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飽食王宮ペリディェーザ、愚かな獣と王の試練編
ナーランディカ卿2
◆
――――ジャルバ・ナーランディカ卿。
オールバックっぽい髪型に、垂れ気味な熊の耳を生やすその人はそう名乗った。
今までクロウみたいな「光が当たる所が別の色に見える髪」を持つ王族の熊ばかりと顔を合わせていたせいか、その人の姿は本当に普通の獣人のように見える。
まあ、このジャルバっておじさんもクロウやブラック達と同様体格がいいし、がっしりとしているけど……でも、髪色は黒一色だし鼻の下にある整えられた紳士的なヒゲも特別奇抜な所は無くて、なんだか親近感がある。
それに、何より居住まいが軍人というか……本当に、どこかの国で誠実に国を守る仕事についているような、しっかりした公務員って感じの背筋が伸びた感じが、すごく高潔な感じがする。
俺が将来こうなりたい男ランキング上位に位置するようなタイプの、真摯で気高い男という感じの人なのだ。
……いやまあ、軍服に似た露出度が低い服を着ているから、俺が勝手にそう思っちゃってるだけなんど、でも今まであの殿下を見てたから余計に格好いい一段上のオトナに見えてしまう。
そうそう、こうなんだよ。
俺が将来なりたい格好いいオトナってのは、こう言う感じなんだ。
まあ日替わりでハードボイルドになったり悪を成敗するタイプになったりするけど、女の子に誠実で正義に忠実なオトコってのも格好いいよな!
なによりこう……格好つけてもサマになるって感じが素直に羨ましい。
女の子にモテるためには「サマになる」ってのも重要だからな……。
ご、ゴホン。話がそれたな。
ともかく、ジャルバさんは凄く紳士的で良い人だった。
ヒゲはあるけど、クロウ達よりは数十年年下らしい。でも、クロウの一族って実際の年齢は何歳か分からないし……俺達で言うと三、四歳程度なのかな。
俺からしたら、あまり違いは無いように見えるけど……でも、言われてみるとクロウよりも若いような感じはした。
ブラックの方が年上ってのは初対面でなんとなく分かったけど……アイツの場合は無精髭とかでヘンにモサくしてるもんなぁ。イヤとかじゃない、けど。
ま、まあそんな感じだけど、でもこの人が意外と若そうなのは確かだな。
そんな人が、この王宮【ペリディェーザ】の財政や倉庫管理などを行う役目の一人だと聞くと、なんだか意外な気がして来る。
軍人っぽいからってのもヘンケンだが、てっきり国防とかそんな感じの仕事をしてる人だと思ってたからなぁ。でもまあ、あの大食い殿下を見ていると、こういうキッチリとした人の方がいいのかも知れない。
ドービエル爺ちゃんだって、なんかつまみ食いしちゃいそうだもんな。
クロウの一族って結構そういう事をしそうな感じがするぞ。いや、俺の偏見だが。
「ツカサさん、こちらが我らが王宮の心臓部……食料庫です」
「えっ、食料庫が」
もう到着しちゃったんですか。
しまった、変な事を考えながら歩いてたから道順を覚えてないぞ。
内心焦りつつも前方を見やると、そこには金の装飾が豪華でありつつも、ガッチリと内部のモノを守る錠前がかかっている分厚そうな扉が鎮座していた。
……あー……こりゃ確かに心臓部かも……。
だって、こんなに頑丈にしてるって事は、それだけ大事って事だろうし。
殿下の食いっぷりを考えると、こうなってしまうのも無理はないのだろう。
あの嵐のような食事を思い出してゲンナリする俺に、ナーランディカ卿ことジャルバさんはニコニコと笑いながら、扉の端にある潜り戸の鍵を何個か開けて、中へどうぞと俺に手招きをしてくれた。無論、入らない理由など無い。
どんな倉庫なんだろうと戸を抜けると、薄暗い空間――――ではなく、何故か深い青色の光がゆらゆらと揺れるのにまず目が行った。
てっきり暗所かと思っていたのだが違う。しかも、ここは王宮よりもっと涼しい。
冷蔵庫……とは言わないけど、かなり物の保存に適している環境だ。
でも、この光は何なんだろう?
棚がいくつも並び、木箱や壺などが所狭しと並んでいる拾いそうこの空間は、床も天井も波のように揺れる青い光が覆っていて、まるでここは海の中のようだ。水族館などで見かける光の演出にも見えるが、倉庫の中でやる意味は無いよな。
だとしたら、どういう効果があるのだろうか。
不思議に思って天井を見上げた俺に、ジャルバさんはクスクスと穏やかに笑った。
「ああ、笑ってしまい申し訳ない。だけども、こうも好奇心いっぱいの目で観察するのは、好奇心旺盛な人族の中でも君が特別だ。この青い光が珍しいんだね」
「はい……あの、この光って何か意味があるんですか?」
つい恥ずかしくなって声が小さくなるが、相手が紳士だと不思議と「しくじった!」と言う感じの悔しさがないな。
教師にでも尋ねるつもりで言うと、ジャルバさんは説明してくれた。
「この光は、この部屋を覆う薄青い壁……そう、この壁から発せられているんだ。この壁の石材は【深海石】と言って、海の深い場所のような冷たさを発する特殊な鉱石でね。常時こうして冷気を発し続けて、物を長持ちさせるんだ」
「そんな鉱石まであるんですか……」
火を起こす鉱石も存在すれば、こういう冷蔵庫のような石も存在するとは……。
あっ、そういえば、船のコンパス……というか、正しい航路を常に指示してくれる石も、ベーマスで採掘されたものだったんだよな。
本当にこの大陸には不思議な鉱石が存在するんだな……。
【曜具】と同等の力とは言え、曜気を籠めずに使える分、こっちの方が一般人には使いやすいのかも知れない。
そう思ったのだが、そんな俺の考えを予想していたのか、ジャルバさんは少し残念そうな顔をして肩を竦めた。
「だけどね、ベーマスで採掘される鉱石は海の悪魔に嫌われているようで、ほとんどの鉱石が海に入ると効果を失ってしまうんだ。それに……この【深海石】のような物も多く採掘できるワケじゃない。人々が一般的に使えるものは、ごくわずかなんだ」
「そうなんですか……」
「まあ、幸い私達には【デイェル】――モンスターの祖先から由来する【特殊技能】が備わっていますので、あまり厄介な事もないのですがね」
そういえばそんな話も有ったか。
ということは、俺達は【曜術】が基本で、獣人は【特殊技能】と【特殊な鉱石】を基本にしている文化ってことなんだろうな。
なんだか似ているようだけど、ちょっとずつ違う。
獣人の世界って遠いように思えてたけど、実際にやって来てみると人族の大陸と何か似ているようで違う、絶妙な世界なんだなあ。
うーん、なんだかカルチャーショックって感じだ。あんまり意味わかんないけども。
「人族の世界と似ているようで違うんですねえ」
そう言うと、何故かジャルバさんは少し驚いたような顔をしたが、すぐに微笑んだ顔に戻って、そうかねと後ろに腕を組んだ。
失礼な事を言ったかと思って一瞬焦ったが、そうでもないみたいだ。
とりあえず……気分を害してないなら良かったのかな?
っていうか、俺も発言には気を付けないとな……。
この人も王族の一人だって言うし、ヘタしたらやぱり斬首みたいな事態になっちゃうかも知れない。そうしたら計画も全部パーだ。
いくら親切な人とは言え、親しき仲にも礼儀ありだ。
ちゃんとお礼を言ったり言葉には気を付けないとな。
「さ、こちらへ。目録が有るから、実物を見ながら把握するといい。人族の料理は私も少し頂いた事があるが、あれは良い物だ。出来れば私もいつか君の料理を味わえる時がくるといいと思っているよ」
「ありがとうございます! あ、でも……もし良ければ、お菓子くらいなら少しは……」
あの殿下やブラック達に食べさせるものだけど、俺の分をジャルバさんにあげたらいいよな。俺はあっちのせかいでお菓子を喰えるんだし、今は我慢しても良い。
それよりも、早く問題を解決させたいし……なにより、居心地が悪そうなクロウのためにも、仲間の俺が周囲を味方につけるために動かなくっちゃ!
そのためには、こちらに友好的な態度を示してくれる人を取り込むほかない。
アンノーネさんとの友好度はわからないが、ジャルバさんと仲良くなって置けば、食料の事に関しても何か良い話が聞けるかも知れない。
そう思って相手を見上げた俺に、ジャルバさんは二度目の驚いた顔をして。
「なるほど、どうやら君は一味違う子のようだね」
「……?」
言っている意味が良く分からなかったが、とりあえずジャルバさんは頷いてくれた。
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