異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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海洞都市シムロ、海だ!修行だ!スリラーだ!編

13.抵抗できれば一人前?

 
 
「とにかく、お前はちからと応用力と……あと色々足らん。本当にやめてほしいんなら、術の一つでも使ってのがれて見せんかい」
「術、ですか」

 恐縮しきりの俺に、カーデ師匠は大きくうなづく。

「そうじゃ。そもそも、曜術師と言うのは常に術を発動できるように力を溜めておるものなのじゃ。今時の若者どもは軟弱極まりなく、そんな初歩中の初歩も危ういバカモンどもだが、昔はそりゃあしっかりしとったもんだ。先の魔獣大戦の時などは曜術師も一騎当千の戦力として扱われ、寝る間も惜しむほどの修練の成果を……」

 と師匠が話そうとするのを、ようやくあごの痛みが治まったブラックがさえぎる。

「はぁ~? なに何百年前のこと言ってんだかこのクソジジイは」

 な、何百年前。
 そりゃ「昔は良かった」の範疇はんちゅうで言うには広大こうだい過ぎやしませんかね。
 思わず目を丸くしてしまった俺を見てか、師匠はブラックにカーッと怒った。

「うるさいっ腐れ中年は黙っとれ! ゴホン。とにかくじゃな……お前には瞬発力が足らん。薬師として生きるならそれでもよかろうが、お前は冒険者も兼任するつもりなんじゃろ。なら咄嗟とっさの事に対応するすべを学ばねば、曜術師として大成たいせいは出来んぞ」

 照れ隠しのようにまくしたてる口調だが、しかしその言葉は至極真っ当だった。
 確かに、言われた通りだ。

 今までの俺は、咄嗟に術を唱える事が出来ていなかった。
 そのせいでブラック達を危険に曝してしまったし、そもそも唐突に飛び込んで来た事を冷静にさばけていれば……あの街で住人達におそれられた時も、ブラックが悲しむような言葉を言われずに済んだかも知れないのだ。

 そもそも、曜術師ってのは感情や意識に左右される存在だ。
 おびえてしまえば術を発動できないし、発動出来ても効力がとても弱くなる。
 だから、何に対しても動じず冷静に判断することが大事だと言うのも頷ける。

 忍耐と瞬発力を体得すれば、俺も魔物に対応できるかもしれない。
 でも……そういうのってどうやって身に着けるんだろう?

「あの……具体的にどういう修行をすればいいんです?」
「そう言うと思って、コレを持って来た」

 言いながら師匠がローブの後ろから取り出したのは……えーと……。

「でっかいアイスの棒!」
「何をわけわからん事を言っておるんだお前は。こりゃ木の板じゃ」

 いや解ってますけど、でもその先が丸みを帯びたフォルムはどうみたってアイスの棒じゃないっすか。しかも特大の。棍棒みたいなヤツ。
 アタリじゃないのが悲しいが……って、そう言えばなんでコレ師匠が持ってるの。

「師匠、それ何に使うんですか?」
「ちょっとツカサ君そういう問い方するのやめなって……」

 ええいなんで止めようとするんだブラックめ。
 別に質問するぐらいは良いだろう……と思っていたら、師匠はニンマリと笑った。

「決まっとるじゃろ。コレで今日からお前の“油断症”を叩き直してやるんじゃよ」

 ゆ、ゆだんしょう?
 あれ、やだなあ、何故か凄く嫌な予感がするなあ。なんでかなあ……。

 必死で意識が現実逃避しようとし始めるが、俺の脳内の記憶がマンガやドラマの中で巨大なアイスの棒が有効活用されている場面を次々にお出しして来る。
 そうではない、と思いたいが、カーデ師匠が老人らしからぬ動きで素振りを始めているのを見て……俺は、現実逃避をするのを諦めたのだった。

 
 
   ◆



 かつを入れる棒、というと何だかわけが分からないが、要するにアレだ。
 お寺で座禅を組んで瞑想めいそうしている時に、お坊さんが「お主は集中しておらん! 活を入れて差し上げる!」と言わんばかりに肩を叩く木の板。あれなのだ。

 実際に見た事は無かったが、いざ使われるとなると効果は抜群だと痛感する。
 木の板、と言っても立派な武器だ。しかし、これがまた絶妙なのだ。
 あつかいやすい武器は、攻撃力の調整が容易である。それゆえに、威力の調整も可能だ。手練てだれならより効果を発揮するだろう。

 …………いや、それは良いんだけど。良いんだけどさ!

 この三日、とにかく使われ過ぎなんだよ!

 もぉ~座学中とかすぐ俺が眠りそうになると頭を叩かれるし、それだけじゃなくてちょっとでもスキを見せると叩かれるし見送りする時も叩かれるしいいい!
 おかげで勉強した事がすっぽぬけて勉強にならないんですけど!!

 師匠は「瞬発力の修行じゃ。避けられるようになるまで続けるぞい」と言うけど、これじゃあいつまでたっても勉強もはかどらないよ……。
 それに、その間にも俺はメシを作らなきゃ行けないし、夜は夜でブラックとクロウにかまかまえと言われて、その……す、スケベな事されるし……!

 しかし幸い俺は「明日動けなくなったら師匠に更に厳しくされる」と言う切り札が有るので、なんとかセクハラされるだけで治まってるんだけど……その手段も、いつまで使えるのか解らない。というかそろそろオッサン二人が爆発しそうだった。

 たかだか五日程度ていどでオナ禁ダークサイドに落ちないでほしいと思うのだが、性欲が俺の倍以上ある恐ろしいオッサンどもには我慢こそが拷問らしい。
 思春期の俺を軽々追い越す性欲を発揮するなと切実に思うが、だからといって付き合うと確実に活入れアイス棒百叩きの刑になりそうなので、どうしても許容する事が出来ない。どっちにしろ俺が痛いし……。

 かといって、ブラックとクロウを落ち着かせるために休みなんて貰ったら、それはそれで師匠に「なっちょらん!」と叩かれそうだし……。
 はぁあ……修行って思ったよりも大変だ……いや、俺まだ座学と瞬発力の修行しかしてないんですけどね。それもあるから何も言えないんだけども。

 それはともかく。
 瞬発力の修業はつらいが、数日ともなると少しは俺も慣れて来た。

 旧治療院の家は何とか綺麗に出来たし、台所も使い勝手が良い。心配だった商店街も、それなりに住民が居てホッとした。まだ数日だし、家に籠ってばっかりで散歩も出来てないけど、シムロの街は好きになれそうだ。
 惜しむらくは、クロウの服がまだ届いておらず、いまだにメイド服を着用していると言う所なんだが……この街には服屋が無いので、どうしようもない……。

 街の人達は手作りするか、内職で服を作っている住民に頼むかしているみたいで、旅人がすぐ服を揃えられるような店がないっぽいんだよな。
 冒険者のための店なんかも既に廃業してて、お店は空っぽだったし。

 …………三日も経過してるけど、良く考えたら全然進展してないんだよなぁ……。
 はぁ、こんな調子で本当に強くなれるんだろうか、俺。
 ちぇすとーされるたびに頭から知識が抜けて行ってる気がするし、予習しようにも、俺の手元にはキュウマに作って貰ったノートぐらいしかないので、この異世界感しか無い紙束を師匠に見せて良い物かどうか迷うし。

 このまま座学やってて良いんだろうか。
 メモった方が良いのかな。ってか、そろそろアッチの世界の勉強もしないと、マジで期末が危ないだろうし……あああ考える事が山積みでつらい。

 今日だって、師匠にこの前教えて貰った「怒静優楽猛」の詳しい説明をして貰っていたんだけど、棒で叩かれ過ぎてもう頭から抜け出しちまいそうだしな……。
 はあ、どうしたもんか。やっぱりノートだけは師匠に許して貰おうか。

 その前に、オッサン達の事もどうにかしないと……はああ……。

「ツカサ、メシを作っているのか」
「ハッ。う、うん……っとと、いけねえ混ぜなきゃ」

 背後からクロウの声が聞こえ、あわてて我に返る。

 そ、そうだ。今俺は作り置きのスープを作っていたんだっけか。
 食材を吟味ぎんみするひまがないから、見知った材料とか肉でいつも通りのスープを作ってみたんだけど……混ぜるうちにすっかり考え込んでしまった。

 もう良いかなと火を止めていると、メイド服姿のクロウが横にやってきた。
 ……もう三日目ともなると見慣れちまったな……。
 何が悲しゅうてゴツい熊耳オッサンのメイド服姿に慣れなきゃいかんのか。いや、クロウだって好きでメイド服を着てるワケじゃ無いんだけどさ。むしろそこが最後の救いなんだけども……。

「ムゥ……うまそうなスープだ」

 少し腰をかがめながら、クロウはスンスンと鼻を動かして匂いを嗅ぐ。
 実際、俺の作るメシは結構気に入ってるらしくて、いつもクロウは嬉しそうに熊耳を動かしてくれる。普段はほとんど無表情だけど、本当雰囲気と耳は表情豊かだ。

 色々と頭が痛い問題が多いが、こういう普通の時ならクロウはスケベな事をせずに接してくれるので、俺も気兼ねなく話す事が出来る。

 こう言う所がブラックとは違うな。まあそれを口に出すとブラックに「恋人なんだからイチャイチャして当然でしょ!? 僕これでも我慢してるのにぃ!」とか恨めしそうに言われてしまうので、心の中で思うだけなのだが。

「ところで……腹減ったのか? まだお昼じゃないけど……」

 この三日、クロウとブラックは特にする事も無いので、寝たり酒を飲んだりとぐだぐだ過ごしている。とは言え、クロウは時々窓を拭いたりほうきで掃くていどの事はしてくれるんだけども……いや本当にメイドさんみたいだな。
 手伝ってくれるのはありがたいけど、心が本物のメイドさんを求めてつらい。

 そんな事を思いつつもクロウを見上げていると、相手は少し耳を伏せた。

「腹は減ったが……むぅ……」
「んじゃ食べる? いっぱいあるから先に食べても良いぞ」

 どこか煮え切らない態度だが、もしかしたら昼飯時じゃないので遠慮しているのかも知れない。わりとそういうの気にするタイプだからなあ、クロウ。
 獣人だけど行儀も良いし、マナーも俺よりしっかりしてるんだ。
 でも、腹が減ったんなら遠慮しなくたっていいのにな。ここは男しかいないんだし、そもそも俺達は粗野な冒険者なワケだし。

 なんでそう遠慮がちなのかと首をかしげた俺に、クロウは少しあごを引き、上目遣いになった橙色だいだいいろの瞳で俺を見つめた。

「…………そろそろ……足りなくなってきた……」
「足りなくって……」
「ツカサを食べなければ、腹が減って仕方なくなる……」
「っ……」

 そ……そう言えばそうだった。
 修行やら家事やらブラックのセクハラで忙しくてすっかり忘れていたが、そう言えばそろそろクロウの食欲が抑えきれなくなる時期じゃないか。

 もちろん、食欲と言うからには普通の食事でもまかなえるんだが、俺が体液を提供するのをやめたら、あっという間にクロウの食事量が数倍に増えてしまうので……体液を食べさせざるを得ないんだよな。
 俺の、その……た、体液を……。

 いやでも今はシモで云々うんぬんとか言ってらんねーぞ!?
 ここでクロウに下半身を差し出したらブラックに後で何を言われるか分かったもんじゃないし、絶対にロクな事にならないし!

 そうなると……ううむ……。

「えっと……血、とか……そういうのじゃ駄目か……?」

 ブラックに何も言わせずに“食事”を済ませるには、これしかあるまい。
 多分クロウが望んでいるモノじゃないんだけど、でもこうしなければ円満に解決しないしなあ……。申し訳ないと思いつつクロウを見上げると、相手も俺の事情は理解してくれていたのか、渋々と言った様子ながらも頷いてくれた。

「ム……。今は仕方がない……。でも、それなら違うのが良い」
「え、血じゃだめ?」

 思わず聞き返すと、クロウは一歩俺に近付いてきた。
 目と鼻の先に、相手の体が見える。見上げるのも少しつらくてあごさらに上へと動かすと、クロウは目を細めて褐色の手で俺の顎をつかんだ。

「オレも……ツカサとイチャイチャしたい……。今日は、こっちがいい」
「えっ、え、ちょっ、く、クロウ……っ」

 顔が、近付いて来る。
 無表情で、野性的で格好いい顔が、どんどん近付いて来て見えなくなって。

 頭の中で「キスをされる」という言葉が過ぎったのに、目の前の顔に注力しすぎて動けなくなる。俺とは全然違う、鼻筋の通った大人の顔が、息を吹きかけて来ながら唇を薄らと開いて、そして……――。

「ツカサ……」
「ん、ぅっ……!」

 抵抗も出来ないまま、俺はそのキスを受け入れてしまっていた。











※またもや遅れて申し訳ない…(´;ω;`)ウッ
 次はクロウとイチャイチャ…
 
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