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魔境山脈ネイリ、忘却の都と呪いの子編
24.旅立ち悪し
「ん~……おはよぉツカサくぅん」
痛さが増した朝のヒゲで俺を攻撃して来るのは誰だ。
思わず起きちまったじゃねーかと目を開けると、そこには至近距離で頬擦りをして来るヤバいオッサンが……。
っていつもの事ではあるんだが、解ってても痛いモンは痛いのだ。
やめんかと手で避けようとすると、ブラックは実に不満げに頬を膨らませた。
今の状態だと本当にハリセンボンみたいだからやめてくれ。
「ツカサ君のケチぃ。ベッドの中でくらいイチャイチャしたっていいじゃないか」
「あのな……オッサン二人にくっつかれて起きる俺の身にもなってくれよ……」
「それは僕のせいじゃないもん。むしろ、ツカサ君が駄熊に甘すぎるからこんな事になってるんじゃないか! 僕が欲求不満なのもツカサ君のせいなんだから、ちゃんと今日も責任とってよねっ」
「ぐうう……」
起きてすぐなのに何でこんな事をしたがるんだろうとは思うが、出来る時には恋人らしくしようと決めたのは俺なので、なんとも拒否し切れない。
それに、最近はブラックのフラストレーションも溜まってるみたいだし……変な時に爆発する前に、大人しくさせるに限る。いや、まあ、俺も慣れなきゃ行けないってのはそうなんだけど……ああもう起き抜けに考えたくない。
なんでこんな朝からドキドキしなきゃならないんだよ、と半ば怒りつつも、俺は……目の前で百年の恋も冷めそうなほど口を尖らせてキス待ち顔をしているオッサンに、心音を何とか抑えようとしながら顔を近付けた。
へ……平常心平常心……。
とは、いっても……なんかその、やっぱ顔を近付けるってのは慣れなくて。
前よりは素直に出来るようになったとは思うんだけど、それでもブラックと目を合わせて、相手にキスするんだって思うとどうしてもドキドキが収まらなかった。
「ん……」
「んむ~っ」
控え目な俺の行動に、ブラックは何故か変な声を上げて抱き着いて来る。
ベッドの上だし背後にはクロウがいるしで動けない俺に対して、ブラックはんふんふと笑っているのか興奮しているのか判らない声を漏らしながら、俺を自分の体にグイグイと押し付けてくる。
シャツの上からでも感じてしまうブラックの体温と体の起伏に、またいらない動悸が激しくなってきてしまい、俺は必死に逃れようともがく。
「ちょっ、ぶっ……んんっ、ブラックやめ……っ」
「えへへぇ、ツカサくぅん」
「お、起きるんだろ……!? 今日は出発なんだから、はやく用意を……」
「やだやだもっとツカサ君と寝るぅ」
「だーもーこのぶりっこオッサンっ!!」
アンタがそんなんだから俺も怒らざるを得なくなるんだろうがっ!
いい加減にせんか、とがむしゃらにもがくと。
「ツカサ……おあよう……」
むにゃむにゃと音が聞こえてきそうなくらい眠そうな低い声が背後で聞こえて、俺の体がズボっと下から引き抜かれた。
何事かと思っていると、掛布団の中で今度は背後から抱き締められる。
そうして、背後からの腕と共に体を起こされた。
「く、クロウ。おはよう」
「んむ……」
「おいコラ駄熊っ、ツカサ君をもってくな!」
「んあむあ」
まだ寝ぼけているのか、なんか訳の分からない声を出してるなクロウ。
髪紐を解いて寝てたからか、ボサボサの髪がいつも以上にボサボサだ。ブラックも似たようなモンだけど、膨らみ具合はやっぱりクロウだなあ。いかにも動物っぽくて、ちょっと触るのが気持ち良かったりもする。
「ツカサく~ん!」
「わぁっ、も、もう分かったから俺を枕みたいに取り合うな! ほらっ、髪してやるから二人とも朝の支度して!」
これが漫画で俺がヒロインなら、お姫様的な取り合いをされいてたのかも知れないが、俺がやられているのはお気に入りの枕を強引に強奪し合う野蛮な戦いだ。
俺を物扱いするんじゃねえと朝から唸りつつ、俺は律儀に二人の髪を手櫛で丁寧に梳き、髪紐を結わえ終えると、自分も身支度を整えた。
……まだ外は薄暗いみたいだな。
マハさん達は起きてるだろうかと思っていると、支度を終えたのを見計らったかのように、召使いさんが俺達を呼びに来た。出立前の朝食だ。
昨日見た殿下とマハさんの喧嘩のことはブラック達には話してないが、あんな所を見た翌日に二人と食事をするのは何だか気まずい。
いや、俺が盗み見ただけなんだけど、なんか身内の揉め事を見ちゃうと顔を合わせづらいと言うかなんというか……。
そんな事を考えながらの朝食だったのだが、やっぱりというかなんというか、今朝の殿下とマハさんはお互いに対して一言も喋らなかった。
いや、殿下の方が頑なに話さなかっただけなんだけど、あからさまに「俺に話し掛けるな」感が有って自然と空気がな。
だもんで、朝食の味は正直よくわからなくなってしまった。……まあ、ブラックは当然そんな空気を読まず、朝から肉をモグついていたが。
どんだけ元気なんだお前は。オッサンなのに朝から肉おかわりて。
……とはいえ、そんなブラックの強靭さにちょっと救われたけども。
そんなこんなで、気まずい朝食を終えた俺達は荷物をピロ車に運び込み、この古都から日の出とともに出発する事になったのだった。
「……道中、みな気を付けるんだぞ」
「はい、ありがとうございます。みなさんもお見送りして下さって……」
厩のある砦の端っこから直接ピロ車に乗っての出発なので、こっそり出て行くものかとばかり思っていたのだが、何故かみなさんお出迎えしてくれた。
特に、厨房のオス料理人の人達は忙しいと思うのだが……なんというか、本当に義理堅い人達だ。というか、これはマハさんの人徳なのかもなあ。
考えてみれば、この砦の人達は俺達の事を見下した目で見たりしなかったし、なんなら判らない事も手取り足取りレベルで優しく教えてくれた。食料を分けて貰う時も、俺が持ち運べないだろうからって、車に積むのも全部やってくれたんだ。
これだけでも、どうしてドービエル爺ちゃんがマハさんを好きになったのか解るってモンだよな。なんだかんだ、みんな良い人で良かった。
けれど、今のマハさんの表情は何とも言えない顔だ。
それってやっぱり……実の息子である怒りんぼ殿下にそっぽを向かれているからなのかな。うーん、俺だって母さんと喧嘩する事はあるけど……もしかして、そういう時ってこんな感じで見られてるんだろうか。ハタから見ると結構恥ずかしい……?
いや、それはソレだよな。
俺の時は家でのケンカだからセーフなはず。こんな、怒りんぼ殿下みたいにムスっとしたままではないはず……つーかそもそも、怒りんぼ殿下は大人なせいで、喧嘩でそんな不機嫌な顔をしてるのが何かちぐはぐで恥ずかしく見えちゃうんだよ。
大人って普通、こう言う時ってウソでも笑顔とかでいるモノなのでは?
いやでもウチには自由気ままのオッサンが二人いるしな。それに、この異世界の人達は、どうやら俺の世界より感情や欲望に素直みたいだし。そのせいで、大人なのに顔に出ちゃうんだろうか。
……まあ、怒りんぼ殿下の場合は、完全に大人げないような気がするが。
なんせ、放っておいたらじきに出て行く弟に対して、暗殺計画しかけてるしな。そんだけ恨み骨髄っていう事なんだろうけど、ルードさんも本当に余計な計画を吹き込んでくれたもんだよまったく。
「ツカサ君なに百面相してるのさ」
「ぐわっ。ぶ、ブラック脅かすなよ……」
「ツカサ君がボーッとしてるからじゃないか。ほら、さっさと乗ろうよ」
なんだかヤケに肩を掴んでぐいぐい押して来るが、何に不機嫌になったのか。
また帰って来るとは言えお別れぐらいしっかりさせてくれよと思いつつ、俺は改めてマハさんに挨拶をした。
「で、では行ってきます! 色々ありがとうございました!」
「いいや、気にするな。帰って来たらとびきり上等な肉を振る舞ってやるから、頑張って来てくれ! くれぐれも息子の事を頼むぞ!」
その言葉に俺達は頷く。
けれど、当の本人である怒りんぼ殿下は俺達に構わず、横を通り過ぎてピロ車の中へとさっさと入って行ってしまった。
「あ……」
「ったく挨拶もロクに出来ないのかあのクソ殿下」
「ブラック、人の親の前でそんな事を言うな」
「うるさい駄熊」
おまえ本当にどこででもフリーダムに口悪いな。
そんなにストレスが溜まるのか、昨日一昨日のストレス発散はなんだったんだ。
思わず呆れてしまうが、しかし俺はそれにも増して気になった事が有って、既に姿が見えなくなった殿下の方を見やった。
……さっき、殿下が俺達の横を通り過ぎた時。
なんだか、握り締めた拳が震えていたような気がするけど……。
怒ってたんだろうか。
そう考えて、昨日の事を思い出しなんだか何も言えなくなる。
子供っぽいけど、でも自分がその場にそぐわない存在みたいになっているのを自覚して居た堪れなくなる気持ちは……俺にも、ちょっと分かる。
だから、あの人がそう思っていたんだとしたら――やっぱり、気になるんだ。
あの出来事に引きずられているせいか、妙に怒りんぼ殿下の挙動を見てしまって仕方が無かった。
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