異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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神滅塔ホロロゲイオン、緑土成すは迷い子の慟哭編

9.過ぎた力の代償

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 色々と考えたけど、やっぱり俺達に足りないのは情報だと思う。
 ……全然考え変わってないじゃんとは自分でも思うが、それでもまだそう思うんだから仕方がない。

 ブラックが奥の手を使えない以上、やはり俺達は自力でこの枷を外す方法を探してアドニスの手から逃れねばならない。

 ……と言っても、この場から逃走するってだけの意味じゃないぞ。
 ただ逃げるだけじゃウィリー爺ちゃん達の事が解決しないし、なによりアドニスはその程度では俺を諦めないだろう。相手に主導権を握られたまま逃走しても、待っているのは。
 この【寄生木やどりぎ】が首に付着している限り、俺は自由にはなれないのだ。

 交渉を行うにしろ、今のままでは奴隷も同然で取引材料も無い。
 だから、情報が必要なのである。

 ……まあ、最初から楽に逃げられるとは思ってないから、どっちかって言うと今は「このホロロゲイオンという塔か、アドニスに関してのなんらかの重要な情報を得たい」って方が大きいかも。

 それが判れば交渉のカードに使えるかもしれないし、うまくいけばこの塔自体を使用不能にして、アドニスの計画を白紙に戻す事も出来る。
 どうもキナくさい計画である以上、このままにしておくのも危ないしな。
 ヨアニスがどこまでコレに関わっているのか知らないが、外部からの助けはほぼないと考えて良いだろう。

 普通に考えて、この塔は国の重要機密だ。そんな場所に他国の人間を通すわけがない。クロウは門前払いだろう。
 そうなると、外の味方が俺達を救出するってのは難しい。

 だからこそ、情報がいるのだ。
 そのためには多少汚い手も使わねばなるまい。
 ってなわけで、俺達は図書保管室で得た情報を元に、一か八かで【砲台】のあるフロアと、アドニスの執務室が在る場所に潜入しようと思ったのである。

 幸いこの世界にはまだ監視カメラなんて存在しないし、俺達がコソコソ隠密していることもバレはしない。何せ、この国は【索敵】で敵を探そうにも、大地の気が無くて困るってくらい気が少ないからな。

 常駐騎士たちはみんな部屋に籠ってて警備は手薄どころかスッカスカだったし、まあこの程度なら楽勝でしょう。
 実際、俺達は今昇降機しょうこうきにもう乗っちゃったし。
 今から【砲台】があるフロアを目指しちゃうし!

「…………にしても……嫌なものを聞いてしまった……」

 ゲンナリしながら昇降機の中で呟く俺に、ブラックも深く頷く。

「まさか……僕達以外にも発情してる奴らが沢山いるとはね…………」
「いや俺発情してねえから。お前だけだから」

 ……正しくは「俺以外の野郎ども全員発情してた」なんですけどね。
 未だに何が何だか解らないが、アヒージョで体が温まったせいなのか、それともあの材料の中に何か問題があるモノがあったのか、俺達が通り過ぎた兵士達の部屋からは、社畜の呻き声と同等の聞きたくない声が漏れまくっていた。

 …………自分がそうじゃないとは言わないけどさあ……濃い衆の喘ぎ声ってのはどうしてああも耳を塞ぎたくなるんだろうなあ……。
 しかも通る部屋通る部屋全部から聞こえて来るとか地獄かよ。
 女の子の喘ぎ声なら壁に耳を当てて必死に聞くけど、男が男に掘られる時の喘ぎ声なんぞ俺は金貰っても聞きたくないぞ。自分のも含め。
 でも、やっぱりおかしいよな、そんだけ全員発情って……。

「やっぱあの料理、なにか催淫効果のある食材でもまざってたんじゃ……」
「ツカサくーん、やっぱりさあ、僕達もあそこで一回セックスしておいた方が互いにすっきり……」
「うるせえブン殴るぞ空気読もうね中年」
「はい」

 はいじゃないが。
 ったく、さてはあの「乙女回路埋め込まれてんじゃねーの」ってほどのドキドキも、何か原因が有ったんじゃなかろうな。
 それはそれでなんかモヤモヤするけど……まあいい。
 とにかく今は【砲台】だ。兵士達があんだけはげんでいらっしゃるんだから、元々薄い警備は更に手薄になってるだろう。

「それにしてもさ、ツカサ君。【砲台】に向かうのは良いけど何をするんだい?」
「うん、少し確かめたい事があってさ」
「確かめたいこと」
「えーと……まあ俺もぼんやりしてるんだけど、もしその砲台が何かを攻撃する為じゃなくて、大地の気を使ったなんらかの力の放出兵器だったら……俺達の力で何とかなるかも知れないだろう? 壊す事が出来なくても、俺が神泉郷から流れる気以上の気を流し込んだら、オーバーロード……じゃなくて、燃料の状態になって、装置を破壊する事だって出来るかもしれないし」

 荒業だけど、無限の曜気を生成できる力がある俺なら可能だ。
 まあ、それも【砲台】の設備が大地の気を使用する物であればの話だが。

 どうかなこの案……とブラックを見上げると、相手は顎に拳をやってふむふむと納得したように何度か頷いていた。

「なるほどね。その兵器の用途が解らないとしても、材質や構造を把握出来れば、僕達にとっては利益が在るかも知れない……。さすがはツカサ君だね! 金の曜術師である僕の力で、砲台を解析しようって言うんだろう?! 確かに僕くらいの曜術師になると、それくらいはお手の物だしね! いや~本当ツカサ君たら僕のこと判り切っちゃってるんだから困るよな~、えへへ~」
「えっ、あ、アハハ……そうだろう! 俺ってば超頭いーよな!! アハハハ!」

 やっべ~、そこまで考えてませんでした。
 「おれ何かやっちゃいました?」の逆バージョンやる所だったわ。
 しかし、こんだけ喜んでくれるとちょっと悪い気がするな……ごめんブラック、俺、お前がそう言う事を出来るってのすっかり忘れてたんだよう。
 やっぱここはもうちょっと優遇しといた方が良いかな……まあ、その……さっきは助けてくれたんだし、やる気になってくれてるんだし……。

「あ、あのさブラック」
「えっ、なに?」
「ぜんぶ、終わったら…………その……で……デー……」
「あっ、ベルが鳴り始めたね。もう着くよ」
「…………ベタか……」

 この野郎、人が折角デレてやろうってのに。
 ……まあいい、普段と違う事をやろうとしても上手く行かない物だ。
 とにかく今は【砲台】がどういう兵器なのか確かめなければ。

 俺はブラックと頷き合い、昇降機からフロアへ降りたった。
 ――――と。

「…………なに、ここ」

 目の前に広がったのは、円形の巨大な一つの空間。
 しかし眼前の壁の一部は取り払われており、遥か遠くの曇天までもが臨める。
 下方は既に地面など見えず、この空間が相当高い空の上にそびえ立っているのが解り、俺は自分が立っている場所の異常さに鳥肌を立てた。

 ――こんな建物、俺の世界では普通に存在する。

 だけど……この、山よりも高い物が存在しない世界で……こんなものが存在していたなんて。
 しかも、今まで、この皇国の限られた人間以外に知られる事もなく。

「ツカサ君、あの倒れた柱みたいなの……もしかしなくても、大砲だよね……?」

 隣で立ち竦んでいるブラックも、この空間の異常さに硬直しているようだ。
 それはそうだろう。何故なら、フロアの中央には大樹ほどの胴回りが在る巨大な円筒が横たわっていて、その円筒には大小さまざまな配管が通っているのだ。
 配管の先を辿れば、フロアの壁には様々な装置が見える。
 アレはたぶん起動装置だとかブレーカーとか、色んな種類の機械なんだろうな。
 この世界の人間なら、何が何だか解らず硬直するのも仕方ないだろう。

 しかし……改めて確認すればするほど、この【神滅塔・ホロロゲイオン】という塔は異常だ……。

 元々この国はスチームパンクの様相だったが、どう考えてもこの塔は“スチーム”というくくりでは収めきれない。これじゃ“サイバーパンク”だ。
 皇帝領の地下施設でも思った事だが、この一角だけ異様とも思えるほどに文明が進みすぎている。こんなこと、有り得るはずがない。

 だけど…………。
 もし、これが“最初から与えられたもの”だとしたら……――――

「………………」

 ……まさか。まさかな……俺ってば本当漫画読みすぎだっつうの。
 幾らこの世界がファンタジー世界だからって、ありえるわけないじゃん……。

 ――あの大地の気をエネルギーに転換する装置も、このホロロゲイオンも……
 “神”と名乗る物が、全て用意した超文明兵器なんて……ありえる、はずがない。

「いくらなんでも……神様がそんなに干渉する訳ないよな……?」

 そりゃ確かに神話では【春の箱】っていう緑を生み出す箱を神様がプレゼントしてたけど、でもあれはあくまでも記録ってだけで本当はどうか解らないだろう。
 【春の箱】自体も、機械的な者じゃ無く強力な曜具だった可能性もあるし、こんな現実的な装置ではないかもしれないしな。

 だいたい、神様ってのは試練や恩恵を与えても、こんな風に文明を弄繰いじくり回す事はしないはずだ。人間が進化する道筋を決める事が有っても、分不相応な一国いっこくにだけ与えるような事なんて…………。

 いや……そもそも、エルフ神族だって、言ってみれば超文明の落とし子だ。神の知恵を持つ存在が生きていること自体が、神の御業ということだろう。
 俺の世界でも、気に入った国に恐ろしい武器を与えて他国を滅ぼす神話なんて、そこかしこにあったじゃないか。

 恐ろしい事だが、これはおかしなことではない。
 だって、俺はさんざん見て来たんだから。

 俺のような「異世界からの異邦人」が、文明の発達していない世界で重火器や、文明に釣り合わない建物を幾つも建設してきた夢物語を。

 だけど、これは…………――――

「…………チートって……他人から見るとこんなに怖い力だったのか」

 使い方を間違えてしまえば、世界を滅ぼす事も支配する事も出来る。
 だが、その「チート」の威力は恒久ではないし、未来永劫製作者の意思を汲んで正しく使われるという保証はない。
 神様から凄い道具を貰ったが、悪人に奪われて、その悪人が正しく扱いきれずに失敗するという御伽話があるが……まさにそれだ。

 今は眠っているこの塔も、いつかは塔が建設された経緯すら知らない物に渡り、使い方すらも解らないままの愚者が、己の能力には過ぎた物を扱うようになる。
 そうなれば、この塔はもう終わりだろう。

 ――自分達で作り上げた物ではない文明は、所詮しょせん借り物でしかない。
 用途を伝える人間がいたとしても、やがては語り手が失われ崩壊していく。
 この塔も、いつ悪事に利用されて国を滅ぼすか……そう考えると、恐ろしい。

 まったく……神滅塔、とはよく言ったもんだよ。
 これが軍事利用されれば、神すら殺してしまうかも知れないんだもんな。

 でも……そんな兵器を、アドニスは何かに使おうとしているのだろうか。
 ……出来れば、俺を使った『緑化計画』とは関係ないと思いたいけど……。

「…………とにかく、ここにある装置を調べよう。ブラック、頼んでいいか?」

 寒々しい空気に冷たくなる頬を引き締めて問うと、ブラックはまかせてと言わんばかりに頼もしい顔をして、力強く頷いてくれた。









 
※次回ツカサにセクハラしてるだけです…すんません……:(;゙゚'ω゚'):
 
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