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飽食王宮ペリディェーザ、愚かな獣と王の試練編
12.チートとお約束も使いよう
「それにしても、獣人でもあんなに人族に親切な人がいるんだなぁ」
貰った目録の写しの束をペラペラとめくりながら、俺は廊下を歩く。
もう何度も行き来したせいか、この豪華な廊下を歩くのにも慣れて来たな。最初は目がチカチカして仕方なかったんだけど、今じゃ当たり前って感じだ。
我ながら良い順応能力だなと自画自賛しつつ、目録から写させて貰った「自分でも調理できそうな材料のリスト」を確認して唸る。
さすがは王宮だけあって各地からの食材が沢山保存されていたのだが、その中で俺が使っても良さそうな食材となるとさすがに多くは無い。
高級な食材とかはスルーしたんだけど……そうなると、当然ながら自然と選択肢が限られてきてしまうんだよな。でも、それも仕方がないことなのだ。
食料庫はあくまでも「王宮」のものであって、個人的な物じゃあないからな。
王族のご飯だけでなく、御客人用の食事のために揃えておくべき物があったり、時には兵糧に使ったりもする。場合によっては国民にも配給されるものなのだ。
つまり、あの倉庫にあるものは「個人用」ではなく「公共用」なのである。
だから俺も、高級食材を使うのはやめようと思ったのだ。
……獣人でも王国を作れば税金とかがあるんだ……と何だか暗澹たる気持ちになってしまったが、まあでもそうでないと国なんて維持できないからな。
ともかく、アレは好き放題に使っていい食材ではないのだ。
手に入りにくい物とか王族御用達的なモノはお高いから除外するし、その結果食材が限られたとしてもその中から勝負するしかない。
例え王族の食事だろうが、こういうのは「栄養があって入手が簡単な食材で作れる美味しい料理」という事の方が重要なのだ。
それに、もしうっかり高級な食材なんて使って、もし美味しく作れてしまった日にゃあどうなるか……考えただけで恐ろしいってもんだよな。
血税がタンポポの綿毛並に飛んでくくらいなら、俺は安い材料を使ってなんとしても王族の口に合う料理を作る方が良い。怒られたってこっちには「ブラックが勝利した」と言う明確な結果があるんだから、処刑にはならないだろう……たぶん……。
ああ、それにしても自分の事じゃないが本当に胃が痛い。
税金の話なんて、復讐系漫画とかで「無駄遣いする政治家」とかの話を読んだり、授業で流し聞きしてた程度にしか考えた事が無い話ではあるが、実際に「使う側」になってみると重さがずしっと乗っかって来るなぁ。
それを正しく使うとなればなおさら頭も胃も痛い。大人になるのがつらくなる。
俺は将来は絶対気楽な職業に就くぞ……こんなの日常的にこなしてられん。
王族になるのはファンタジーの中の出来事で充分だ。
そんな事を考えつつ、俺は溜息を吐いた。
「はぁ……ともかく栄養をつけるってのが重要だよな。幸い【サヴォヤグ】は手に入りやすい食材で良かったけど……しかし、あの殿下の食べっぷりってばどう見ても異常だし……もしかすると、あの人も腹ペコ状態のクロウみたいに、他の“気”が足りない状態なのかも知れないな」
そう。
カウルノス殿下に料理を運んだ時に感じたのは、そういう既知感だ。
爆食いをしている相手を見て気にはなっていたのだが、食料庫の事を考えている内にようやく俺はその事を思い出したのである。
……ま、まあ、考えてみれば簡単なんだが、でも最近は普通に食事をしてるクロウばっかり見てたから、ちょっと気付くのが遅れちゃったんだよな。
殿下だってクロウと同じように「気」を喰らう種族だってのに。
でも、普通に接してたら忘れちゃうんだから仕方ない。
クロウや殿下が――――“二角神熊族”という、ちょっと特殊だってことなんてさ。
だって、今のところ俺が特殊だと思うのはクロウ固有のことだけだったし。
種族的な特性もクロウだけしか見たこと無かったからなあ……。
「それに、クロウの食事のこととかって、普通人前じゃ考えないし……」
…………いや、ホントそうなんだよな。
クロウの「食事」の特殊さは、昼間に思い出す事じゃないのだ。
だから、いつもは忘れてるんだよ俺は。昼間に思い出すと恥ずかしくなるから。
それに他にそんな種族もモンスターもいないしさ。
他人の体液から精気を摂取出来るという特性なんて、クロウだけかと思ってたよ。でも、実際は種族の特性なのだ。
カウルノス殿下だってルード殿下だって同じなんだよな、ホントは。
彼らも恐らくは、メスを抱いたり舐めたりして気を摂取できているはずなのだ。
……しかし、それってその……シモの話題っぽくて、ちょっとな……。
だって、摂取する体液は、相手の感情が乗った体液ほど美味で満足感が得られるらしいって話だし……他人のそういう行為を想像するのは、なぁ……。
「…………そんな話、するのは……は、恥ずかしいって言うか……」
何度やられようが、どうしたって恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
実際にやられてる俺は、思い出すと顔から火が出そうなんだから本当に。
それに、彼らも同じ事をしているのだとしたらもう目も見られない。
だ、だってさ、クロウがする「食事」って何か本当にねちっこいんだぞ!?
俺が恥ずかしがったりする方が美味しいらしいからとかって、い、いつもなんか変な感じにされるし……ぐ、ぐうう、それはともかくっ。
そのせいかクロウは「食事」と称して俺にちょっと……その……まあ、いろいろする時には、え、えっちなことまでして来て「気持ち良い、恥ずかしい」と俺が強く思うように仕向けて来るわけで! 普段は忘れてたくなるのは当然だろ!?
だから……え、えーと何の話してたっけ……。
ああそうだ、特性だ。も、もうシモの話はやめよう。
つまり、そういう“気を摂取する”って特性があるから、クロウは俺と「食事」することで普段の食べ物での食事の量も抑えられるんだけど。
これって要するに、クロウも人族と同じく外から曜気や“大地の気”を取り入れて、己の力に変換してるってことだよな。その力を【曜術】として使う事は無いけど、生きるために必要な事になっているのは確かなんだろう。
まあクロウは【土の曜術】を使えるけど、それはともかく。
クロウがそうなんだから、きっと兄のカウルノス殿下だって同じ性質のはずだ。
なら、どうして殿下があんなにメシを爆食いしてるのかも簡単に解る。
殿下は今、力が弱まるくらいに“気”が足りてないんだ。
だから綺麗なお姉さん達を常に侍らせたり、バクバク食べまくってるんだろう。
「そうなると……俺にもなんとか力を取り戻す手助けは出来そうだけど……」
…………今まで考えた事が無かったが、薬だけじゃなく食べ物に曜気をたっぷりと含ませる事って出来るんだろうか。出来たとして、味とかって変わっちゃったりしないのかな……?
――――考えて、俺は腕を組む。
「……本気でそういうことをやったことって、今まであったかな……」
自然物には曜気や“大地の気”が含まれているから気にしてなかったが、人工的に気やらラブやら注入した時にどうなるかってのは全く考えた事が無かった。
今まで手から直で人に当ててたからな……そんな不敬が出来ない今なら、やっぱ料理に混入させるしかないんだけど……一度色々作って試した方がいいかも。
失敗した時に何が起こるか分からないし、それに……なるべくなら俺のチート能力の事はバラしたくない。
俺がチートもの小説の主人公並に万能なら、堂々と力を見せつけて一目置かせる事もスマートに出来たんだろうが、生憎とこちらはただの小市民だ。
腕力パラメーターも耐久値も全然上昇しない俺では、何かの拍子に捕まって一生曜気生み出しマシーンにさせられてしまう可能性も否めない。
この王宮……というかクロウの一族なら、そういう物は喉から手が出るほど欲しいだろう。暴食する必要がなくなるし、なにより強くなるんだもんな。
そうなる可能性があるのなら、俺の【黒曜の使者】の力は隠しておくべきだ。
誰が悪人で誰が善人かってのも、今の俺達には分かんないんだから。
「…………なんだか面倒な事になっちゃったなぁ……」
溜息を吐いて、俺は廊下で立ち止まる。
なんだか自分が陰口を叩いているみたいで気分が重かったのだ。
……クロウの家族を悪く言いたくないけど……でも、やっぱ信用しづらいんだよな。
だってさ、この王宮の人達……爺ちゃん以外、ほとんどクロウに冷たいんだもん。
仰々しい「竜」の称号を持つクロウの兄弟二人……カウルノス殿下もルード殿下も、クロウに対して「おかえり」の一言すら言ってくれないし、アンノーネさんもクロウの事を目を細めて見やるだけで全然敬ってそうな感じがしない。
。
ジャルバさんみたいに良い人もいるけど、多分あのおじさんも……クロウに対しては、良い風に言ってくれそうにない気がする。
だから、そういう空気を肌で感じる度に心が疲れて来るんだ。
今のところ、ロクだけじゃなく何だかんだでブラックがクロウと同じ空間に居てくれるから、クロウも少し落ち着いてるけど……明らかにいつもより暗いんだもんな。
俺も不安がるクロウを抱き締めて寝たりしてるけど、効果は薄い。
寝ている時は少し落ち着いてるけど、起きて王宮の部屋を見ると、やっぱり熊耳が怯えたように震えて伏せちゃうんだ。
クロウは大丈夫と言ってるけど、明らかに大丈夫ではない。
このままだと……クロウの体調が心配だ。
早いとこ殿下を復帰させて、王様に戻さなくちゃな……。
「最終目的を早く達成させるためなら……多少のバレは覚悟しなきゃ駄目か。よし、さっそく晩飯から試してみよう」
【銹地の書】を早く渡して貰うためにも、なんとかカウルノス殿下の力を復活させて王座に戻って貰わなければ。そうでないと、王宮から離れられない。
クロウのためにも、今の俺が出来ることを精一杯やらなきゃな。
…………っと、考えながらブツブツ独り言を言っている内に、俺達が居る客間の近くにまでやって来ていたらしい。
晩飯を作るまでは俺も自由時間だから、ブラックとロクと一緒に出来るだけクロウの傍にいよう。そう思い、中庭を眺められる外回廊に出て部屋へ入った。
「ただいまー」
目録を持った手を振ると、居間のクッションだらけの寛ぎエリアにいたブラック達が顔を上げて手を軽く上げてくれる。
ロクショウが嬉しそうに飛んできて肩に降りたのを撫でやりつつ、俺は靴を脱いで絨毯の上に座った。
「どうだった? アイツもう力を取り戻せそう?」
座るなり問いかけて来たブラックに、俺は首を振る。
昨日の今日で改善されれば苦労など無かったのだが、物語と違って現実は上手くいかないんだよなあ。
「まだ全然って感じ……ていうかこっちの備蓄が危なそうだったから、アンノーネさんに食料庫から食材を分けて貰う許可を貰って来たんだ」
これがその中から選んだ「俺でも使えそうな物」の目録、と紙束を渡すと、ブラックはペラペラと流し見をして、ふーんと声を漏らす。
「なんかそこまで入手が難しくない食材ばっかりだねえ」
「俺達が普段食べてる食材に似た味の物ばっかりだよ。王族の料理は甘めの材料が使われる事が多いみたいだけど、俺達と大体同じ味覚みたい」
そう言うと、胡坐をかいたままクッションに埋もれていたクロウが起き上がる。
「獣人も、人族と味覚はそう変わらない。ただ、甘味は他の味よりも刺激が無いから、自然と甘めの味になってしまうのだ」
「あー、辛さとか苦さとか……」
「オレも最初は人族の料理に戸惑ったが、とはいえ食べられないと言うわけでもないと思う。……兄上は、辛い物には耐性があった気がするしな」
クロウの口から、カウルノス殿下の好みを聞いたのは初めてだ。
少し意外に思えて目を丸くすると、クロウは弱々しく伏せた目を泳がせた。
「お前は甘いモンばっか喰うのに、あいつは辛い物なのか」
ブラックが言うのに、クロウは熊耳をぴくりと動かして頷く。
「兄上は、通常一つか二つと言われる獣人の【特殊技能】を遥かに超えて、五つ以上の【技能】を持っている。そのせいか、五感に対する刺激にも耐性があるのだ。この力のおかげで刺激物も心地いいようで、オレ達には食えない物も平気で食っていた記憶がある」
い……五つ……!?
思わず俺もブラックもギョッとしてしまったが、それなら地位が保留されているとか言う謎の高待遇も納得だ。
“武力”という強さの中に、腕力の強さだけでなく天性の才能があるんなら、そりゃあ類稀なる強い存在としてみんなが惜しがるのも分かる気がする。
そんな麒麟児、滅多に生まれないっぽいもんな。
だからあの殿下の好き放題も大目に見られてるんだろうなと思うと、それはそれでイラッとしたが、しかしまあ……力が全ての獣人の世界なら仕方ないのかも。
でもやっぱクロウを下に見てるのはムカツクが。
「で、でもさ、クロウだって今は辛い物食えるだろ? 酒だって好き嫌いせずに色々と飲んでるし……だから、クロウも今なら食べられるかもよ!」
「……そうだろうか……」
だー、またションボリ熊さんモードに。
本当に王宮の中じゃ自信を無くしちゃってるんだなあ……。
でも、昔のクロウは知らないけど今のクロウなら絶対に出来るはずだよ。
俺はクロウが強い事を知ってるし、あの見事な【土の曜術】も何度も目にして来たんだ。そんなクロウの“武力”が弱いなんてことは絶対にありえない。
俺もブラックもロクショウも、みんなクロウの力を信じてるんだ。
そのためなら…………。
「……そうだ! 遂にアレを使う時がきたのかも!!」
「え? アレ? アレってなにツカサ君」
すっくと立ち上がった俺を見上げるブラックに、俺はふふんと笑って見せる。
「俺には神様の国からの贈り物があるのだよブラック君」
「なんかツカサ君がそういう調子乗りする時は信用ならないなあ」
「まあまあ安心しろって! 俺がいつも食べてるウマいもん食わせてやるから!」
そう言うと、ブラックとクロウは背筋を伸ばした。
どうやら俺が言う「食べ物」が、俺の世界の食べ物だと察したらしい。
ロクショウだけは未だに不思議そうに長い首を傾げていたが、世界で一番可愛いのでロクはそれでもう大正解だ。
デレデレしながらロクの頭を撫でつつ、俺は心配するなと片手で小さくガッツポーズをしてみせた。
「ツカサ君がいつも食べてるって……お菓子?」
「いやいや。今回は、俺の世界の子供なら大体の子が大好きって言っちゃう食事さ。まあ見てなって、すぐ作ってやるから」
すぐ、と言う言葉に今度はブラック達が首を傾げる。
普通ならそう安請け合いも出来ないとは思うが、今回持って来る事が出来た異界のモノは、それすら現実に変えてしまうのだ。
後は……ブラック達が美味しいと言ってくれるかどうかだが、まあ二人は俺の味覚とも結構近いみたいだし大丈夫だろう。
「キュキュ?」
「そうだぞ~、ロクにも美味しい物食べさせてやるからなー!」
「キュー!」
嬉しそうにちっちゃなお手手を上げるロクにやる気を更に上げて貰い、俺は意気揚々と料理を開始すべく【リオート・リング】の中に手を突っ込んだのだった。
→
※だいぶ遅れちゃいました(;´Д`)スミマセン…
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