異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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緑望惑堂ハイギエネ、霊蛇が隠すは真理の儀仗編

29.※ただし頭が良いヤツに限る(世界樹)

 
 
   ◆



 なんか、すごく頭が痛い。

 ガンガンするというのだろうか。かなり酷い風邪を引いた時に、こんな風にトンカチで頭を打たれるような強い痛みを感じた記憶があるけど、それより酷い。
 まるで頭全体を鼓動の音に合わせて叩いているみたいだ。

 きっと、血流とか何とか、そういうのが原因の頭痛なんだろう。
 でも、そうは解っていても我慢できるかどうかは別だ。

 意識が浮上した途端にコレなもんだから、起き上がれない。
 それどころか覚醒も急で開いた目が痛くて、俺は顔を歪めながら目をこすった。

「つ、ツカサ君! だめだめダメだよこすったら血がまた出ちゃう!」
「う゛……え゛……?」

 血が出るって、どういうことだろうか。
 ブラックが焦っているけど、もしかして俺鼻血でも出したのか?

 全知全能の世界樹・ラシルは、確か「黒曜の使者のチート曜気のせいで、テキトーな問いかけによって膨大な量になった検索結果が一気に脳に流れ込んだ」とかって言ってたけど……アレのせいで、俺は失神したんだったよな。

 その時に、衝撃に耐え切れず血が出たってことなんだろうか。
 まあでも鼻血くらいなら……いやでも待て、頭がめちゃくちゃ痛いから待って。

「んもす……! 世界樹のせいで頭痛くなったなら、このお茶飲むもうす! ゆっくり喉に通したら、頭痛いの治りもす」

 俺が目覚めた事に気が付いたのか、モグさんがバタバタと駆けまわる音を立てて、再びこちらへ戻ってくる。
 お茶とやらを持ってきてくれたんだろうか。

 そう思っていると、体が勝手に起き上がった。
 いや、これは、ブラックが俺を起こしてくれたんだろう。

「ツカサ君……お茶飲める……? 目を閉じてて良いからそっと口を開けて」
「ん゛……」

 まだ頭が痛くて目を開ける気力もなかったからありがたい。
 何かに体を凭れさせ――いや、たぶん……またブラックが、自分の体に俺を凭れさせたんだろうけど……ともかく、楽な姿勢にしてくれて、指で顎を触ってきた。

 いきなり唇に触れて驚かせないようにと言う配慮だろう。
 俺が薄く口を開くと、ブラックが徐々に温かい何かを近付けて来た。
 そうして、先に指で下唇に触れ、木製の何かの縁をくっつけてくる。これは……木製のコップとかかな。湯気を感じる。

 傾けられるそれを素直に待っていると、ゆっくりと温かい液体が流れ込んできた。
 少し甘い香りがする、ハッカのような清涼感のあるお茶だ。
 むせないようにゆっくりと飲み下すと、不思議な事に頭痛がさっと引いた。

「あれ……もう痛くない、かも……」
「キュ~~!」
「ほう、興味深いですね……鎮痛剤のような効果があるんでしょうか?」

 嘘みたいに楽になったので目を開くと、自分がソファをベッド代わりにして寝ていたことが分かる。アドニスとロクは、そんな俺をひじ掛け越しに見ていたようだ。
 ロクは「心配してくれたんだなあ」ってすぐ分かるほどの可愛い喜びポーズを見せてくれたが、アドニスは俺よりお茶の方に興味津々らしい。こ、こいつ。

 いやでも迷惑をかけたのは俺だし、そこは不問にしておこう。
 というか、失神したのが俺で良かったよ。
 膨大な曜気で「異常事態が起きた」とラシルは言ってたから、もしかしたらブラックやアドニスでも起こった事かもしれないし……何より二人は【グリモア】だもんな。

 【黒曜の使者】ほどではないが、蓄えている曜気はきっと膨大だろう。
 さっきの“問いかけ”は、俺が適当に考えて言ったんじゃなくて「あれくらいしか情報が無かった」からだし、ブラック達も同じ目に遭ってた可能性がある。
 だとしたら……俺みたいに起き上がれたかどうかも分からないもんな。

 俺は不死に似た変な能力を持っているから、膨大な検索結果というのが致死級の衝撃だったとしても生き返れたが、ブラック達はそうはいかない。

 なら、やっぱり俺で良かったんだよな。
 ラシルもずっと使命を果たす時を待っていたんだし……。

 ってそうだ、失神してた時の事を話さなくては。

「ツカサ君、どしたの。急にキリッとした顔になって」
「いや、それがさ……」

 肩越しに俺の顔を覗きこんできたブラックに目配せをしてから、俺は今さっき意識の中でやり取りしたことをみんなに話した。

 全知全能の世界樹が“創造主”のリーザンさんの姿で出て来たことや、曖昧な質問すぎて検索結果過多で俺が失神したこと、そして世界樹ことラシルが「自分の知識を次の与える」と宣言したこと……。

 なによりラシルとリーザンさんが「善き人々の為に知識が使われるように」と願っていたことを、拙い説明ながらもブラック達に洗いざらい話して聞かせた。

 普通ならただの夢だろと一笑に付されるような話だが、俺は以前からこういう夢に振り回されたり助けられてきた。
 【黒曜の使者】であるがゆえに、何らかの感応能力があるって事なのかも知れないが……ともかく、精神世界で重要な事を色々と知ったりしているのだ。

 当然、ずっと一緒に旅をしているブラックとロクはそれを知っている。
 アドニスも俺の力の事は把握しているから、全く疑わずに聴いてくれた。

 唯一、俺の事を知らないモグさんだけが目を白黒させていたが……しかし世界樹の名前を俺が知っていることによって、一応は納得したみたいだった。

「なるほど……しかし、色々と引っ掛ける言い方だね。“神の采配で知識が断たれる”なんて、まるでこの世界の仕組みを知ってるみたいじゃないか」
「あ……確かに……」

 ――俺達が今居る世界は、基本的に一柱の神によって管理されている。

 いや、たった一人の神様が全ての権限を支配しているというべきかもしれない。

 【黒曜の使者】としてこの世界に来たものが、今代の神の所業を見て相応しいかどうかを判断して、必要であれば使者が次の神に成り代わる。
 そうやって、この世界は変化し続ける世界として生き続けているのだ。

 でも、元が人間だからなのか、その神の支配は全部良いものとは限らない。

 良い神様になったヒトはいたけど……俺が知る神の一人は、黒曜の使者に神の座を奪われたくなくて、この世界をぐちゃぐちゃにした。
 好き勝手に荒らしまくった神様もいたのだ。
 そうやってメチャクチャをやった挙句に、消した国や文明もあったらしい。

 それが……この世界で見られる【空白の国】という、失われた文明の残滓だ。

 神様が消しきれなかった、高度な文明などの遺跡の残骸。
 それを知らない人達にとっては、お宝が眠る謎の遺跡というだけの存在だけど、神が何をしていたかを知った今となっては、何とも言えない気持ちが湧いてくる。

 前の神様が設定したものは改変する事しか出来ない……ってことらしいけど、それにしたって、胸糞悪いよな。
 まあ、今はそこを考えても仕方ないけど……しかし、そんな事情は普通の人達には知る事なんて出来ないはずだ。

 というか、そもそも【黒曜の使者】でも知れたかどうか怪しい。

 リーザンと一緒に居た【黒曜の使者】は、文明神・アスカーがやったことを知ってたんだろうか。それとも、俺がまだ詳しく知らない他の神も、そんなことをしたのか?

 だから、彼女もラシルも「普通なら知らないはずのこと」を知ってたんだろうか。

 ブラックに指摘されて、ようやく違和感がにじり寄ってきた気がする。

「リーザンさんとその時の使者の男は、何か知ってたってこと?」
「断定はできないけど、僕らより神や昔の世界に詳しかったのは確かだろうね。仮にそうだとしたら、ツカサ君はかなり凄い物を貰ったのかも知れないよ」
「確かに、使いこなせれば最強だと思うけど……俺、何かを予測して言い当てるとか苦手なんだよな……正確な単語とか情報でしか知識は呼び出せないってラシルも言ってたし、宝の持ち腐れ感が強いんだよ」

 よりにもよって、赤点常習犯の俺が持ち主になっちゃあな……。

 自分でもガックリきてしまうが、ブラックもアドニスも同じことを思っていたのか、俺の自虐じみた言葉に「ああ……」と納得していた。
 オイコラ、すんなり納得するなよ。暗にバカって言われてるみたいで結構傷付くんだからなそういうの!!

「ということは、謎かけは振り出しに戻るってことですか……。モグさん、ラシルはもう我々部外者には答えてくれないんですかね?」

 アドニスが問うと、モグさんはいえいえと首を振る。

「んにゃ、世界樹はみんなのものもす。新しいごすずんが決まっても、ごすずんが鍵を掛けない限りはみんなが知識を貰えもす! だから、昔のごすずんは世界樹を自分の所に置かないで、街に置いたんもす。……大事にされ過ぎて、地下に安置されることになってしまいもしたが……」

 そこはリーザンさんも誤算だったろうなあ。
 当時の薬学院は少数運営で、街の人と二人三脚って感じだったらしいから、木の曜術師である薬師達に任せたんだろうけど、薬学院が栄えて世界樹を大事にしまくったせいで、秘匿された存在になっちゃったワケだし。

 まあ、悪意は無かったんだと思うけどさ……。

「しかし、明確な情報や確固たる想像がなければ世界樹は答えないと……。やはり“謎かけ”は我々で考えるしかなさそうですねえ……」
「単語や詳細情報を知らなきゃ情報が貰えないなんて、それじゃ意味ないしな。最初から知ってるなら苦労しないよ」

 そりゃそうだな。
 材料の名前を知ってるなら、今の世界だと何かしら書籍が在りそうだし……何なら口伝とか伝承が残ってたりするんだもんな。

 そう考えると、世界樹が教えてくれることはそう多くないのかも。
 まあ俺も使いこなせる気がしないので、こういうのはキュウマに託すしかないか。

「とりあえず……ラシルのことはキュウマに任せるよ。アイツなら、俺達が知らない神情報で活用してくれるかもしれないし……。記憶喪失だっていうから、ラシルに何かを調べて貰えば記憶も戻るかもだしさ」
「んー、まあ悪いようにはならないか……。はぁ、ホント骨折り損のくたびれもうけだなぁ……。こんなのもうツカサ君のおっぱい揉まなきゃやってられないよ!」
「ギャーッ!? やめろばかばかやめろー!」

 い、いきなり背後から揉むな、やめろ両手で鷲掴んでくるんじゃねえ!!
 っていうかなんで俺の胸を揉むんだよ、

「もっ……もす……!? 新しいごすずんも、胸を育てるつもりもすか……!?」
「そうですねえ、育ったら面白いんですけどねえ」
「他人事だと思ってこのー!!」

 アドニスの野郎、覚えてやがれ。
 いやもうブラック本当にやめろ、揉むのやめて下さい。純粋なモグさんやロクちゃんにこんな姿を見せたくないだってば。このっ、ええいもう手の甲つねってやる。

「いててて。も~、ツカサ君のケチぃ。恋人なんだから育乳してもいいじゃないか」
「すんなり呑み込めない新単語出すのやめてくださる!? っていうか、勝手に人の胸を育てるんじゃねーよ!!」
「勝手じゃないなら良いんですか」
「だーっ、揚げ足取り禁止!!」

 ああいえばこういう。
 いやお前も参戦して来るんじゃないよアドニスめ。

「へびずん、新しいごすずんは仲が良いもすなあ」
「キュ~……」

 ああロクが呆れてるぅ……。
 まったくもうこのオッサンは……何の話してたんだか忘れちゃったじゃないか。

 えーと、謎かけは解けなかったんだっけ……。
 だったらどうするかな。

 ブラックの魔の手から逃れてソファを下りた俺に、何か思い出したのかモグさんがチテチテとモグラらしい足のツメを鳴らしながら近付いてきた。

「新しいごすずん、そういえば頼みがありもすた」
「頼み?」
「もす! もしよかったら……ラシルのお引越し手伝ってほしいもす!」

 お……お引越し……?













 
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