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海洞都市シムロ、海だ!修行だ!スリラーだ!編
24.いまさら知るのは遅すぎる?1
◆
新しい朝が来た、休みの朝だ。
しかし、喜びに胸を……とは行かない。鎧戸の隙間からまだ高くない日差しが緩く差し込んできているのをボーッと眺めつつ、俺は溜息を吐いた。
「いつ荷物届くんだろ……」
寝起きの唸るような声で呟くが、それに答える者はどこにもいない。
また今日も俺のベッドに潜り込んで来ていたらしいブラックと、敷物の上でクマさんモードで眠っているクロウ、そしてベッドの横でスヤスヤ眠っている可愛いロクショウとキュートなペコリアは起きる気配すらなかった。
つーか何か変な夢見たような疲れがあるんだが、コイツのせいか。
ベッドもう一つあんのに何で潜り込んで来るんだよ。たまに寝起きの時にお前の髪が口に入っててモガモガするからマジでやめて欲しいんだが。
せっかく綺麗な赤い髪なのに、ばっちくなるし洗わなきゃ行けなくなるだろもう。
「はぁー……」
寝起きから先が思いやられる、と溜息を吐きながら、俺は隣の殻のベッドと、敷物の上で丸まってスヤスヤ寝ているデカい熊さんのクロウを見やる。
「…………」
いつも思うけど、この巨体で眠ってて床が落ちないって本当ナゾだよな……。
ある程度体重をコントロール出来るのかな?
そう言えば、外で獣モードになった時のクロウって今の二倍くらいはデカかったし、人型と獣型を自由にチェンジできる種族は体重も可変なんだろうか。とはいえ、人型モードの時の体重が最小っぽいけど……うーむ、考えれば考えるほどナゾだ。
でもまあ、床が抜けなければそれでいいか。
モフモフしてるのが沢山いると和むし――なんて思っていると。
「う゛ぅ……うぅん……。う゛ぁあうん……起き゛だのぉ……」
唸り声で「ツカサ君」などと呼んだ背後の何某かが、ずるずると音を立てて腰の所に抱き着いて来る。腹に回って来た太い筋肉質なオッサンの腕は、何度見しようが間違えようも無い。ブラックだ。
朝から懐いて来るなよと言おうとしたのだが、背中のくぼんだ一本筋の部分に鼻が押しつけられた感触に、ちょっと驚いて反射的に振り返ってしまった。
「起きてしょっぱなから何しとんじゃお前は!」
「ふあぁん……つかしゃくん今日休みだよぉ……もうちょっと寝てようよぉ……」
「っ、も……そんなワケに行かないんだって……! 材料探しに行くんだから……」
離せとブラックの額を押し返しつつ、俺はベッドから降りようとする。
師匠に休みを貰ったと言っても、今日は準備に奔走せねばならないのだ。
それを考えると、無駄に寝てはいられなかった。ああ俺ってばホント律儀。アッチの世界で土曜日とかになったら、間違いなく寝られるだけ寝てるのに。
ふふふ、異世界での俺はしっかりしてるぜ。
でもいつまで経ってもブラックの腕から抜け出せないんですけどね……。
「うにゃぁ……やだよぉ~ツカサ君一緒に寝てようよぉ……僕ツカサ君のやわらかい感触が無いと眠れないんだよぉ」
「そこまでハッキリ口が利けるならもう起きて良いよね!?」
しかも何をとんでもない事を言っとるんだ。
なんとか腕の中で体勢を変えると、俺はブラックの額を軽くチョップした。
「痛いよぉ~、ツカサ君の意地悪うぅ~」
「あーもうハイハイ分かったからさっさと起床! ほら、髪梳いてやるから!」
そう言うと、ブラックはいつも以上に伸びきった無精髭だらけの顔を明るくして、すぐに起き上がり俺に背を向けた。分かりやすいやっちゃなぁ……。
まあ素直に起きてくれるなら文句は無い。
「ツカサ君はやくぅ」
「はいはい」
広い背中に、緩やかなカーブを描く赤い髪がバラバラに広がっている。
こんな薄暗い中なのに、仄かな光にも薄らと綺麗に赤い色を輝かせていて、悔しいけど素直に綺麗だと思うほかなかった。
……まあ、そもそも、ブラックの髪好きだし。こういう長髪が似合うのって、格好良いから羨ましいなって思わんでもないし。だから、そこは仕方がない。
ブラックには絶対に言えないけど。
「えへ、えへへ……出来ればヒゲもツカサ君に当たって欲しいんだけどなぁ~」
「ヒゲをあたるって……もしかして剃るの? いや、それは流石に……」
刃物だし、俺はヒゲなんて剃ったこと無いから無理だって。
そもそも他人のヒゲとか理容師さんの仕事だろうに。そう言うのは自分でやるのが一番だぞ。そう思いながら、存外柔らかいブラックの髪を丁寧に梳くけど、ブラックは諦めていないのかブーブーと声を漏らす。
その騒ぎを聞き付けてしまったのか、ロクショウ達とクロウが動き出した。
「ああ、ゴメン起こしちゃったか」
「クゥ~」
「キュゥ」
「んん……構わん、ツカサ達が起きているのに寝ていても仕方ない」
小さなお手手で目のあたりを擦るロクとペコリア達に、大きな熊の口を開けてあくびを盛大に漏らすクロウ。と、思ったら、どろんと白い薄煙がクロウの居る場所から湧き上がって来て、いつのまにか敷物の上には野生児みたいな裸のオッサンが……。
「っておい! 毎日裸で起きるのやめてくれよマジで!」
丸出しのまま胡坐をかいてるもんだから、ベッドに座って高い位置に居るこっちには胡坐の中のモンが見えちまう。
なんで平常時からそんなんなんだと思わず目をそらすと、クロウは頭上にぴょこんと出て来た熊の耳を申し訳なさげに下げた。
「ムゥ、すまん。まだオレは服まで取り込むのが苦手なのだ……」
そう言いながら、クロウは褐色の手でボリボリと頭を掻く。いつもはポニーテールのようにまとめ上げている髪も、今はすっかり降ろされていた。
と言っても、髪の毛にボリュームがありすぎて、髪を降ろしててもボサボサな髪が肩までの長さになったみたいな感じでしかないんだけどね。
にしてもホントに早く隠してっ、普通に見せつけられんのなんかつらい!
「お前早く下着穿けよ。見たくも無いもんブラブラ見せられてこっちは迷惑なんだよ」
「こらっ、ブラック!」
「なんで怒るのぉ!? ツカサ君だってそう思ってるくせにー」
「ぐ、ぐぬぬ……」
いやしかし、言い方ってモンがあるだろ。
とにかくゴメンなとクロウに言うと、相手は「怒ってない」と掌をこちらに見せて首を振ると、適当にほっぽっていた下着をモソモソ穿きだした。
ありがたいけど同性のケツも見たくない。見るなら女子が良い。女子が。
「ね~ツカサ君、早く続きやってよ早くぅ」
「次はオレも梳いて欲しいぞ」
「わかったわかった」
なんで朝からオッサン二人に甘えられ無きゃならんのだと思うが、今更な事なので何も言い返せない。二人の朝の支度を手伝ってしまったのが運の尽きだなぁと息を吐いてしまう俺に、今度はベッドの縁からロクとペコリアが顔を出してきた。
「クゥックゥッ」
「クゥ~」
「クゥゥ」
「キュゥ~」
ベッドに顔を出すロクとペコリア達がめっちゃかわいい。
これは多分「ペコリアたちにも“おしたく”して!」ってねだってる奴だ。
うっ、うううっ、可愛すぎてたまらん……!
「おお~、みんなちゃんとしてやるから、ちょっとだけ待っててな~」
「ツカサ君、なんか僕らと態度違わない?」
「寂しいぞツカサ」
「そう思うなら何でもかんでも俺にやらすなよ!」
ペコリア達は、ちゃんと自分で顔をくしくしして、いつも自分一人で支度完了してるんだからな、と睨むと、オッサン二人は口を尖らせて肩を落とした。
まったくもう、このぶりっこのオッサンどもは……。
……色々と思う所は有ったが、俺は二人と四匹分きっちり梳いて(撫でて)やって、やっとこさ自分の身支度を整えた。
いつも思うが、何故男の俺が母親のような真似をしなければならないんだろう。
別に嫌じゃないけど、なんか納得いかないな……。
まあいい。
昨日作り置きしていた質素なスープと、節約のための薄黒い雑穀パンをモソモソと食べると、俺達は早速外へと出かけた。
とにかく今日は材料集めだ。
カーデ師匠は「昼ごろに物資が届くから、ギルド出張所に来るように」とか言ってたっけ。だから、それまでに街の近くにある森に行って回復薬の材料を色々と集めておかないと。今日はとにかく薬作りにあくせくしそうだしな……。
外に出た直後から憂鬱になりつつも、とりあえず俺達三人は冒険者ギルド出張所へと向かった。今日はペコリア達にお留守番を頼んで、ロクと一緒だ。
師匠に会わせると驚かせてしまうので、バッグの中に隠れてもらっている。
とにかくまずはこの街の状況を教えて貰わないとな。
もしかしたら、森の中で野草を摘むのが禁止されているかも知れないし、今の時期は何か不都合があって……みたいな事も有るかも知れない。
こういう時は、情報が集まってくるギルドで聞くのが一番なんだ。
そう思い、広場へと歩き出したのだが……街の様子がいつもと違うのに気付いて、俺は妙な違和感を覚えた。なんだか、道を歩いている人が多いのだ。
昨日までのシムロの街は、家を出て帰って来るまでに一人とすれ違うくらいが普通だったのに、今日は何人もの人とすれ違う。それに、今まで見かけもしなかった冒険者みたいな感じの人も遠くに見える。
分かれ道の円形広場にやってくると、いよいよ冒険者がたむろしている姿ばかりを見かけて、俺とブラックとクロウは思わず顔を見合わせてしまった。
なんだ夢でも見ているみたいだ。これじゃ普通の街みたいじゃないか。
いや、街は街なんだけど、なんかおかしくないか。幻じゃないのかこれは。
「すごく人が多いな」
クロウが無表情ながら意外そうに呟くのに、頷いてしまう。
そうだよな、やっぱり幻じゃないよな。何でこんなに人が多いんだ。
「物資が届くから……とは言っても、同業者っぽい奴もいるのが解せないな。なにか、この街に来るだけの用事があるんだろうか?」
ブラックが真面目な声でそう言うのに、俺はなるほどと思う。
そっか、今日はラッタディアから物資が届くんだもんな。それなら街の人が「新しいモノが何か入ってるかも」と出て来るのもうなずけるし、活気に溢れるのも解る。
でも、冒険者にはあんまり関係ないよな?
本当に、なんで彼らは急に街に出て来たんだろう。
首を傾げつつもギルドに入ると、やっぱり冒険者達がみっちりと入っている。中には朝っぱらから酒を飲んでガハハと笑っている人が数人……。
「って師匠! また朝から酒のんで!」
「ウィ? おおなんじゃお前らか。朝からご苦労さんなこったのう」
「それは良いんですけど、あの、今日は何でこんなに人が居るんです?」
カウンターに座って小さな酒樽みたいなカップで酒をがぶ飲みしている師匠に問うと、相手はニヤリと笑って白髭を扱いた。
「今日は、稼ぎ時だからじゃよ」
→
※修正は明日やります(`・ω・´)
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