148 / 1,149
竜呑郷バルサス、煌めく勇者の願いごと編
6.知れば知るほど1
鉱主さんに用意して貰った部屋は、鉱山のまっただなかとは思えないほどの設備が整っており、ベッドもふかふかで調度品も普通の街の宿といい勝負だ。
惜しむらくは水回りの設備が無いことだが、ここは山の上だし色々と事情が有って個室には取り付けられなかったのかも知れない。この世界じゃ個室に水道を引くだけでも大変だもんな。山じゃ尚更だ。
だが、鉱主さんが言うには大浴場が有るらしいし、いつでもお湯に入れると言うんだから、これ以上を求めるのは贅沢と言うモンだ。風呂が有ると言うだけでもう感謝すべきだろう。なんたってこの世界では風呂に入っている人の方が少ないのだから。
ライクネスは常春の国だし、ハーモニックは常夏の国なので、基本的に井戸や小川から水を汲んでの行水だったりするし、常に温水で体を清めると言うのは常冬の国であるオーデル皇国ぐらいしかない。
毎日風呂に入る習慣が有る人は確実にいるだろうけど、一般的かと言うとそうではないな。商人とか金持ちの人なら風呂桶ぐらいは持ってるって程度だ。まあ、旅から旅への休まる暇がない冒険者の俺達からすれば、家なんて夢のまた夢だけど……。
ああでも、ブラックの野郎は何か廃墟の別荘辺りに別荘だけは持ってたな。
思い出すと恥ずかしいのでアレだけど、そういえばあそこの畑に植えてたお野菜は元気だろうか。時間が有れば見ておきたいが……それはともかく。
素晴らしい風呂が有ると言うのなら、毎日入浴するのが当たり前の世界に住む俺が入らぬ道理はない。温泉、大浴場、どっちも大好きな日本人だからな!
てなワケで、さっそくロクショウと一緒に一階の風呂場に向かおうと部屋を出たのだが。
「……ん?」
階段に差し掛かったところ、階下に何だかついさっき見ていたような服を見止めて、俺はゆっくりと段を下りて一階の様子を窺った。
「キュ?」
「しーっ、静かにね」
何かの大事な話をしているのなら、見つかると気まずい。なので、今は隠密を徹底しよう。そんな事を思いながら、腰を屈めて見やると――――そこには、宿の主人となにやら話しをしているラスターがいた。
えらく真面目そうな顔だけど、何を話してるんだろう。気になってそっともう一段降りると、二人の会話がボソボソと聞こえてきた。
「では、特に変わった客はいなかったのだな」
「はい……少なくともこの半年は、ご新規様のお名前は頂戴しておりません。ただ、日帰りでいらっしゃる方や、山の周辺の事となると、我々も分かりかねますので……もしかすると、我々が気付いていないだけで見かけぬ方はいらしたかもしれません」
「なるほど……うむ、仕事中に引き留めてすまなかった」
「いえいえ! 騎士団長様に話しかけて頂いて、しかもわたくしが捜査に協力できるなんて、こんな名誉な事は有りません! 何かありましたら、また是非」
そう言いながら、宿の主らしきおじさんは頭を下げてどこかに行ってしまった。
話は終わったのかな。しかし、これって……ラスターは真面目に聞き取りとかしてたんだよな。何の事かは分からないけど、俺達のと関係あるんだろうか。
しかし、さっきのアホみたいな喧嘩とは打って変わって本当に真面目だなぁ。
こういう所が王国騎士団の団長に選ばれた所以なんだろうか。
いや、そもそも世界中に尊敬される【勇者】の称号を持ってるんだから、ちゃんとした部分もあって当然の事なんだよな。いつもは傲慢ナルシストだから、全然そんな風には見えないんだけども……。
とかなんとか思っていると、俺とロクの気配に気付いてしまったのか、ラスターが不意にこちらを向いた。
うわ、バレてしまった。チクショウこの世界の奴らはどうしてこんなに気配に聡いんだろう。いや、モンスターと戦うのが当然なんだし聡くて当然なのか。
「なんだツカサ、そこにいたのか。どうした。降りて来ないのか?」
「あ、うん……」
「キュ~」
言われるがままに階段を下りると、ラスターが近付いてきた。
む……やっぱり背ぇ高いなチクショウ……まあ、ブラックよりはちょっとだけ低いから別に良いけど……。いや何言ってんだ俺は。
とにかく見上げると、ラスターはフッと笑った。
「さては、俺の仕事ぶりに惚れ直したか」
「バーッ!!」
何を勘違いしてるんだお前はと眉を吊り上げるが、しかしラスターの野郎は俺の事など取るに足らないと言った様子でハッハッハと笑いやがる。
しかも自分の背丈を鼻に掛けて頭をポンポン叩いて来た。だああチクショウ!
「ハハハ、そんなに照れなくてもお前の心は解っているぞツカサ。まったく口と心が共に動かん奴だな」
「だからそのカンチガイやめーっつーに!」
ギャンギャン反論するが、しかしラスターは俺の叫びなど気にもせず、何かを思いついたように「ああそうだ」と言わんばかりに掌をポンと叩いた。
「ああ、そう言えばお前に鉱石の事を説明するのを忘れていたな」
「ウガッ、えっ、なんて?」
「鉱石。この山で採れる、さっき見た光るアレだ。なんだ、知りたくないのか」
「えっ、いや、知りたいですけども……」
急に言われたからびっくりしてしまったが、そりゃ気になってたんだから知りたいのは当然だろう。だって、見た事も無い鉱石なんだからファンタジー好きなら詳しく知りたいと思うモンだ。しかも、クロウに「自ら光る鉱石はそう多くない」とか事前説明もされたんだし。
珍しいならそりゃ余計に教えて下さいって言いたくなるのが人情よ。
……でも、良く考えたらラスターじゃなくてブラックでも良かったんじゃないか。
ブラックだってめちゃくちゃ物知りだし、別にラスターに教えて貰わなくても良いんだよな。もしかしたらシアンさんやクロウだって知ってるかも知れないんだし。
そうだよ、ラスターじゃなくても全然大丈夫じゃんか。俺の周りには俺よりずっと頭の良い人ばっかりなんだから!
……いやそれ良いのか。俺ビミョーに自分自身を貶してない?
………………ぐぬぬ……こう考えるのもラスターのせいだな。
この野郎がこれ見よがしに才色兼備を見せつけようとして来るから悪いんだ。才色兼備って男にも使えるのかどうか知らんが、とにかくドヤッてくるから悪いんだ!
よし、なんかムカつくから断ろう。そう思って再びラスターを見たのだが。
「これから、鉱石の加工場にも聞き取り調査をしに行こうと思っていたんだ。もののついでだ、何が出来るのか見学させてやろう」
「行きますっ!!」
「キュッ!?」
俺の肩でロクが「なんですと!?」とばかりに二度見して来るが、許しておくれ。俺は工場やお菓子工場や食べ物工場の見学が大好きなんだ。
食べ物の工場は何か食わせてくれるから、行けるなら喜んで行くぐらい好きだ。
まあそれはともかく、現物が加工されるのを見学できるなら行かない手は無い。
ブラック達に頼めば知識は教えてくれるけど、加工する過程なんかは直接見る事も出来ないだろう。だけど、ラスターに付いて行けば恐らく間近でその現場を見られるんだから、そりゃあ頷いちゃいますって。
やっぱこういうのは自分の目で確かめないとな!
アレだ、百聞は一見にしかずってヤツだ!
「ではこれから連れて行ってやろう。行くぞ」
「うわっ」
そう言われたと思ったら、肩を掴まれて宿から連れ出される。
行きたいは行きたいけどこういうエスコートのされ方は望んでないんですが!
慌てて肩に乗っかる手を外そうとするが、ラスターの野郎も鍛えているからなのか全く手が離れない。ロクが小さな手でぺちぺちとラスターの手を叩いたけれど、それも効果が無いようだ。いや、ロクの可愛いお手手じゃ無理も無いけども。
ブラックには噛みつくのに、やっぱりロクショウも遠慮してるんだろうか。まあ、ロクにとっては殆ど赤の他人みたいなもんだもんなあ、ラスター……。
それを思うと少々ラスターの好感度にもの悲しさを覚えてしまったが、そんな事を思っている内に俺は大通りへと連れ出されてしまった。
ああ、いつの間に……っていうか人目の付く所で肩を抱くなお前ー!!
「やめろっ、人前でこういう事すんなっ!」
「そう照れるな。世界一と誉れ高い美貌の俺の隣で気後れするからと言って、お前が恥ずかしがる必要はないぞ。今後は頻繁に俺と共に歩むことになるのだから、今から慣れておいた方が良い。貴族の正妻は常に堂々としているものだからな」
「だーからそういう傲慢さどうにかしろって! つーか正妻ってなんだ!?」
だあもうお前って奴はなんでそう自信満々なんだよ。
つーかアンタ、俺がブラックの恋人だってこと忘れてない!?
俺指輪貰ってるんだけど、こ、婚約者なんですけどお!!
ああもうほら住民の人達が変な顔で見てるじゃねーかチクショー!!
「ああ、ここが良いな。ちょうど休みの最中らしくてヒマそうだ」
「えっ、え?」
急に肩を抱かれて方向転換させられたと思ったら、目の前に他の家よりも少し古い感じの建物がいつのまにか現れていた。
いや、俺達が歩いた末にここに来たんだな……つーかここどこ。
自分が今いる位置を確かめようとしたが、その前に建物の中に強引に連れ込まれてしまった。ええいもう、本当に自分勝手な奴だなもう!
「すまない、店主はおられるか」
薄暗い、黄土色の石で作られた質素なカウンターだけが置いてある酷く狭い部屋の中で、ラスターが声を掛ける。すると、カウンターの向こうにある通路から、誰かがゆらりとこちらに出て来た。
「なんだ。オラの店になんか用か?」
言いながら出てきたのは、結構なお年を召したお爺さんだ。けれど、ねじり鉢巻きでずんぐりむっくりしていて、ひ弱そうな感じはしない。
何かの職人であろうという事はひしひしと感じるような、栗色のもっさりしたヒゲと剛毛な短髪が若々しくも見える、団子っ鼻が特徴的なおじいさんだった。
そんな相手に、ラスターは胸ポケットに刺繍された紋章を見せながら、自分の事をキリッとした声で説明した。
「俺は、ライクネス騎士団の団長であるラスター・オレオールと言う。大事な仕事の最中に申し訳ないが、少し協力して頂けないだろうか」
そう言うと、お爺さんはラスターの胸ポケットの刺繍を見て、それからラスターの顔を見ると――――ほっぺを紅潮させて慌てながらビシッと背筋を伸ばした。
「はっ、はいぃ! あああ貴方がかの【勇者】ラスター・オレオール様でしたか! 失礼をいたしましたですっ、ま、まさか、貴方様のような方がここにお越しになるとは露とも思わず……!」
おお、なんだこの態度の豹変具合は。
ここはライクネス王国内だから、こういう頑固そうなお爺さんもこうなるのか?
国内での知名度は凄いんだなラスター……。
「うむ、良い。楽にしてくれ。……それで、協力してくれるか?」
「はっ、はい喜んで!」
勿体ぶった拒否することもなく、すぐに了承したお爺さんは、なんだか子供のように目をキラキラさせている。
……前にもこういうやりとりを見たような気がするけど、やっぱりラスターはこの国で尊敬される存在なんだろうか。マジか。イマイチわかんないな……。
近すぎると見えなくなる事もあると言うが、まあ、そんな事はどうでも良いか。
とにかく今は謎の鉱石の正体が先だ。
ここはラスターの威光に甘えまくって、どんな風に加工するのか見せて貰おう!
→
あなたにおすすめの小説
愛されたいだけなのに
まさお
BL
我儘令息だったノアは一回目の人生で最愛の人からの裏切りの末、殺される。
気がつくと人生が巻き戻っていて人生二週目が始まる。
しかしまた殺される。
何度も何度も繰り返した人生の中で自分が愛されることを諦めてしまう。
ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!
由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。
しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。
そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。
「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」
やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って?
いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!
夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。 ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕
みやこ嬢
BL
2023/01/27 完結!全117話
【強面の凄腕冒険者×心に傷を抱えた支援役】
孤児院出身のライルは田舎町オクトの冒険者ギルドで下働きをしている20歳の青年。過去に冒険者から騙されたり酷い目に遭わされた経験があり、本来の仕事である支援役[サポーター]業から遠退いていた。
しかし、とある理由から支援を必要とする冒険者を紹介され、久々にパーティーを組むことに。
その冒険者ゼルドは顔に目立つ傷があり、大柄で無口なため周りから恐れられていた。ライルも最初のうちは怯えていたが、強面の外見に似合わず優しくて礼儀正しい彼に次第に打ち解けていった。
組んで何度目かのダンジョン探索中、身を呈してライルを守った際にゼルドの鎧が破損。代わりに発見した鎧を装備したら脱げなくなってしまう。責任を感じたライルは、彼が少しでも快適に過ごせるよう今まで以上に世話を焼くように。
失敗続きにも関わらず対等な仲間として扱われていくうちに、ライルの心の傷が癒やされていく。
鎧を外すためのアイテムを探しながら、少しずつ距離を縮めていく冒険者二人の物語。
★・★・★・★・★・★・★・★
無自覚&両片想い状態でイチャイチャしている様子をお楽しみください。
感想ありましたら是非お寄せください。作者が喜びます♡
ムーンライトノベルズにて改稿版を掲載しました。