり不安になる。

「あの……この地図、ちゃんと使えるの……?」
「地形や街や道が描かれているんですから、これで充分ですよ。そもそも、街道や分かりやすい目印があるのに、何故地図が無ければ迷うんですか。これは、目的地を確認するためだけに用意した地図です。今後は使いません」
「迷うって……いやまあ、そりゃそうだけど……」

 確かに、俺達も今回は街道を通るだけだったので地図を用意していなかったが、必要な時は必要だろう。アコール卿国なんて道が沢山あったから、地図が無ければ道に迷ってただろうし……。

 でもまあ今はそんな事言ってる場合じゃないか。
 俺達も中腰になって地図を覗き込むと、アドニスはある一点に指を落とした。
 そこには「ノーヴェポーチカ」と書かれた街の群れが有る。

「我々は今から、ノーヴェポーチカを離れ……ここへと向かいます」

 首都から指が離れる。
 その指が薄茶色の古びた紙の上を滑り、ある場所へと到達した。

 途端、その場所を視認したシアンさんが、けわしい顔でアドニスを睨む。

「あなた、まさか……!!」
「部外者は黙っててくださいませんかね。……今回の事は世界協定としての仕事じゃ無かったんでしょう? だったら、口出しをしないで下さいね」
「くっ…………」

 あ、あの、何の話してるんですか……?
 俺とクロウとロサードが困惑する中で、ブラックはいぶかしげにアドニスを見やる。
 シアンさんの事をこの中の誰よりも知っているブラックは、二人の会話に何かを感じ取ったらしい。

「……お前、本当に“なにもの”なんだ?」

 含みが有るその台詞に、アドニスはブラックに視線をやるとニヤリと笑った。

「正体を知りたければ、なおの事付いて来た方が良い。ねえ、ロサード」

 そう言って唐突に話を親友へと放り投げるアドニスに、ロサードはびくりと肩を震わせて、何か口ごもるように目を伏せて視線を逸らした。
 もしかして、ロサードは何か知っているんだろうか。
 でも俺達にも言えないって事は……やっぱり、アドニスには「薬師で研究者」という顔の他にも、別の顔が有ると言う事なのか。

「……話を続けましょう。ツカサ君、ここが何だか……知ってますか?」

 訊かれて、俺は疑問に眉根をしかめながら答えた。

「何って……ここ、ドラグ山だろ? オーデルと他の三国を分断する国境の山」

 そう。アドニスが指さしたその場所は、南方にそびえる巨大な連山。
 常冬の国を封鎖する山々の中でも、一際ひときわ高く突き出た山だった。

 ドラグ山と言えば、そのふもとにはピクシーマシルム達の親であるチェチェノさんが閉じ込められていた洞窟があったよな。
 あと、思い出したくないけど……ゾンビみたいな人達がいた村があったが……そ、それは置いといて。とにかく、アコール卿国の領土にもかかる山だ。

 でも、そんな所に登ってどうするんだろう。

「その山に、ヨアニスを救う薬草か何かがあるのか?」

 俺の問いかけに、アドニスは小馬鹿にするような笑い声を漏らした。

「ふふっ……! ま、まあ、南方まで下れば、植物が生える地域もほんの少しだけ存在しますが……君が規格外の回復薬を作れたとしても、流石さすがにそれだけでは……腕を再生させ仮死状態から生き返らせる事は出来ないでしょう?」
「う……」

 確かに……俺の回復薬がいくら凄くったって、仮死状態の人を治せるかと言うと自信がない。出来ないとは言いたくないが……でも、それを試すためにヨアニスの仮死状態を一度解くなんて、絶対にしたくない。
 けどそれって、やっぱ自分の薬の薬効を信じられないって事だよな。
 ……なんか、そう考えると悔しいし情けないや。

「おい、ツカサ君をいじめるなよクソ眼鏡」

 そんな場合じゃないのに落ち込んでしまう俺に、ブラックはぎゅっと抱き着いて来てアドニスをギロリと睨み付ける。
 うう、かばってくれるのはありがたいけど、みじめになるからやめてぇ……。

「ふふ……すみませんねえ、ツカサ君の顔が歪むのが可愛くてつい」

 つい、じゃねーよ、ついじゃ!
 チクショウ、こっちが大人しく話を聞いてりゃ付け上がりやがって、このマッドサイエンティスト眼鏡め!!
 だあもうクスクス笑いやがって!

「フフフ、怒らない怒らない。しかし、本当に薬草を取りに行くんじゃないんですよ。だって、それだけなら陛下を連れ回す必要が無いでしょ」
「まあ、そりゃそうだが」

 そこはブラックも素直に頷く。
 ……俺のバカ度が浮き彫りにされたような気がしたが、気にしないでおこう。

「ええと……じゃあ、何をしに……?」

 ヨアニスを連れて行かなきゃ行けないなんて、よっぽどのものが有るんだろう。
 そしてそこに、恐らくヨアニスを救う術が有るのだ。

 ……そう言えば、この世界には歴史も出自も不明と言う不可思議な遺跡……
 【空白の国】と呼ばれる遺跡が、各地に存在しているんだったな。

 だとしたら、もしかしてドラグ山にその【空白の国】があるんだろうか。

 地図から顔を上げてアドニスを見やる俺に、相手はご名答と言わんばかりにその胡散臭うさんくさい微笑みを深めた。

「我々が今から向かうのは……オーデル皇国側北西部に存在する、巨大遺跡――――空白の国・バルバラ神殿です」

 その名に、シアンさんとロサードが絶句する。

 だが俺達には、何故その名が彼らを緊張させたのか解らなかった。
















※次からは新しい章に入ります(`・ω・´)
 神殿探索と思いきや全然違うしほのぼのする所も有るので
 彩宮編で暗くなった雰囲気をコメディに戻して
 えろもマシマシで頑張りたいと思います!!\\└('ω')┘//
 春よ早くやってこい!
 
しおりを挟む
感想 1,346

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

少年探偵は恥部を徹底的に調べあげられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...