異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

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飽食王宮ペリディェーザ、愚かな獣と王の試練編

22.熊さんのおねだり

 
 
「…………は……」
「あっ、クロウ……やっと気が付いた?」

 クロウの瞼が開いて、橙色の瞳が見えてくる。
 本人はどこにいるか解らなかったようだけど、俺がベッドの脇に座ってる事に気が付いたのか、ベッドからゆっくりと上半身を起こした。

「ム……」

 ボサボサの髪が、更にボサボサになっている。
 顔色は元に戻ったようだけど、いつものクロウらしい無表情ながらにシャキッとしている感じは全くない。まるで寝疲れして憔悴しているみたいだった。

 ……まあそりゃそうだよな、小一時間くらいウンウンうなされてたんだもの。それに、ブラックとロクショウに頼んでクロウの部屋に運んで貰ったけど……その間も青ざめてウメボシみたいに顔をギュウウッとシワシワにしてたんだからなあ。

 そんな姿を見せるもんだから、心配で服も着替えずに看病しちゃったよ。
 でも、さっきよりは落ち着いてるみたいでよかった。

「水飲む?」

 そう言うと、クロウは小さく頷いた。
 まだ頭を動かすのも気持ちが悪いみたいだ。

 水を飲むかと聞いた手前、取りに行かないといけないんだが、これじゃあクロウの体調が心配だな。ブラックには怒りんぼ殿下を抑えて貰ってるし、ロクショウにはそのブラックを抑えて貰っているけど、あまり動きたくない。
 俺が居ない間に何か起こっても困るし……。

 なので、仕方なく俺は水差しを取ってその中に水の曜術【アクア】で水を入れた。
 ついでに【リオート】で氷も入れておこう。
 ……【アクア】は水の曜術の初歩的な術なので今更だが、もう【リオート】もホイホイ簡単に作れるようになっちゃうなんて俺ってばチートだよなあ。

 アイスクリームばっかり作らされて辟易してたけど、アレのおかげで慣れたような気もするので、怪我の功名と言うのかも知れない。
 とはいえ、何回も【リオート】みたいな疲れる高度な術を使えるのも、ブラックが昨日俺にご無体を働いたからなんだが……ぐうう……ムカツクけどありがたい……。

 ともかく、少し冷やした水をコップに入れて渡してやると、クロウは喉を曝してグイッと水を一気飲みした。よっぽど喉が渇いていたようだ。
 殿下の前で冷や汗をかきまくってたから、カラカラになってたのかなあ。

 相変わらず男らしい喉仏が羨ましい……なんてボケッと思っていると、一息ついたのかクロウはフゥと肩から息を抜いた。

「…………ツカサ、その……」
「……まずは、髪梳こうか。ボッサボサだぞ」
「ム……ウム……」

 何が言いたいのかは理解してたけど、無理に言わせる事も無いだろう。
 俺は靴を脱いでベッドに乗り上げると、結わえたままだったクロウの髪紐を解いて、ぶわっと広がっている髪を指で丁寧に整え始めた。

 ううむ、今日は普通に寝ている時よりも酷い絡まり方だ。
 ……クロウの髪は獣の毛の感じも混じっているから、ちょっと硬くてブラックの髪の質とは全然違う。だから、いつもならブラックよりは楽に梳く事が出来るんだけど……うなされてたせいで、いつもより絡まり方が難解だな。

 心の動揺が髪にまで現れちゃったんだろうか、なんて思いつつ、痛くしないよう丁寧に髪を解きほぐしていると――背中越しに、クロウがポツリと呟いた。

「…………恥ずかしい……オレはツカサの二番目のオスなのに、ここに帰って来てから情けない所ばかり見せる……」

 なーんだそんなこと……なんて明るく返してやりたいが、こう言うのって申し訳なく思ってる相手に笑い飛ばされると、それはそれでちょっと悲しいんだよな。
 自分が恥じ入っている事を「なんだそんなこと」って返されるのって、気楽にはなるけど自分の中の矜持を軽んじられてるみたいで、余計に落ちこんじゃうんだ。

 お前にとって、俺のプライドは「なーんだ」って事なのか。って。
 もちろん、面倒臭い男の意地ってのは俺も分かってるさ。

 でも、人には誰しも「なーんだ」で済ませられないことってあるワケだし。
 俺だって、イケメン野郎どもには「なーんだ」って事だろうが、それでも意地になってしまうモノってのがあるワケだしな。

 だから、こういうのって難しいんだ。
 俺は気にしてないし、むしろ今すごく頑張ってるクロウに対して「心配ないよ」って言ってやりたいけど……クロウにとっては、あの怒りんぼ殿下と兄弟ってことで何か根深い問題があるみたいだし……。

 …………うーん……俺らしくないとか笑われそうだけど……。
 クロウなら、解ってくれるかな。いや、解ってくれるよな。
 そう思って、俺は梳かし終った髪から手を退くと――改めて、背後からクロウの首に腕を絡ませて大きな体を膝立ちで抱き締めてやった。

 ……男同士で何してんだよって感じだけど、でも……俺の婆ちゃんは、ガキの頃に俺が泣いて帰って来るとこうして慰めてくれたんだ。
 それに、ブラックに抱き締められた時だって、悔しいけどホッとしてしまう。
 だからクロウなら、俺の腕でも安心してくれるんじゃないかなって思って……。

 だ、だから、別にヘンな意味なんてないんだからな。
 恥ずかしい事でも、こうして抱き締めることで「大丈夫だよ」って思ってるってことが伝わるはず。だって俺達は、ずっと一緒に旅して来たんだから。

「……ツカサ……」
「…………俺達って、なんか色々関係がこんがらがっちゃってるけどさ。けど、俺達はクロウの仲間だし、ブラックだってクロウの事をちゃんと思ってるし、それに……俺は、アンタとずっと一緒に居たいって、思ってるから。だからもう、謝るのはナシだぞ」
「グゥ……」
「……今更だろ? 情けないのも、恥ずかしいとこも、俺だってたくさん見せたんだし。クロウだって俺に色んな事してくれちゃったじゃん」

 最初に出会った時は強姦されかけたし、その後も散々襲われた。お互いの気持ちが噛みあってなくて、険悪になった時だってあったじゃないか。
 けど、結局こんな風に決着してるんだ。
 だから今更こんな事で離れたりしないし、見放したりなんて絶対にしない。

 それは、クロウだって解ってるよな。
 だって俺とアンタは、ちゃんと約束したんだから。

 ――――そう思って、クロウの髪に横顔を埋めると、クロウの熊耳がピンと立ってふわふわと惑うように小さく動いたみたいだった。

「ツカサには……かなわないな……」
「なーにが。アンタらの方が強いくせして」
「ふふっ、そうだな……。だが、心の強さは武力などで測れないものだ」

 そう言って、クロウは俺の腕を優しく外すと俺の方に向き直る。
 俺は未だにメス侍従の服を着ていてちょっと恥ずかしいのだが、そんな膝立ちの俺を見て、クロウは口を緩めて橙色の綺麗な瞳を潤ませた。

「ツカサ……恥ずかしいついでに、ねだってもいいか」
「な、なに? あんまりヘンな事は言うなよ」

 こういう時のオッサン達の頼みってのは、大体なんかヘンな奴だ。
 頼むから俺が叶えられる奴にしてくれよ……なんて思っていると、クロウは俺の体をグッと抱き寄せて、胸に頬をくっつけて来た。

「こんなオレを哀れに思うなら、力を与えてくれ。そうすれば……兄上がいても、オレは卒倒せずに立っていられるような気がするから」
「ちから、って……。ええと、具体的に何をして欲しいんだ?」

 この場合、俺の【黒曜の使者】によって与えられる膨大な気の事ではあるまい。
 怒りんぼ殿下は俺のこのチート能力による恩恵を与えられなければ解放されないが、クロウの場合は別だ。俺と一緒に居て、その……な、舐めたりして、曜気とかは満腹になるくらい食べてるワケだし。

 だから、そういうえっちな感じのお願いではないハズ、なんだけど。
 でもまだ信用には早い。話をちゃんと聞いてから頷くかどうか決めないとな。
 こういうので俺は何度も煮え湯を飲まされているんだ。特にブラックに。

 だから「具体的には?」と問いかけたのだが。
 そんな俺を見て、クロウは。

「兄上がいる間……一緒に寝て欲しい……」

 あ、それくらいなら何とか……いや、ブラックは怒るだろうけど、まあなんだかんだで許してくれるだろうし、後が怖いけどクロウがそれで耐えられるならまあ。

「ツカサが俺を子熊のように甘やかしてくれるなら……なんとか、昼間は兄上が近くにいても、冷静さを保てる気がする……」
「ん? ……子熊のように?」
「ツカサは、オレの恥ずかしい所も……抱き留めてくれるのだろう? だから……こうして、オレを甘やかしてくれ……」

 そう、言って。
 クロウは……俺のすっかすかの胸当ての布の上から、乳首の所を口で含んだ。

「ぶわぁっ!? ちょっ、ちょっとクロウ!?」
「……こういうオレを、恥ずかしいと思うか?」
「…………ぅ……」

 そ……そう言われると……あの……う、うう……あーもおおお!
 なんでこういう時にそういう風に上目遣いでオネダリするかなあもー!!

 そういう風に頼まれたらダメって言えないじゃん!
 「恥ずかしい所も何でも見せ合った仲じゃん?」みたいな感じに慰めた手前、コレを拒否したら俺の方が不義理なヤツみたいになるじゃんかあああ!

「ツカサ……夜だけでいいから、オレを甘やかしてくれ……」
「う、ぐ……ぐぅうう…………よ……夜、だけだからな……っ」
「……!」

 だからさ、だからさあもう、なんでそんな無表情なのに嬉しそうな雰囲気を丸出しにして熊耳をピコピコさせるかなあアンタは。
 なんでそう、なんで……う、うう……可愛いと思っちゃう俺が憎い……。

 どうして俺って奴は、ブラックにもクロウにも「お願い」されると弱いんだろうなぁ……はぁあ……。相手はイイトシしたデカブツのオッサンだってのに……。








 
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