異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

文字の大きさ
42 / 1,149
神殿都市アーゲイア、甲花捧ぐは寂睡の使徒編

  夢のお告げは大概意味深2

 
 
「なんか……えっと……」

 どうしよう、天井が高すぎて上の方が暗くなってるから、俺には全景が見えない。

 アワアワしていると、隣で見上げていたブラックが「ライトの術で、光を上の方に飛ばして」と指示してくれた。そ、そうだ。俺がつくった【ライト】の術を使えば、炎の玉ではなくさらに明るい光球で周囲を照らす事が出来る。

 まあ、自分で考案したと言っても、チート小説によくある術だけど……ってそんな事を考えている場合ではない。ブラックは夜目が異様にくらしく、それゆえに暗い所でも平気で歩いて行けるらしいんだけど、俺は全然ダメだからな。

 言う通りに【ライト】を飛ばして、祭壇の奥の薄暗い壁に光球を飛ばした。
 むむ、い、意外とコントロールに集中力を使う。両手を真っ直ぐに伸ばして、距離や高さを調節しながら徐々に空へあげていくと――――その全貌が見えてきた。

「ふーむ……来た時はあまり気にしてなかったけど……やっぱり変だね、この壁画」

 そう言いながら、あごと口の片端を軽く指で覆いつつブラックはうなる。
 まるで探偵とか科学者がやるみたいな「思案しているポーズ」だったけど、真面目な声音につられて今一度確認した壁画は……確かに、なんだか妙だった。

 色は少しせているが、しかし地下に有ったおかげかそこまで劣化していない。
 というか、数千年以上経過しているだろうに、それでも鮮やかに色彩が残っているのは驚きとしか言いようが無かった。こういうのって、地下でもさすがにこれ以上に色が褪せちゃうんじゃなかろうか。やっぱ術か何か掛かってたのかな……。

 にしても、とても古代の物とは思えないほどカラフルだな。
 赤……いや、朱色に緑に青に黒……他にも原色が加えられていて、かなり芸術的だ。壁面の白も上手く使っていて、褪せた色すらも「最初からそうだった」と思ってしまいそうなくらいに、欠けた所など一つも無い完璧な壁画だった。

 だけど……その壁画は、ネストルさんから聞いた伝承とは全く異なる内容を、俺達に訴えかけているみたいで……。

「あれって……百眼の巨人、だよね……」

 壁画の右側に大きく描かれた、いくつもの紫の目を持つ大きな人。
 褪せてくすんだ緑の肌をあらわにし、藁色わらいろの腰布だけを巻いている様は、俺の世界の伝承に出てくる巨人を思わせる。耳が少しだけとがっていて、顔はいかつく上向きに牙も生えている。大きな二つの目の周囲や頭にすら無数の小さな目が埋め込まれていて、まさに【百眼の巨人】と呼ぶに相応ふさわしい様相だった。

 けれど、彼は棍棒を振り上げてはいない。
 誰かを威嚇するように歯を剥き出しにしてもいないし、血を浴びてもいなかった。
 ただ片膝かたひざをついて大地と近くなり、その両手は何かを地面からすくい上げようとするかのようにてのひらを上にして差し出されていた。

 背景には日差しの表現だろう黄色の放射線が描かれ、その周囲には大小さまざまな黄色と橙色だいだいいろの光が浮かんでいる。まるで、どこかの神様みたいだった。
 ――――そう。神様、みたいだったのだ。

「巨人は害のあるものとされ、討伐された……が、しかし、それが真実なら……この壁画はなんなんだろうねえ……。あの伝承とはまるであべこべじゃないか」

 ブラックの言葉が、俺の驚きを更に増長させ背筋がぞわりとする。
 何度見ても、確かに目の前にある壁画は「そうだ」としか言いようが無かった。

 ……だって、掌を差し出している巨人の先には……――
 嬉しそうに駆け寄る粗末そまつな服を着た人達が居て……そのさらに先には、植物が豊かに育った畑や森が存在し、人々が興奮するように腕をあげて豊作を喜ぶ姿がしるされていたのだから。

 これが「巨人が人々を襲っている図」とはとても思えない。
 考古学や歴史の事はとんと判らない俺だけど、でも……この壁画が【百眼の巨人】の恐ろしさを伝える物ではないという事だけは、明確に理解出来てしまった。

 けど……ネストルさん達だってこの壁画を見てたはずだよな。
 クレオプスのために何度もこの場所に来てたんだし、気付いていないはずがない。
 なのにどうして疑問に思わなかったんだろう。

「…………ネストルさん達は、なんでこの壁画の事を言わなかったんだろう……?」

 思わず口に出すと、ブラックは少し間を置いて答えた。

「良い方に解釈すれば、だけど……呪いのせいなんじゃないかな」
「呪いの?」

 どういう事だとブラックを見やると、相手は腕を組みつつ、親指であごのヒゲをぞりぞりと撫でながら眉をひそめた。

「あの家系は代々“目”をおかされるんだろう? そして、そのやまいは徐々に発症する……と言われてるけど、実際は生まれた時から何らかの症状が現れてるんじゃないかな。もし仮にアレが本当に呪いだとしたら、僕らが視る事の出来ない効果が起こっているなんて事も充分に考えられる。なにせ、相手は古代の技術だ。この壁画を“故意”に見る事が出来なくさせられているって事もるかも知れない」
「そんな……」

 でも、確かにブラックの言う通り、この世界ではその可能性も充分に有った。

 この異世界は、曜術と言う魔法が台頭しているけど、もちろん別の系統の魔法や、曜術を極めた物にのみ現れると言う“法術”なんてものも存在する。
 魔法のような力は一つじゃなくて、その中には確かに“呪い”も存在するんだ。

 けれど、この世界で言う“呪い”は、人の意志によって自然に引き起こされる物ではない。不可解で理不尽なはずの“呪い”は、遥か古代の“技術”として、ちゃんと「存在するもの」だと認定されているのである。
 だからこそ、リアリストなブラックも呪いなんて予想を口に出来るわけだ。

 ……まあ、この世界ってオバケも普通にいるっぽいから、そりゃあ呪いだって存在するんだろうけどさ……。
 でも、ネストルさんの家の持病が本当に“呪い”だったとしたら……あの酷い呪いを掛けた巨人が、どうしてこの壁画を見せないようにしてるんだろう。それに、壁画の中の巨人はとても優しそうなのに……なんで、あんな酷い呪いを掛けたのか。

 やっぱり酷い部分もあったのかな。恨みを込めた花を残すぐらいだもんな……。
 そうは思うが、しかしやっぱりネストルさん達を苦しめる巨人と、壁画の巨人の姿は全く合致しない。それに、巨人がかけた呪いの意味が分からなかった。

 むしろ、この壁画を見せつける事こそが脅威にならないかな。
 それとも何か理由が有るんだろうか。でも……何が原因なんだろう。
 壁画を見れば見るほど矛盾が出て来て、頭を掻き回したくなった。ああもう、何が何だか全然分かんないよ。頭からケムリ出そう……。

 そんな俺を知ってか知らずか、ブラックは空気を変えるように軽い声を出した。

「何にせよ……伝承はあまり信用しない方が良さそうだね。それに……」
「それに?」
「こうなるとちょっと、クレオプスの存在自体も怪しくなってくるし」
「ナニソレ、どういうこと?」

 ブラックの言っている事が解らず首をかしげると、相手は鼻から息を吐いた。

「巨人のあの目の色と、この花。そして、この壁画のある地下神殿の下に、わざわざ巨人のむくろが埋められているかもしれないって事を考えると……毒花の出自も、伝承の通りではない可能性が出てくるってイミだよ」
「あの……呪うために生まれた花ってのが……?」
「うん。……まあそもそも、伝承ってのは『伝える者の意図』がどうしても入るもので、事実と異なる要素が含まれつつ伝えられるのが普通だからね。大体、女どもの噂話だって、伝わるうちに内容が少し変わるだろ? それと同じで、口伝くでんの伝承ってのはよっぽど厳しくされないと正確には伝わらない物なんだよ。だから、時々内容が真っ赤な嘘になる」

 まあ、書物も書物で色々あるけどね。
 そんな事を言いながら肩をすくめるブラックを見つつ、俺は腕を組んでうつむいた。

 …………確かに、噂ってのは時々凄い事になる。
 俺だって、異世界より帰って来てからというもの、そんな憶測を聞かされる機会きかいが無いでもなかった。例えば、不良とつるんでたダケだとか、ただの家出だろうとか。しかし最近は家出だろうという話が行き過ぎてか、変質者に監禁されていたのでは……なんていうヒソヒソ話が聞こえて来ていた。

 もちろん、俺はそんな事にはなっていない。俺の態度を見れば誰だって理解出来る事だ。それでも人間ってのは自分の憶測を話したがるもんで、結局その根も葉もない噂が大多数に認められてしまえば、それが真実だと思われてしまう事にもなる。
 というか実際今、そうなってる。まあ俺が正直に話さないのが悪いんだけど、でも正直に「異世界に行ってました!」なんて言ったら頭が狂ったと思われるしなあ。

 ……ゴホン。ちょっと話がれた。
 ともかく、人の思惑次第しだいで真実はまががって伝わっちゃうって事だよな。

 だとすると、もしかして巨人の話も……本当は、伝承と全く違うんだろうか。

「ブラック、もし……この壁画がだったとしたら……」

 そう問いかけると、ブラックは少し面白そうに薄く笑った。

「この神殿を隅々まで調べてみたら、面白い物が見つかるかもしれないね」

 確かに、壁画がこれ一枚だけとは限らないし……俺達も、ネストルさんの一族すらも知らなかった真実が、この場所には眠っている可能性が有る。
 だけど……それを俺達が暴いていいんだろうか。

 もしそれが原因で、なにか取り返しのつかない事が起こったら?

「………………」

 その事を考えると、体が寒気に襲われた。

 ……俺達の仕事は、この【クレオプス】を元気にする事だ。
 暗い真実を探る事じゃ無い。でも、もしその真実を掘り起こす事でネストルさんの父親を回復させる方法が見つかるのだとしたら……ここで、帰るべきなのだろうか。

 もしそれが叶うのであれば、一刻も早く見つけなければいけないだろう。
 ネストルさんの父親の命は風前の灯だ。壁画に気付く事が出来た俺達ならば、この神殿のどこかに有るかも知れない“手がかり”を見つけられるかも知れない。
 だったら……。

「……あまり時間はかけられないけど、探ってみよう。ブラック」

 覚悟を決めて俺が呼びかけると、ブラックは「もちろん」と言わんばかりに、嬉しそうに目を細めて笑った。














※遅れて申し訳ないです…(;´Д`)

 
感想 1,277

あなたにおすすめの小説

愛されたいだけなのに

まさお
BL
我儘令息だったノアは一回目の人生で最愛の人からの裏切りの末、殺される。 気がつくと人生が巻き戻っていて人生二週目が始まる。 しかしまた殺される。 何度も何度も繰り返した人生の中で自分が愛されることを諦めてしまう。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢
BL
2023/01/27 完結!全117話 【強面の凄腕冒険者×心に傷を抱えた支援役】 孤児院出身のライルは田舎町オクトの冒険者ギルドで下働きをしている20歳の青年。過去に冒険者から騙されたり酷い目に遭わされた経験があり、本来の仕事である支援役[サポーター]業から遠退いていた。 しかし、とある理由から支援を必要とする冒険者を紹介され、久々にパーティーを組むことに。 その冒険者ゼルドは顔に目立つ傷があり、大柄で無口なため周りから恐れられていた。ライルも最初のうちは怯えていたが、強面の外見に似合わず優しくて礼儀正しい彼に次第に打ち解けていった。 組んで何度目かのダンジョン探索中、身を呈してライルを守った際にゼルドの鎧が破損。代わりに発見した鎧を装備したら脱げなくなってしまう。責任を感じたライルは、彼が少しでも快適に過ごせるよう今まで以上に世話を焼くように。 失敗続きにも関わらず対等な仲間として扱われていくうちに、ライルの心の傷が癒やされていく。 鎧を外すためのアイテムを探しながら、少しずつ距離を縮めていく冒険者二人の物語。 ★・★・★・★・★・★・★・★ 無自覚&両片想い状態でイチャイチャしている様子をお楽しみください。 感想ありましたら是非お寄せください。作者が喜びます♡ ムーンライトノベルズにて改稿版を掲載しました。