異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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聖獣王国ベーマス、暗雲を食む巨獣の王編

5.それぞれの心

 
 
 ……風呂に入っていたはずなのに、どうして俺はベッドで寝ているんだろうか。

 気が付いたら髪も体もすっかり洗ってるし、服も着ているし、なんならその洗った髪もしっかり乾いてしまっている。……となると、一時間以上は寝ていたんじゃないかとあせってしまうのだが。

「んふっ、ふ、ふうぅう……つ、つかしゃくん良い匂いぃ……はぁっ、はぁあっ、く、首筋んとこの匂いがっ、や、やわらかくて最高……っ」
「…………」

 ベッドで横向きに寝ている俺の背中にぴったりとくっついているオッサンが、首に吸い付くように顔をくっつけながら、何か気持ちの悪い事を言っている。その呼吸を感じていると、そう長い間眠っていたのでもないのだろうなと思うのだが、一体どのくらい眠っていたんだろうか。

 ……つーか、あの、やめてくれませんかね。離してくれませんかね。
 さっきアンタさんざん俺にえっちなことをしたでしょうに、どうしてまだ治まってないんですか。なんで俺をがっちりホールドして擦り寄ってんの。うねった髪がくすぐったいし、肩や首に触れる無精髭ぶしょうひげがチクチクして痛痒いたがゆいし、これで寝ろと言われてもこんなの途中で起きて当然じゃい。なにやってんだお前は。

 あれか。まさかまだヤりたりないとでもいうのか。そんなバカな。
 風呂場でさっき散々俺を使って発散したでしょアンタ。

 なら、さすがにもう落ち着いたよな?
 頼むから落ち着いたと言ってくれ。
 ケツになんか硬いものを感じるのは気のせいだと思いたい。

「つ、つっ、ツカサ君っ、どうしよう僕またペニスがっ……」
「わーっわーっ!! もうムリ絶対ムリだめだってば! 俺ケツ痛いのっ、久しぶりにめっちゃ痛いんだって! 痔になったらどうしてくれる!」

 必死に逃げようとするが、体に力が入らないのと下半身が言う事を聞かなくて全然ブラックの腕から逃れる事が出来ない。
 そんな俺を一層深く抱き込んで、ブラックはんふんふと気持ち悪く笑う。

「ツカサ君すぐ治るじゃない。それにツカサ君はこの可愛いお尻で何度も僕のペニスを受け入れてくれてるんだし今更いまさら……」
「言うなーっ! っていうかむな、尻を! 頼むから!!」
「わあ倒置法の極みだぁ、興奮しちゃうなあ」
「どういう興奮の仕方だー!!」

 実はバカにしてるだろと振り向くと、ブラックがキスをして来る。
 ちょっ……お、お前……っ。

「ツカサ君も積極的で嬉しい……っ。ん、んん……そ、そうだよね。お風呂でやった時も、ツカサ君は二回しかイケなかったもんね……! 僕も三回しかツカサ君のナカに出せなかったし……よぉし、じゃあ今日はツカサ君のやらしいお尻が僕のペニスの形にぽっかり開いちゃうぐらいにセックスを……」
「ああああヤり殺されるうううう勘弁かんべんしてもう下半身の感覚ないんですううう」

 なんでこのオッサンは毎回毎回俺をヤり殺さんばかりにハッスルしてくるんだよ。
 アンタは挿れる方だから最悪ちんちんイテテ腰イテテぐらいで済むだろうけど、俺は腰から下の感覚がマヒするわケツが痛いし広がった感覚がまんま残ってて怖いし、それに変に力が入っちゃったのか腕やら肩やら筋肉痛で痛いんだよ!

 だのに、なんでお前はそんなにサカるんだとにらむと、実に嬉しそうな顔でヘラヘラと笑いながら、ブラックは俺のほおや口に何度も吸い付いて来る。

「んへへ……ツカサ君……ツカサ君好き……ツカサ君が帰って来てくれたらもう僕、我慢出来なくてたまんないんだ……ほら……抱き締めてるだけでもう、ペニスが下着の中で痛いくらいに勃起しちゃう……」
「ぅあ……」

 向かい合わせになった俺の体を、ブラックの足が更に絡め取って来る。
 下半身すら引き寄せられ、太腿ふとももの所にふくらんだ股間を押し付けられるのを感じ、俺は無意識に体をビクつかせてしまった。

 だ、だって……そんなのされたら、誰だって驚くわけで……。

「ツカサ君……っ、ぁあ……嬉しい……久しぶりにいっぱいセックス出来て、ツカサ君が僕の腕の中にいるの……嬉し過ぎて興奮しちゃうよぉ……」
「……ブラック……」

 本当に嬉しそうにそんな事を言われると、強く言えなくなってしまう。

 そりゃ、ブラックがずっとえっちをしたかったのは知ってるよ。
 俺も忙しいからって断ってて、それを守ってずっと我慢してくれたのは、その……こっちの事を考えてくれてるんだなって思って、嬉しかったしありがたかったけど……でもな、だからってスタートからギア全開にする奴があるか。

 おかげでこっちはケツがぶっ壊れたかと思ったんだぞ。
 ったく、鍵閉めたのに風呂場までズケズケと入ってきやがって……。

「はぁっ、はぁあ……つ、ツカサ君の太腿ふともも気持ちいっ……あぁ……ぼ、僕またペニスがふくらんできちゃうよぉ……っ」
「…………おまえなぁ……」

 大の大人が、とろけたような顔で口をだらしなく開けながら、ヨダレを垂らして俺の足に股間を擦りつけている。普通に考えて、通報モノでしかない光景だろう。
 だのにやっぱり美形ってのは得なもんで、うねった長髪を結びもせずに流して恍惚の表情をしている様は、そういうシュミの奴にはウケそうだなと思えなくもない。

 なんでこう、顔の違いで「まあ許してやるか」みたいな気分になるのだろう。
 俺がこんな顔しても絶対キモい一択いったくなのに、なんかムカつく……ああでもなんで、ブラックがこういう顔をすると怒りがしぼんじまうんだ。

 別に俺はそんなシュミなんてないのに、ブラックが素直に嬉しそうな顔をしているのを見ていると、何故か怒るに怒れなくなってしまう。
 ……まあ、我慢させてるって負い目があるのはそうなんだけど……でも……まあ、その……なんていうか……ブラックが喜んでると、なんかつい許しそうになっちまうと言うか、こたえてやりたいなぁとか、思いそうになっちまうというか……。

 で、でも、もう今日は本当にムリ。
 これから船がベーマスに入るんだろ。今だって歩けそうにないのに、またブラックの性欲に付き合わされたら今度こそタダじゃすまない。

 気絶しただけでもとんでもないのに……って、あれっ? 俺気絶してたのか?
 アドニスから貰った薬、飲んでなかったのに……。

「ねえツカサ君……も、もう一回……もう一回だけセックスしよ……?」
「えっ!? も、もう一回ってアンタな、もうすぐ船が到着するだろ!」
「ぶー、ツカサ君のケチぃ。じゃあ……ツカサ君もいっしょに触って……?」
「え゛……」

 菫色すみれいろの綺麗な瞳をとろんとうるませて、ブラックは俺の手首をつかむ。
 そうして、掛布団の中で俺の足を捕えている自分の足の付け根に持って行った。

「僕のペニス……ツカサ君の手で、一緒になぐさめてよぉ……。ね……?」

 至近距離で、ねだるような声音を出すブラック。
 大人の渋い声なのに、子供みたいにダダをこねて見つめて来るなんて、普通なら「バカなことをするんじゃない」と言うべきなのに。

 なのに、俺は……そうやってブラックにねだられると、どうしてか拒否する心が急に小さくなって消えてしまう。
 悲しそうにすがる顔より、さっきのとろけた嬉しそうな顔を望んでしまって。
 我慢させた負い目と言うよりも、その……。

「…………い……一回、だけだからな……」

 自分でも、言ってて恥ずかしい事を呟く。
 なのに、そんな俺の言葉に……ブラックは、犬みたいに嬉しそうな顔をして。

「あはぁっ! つ、つかしゃくぅうんっ好きっ、だいしゅきいぃっ!」
「いっ、いいから抱きつくなっ押し付けてグリグリしてくんなぁっ!!」

 なんで喜びながら腰を擦りつけてくるんだお前は!
 本当に発情期の犬かコラ!

 からかうなら手伝ってやらんぞと再度にらむが、やっぱりブラックは嬉しそうに顔をほころばせるだけでビクともしなかった。
 それどころか、俺の手をぎゅうっと自分の膨らんでる股間に押し付けて来やがる。

「ふっ、ふへへっ、つ、ツカサ君……」
「……暴発して服を汚したら、もう洗ってやんないからな……」

 釘を刺したつもりだったのに、ブラックは何故か幸せそうな忍び笑いを漏らして、俺の頬にまたキスをしてきた。
 ったく……なんでこうコイツはこうなんだろう……。
 いやまあ、クールなブラックとか全然ガラじゃないんだけどさ。

「じゃあツカサ君、ねっ、あの、トイレ。トイレいこうよっ。ねっ!」
「…………なんで毎回そう変態くさいチョイスなんだお前は……」








 確かに自分は「誰も居ない所」を待ち合わせ場所に指定したが、その答えがまさか“かつての敵”が潜伏していた部屋だとは思わなかった。今回の航海ではもう誰も使うことは無いとは言え、それでも警戒せずにはいられない。

 主が居ない空き部屋というのは、安全であり同時に危険でもあった。
 その事を知っているからこそ――――クロウは、神経をとがらせているのだ。

(まあ確かに、あんな事件が有った後では誰も入ろうとは思わんだろうが……)

 しかし、久しぶりにこのような広い部屋に一人となると、嫌な気分はぬぐえない。
 クロウはそう思いながら、周囲を見てバンダナで隠れた耳をもそりと動かした。

(しかし……指定場所がブラックの部屋に近いのは良いとしても、はこの部屋にどうやって来るつもりなのだ? 一般人が貴族専用の区域に来る時は、理由が必要だろうに)

 あごに手を当てて少し考えつつ、クロウは窓の外を見る。

 ――――まだ太陽は中天に達しておらず、昼には早い。

 ツカサが帰ってくる時間はそろそろだろうと考えるが、今は生憎あいにくと飛んで行って彼に擦り寄る事は出来なかった。そう出来ない事情があったのだ。
 だから、クロウはこのようにコソコソと別室に無断侵入して“相手”を待っている。

 けれども出来る事なら早く部屋に帰りたかった。

(別にブラックに用事は無いが、ツカサが帰って来る時は必ずブラックの居る場所に近い所だからな……。迎えに出遅れたら、ツカサに触るのに時間がかかる。独り占めされてツカサがへろへろになったら、おいそれと手を出しにくい)

 まあツカサが満身創痍まんしんそういになっても触るのだが、人には建前と言う物が必要だ。
 ブラックを出しぬいてツカサに甘やかして貰うためには、それなりに隙をつかねばならなかった。もしツカサが今まさにこちらに戻って来ていたとしたら、完全に自分は出し抜かれてしまった事になる。これは由々しき事態だった。

(…………まったく……ベーマスに帰るのでなければ、こんな斥候せっこうのような真似などせずとも良かったものを……)

 仕方がないこととはいえ面倒だ、と歯噛みをしていると、下……どうやらこの部屋の床から、何か金属を叩くような音が近付いてきた。
 いやこれは違う。金属板の上を、誰かが這って来ているのだ。

 その位置を獣人の聴覚でとらえたクロウは、すぐさまその道の終着点であろう場所――――この部屋の水道設備がある風呂場に移動した。

 と、壁にネジ止めされた大きめの板が外れて、中から手が出てくる。
 何も知らない者であれば驚いただろうが、クロウは冷静で無表情な顔のまま、その手の持ち主が顔を出してくるのを待つ。すると、そこに現れたのは。

「……ああ、迎えて下さったのですね。お心遣い感謝します」

 丸いネズミの耳を頭に生やした、青年……――――ナルラト
 この船に厨房係として雇われていた相手は、何者かの気配を探るようにネズミの耳をせわしなく動かして周囲に「曲者」がいないか確かめると、ぬるりと小さな壁の穴から出て来た。ツカサほどの体格の少年なら楽々出て来られる穴とは言え、それでも体格の良い獣人が出て来るのには苦労するだろう穴だ。

 そんな場所から音も立てずに出てくる相手は、間違いなく普通の獣人ではない。
 だが、クロウからすればそれはもう分かり切った情報だった。

「…………まさか、お前がこの船に乗っていたとはな。……水麗候すいれいこうめいか?」

 居丈高に問うクロウに、軽く腰を曲げ礼をしながらナルラトは答える。

「いいえ。……私はすでにプラクシディケ様に別れを告げております。水麗候の頼みは、もう私には伝わってきません」
「ならば、誰の差し金だ。……父上か?」

 怒りも疑問も無くただ無感情に問いかける。
 そんなクロウの言葉に、面を上げる事をお許しくださいと先に置いて、ナルラトは顔を上げ、嘘偽りの一片も無いことをしめしながら口を開いた。

「はい。……俺……私は、クロウクルワッハ様と、奥方になられるツカサ様の影なる護衛として船に潜んでおりました。……恐らく……帰って来ざるを得なくなるだろうと“御尊父ごそんぷ”様がおっしゃられたので」
「護衛とは……ここのではなかったのだろう?」
「はい……」

 そう言って向こう側の部屋を親指で軽く示すクロウに、ナルラトは頭を下げる。
 さもありなん。今回の事件は、相手側にとっても寝耳に水だったはずだ。
 彼らは、あの【アルスノートリア】を脅威に感じてツカサと自分を守ろうとしたのではない。理解はしていたが、しかしそれを改めて突きつけられると、クロウはひどく気が重くなった。

「……そうか……。オレは、まだうとまれているのだな。……フッ……その程度には、価値が残っている、と、思われているとは……嬉しいやら、迷惑やらな話だな」

 無表情だった顔に、少しだけあざけるような、嫌悪するような笑みを見せたクロウ。
 そんな「あるじ」に、ナルラトは神妙な顔をして頭を少しうつむける。

「我々は、そのようなことは思っておりません。……少なくとも、今の貴方様は、以前よりも強く雄々しくなられました。まるで聖王陛下のごとく、大地を制し悪魔の海をも咆哮の尖塔で突き……」
「世辞はいらん。……それで、なんだ。呼び出したのなら用があるのだろう」

 クロウの言葉に、ナルラトはハッとしてこちらを見やる。
 鼠人そじん族の特徴である細目で釣りあがりがちの目を更に細め、冷や汗を垂らしながらナルラトは息を吸った。

「…………クロウクルワッハ様、どうか……どうか、お気を付けください。“御尊父”様にも、貴方様にも危険が迫っております。詳しくは“御尊父”様が説明なさるので、私からは申し上げられません。ですが、どうか……他人を、信頼なさらぬよう……」
「他人を、か。鼠人そじん族のお前がそんなことを言うとは珍しいな。……それに、今オレのちからを讃えておいて心配するとは何事だ。オレのちからは信用ならんのか」
「っ……あ……も、申し訳ありません……」

 ひざまずいて頭を垂れるナルラト。
 そのあまりにも必死な様子に、クロウは冷たく目を細めて……ぽつりと呟いた。
 解り切ってはいたが、別に言う必要も無かったことを。

「……ああ、そうか。お前も、ツカサに惚れたのだな」
「ッ!? お、おたわむれを!」

 すぐに顔を上げて目を見開くナルラト。
 ……どうやら、図星だったらしい。

 細い目を見開き、ネズミの耳を覆う獣毛を驚きに膨らませている。……仮にも“影”として働いて来たであろうに、今のこの男の姿はおおやけの場で曝せば醜態ものの「わかりやすさ」だった。人の上に立つ者、冷静な仕事を強いられる者からすれば、絶対にしてはならないような姿だ。
 そんな姿になってまで否定するのは、肯定しているのと同意義だった。

(…………兄に続き、弟まで……か。よくよく不運なオス達だ)

 この男がツカサのどこにれたのかなど、クロウには分からない。だが、この男の兄が独特な闇を抱えていた事を考えると、ナルラトもその“闇”ゆえに無意識のうちに惹かれてしまっていたのかもしれない。
 ……「影」は、光が存在しなければ現れる事が出来ない存在だ。けれど、その「光」とは、何も主人や英雄などという立派なものだけではない。水のような優しさを持つ存在を水底で密かに見つめるのも、また「影」なのだ。

 彼らのような存在にとって、ツカサの純粋さはまぶし過ぎたのかも知れない。

(そう思うと、哀れではある。……この男達が属する鼠人の一族は、そういう定めの一族だからな……)

 だがそれでも、この男の心は叶う未来は無い。自分とは違い、待てばいつかという“許し”すらも存在しないのだ。そしてそれは、クロウだけにいつか訪れる。ツカサが受け入れてくれていると確信できるからこそ、クロウは未来を疑う事は無かった。
 そのことを思うと少し気分が良くなり、クロウは薄く笑った。

「まあ、いい。今のオレは何もかも失った、ただの獣人だ。兄上も弟も、オレを気にはしても“あからさま”な攻撃はしないだろう。……喧嘩をすれば、オレの存在を認めることになるからな。それに、オレ達はただ【銹地しょうちの書】を受け取りに来ただけだ。それが終われば、また船に乗って帰る。長居はしない」

 クロウがそう言うと、ナルラトはあからさまにホッとしたような顔を浮かべた。
 ……本当に、解りやすい男だ。

 今までいじめられていたツカサを助けていたらしいが、こんなに分かりやすい男の気持ちに気が付かないツカサも罪な存在である。
 だが、それでこそ自分達の特別な関係が保たれているのだと思えば、クロウは今の自分の境遇に不思議な満足感を覚えないでも無かった。

(…………地の果てまで駆けても、海を渡っても、オレの居場所はなかった。そんなオレの居場所を作ってくれたのは、ツカサだ。お前に忠告されなくとも、ツカサの事はオレが……いや、オレとブラックが、守る。余人が口を挟む隙など無い)

 だが、ナルラトがわざわざ「クロウとは以前からの顔見知りだ」とバレかねない行動を起こしてまで忠告をしに来たのは、普通ではない事態が起こっている証だ。
 普通、暗殺を生業なりわいとするこの一族がこうもあからさまに接触して来る事は無い。
 「影」は「影」として、ただ黙ってあるじに付き添うような存在なのだ。

 だからこそ、この男が心底ツカサに懸想けそうしているという事が分かり、面白くない心もあるのだが……今は、そのことを追及ついきゅうするのもわずらわしい。

(あの国にいつ帰ろうとも、オレの居場所はもう存在しない。……今はただ、ツカサに、オレ達の群れに害をなすならば……誰であろうと牙を突き立てるだけだ)

 それは、ナルラトであろうが変わりは無い。
 獣人とは本来、そういう存在だ。

 守る役目のものは守るべきものを守り、死を賭して相手に向かう。
 例え自分が同胞に笑われる存在であろうと、それだけは変わらない。
 それが、クロウの獣人としての誇りだった。

「……用事は終わりだな。オレは行く」
「はっ」

 背を向けて歩き出すが、ナルラトは追って来ない。
 「居場所が無い」はずなのに、それでもまだ自分の存在は「こういうもの」でしかないのだなと思うと暗い笑みが浮かんできて、クロウは拳を握りしめたのだった。












 
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