異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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巡礼路デリシア街道、神には至らぬ神の道編

4.探究者ならば求めよ1

 
 
 
   ◆


「これお弁当、良かったら食べてね」
「はあぁ、何から何まで本当にありがとうございます……」
「いやいや、こっちだってお手伝いして貰ったり、湿布しっぷや回復薬までゆずって貰ったんだから、お返ししないと気が済まないよ。回復薬なんて私らには高級品なんだし」
「いやいや」
「いやいやいや」
「もー良いから早く行こうよぉ」

 まだ太陽も顔を出していない、早朝の冷えた空気の中でのお辞儀じぎ合戦。
 おばちゃんや気の良い大人の人と話すと、ついついつられてお辞儀やらお礼やらを多用してしまうが、なんでこういうのって終わりがないんだろう。
 大人はどうやって切り上げてんだコレ。

 だけどシスターのおばちゃんがお礼を言うと、俺もお礼を重ねたくなってくる。
 なにしろ、あんな美味しい料理や寝床ねどこを提供してくれたんだから、本当なら俺達が何かもっとお礼すべきだと思うんだよな……でも、相手は良いというし。
 だからなんだか申し訳なくてなぁ。

 そんでこうやって長々と平和だが疲れる合戦を繰り広げていたのだが、終わりなき仁義ある戦いに我慢が出来なくなったのか、ブラックが俺の腕を引っ張った。
 こらブラック! でも今はありがとう!

「あ、じゃあその、シスターさんもお元気で」
「ありがとうねえ、アナタ達も良き旅路であらんことを」

 そう言いながら、十字を切る仕草に似ている動きで何か片手を動かし、シスターのおばちゃんは俺達を祝福してくれた。
 なんだか少々むずがゆいけど、その人なりの最大の見送りだと思うと嬉しくもなる。
 こういうのも旅の醍醐味だいごみってヤツなんだろうか。

 今までは宿に泊まる事が多くてこんな事などあまりなかったので、なんか少しだけさびしくなっちゃうな。二日目ですでにホームシックとかだと笑えないが。

 まあそれはともかく、二日目の旅路も元気に行こうではないか。

「よしっ、今日もキビキビ歩くぞー!」
「おー」
「あんまり張り切ってると、すぐへこたれるよ? ツカサ君運動音痴なんだから」
「う、うるしゃいなっ」

 人を先頭にえてあくびする前衛の言う事がそれかっ。
 だがしかし違うと言えないのが歯がゆい……。そもそも剣を振るう腕力も敵を翻弄ほんろうする健脚けんきゃくもないので、唯一の取柄とりえで後衛をやってるワケでしてな。
 はあ……体育は一応まじめにやってるのに、なんで体力も筋肉もつかないんだ。

 木登りと短距離走しかほこれる運動能力がないんだが、これはもう常時【ラピッド】で脚力強化しておぎなうしかないのだろうか。
 まあ、それで基礎能力が向上するんでもないから、疲れるだけなんだけどな!
 はは……ははは……わらえねえ。

「あーごめんごめん僕が悪かったよ。でもほら、ツカサ君が疲れたら、いつでも僕が抱っこして運んであげるからっ。ねっ! へ、へへ、へへへへ」
「盗賊がここにいるぞ」
「お前本当その笑い方どうにかできんもんかね……」

 無精髭ぶしょうひげを完全にり、髪もいて身だしなみを整えたら、嫉妬する気も起きないほどのイケてるオッサンになるだろうに、どうしてお前はそんな笑い方しか出来ないの。
 とは言えゲスな感じが無かったら、ブラックは余計よけい胡散臭うさんくさいオッサンにしか見えないような気もするんだが。

「むっ、ツカサ君なんか僕の悪口考えたでしょ」
「考えてない考えてない!」

 広い道なのになんで肩を寄せて来るんだよ、せっかくなんだからはばを取れはばを!
 ていうか、俺は悪い事なんて言ってないからな。むしろ、お前がもう少しまともな笑い方をすれば格好かっこう……い、いや、今のナシ。ナシだ。

 ともかく、清々すがすがしい朝の空気が存分に吸えないだろうがと手で遠ざけようとするが、ブラックは俺に寄りかかるように体重を掛けて来て離れてくれない。
 それどころか、もう片方からもなんか重いのが……。

「ムゥ、ブラックばかりずるいぞ。オレもツカサといちゃいちゃしたい」
「わーっ! デカいオッサン二人で寄りかかってくんなぁ! つぶれる!!」

 冗談じゃないとすぐしゃがんで回避すると、さすがの二人もその避け方は予想していなかったのか、寄りかかっていた体を戻しきれずに頭と肩で衝突してしまった。
 ハハハ、ざまーみさらせい。

「つーかーさーくぅーん……?」
「ツカサ……オスの力を見くびっているようだな……」
「ヒェッ」

 わ、笑ってる場合じゃ無かった。
 ほんのちょっとの意趣返しのつもりだったのに、なんだってこいつらは本気の目で俺をにらんで来るんだチクショウ。俺は悪くない、悪くないぞ!
 こういう時は三十六計さんじゅうろっけい逃げるにしかずだ。
 オッサン達が動く前に、デカいリュックを背負ってドタドタと駆け出す。が。

「…………これで逃げ切れると思ってるんだからいっそ可哀想だよなぁ。はぁ」
「いや、無謀むぼうな賭けに出て自信満々なのは可愛いぞ」
「それはそうか。いじめ甲斐がいが有り過ぎるなぁホント」

 ……まあそうなりますよね。コイツら運動神経抜群ばつぐんですもんね。
 逃げたつもりなのに、いつの間にかオッサン達がまた両隣にいる現実よ。
 二人がどんな表情をしているのかは怖くて見られないが、ここでヘタな事をするとまたもや地雷を踏みそうなので、正面だけ向いて歩き続けよう。うむ。

「聞こえないふりをしてるぞ」
「ホントかりやすいなぁ。まあ、そこも可愛いんだけどっ」

 あーあーうるさいうるさい!
 ……ま、まあでも、変な事になる前に二人の機嫌が直ったので良かったぞ。
 あのまま不機嫌にさせたままだと、何されるか分かったもんじゃないからな。

 また変につつかれる前に、別の話題を振っておこう。
 機会をうかがいつつ、しばらく三人横一列になって歩き、俺はそれとなくブラックの顔を見上げて質問を寄越よこした。

「ところで、次泊まるところって今日中に辿たどける感じなの?」

 旅の道ってのは所々に泊まる場所が用意されているものだが、しかし歩くペースによってはその「用意された宿場」に無事到着出来ない事も有る。
 そうなると、野宿しか手段は無くなるのだが……俺のペースに合わせて歩いても、ちゃんと泊まれる場所に行けるののだろうか。

 この世界の地図は、基本的に距離に関してはあまりアテにならないので、今日中に辿り着けるのか心配になったのだが――ブラックはそんな俺の不安を掻き消すようにニッコリと笑い、また距離をめて来た。

「んー……まあ、ギリギリってトコかな。でも、仮に間に合わなくっても、他の街道みたいに待避所みたいな所があるから大丈夫だよ」
「あぁ~……またあの何かたまれない場所で寝るのか……」

 仕方がない事とは言え、道路のすぐ脇で寝るのは地味にキツい。
 馬車とか人とか通ったりするので、実際よく眠れないのだ。冒険しまくりの中年は気にならないのかも知れないが、やっぱり現代人の俺的にはキツい。
 こうなったら、めっちゃ頑張って次のお宿にゴールしないと……。

「きょ、今日も絶対にベッドで寝るぞ……ふかふかで眠ってやるんだからな……」
「ツカサ君ベッド好きだよねえ。あっ、さては僕と一緒に寝たくて……」
「違うっつーの! 地面で寝たら疲れがとれねーんだよ!」
「ムゥ……ではオレが熊の姿になってツカサの寝床になろうか」
「えっ」

 熊さん姿のクロウの上で寝るの?
 …………それは……ちょっと、いいかも……。
 い、いやいや、俺はベッドで寝るんだ。クロウには悪いけど、そうやって寝るのが定番になると、非常にヤバい気がするし絶対にダメだろ。

 しかし大きなケモノの上に寝転がるのは、やっぱり魅力的だ。
 正直物凄くやりたかったが、理性で必死に抑え込んで俺は早足で歩を進めた。

 ――――それにしても、本当になだらかで……良い意味でも悪い意味でも、平和でなんの苦労も無い道だ。

 ゆるく蛇行する場所が在るものの、しかしそれ以外にこれといった特徴など無く、ただ、平坦へいたんな道がかなり遠くまで続いている。
 周囲は草原で、森がぽつぽつ遠くに見えるが、それだって特別な風景ではない。
 なんというか、その……本当に、のんびりした道だった。

 巡礼者の人が安心して歩ける道ってんなら、これで正解だけど……異世界の色々なモノを見たい俺としては、草原一辺倒の道は正直つらくなってくる。
 別に会話に困る事は無いので歩くのは良いんだけど、道端みちばたの野草を楽しむにしても、種類がずーっと同じだとそれも楽しみが減って行くワケでな……。

 なんというか、たまーに漫画で見かける平和なシーンとかで「敵でも襲ってこねえかな!」とか言い出す血気盛んなキャラの気持ちがちょっと分かってしまうな。
 綺麗な風景も続き過ぎると、人間ってのはきてしまうものなのだ。
 贅沢ぜいたくな悩みだとは分かっているけど、こればっかりはしょうがないよな……。

 でも、こういう時は本当に三人で旅をしていてよかった。
 会話は自然と途切れることも無いし、風景ばかりを見て歩くって事も少ないから、自然と歩く距離も長くなっていく。
 一人旅だと、けっこうキツかっただろうな、こういう道は……。

 改めてパーティーって良いなぁと思いつつも、俺達は昼の中頃までデリシア街道を進み、少し街道から離れた木の下で昼食をとる事にした。

 今日は天気も良く、草原でお弁当を広げるには絶好の陽気だ。
 こういう時は、心地のいい風を感じながら草原にぽつぽつ生えている樹の下で優雅に食事をするに限る。

 ……っていうか、さすがに道の上でメシを喰うのは抵抗があるから、わざわざ道を外れて草原の上で食べるんだけどな。だって馬車とか通って砂煙が起こったりするし、そうなると折角せっかくのお弁当が台無しになっちゃうじゃないか。
 そんな事になるなら、俺は迷わず草原の中でメシを喰うぞ。

 まあ、ライクネス王国では昼間だとそれほど強いモンスターは襲って来ないので、こうして道を離れることも出来るし危険も少ないからな。
 強いオッサンも二人いることだし、このくらいバチはあたらんだろう。
 そんな事を思いつつ、俺はウエストバッグから布を取り出し草の上に敷くと、木陰こかげでシスターのおばさんが持たせてくれたお弁当を開くことにした。

 丁寧ていねいに包まれたお弁当をガサゴソと開くと――――そこには、俺達三人分の、いかにも家庭的な感じで作られた料理が詰め込まれていた。

「おお、昨日の鳥の残りかな? 目玉焼きや生のタマグサが包まれてるっぽい」
「菜っ葉でパンと共に包んだのか。ツカサが作ってくれる“さんどうぃっち”とか言うのに少し似てるな」
「僕は葉っぱいらないんだけどなぁ」

 クロウが感心する横で文句を言うブラックを睨みつつ、俺は冷えた麦茶と共に謎鳥を口に運んだ。むむ、冷えても美味しいな。
 つーかマジで四本足の鳥ってどういうことなんだろうか。姿を想像すると変な感じになって怖いんだが。考えない方が良いんだろうか。

 変な事を考えつつも食事を済ませ、しばしの休憩休憩となったのだが。

「…………」
「ん? どしたのツカサ君」
「あ、いや……ちょっとトイレ……じゃなくて、かわや……」

 平たく言うと、しょんべんがしたい。
 そういう行為をしていい場所を探してキョロキョロ見るのだが、あまりにも開放的で何と言うか……その……ちょっとしづらすぎる。
 かといって木の幹に引っ掛けるワケにも行かないし、どうしたもんか。

 そうやって悩んでいると、木のみきにもたれかかっていたブラックが俺を見た。

「気にせずそこですれば良いじゃない……と言いたいとこだけど、恥ずかしがり屋なツカサ君には少々きびしいか。あそこに小さな林が在るから、そこで隠れてしてきたらどうだい? 別にモンスターの気配もないし、一人でも大丈夫だと思うよ」
「マジ? あんがとっ」

 ブラックは当たり前のようにサラッと言い放っていたが、恐らく相手はわざわざ俺のために【索敵】を使ってモンスターの気配を探ってくれたのだろう。
 危険はないとはいえ、やっぱ用心しておくに越したことはないからな。
 ブラックの心配に改めて感謝をしつつ、俺はオッサン二人がもたれている木のそばから離れ、少し遠い所にある林へと向かった。

「…………ペコリアとかに守って貰いたいが……こんなアホな用事で出すわけにもいかないよな……」

 俺の友達である守護獣たちに会いたい気持ちはあるが、呼び出した理由が本当に俺自身のためってヤツだと何だか申し訳なくて召喚出来ない。
 もっと、こう……愛でたり一緒に遊ぶ時とかに呼びたいよな……俺がしょんべんをしている時の平穏を守ってくれとか酷いお願いにもほどがある。

 はあ……ほんと俺の守護獣たちが恋しいよ。
 ロクショウ、ペコリア、藍鉄あいてつ柘榴ざくろ……今日は呼び出せる場所ならいいんだけど。
 ああでもロクに会うには一週間待たないと行けないんだよな……悲しい。

 俺の可愛い守護獣たちに会えない事に落ちこみつつ、俺は林に入った。
 細い木がまばらにえているだけの場所だけど、どこに何がひそんでいるのかも俺には分からない。ブラックが言うには危険がなさそうだからいいけども……。

 そんな事を思いつつ、俺はブラックやクロウから見えない木の陰に隠れ、いざ用を済まそうとズボンに手を掛けた。
 すると。

「…………ん?」

 なんだか、林の奥の方からガサガサと音が聞こえる。
 モンスターの危険はないと言う話だったが、ならば何がいるのだろう。
 ちょっと怖くなりつつも、ちびらないように内股になりつつ様子をうかがっていると――――不意に、木々の影から黒い大きななにかが現れた。

「っ!?」

 な、なんだなんだ。デカいぞ!?
 思わず驚いて木の後ろに隠れてしまうが、特に大きな音などはしない。
 危険はないのだろうか。そっと音源の方を覗いた、そこには。

「…………あ、あれ……人……?」
「ん? ああ、なんだ。人がいたのかい」

 そう言いながら近付いて来るのは、妙な格好をしたおじさんだった。











 
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