異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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神滅塔ホロロゲイオン、緑土成すは迷い子の慟哭編

1.眠る漆黒の塔

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 なんだか、体がだるい。
 
 立ち上がる事も歩く事も問題はないのに、何故だか微熱に浮かされたような感覚がずっと続いていた。

 それに、頭だって妙におかしい。
 曜術を使うために意識を集中させようとしても、すぐにイメージがぼやけて使い物にならない。普通に考え事をしたり喋るのは全然平気なんだけど、曜気を使おうとすると途端に頭がぼうっとしてくるのだ。

 黒曜の使者の力を使い過ぎたせいなのか、それともいまだに俺の首に張り付き神泉郷しんせんきょうから大地の気を奪い続けている、この根っこのかたまりみたいな小さい寄生樹のせいなのか……。うう、コイツのせいで体の中がまだうずいてるし、このうえ諸々の不調もコレのせいだったら、アドニスをどつき回してやりたい。

 だって、この状態が全部根っこのせいなら、ブラックに近付いただけでフラフラしてしまう理由もはっきり説明がつくしな。
 こんなこと初めてだし、考えられる原因はそれしかない。

 ああそれにしてもアンチクショウ、俺がこんな状態だってのに無駄にツヤツヤしやがって。いくら俺が燃料入れたからって、あの気力充填っぷりはないだろ……。
 ぐうう……曜気とか大地の気を注ぎ過ぎたのかなあ……。

 それだけ元気なら俺の事を助けて逃げて欲しいもんだったが、アドニスにこの根っこを付けられていては逃げられないし……第一もう……。

「…………本拠地来ちゃってんだよなあ……」

 ――――そう。

 あの後、ブラックに抱き締められて目覚めた俺は、再会を喜ぶ暇も無くアドニスに「吹雪が止んだので移動します」と言われて、洞窟の中で【異空間結合エリア・コネクト】を使用されて一気に移動してしまい、その後もう一度異空間トンネルにブラックと一緒に放り込まれて謎の場所に連れて来られてしまったのである。

 ……いや、ブラックと一緒に逃げる時間は有ったはずなんだけどね?
 でも、その考えを見越したアドニスに「私から逃げると、その【寄生木やどりぎ】は永遠に外せませんよ。木のグリモアのちからを舐めないで下さいね」と言われたし「ああ、それと私を殺しても駄目です。私の指示にそむいた場合は【寄生木やどりぎ】がツカサ君の体内の曜気を永遠に吸い続けるようにしますからご注意を」とも言われた。

 まあ、そんなだから、逃げられなかったんだよね……。

 どういう原理かは解らないけど、現に俺はあの神泉郷の泉から大地の気をそそがれている感覚(なんか体の中がめっちゃうずくアレ)を感じてしまってるし、アドニスが木のグリモア――呪文から推測して【緑樹の書】――という木属性のグリモアを読んだのは間違いないんだろうから、どうしようもないよな。

 魔導書グリモアの力に完全に対抗できるのは、同等の威力を持つ魔導書グリモアの力だけだが……幻術をつかさどる月の魔導書の【紫月】では、恐らくアドニスには対抗できない。

 レッドと戦った時にブラックが言っていたけど、例えこの世界の頂点に立つ力であっても属性ごとに相性は有り、相克そうこくの関係に無い属性では負けてしまうらしい。
 ブラックの【紫月】は、その属性に当てはまらない特殊な力だが、それでも物理攻撃が出来るものと精神攻撃が出来るもので争うと考えれば……勝敗は明白だ。
 アドニスが永続的にこの術を発動できるというなら、俺達に勝ち目はない。

 それに、もし俺に寄生している【寄生木やどりぎ】が命をも奪う事が出来るのなら、ヘタに手を出す事は出来ない。アドニスだって、簡単に隙を見せたりはしないだろう。
 だから、大人しく着いて行くしかなかった。

「長旅お疲れ様でした。私の異空間結合エリア・コネクトは長い距離を繋ぐことが出来ないので、少々不便な思いをさせてしまいましたね。……まあ、妖精王なら別ですが……私はただの血族なのでご容赦ください」

 心にもない謝罪をしながら、アドニスは俺達の目の前でお辞儀する。
 移動距離が短かろうが転移魔法を使える時点で勝ち組だと思うんだけど、ほんとに嫌味な奴だな……俺のチート能力ディスってんのか。

 ブラックも俺から数十センチ距離を取りつつも、俺の隣で顔をしかめた。
 ……俺の訴えを考慮して離れてくれてるのはありがたいが、数センチ程度なので結局近い。それどころか背後で俺を受け止めんとしワキワキ動いているブラックの腕の気配が有り……あの、一応シリアス展開だしやめてくれませんかね……。
 俺わりと本気でフラついてるんで……。

「それにしても……これ……なんだい……?」

 そう言いながら見上げるブラックにならい、俺も上を向く。
 実は空間から放り出されてすぐだから、ここがどこだか判らないんだよな。目の前にはすぐ扉が有るし、この家だかなんだか解らん黒光りした鉄の建物はでっかくて視界をまるまる覆っているし。

 ほんとブラックの「コレなんだい」には同意だよなあと思い、この建物の全景を見ようとして――――俺は思わず固まってしまった。

「……な、なに…………これ……」

 それだけしか、言えない。
 何故なら、俺が見上げた目の前の建物は……とんでもない建造物だったから。

「黒い……要塞…………いや、塔か……?」

 ブラックの困惑したような呟きに、俺はカクカクと頷く。
 そう、そうだ。目の前の建物を形容するなら、そういう言葉がふさわしい。

 だって、俺の目の前に在る建物は、どこの高層ビルだよってレベルでぐんぐんと空に伸びていて、てっぺんなんて地上からじゃとても見えないレベルなんだぞ。
 それで黒光りする漆黒の塔とくれば、驚かずにいられようか。なにせ、この世界では高層ビルレベルの建造物なんてほとんどありえないんだからな。

 俺が見た高層建築は、各国の宮殿や、裏世界ジャハナムの地下空洞ビル遺跡群、それに国教の砦くらいなものだ。あとは高くても四階建てくらいで、二十階三十階レベルなんて、それこそ有り得ない存在だったのに…………。

「まさかこれも……古代遺跡だったり…………?」

 そんなまさかな。
 ありえない事を言って冷静になろうとした俺に、アドニスは意外そうに言う。

「おや、外観だけでよく解りましたね。綺麗に覆っているので、冒険者の貴方達には『遺跡』と説明すると違和感があるでしょうが……この塔は立派なで間違いありませんよ」

 え、マジ?
 完全に否定される事を前提で言ってたのに、なんで大正解になっちゃうんだ。

 でも変だな。見た目的には、ノーヴェポーチカの皇帝領にあった軍用施設とそれほど変わらないのに……。
 そんな事を考えていたら、その思考もアドニスには筒抜けだったのか、わざわざ教えてくれた。

「この遺跡は、代々国を守る皇帝によって秘匿され守られてきました。元々は違う形の遺跡だったのですが、先代皇帝の鶴の一声でこのような姿に造り替えられたのですよ。……まあ、ここまで出来るのは我が国の建造技術があってこそですが」

 さあ行きましょうかとか言いながら、アドニスは重そうな扉を難なく開く。
 多分あれもカードキー認証的なアレで開いてる……んだよね?
 本当この世界って技術関係の進度がメチャクチャだな。

「ツカサ君、行こう」
「う、うん」

 アドニスに続いて、薄暗い塔の中へと入る。
 中は意外と簡素で、だだっぴろくて何もない円形のホールと、壁に引っ付くようにして作られている長い長い二つの階段しかない。左右それぞれに分かれた階段は、恐らく何かあった時のために用意されているのだろう。

 それ以外には何もない殺風景なホールだが……でも、床の中央には大きな一本の線が走ってるから、もしかしたらここが開いて中から巨大な兵器とか超絶合金ロボとか出て来るのかも知れない。
 この国の良く解らない技術力なら、それも出来そうな気がする。

 上がれと言われて素直に階段を登って行き、地上数十メートルの落ちたらヤバい高さまで到達した時、上の方に天井が見えて来た。階段はその天井の隅に在る穴へと続いているようだ。あれが終点かな。
 たぶん……あの天井を抜けたら部屋が有るんだろう。
 単純に階段の登りすぎでガクガクしている足を動かして、必死にゴールまで辿り着き、俺はがっくりと座り込んでしまった。

「う、ううう……も、もうだめ……」
「ツカサ君大丈夫? お姫様抱っこしようか?」
「殴られたくなかったらそう言う事言うのやめて……」

 こいつは空気が読めないんじゃなくて、いちゃつける暇があったらすぐにでもそうしようとする奴だからタチが悪い。
 ちくしょうこのくらいでへばってたら男が廃る。
 よろよろと立ち上がって、俺はようやく周囲を確認した。

「あれ……意外と普通の……フロア……?」

 塔は円錐形になっているのか、上がって来た部屋は入り口よりも少し狭くなっていたが(それでも充分広い事には変わりないけどね)、階下とは違いここはまるでどっかの会社のロビーのように簡素ながらも心地よい空間になっていた。

 なんかあの、あれだ。父さんの会社のロビーに似てる。
 ソファと低いテーブルが有って観葉植物があるし、窓もある……。
 うん? 窓?

「それにしても、僕を中枢まで一緒に連れてくるだなんて良い根性をしてるね」
「貴方のような面倒な存在なら、執念でここを見つけて凄く迷惑な方法で乗り込んで来たでしょうからねえ。なら、色々と不都合が起こる前に、合流させて大人しくさせておく方が良い」
「悪知恵だけには頭が回る奴ってのは厄介極まりないね」
「敵として見れば賢明な判断すらも愚案に見えるのですから、人族と言う物は本当に薄っぺらい価値観でしか生きれない可哀想な存在なのですねえ」

 なんか色々言っている二人からちょっと離れて、俺は窓の方へと向かう。
 俺は何も見てません聞いてません巻き込まないで下さい。
 えーと、どうせ逃げられないし、ここの位置を確認するくらいならいいよな?

 少し高い位置にある窓に、つま先立ちで手を掛けて窓の外を見る。
 すると、そこには……素晴らしい風景が広がっていた。

「ふわ…………」

 遠景には、青く透ける山脈と白い平原。
 その平原を裂く一本の道がこちらに続いていて、眼下には――――白煙の群れと鉄の臭いに満ちた、不可思議な街が広がっていた。

「ここって…………」

 まさか、首都のノーヴェポーチカ……?
 しかもこの窓の位置的には、ここは皇帝領の内部だ。しかし、皇帝領には彩宮さいぐうと同程度かそれ以下の高さの建物しかなかったはずだし、なにより……この風景は、高すぎる。

 こんな場所、首都には存在しないはずなのに、どうして…………。

「あれ……でも、まてよ……? このありえない高さで異様な建物、どっかで見た事が有るような……」

 なんだっけ……どこでみたんだっけ……。

 ――――あ、そうだ……アレだ!!

 ノーヴェポーチカに来る前に見た、あの物凄く高い黒の塔!!

 まさかここって、その塔の内部なのか!?

「いやでも待て、街に近付いてもこの塔って見えなかったぞ……?」

 今思い出してみると、街に近付くころにはこの黒い塔は見えなくなっていた。
 あの時は“管”の音が煩くてそれどころじゃなかったし、俺は俺でスチームパンクなこの街の様相に物凄く興奮して、すっかり頭の中から抜け落ちてしまっていたが……よくよく考えると変だすっごくおかしい。。

 なんでだ、遺跡って言うからには何か仕掛けが有るのか?
 街にはモンスター除けの障壁バリア発生装置があるが、もしかしてそれが作用して見えなかったのかな? それとも……

「ツカサ君、行きますよ」
「はえっ!? う、うん……」

 アドニスに呼ばれて戻ると、ブラックが俺の肩をしっかりと抱いて、ガルルルとうなりながらアドニスを睨み付ける。
 しかし相手はどこ吹く風で、部屋の隅に在った扉を開いた。

「ここからは昇降機しょうこうきで行きます。体力のない君でも楽に行けますよ」
「ぐ…………」
「ツカサ君その根っこが外れたら殺そうね、あのクソ眼鏡すぐに殺そうね」
「俺としてはフラフラするっつってんのにひっついてくるお前も殴りたい」

 人の話聞いてましたかブラックさん。
 いや聞いてたけど都合の悪い事は忘れてるだけですねブラックさん。

 しかし……あの地下の巨大エレベーターと言い、ここに当たり前に有るレトロな昇降機エレベーターと言い……ホントにこの国、どうなってるんだろう……。












※新章~……といっても最近のと比べるとあんまり長くはないです
 繋げると微妙な感じだったので、ここで一つ区切りました。
 一応この章で冬の国は終わりですので、お付き合い頂けると嬉しいです

 あと睡眠姦はブラックもツカサも正常じゃなかったので後でリベンジさせたい
 
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