異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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聖獣王国ベーマス、暗雲を食む巨獣の王編

  料理チートもほどほどに2

 
 
 黒い馬耳に白い肌のお兄さん――――クルサティさんと一緒に掃除をして、一時間ほど経っただろうか。やっとこさ厨房がマシになった。

 そこまで広い厨房でもないのに時間が掛かったのは、やっぱり厨房が砂やホコリで埋まっていたのと、それを二人きりで掃除していたからだろう。
 結局ジーッと見ていた兵士たちは手伝ってくれなかったな。今も見ているあやつらに対して一睨みしたい気分だったが、悲しいことにもうそんな気力も無い。

 それに、家事を手伝わないのは獣人からすると仕方のない事らしいしな。
 クルサティさん曰く、武神獣王国アルクーダの兵士はオスばかりで家事と言う物をする機会が無く、あったとしても下っ端が掃除をやるくらいのものなんだって。家事はメスの仕事だという認識があるせいなのか、彼らには詰め所をくまなく綺麗にすると言う概念自体がもうなくなっちゃってるのだそうな。

 とはいえ綺麗好きな奴もいるらしく、そういう人は自分の部屋くらいは掃除するのだそうだが、職人ではないものが厨房に入るのはメスだとからかわれるらしい。

 うーん……男子厨房に入るべからずって奴だとしたら、入らないようにしようってのも頷けるけど、獣人の国のルールってのが分からないから何とも言えないな。

 オーデル皇国みたいに「技術を持つものはソレを使うべき!」という超実力主義な世界だとしたら「仕事を奪うのはいけないよね」って認識なのかも知れないし、獣人の中では「男は外で戦い女は家で戦う」ってのが常識なら俺は何も言えない。

 平等になるのが大事な時も有るけど、こういう慣習って外野がヘタに掻き回したら後々えらい事になるからなぁ……。
 まあソレで上手く回っているのなら俺には何も言えん。

 でもちょっとくらい手伝って欲しかったな……クルサティさんも「護衛の仕事の範疇ですので」とか言って手伝ってくれたワケだし。
 長い時間砂と格闘してたせいで、口の中がじゃりじゃりになっちゃったよ。

 ……まあでも、いつまでもそんな事を言ってても仕方ないよな!
 ちと予定が狂ってしまったが、俺がやる事は変わらず一つだけだ。今まで頑張ったブラック達を労うための料理を作るってえヤツだな!

 料理をする事でメス扱いされそうなのは少々悲しいが、しかし今は他人の評価よりオッサン達の明日の活力である。バリバリ食って貰って元気になって貰わんとな!

 ………………でないと、どっか移動するたびにまたあの“匂いづけ”とかいうスケベ行為をやらされかねないし……。

 ぶ、ブラック達が元気になれば、見た目だけで威圧できるから周囲の奴らも俺達にちょっかいかけようなんて思わないよな!
 うむ、そうだ。そうに違いない。ともかく調理を開始しよう。

 綺麗になったかまどに早速火を点けようと思い、予め購入していた固形燃料を取り出そうとすると、クルサティさんが何か赤く光るものを取り出して見せてくれた。

「ツカサさん、種火はこれを使いますよ」
「えっ、種火? でもこれ……ルビーってか、赤い鉱石……ですよね」

 クルサティさんが取り出したのは、内側に赤い光を灯した綺麗な鉱石だ。
 大体ソフトボールくらいの荒削りな鉱石だが、これが種火とはどういうことだろうか。不思議に思っていると、クルサティさんはまたもや見慣れない物を取り出す。

「ひえっほ、骨!? しかも黒い!!」
「油骨って言います。岩石砂漠のモンスターは、骨にまで脂分を溜めているんですよ。これをかまどの中で組んでから、種火石を骨組みの上に置いて油を垂らすんです」

 クルサティさんは当たり前のように犬が喜びそうな形の骨を器用に組み、その中央に【種火石】と呼ばれる赤い鉱石を置き、そこに長細い棒の先に小さなシロップ入れのような物がついた道具で一滴油を垂らした。

 すると、すぐに【種火石】の中の赤い光が溢れ出て来て骨に火を点ける。
 ボッと音が鳴ってちょっと驚いたが、その炎は大きすぎず暴れ過ぎない、丁度いい加減の炎だった。どうやら垂らす油の量で炎の強さが決まるらしい。

 時間経過で【種火石】の中の炎は弱まるらしいので、石がチカチカしはじめたら油を再び足すらしい。獣人の国の明かりは、すべてこの【種火石】で作られているのだそうだ。……人族の大陸で言う【水琅石】みたいなものかな……?

 でもあれはライトみたいな明るい光を放つくらいで、炎は出なかったよな。
 これが、所変われば品代わるってヤツか。獣人の国も侮れないなぁ。

 でも骨を炭の代わりにするってのはちょっとその……お、驚きだけど……。

「それで、どんな料理をつがいの方々にお出しするのです?」
「ブッ!! ちょっ、つ、つがいって!!」

 何を言うんだとクルサティさんを見ると、相手はハテと首を傾げる。

「おや? みなさんツカサさんの夫では無かったんですか? 私はてっきり、人族の方も【ポリガミア】のどれかで婚姻を結んでいるとばかり……」
「ぽ、ぽりがみあ?」

 あれ……なんだっけ、なんか前にチラッと聞いた事があるような気がするけど、もうかなり前の事すぎて覚えてないぞ。でも確かに獣人関係だった気はする。
 しかしポリガミアの内容は覚えてないな。なんだっけ……。

「うーん? では、ツカサさん達は“コロニー”では無かったんですね。みなさんツカサさんを尊重していらっしゃるのでてっきりそうかと……えっ、じゃあ“ワレン”ですか? 多夫多妻じゃなくて多夫一妻なんて珍しいですねえ」

 えーと……ちょっとクルサティさんの発言が完全に理解出来ないだが、解らない方が良いのだろうか。良いんだろうな。でもとりあえず俺達は婚姻関係ではないと強く説明しておこう。ブラックとだけ、その……こ、こんにゃくしゃになってるけど、そんだけですからね、他は大事な仲間ですからね!?

 はーっ、はーっ……く、クルサティさんが解ってくれたかどうかは解からんけど、早く料理を進めよう。なんかもう背後から見られてるわ誤解されるわで四面楚歌だ。
 ここは早めに料理を作るに限る。

 大きな鍋を借りて作るのは、シンプルなスープだ。
 サービニア号から貰って来た食材と人族居留地の【ゼリバン・グェン】で買った果物をここでおおいに使わせて貰おう。

 といっても、俺は料理の事はあまり知らないので今回も別に珍しいものではない。
 肉は焼くが工夫と言えばソースくらいだし、あとはサラダだったりおつまみを用意したりするくらいだ。あ、もちろんお酒も忘れずにな。

 肉用のソースは、この国の果物を使っている。しょうゆなどの恋しい調味料が無いため、甘めな感じのソースになってしまったが、それでもわりと自信作だ。
 飴色になるまで炒めたタマグサが、良い感じにコクを足してくれている……ような気がする。ブラックには少し物足りないかもだけど、これが今できる精一杯だな。
 ニンニクのような味がするクキマメを加えたので、満足してくれるといいが……。

 まあそれも食べて貰わない事にはわかんないよな。
 白パンと合う事を祈るばかりだ。

「うわー、なんか食欲をそそる汁ですねえ」

 ソースを煮詰めていると、クルサティさんが鼻を動かしながら馬耳を動かす。
 クロウもそうだけど、大量にいれなければ獣人達もニンニク入りの料理を美味そうだと思ってくれるみたいだな。しかし、ウマの獣人であるクルサティさんが肉料理のソースを美味しそうだと思うのは何だかちょっとヘンな感じだ。

「クルサティさんは肉とか食べて大丈夫なんですか?」
「ああ、世の中には肉を食べない奇特な種族もいるらしいですが、砂漠地帯の種族はだいたい何でも食べるから気にしなくて大丈夫ですよ。獣人の掟に配慮して下さるなんてツカサさんは本当にお優しい」

 なんか変なところで株が上がってしまったが、とりあえず全員肉オッケーなんだな。
……いやまあ、彼らの体は半分が「モンスター」であって「動物」ではないのだから、肉を食べてもおかしくないのか。うーん、少々混乱する事実だ。

 本当にこの異世界は俺の中のセオリーを無視するよな……なんて思いつつ、俺は他の料理を作るべく二品目にとりかかった。

 ブラックはステーキだけでも満足してくれるだろうが、クロウやシーバさんは獣人の胃袋なのだからそうもいかない。ということで、今度は肉たっぷりのスープを作るぞ。でも今回は普通のスープではない。

 材料には……これ!
 丸い形の不思議なバナナ――【マルムーサ】の青く熟していないものを使った腹がいっぱいになるスープだ。しかも今回は不思議なフルーツを使う。

「えっ、果実をスープに入れるんですか?」
「はい! まあ見よう見まねなので試作も兼ねてますが……もし良かったら味見してくれませんか?」
「わあっ、よ、喜んで!」

 何か背後からグーグーと音が聞こえているがムシだ。
 俺と一緒に働いてくれたクルサティさんには優しくしておこう。

 ……ってなワケで、今日作るスープはアフリカ風バナナスープだ!

「青いバナ……マルムーサは剥いて、分厚い肉とタマグサのみじんぎり、それとコレが肝心のクキマメのみじん切りを先に煮込んでおく……」
「おっ、肉を煮るんですか。なんかツカサさんの料理って王宮の調理人のソレみたいですねえ」

 クルサティさんの話では、ご家庭でも肉を焼いたりはするけど、煮込みやソースなどの“凝った料理”を作ったりはしないそうだ。煮込みで“凝った”と言われるのは驚きだが、まあ獣人族は生肉文化だからな……。
 素材のまま食べても問題ないんだから、肉を焼くのも趣味の一種でしかない。

 それを更に手間暇かけるってのは、もう贅沢品みたいな扱いになるのだろう。王宮の調理人がナンタラと言われるわけだ。
 でも、この料理も本当に簡単なんだけどなあ。……なんせ、この前テレビで見たのをぼんやり覚えていた……ってレベルで作れるほどの親しみやすさなんだから。

 アクを取りながら弱火でコトコト煮て、柔らかくなったら肉を取り出してマルムーサを丁寧に潰す。そこに【サフォヤグ】という楕円形で薄い赤紫色の果物の中身……白くねっとりとした果肉を加えてポタージュになるまで肉と一緒に煮込むのだ。
 あとは塩で味を調節して出来上がり。お好みで胡椒もだな。

 味見をしてみたが、なんとなくジャガイモのポタージュっぽい感じだ。お腹に溜まりそうだし、なにより美味しい。【サフォヤグ】が良い感じに味を調えてくれたな。

「へー、サフォヤグをこんな風に使うの初めて見ましたよ。コレ、子供の乳離れに使うだけじゃないんですねえ」
「そ、そんな役割なんですね普通は……いやでも、凄く使い勝手良いですよこれ」

 だって、この【サフォヤグ】という果実……実は、非常にバターに似てるのだ。
 もしかすると、バロメッツというモンスター君で作ったお乳のバター以上に俺の世界のバターに近いかも知れない。前者は油を加えなければ成立しなかったが、こちらは単体でバターだ。まったくの常温保存可能なバターなのである。

 バザーで味見させて貰った時は、感動で跳ね上がりそうになったよ。うん。

 惜しむらくはこの果実が腐りやすく取り扱いが難しくて、人族の大陸に運べないって所だろうか。コレがあれば料理人の人も助かるだろうにな……。
 バロメッツのお乳も大量に使わなくて済むし、なにより作る手間も省けるのに。

 ちょっと残念だが、その地域でしか見られない植物ってのが旅の醍醐味だ。
 料理も美味しく作れたし、今日は満足だな……と思って、ふと背後を振り返ると。

「…………わお……」

 匂いに釣られてきたのか、さっきよりも兵士が詰めかけていて……子窓やドアから溢れ出んばかりの勢いだった。っていうかちょっと出てる。折り重なって体がもう厨房に半分くらい出てますよみなさん。

 そんなに気になったのだろうか。まあ肉料理だしそりゃ興味はそそられるよな。
 俺だってマッ○でポテトが上がる時はついつい覗いてしまうものだし……にしても、この数は異常だ。どんだけ詰めてたんだよこの男どもは。

「あはは……みんなツカサさんの料理に釣られて来ちゃいましたね……」
「…………みなさんの分も、作った方がいいんです? これ……」
「で、出来たらそうして頂けると嬉しいなと……そうでないと、今晩の業務にも何かと支障が出てしまいそうなので……」

 恐る恐るクルサティさんに聞くと、相手も弱々しい苦笑で言う。
 だが、俺達の話をその獣人の耳でしっかり聞いていた兵士達は、俺がもう既にメシを作ってやると決めたと思っているのか、わあわあと騒ぎ出した。

「やったー! 今日は肉尽くしだー!」
「さすがは美味そうな匂いがするメスだな。人族でも美味そうなメスだとやっぱり家事も出来るメスになるんだなあ」
「にーく! にーく! にーく!」

 なんかもう色々声が聞こえて良く分からないが、肉が嬉しいと言う声だけは不思議と分かるぞ。そんなに肉が食べたかったのかこの人達は。
 まあ幸い肉は多めに買ってたし、料理も難しいものではないのでいいか。

 しかし……数十人のメシとなると、ステーキを切ったり焼いたりするのが大変だ。

 その苦労を思い顔を歪めた俺に、察しの良いクルサティさんが応えてくれた。

「肉は自分達で焼かせましょう。ツカサさんはソースというのと、肉スープをお願いします。……いや、本当にすみませんねウチの者どもが……」
「いえいえ、泊まらせて貰うんですしこれくらいは大丈夫ですよ!」

 ……クルサティさんは俺に優しく接してくれるけど、兵士みんながそうってワケじゃないもんな。もしかすると、人族と一緒に行動してるクロウにも風当たりが強くなるかも知れないし……だったら、ここで心証を良くしておかないとな!

 獣人だって人族に変わりないんだから、美味いモンを御馳走すれば多少は態度も軟化するはずだ。ここで俺が獣人達と仲良くなれば、もしブラック達を誤解されるような事態に陥ったとしても仲裁しやすくなる。むしろやらない理由が無い。

 なにより、恩を売るってのは獣人にも有効だからな。
 ここは恥を忍んでメスって認識を大いに活用させて頂こうではないか。

「すみません、ツカサさん……堪え性のないヤツばかりで……」
「あはは、まあ……慣れてますから」

 肉が大好きでめいっぱい食べたがるのはクロウもブラックも一緒だしな。
 いつもの事だと思えば別に特別でも無い。

 だが、そうやって笑う俺が不思議だったのか、クルサティさんは首を傾げながら、目をパチパチと瞬かせて言う。

「やっぱり……ツカサさんは“コロニー”の女王なのでは?」
「いやあの、俺女じゃないんで……」

 っていうかコロニーって本当になんなんですか。
 聞きたいけど聞いたら更に落ち込みそうな気がするから聞きたくないな。

 だけどいずれ聞かなきゃ行けない時が来そうだなとゲンナリしつつ、俺は兵士達に配膳するための料理を再び作り始めたのだった。










※ツイッターで言っていた通り遅くなりました(;´Д`)
 【ポリガミア】の設定は第一部で軽く出てきましたが
 今後改めて説明しますのでよろしくお願いします(*´ω`*)
 平たく言えば一夫多妻とか一夫一妻を動物的なカンジの群れに
 当てはめて説明したモノです。これが一般的獣人夫婦の形…。

 
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