異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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港地区ディナテイル、情けは人のためならず編

18.美味しい物は一緒に食べたい

 
 
 キュウマのところから帰って来て一時間。
 白い空間でテストの予習をみっちり詰め込まれた俺は、なんとか運転手さんを心配させない内に戻ることに成功して帰宅していた。

 ……実際はかなりギリギリだったけど、まあ運転手さんもさほど気にしてなかったので大丈夫だと思いたい。怪しまれてないかちょっと心配だけど……そこは気にしても仕方ないからな。とりあえずオッケーってことにしとこう。

 ともかく、そんな感じで危なげなく帰宅した俺は、早速勤勉さをアピールして、夕飯前にこっそり持ち出したチョコクッキーをサクサクしつつ自室でノートを見直しているのだが……残念ながらもう既に頭がパンクしそうだった。

「……きょ、今日はこのくらいにしといてやらあ」

 誰に言ってるんだか自分でも分からないが、とにかく無理は体に良くないからな。
 今日は無理せずにのんびりしよう。どうせ明日も地獄のテストなんだから。

 っつーか、これ以上やると頭から数式やらなにやらがポロポロ零れ落ちそう。
 怖いからもうやめやめ。頭を休めよう、これからが地獄なんだから!
 とかなんとか自分に都合のいい甘さを全力で出しつつ、俺は早々に切り上げて残りのクッキーを喰う事に専念した。

 うーん、異世界の美味しいものもイイけど、やっぱこっちの世界のお菓子は格別だ。何百年も掛けてお菓子作りに注力した人達に感謝したいよ。なんせ、あっちの世界は素材がそもそも美味し過ぎてあんまり手間が掛かるお菓子とかないしなあ。
 いや、そもそも村人とかがお菓子をほぼ知らないないってところも、おやつなんかが普及しない原因なのかも知れないけど……。

「考えてみれば、あっちの世界でお菓子って言うと手間がかからないモンだったり、でなけりゃ果物とかばっかりだもんな。街の人達は流石にもうちょっとお菓子らしいモンを食べてたような気がするけど……」

 しかし、それだって俺の世界のようにバリエーションが多い訳じゃない。
 牛乳的なモンは手に入りにくいから、乳製品で作るお菓子も全滅状態だし、手間暇を掛けたお菓子なんてあの世界じゃ滅多に食べられないだろうし……。

 でも、あの【マルムーサの蜂蜜漬け】みたいに、お貴族様が食べる菓子に関しては近世あたりの技術まで進んでるじゃないかって思えるくらい美味しかったから、やはり材料が手に入れられるかどうかで進化も左右されちゃうんだろうなぁ。
 俺が知らないだけで、バロメッツのお乳を使ったこっちの世界のお菓子みたいな物も存在するのかも知れない。

「お菓子はやっぱり特別なモノって感じなのかなぁ。まあ俺の世界でだって、美味い食材全部が簡単に手に入るワケじゃないもんなあ……。でも、簡単にチョコクッキーが食べられる環境なんだからホントありがたいよ」

 チョコが簡単に手に入る世界万歳。俺の少ないお小遣いで賄える価格万歳。

 ってなワケで、食材が手に入ることに感謝してサクサクしないとな!

 うーん、ありがたみを感じるとクッキーがなおさら美味しく感じるぞ。でも、ちょっぴり申し訳ないような気もする。あっちにもチョコみたいな食材が有れば、ブラックとクロウにもこのクッキーを作ってやれるんだけどなあ。どうせなら一緒に食べたいぞ。

 あっちにも多分クッキー的な物は存在してると思うし、俺も一回はクッキーを作った事が有る身だ。けれど、やっぱりこっちの世界のものと比べたら段違いだし……このチョコクッキーを作るとなると、やっぱりそれなりに似たような材料が必要だよなあ。

 そういうクッキーなら、きっとブラックもクロウも食べたら喜んでくれるはずだけど……チョコらしきものが見当たらないから、コレの再現は無理か。もっと簡単な物でもないかなぁ
 乳製品の代用品はばっちり用意できているので、他の物も作ろうと思えばできるはず。

 そう考えて、俺は以前作った事があるような無いような物を考え付いた。

「一緒に食べられるかんたんなもの……。クッキー、ホットケーキ……ケーキ……。そうだ、パウンドケーキとかどうだろ! アレならたぶん……簡単にできるはず……」

 あとで作り方を調べてみようかな……確か、パウンドケーキもガキの頃に婆ちゃんの家で一緒に作ってた記憶があるんだけど、何故か作り方を忘れちゃったんだよなあ。

 どうせなら喜んでもらいたいし、家でちょっと練習するかな……い、いや、ダメだ。親にバレたら恥ずかしいし死ぬ。急に料理しだすとか絶対なんか勘繰られるし!!
 つーか何で作る方向で考えてるんだよ俺は、い、異世界でオッサン達に料理を作りまくってるからって、こっちでまでそういうのは考えなくていいだろ!

「お、俺は高校生、こっちでは高校生、断じて料理男子ではない……」

 クッキーをサクサクさせてなんとか思考を「普段の俺」に戻そうとする。
 いくらなんでも、こっちの世界でまでブラック達のことをずっと考えてたら、メリハリが無くなっちまう。家に帰って来てもブラック達のことばっかり考えてたら、まるで俺の方が色ボケしてるみたいじゃないか。違う、断じて違うぞ。
 俺はこっちでは、無能力のフツーな高校生なんだからな!

 そんな事を思いつつ、しばらく無心でクッキーを貪っていると――――俺を現実に引き戻すかのようにスマホが着信音を鳴らした。

 誰からだろうと画面を見やると、そこにはヒロの名前が表示されている。
 手を拭いて、俺は電話に出た。

「はいもしもし? ヒロ?」

 問いかけると、数秒間が有ってどもった声が聞こえる。
 このモジモジした感じは間違いなくヒロだな。

『あっ……あっ、あのっ、つーちゃん……ちゃんと、家にいる……?』
「心配してくれたのか? へへ、ありがとな。ちゃんと帰ってきて、いま自分の部屋に居るぞ。ヒロも大丈夫か? 帰り道なんもなかった?」
『う、うん……家の前、まで……送って、もらったよ』

 自分だけ車で返されたんじゃないかと少し心配だったのだが、ヒロも車で送って貰ったのか。それは良かった、クーちゃんもきっと車で送って貰ったんだな。
 道の途中で変な先輩達に出会ったりしてなくて良かった、と胸をなでおろすと、ヒロはモジモジした声で続ける。

『…………あ、あの……つーちゃん……』
「ん? なーに?」
『あ……明日……そ、そっ……その……ぶ、文具……買いに行く、の……つ、付き合って……くれない、かな……』
「ブング? ……あっ、文房具か~。なんか切れたの? シャー芯だったら、俺ん家にたくさんあるし明日あげよっか?」

 シャーペンの芯は、気を付けててもついつい切らしちゃうんだよなあ。でも、ヒロが使ってる芯ってどの硬さなんだろ。Bかな。それともスタンダードにHB?
 何の気なしにそう言うと、ヒロは何故か「えっ」という声を小さな漏らして数秒無言になった。どうしたのだろうかと返答を待っていると、やっと声が返ってくる。

『う、ううん……あの……あ、あたらしく、買いたいのが……あるから……』
「そっか~。明日……まあ終わるの昼だし、別にいいけど」

 明日はテストが終わってからすぐにブラック達の所へ行くつもりだったんだが、まあ、こっちで一日過ごしてもあっちでは一時間経過するだけなんだし、余裕があるはず。それに、ヒロと二人で出かけるのって田舎で遊んでた時以来だし……ちょっとくらい遊んだっていいよな。ヒロだって、昨日はちょっと不安定だったし、こうやって遊んだ方がいいのかもしれない。

 ショッピングモールなら人もたくさんいるし、なによりお金持ちの先輩達が近付く事もなさそうだし……うむ、遊ぶところとしてはけっこういいかもしれない。
 どうせ誘えばシベもクーちゃんも来てくれるだろうしな。

 そんなことを思いながらヒロに約束をすると、相手は声だけで分かるくらいに明るくなって、良かったぁと嬉しそうな声を出した。

『え、えへ……ほっ、ほんとに、良かった……っ! じゃあ、あ、あした、ね』
「うん。明日また学校でな」

 電話を切って、少し熱を持ったスマホをテーブルに放る。
 意外なお誘いでちょっと驚いてしまったが、まあヒロも色々考えてるんだろう。
 もしかしたら、俺と外に出て積極的に人に慣れようと思ったのかも知れない。昨日のアレは、ヒロからしても恥ずかしい事だったのかも知れないなあ。

 ……よし、ヒロがその意気なら、俺も協力してやろうじゃないか。
 明日はテストも大事だが、ヒロの大人への第一歩も大事だ。それに……パウンドケーキの作り方も気になるし、色々やることがいっぱいだな!

 よーし、なんだかやる気が出て来たぞ!

「ツカサー、ごはんよー」
「はーい!」

 母さんの呼ぶ声が聞こえて、俺はいそいそとリビングへ向かったのだった。












※(;´Д`)クッキー作った事あったので、パウンドケーキに変更しました
 うっかりしちゃっててもうしわけない…_| ̄|○
 (2022/06/21 変更)修正はもうちょいお待ちください
 
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