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邂逅都市メイガナーダ、月華御寮の遺しもの編
メイガナーダ領地の楽園2
「…………人の気配が無いな……」
「ツカサ君がそう感じるって事は、相当だねえ」
横で失礼な事を言うオッサンにイラッとしつつも、俺は可愛いロクを肩に乗せる事でおさえて周囲を確認する。
王都と変わりない、しっかりした黄土色の石材で作られた真四角の家たちは、二階三階と積み重なるものも有って都会的な印象を受ける。
ここには街を守る壁が無いが、それでも建物は限りある場所をめいっぱい使うように、円形の形を守ってその中にぎっしりと詰め込まれていた。
――――空中から見た【メイガナーダ領】唯一の都市【アクサベルデ】は、その見た目の美しさとは裏腹に、今まで感じた事のない感覚に襲われた。
「なんていうか…………限界集落……?」
「限界? そんな漲ってる感じはしないけどなぁ……」
「あ、いや、俺の世界だとおじいちゃんおばあちゃんばっかりの集落になって、人口が少なくなってもうダメーって地域の事……」
「なるほどそういう限界か……まあ言われてみると、確かに廃墟感が強いね。建物は一見綺麗に見えるけど、細かいヒビも入ってるし、王都みたいにギラギラした刺繍の垂れ幕も下がってないし」
廃墟とはちょっと違うんだけどなぁ。でもブラックからすれば同じようなもんか。
人の営みがそこに確かにあって、今でも確実に暮らしている人達がいるだろうに、それでも人の気配が無い場所……なんて、表現も難しいもんな。
俺だって、知ってるけどうまく言い表せないし。
「とにかく、領主の館に行こう。滝の近く……この大通りを登って行けばすぐだね」
「うん……」
色々と思う所は有ったが、いつまでも街の入口を眺めていても仕方がないと俺達は歩き出した。
「……石畳はボコつきも無くてキチンとしてるし、家だってヒビが入ってる建物もあるけど……まだ全然住めそうなのに……」
「キュ~……」
「窓から見える部屋の中は、家財道具もほとんどないカラッポの家ばっかりだな」
歩きながら横目に見る建物は、どれも鎧戸を開け放っている。
そこをめがけてロクが飛んでいき、パタパタと部屋の中を飛ぶと戻ってくるが、人が見当たらないようでどの家もロクに驚くような声は出て来なかった。
……大通りには、恐らく商店街を想定したのであろう建物が並んでいる。
けれど、そこにはそもそも人が何かを置いていたような感じも無かった。
――――いや、もしかすると、時間が経ち過ぎていてどういう店だったのかすらも、もう分からなくなってしまったのかも知れない。
まるで……建物だけを作って、人を入れ忘れたみたいだ。
「…………ここが、クロウの故郷……」
見た目は地中海とかで見かけるような、ちょっと段々になっていてぎっしりと建物が詰まった坂の町っぽいのに……領民がほとんどいないっていう前情報のせいなんだろうか。それとも、やっぱ街にはそれぞれの雰囲気ってのがあるのかな。
ゆっくりと蛇行する道を登って行くたびにちらちらと見える細い路地は、王都の街を思い出させる。だけど、人がいないだけでこんなに怖く感じるんだな。
洗濯物も炊事をする煙も煩い声もない。看板も垂れ幕もなにもない、ただ作られただけの風景は、俺にとっては違和感が強いものだった。
……昔は、人がいたんだろうか?
それとも、この道から外れたら人が暮らしているんだろうか。
だったらいいな、なんて思うくらいに寂しい街を道なりに蛇行して登って行くと――視界の端に、水しぶきと微かな音が聞こえてくるようになった。
その音のする方向を見やると、少し遠くに飛沫が散っている光景が見える。もしやこれが滝か、と顔を上げると。
「うわっ……!! でっ……か……」
「こりゃあ……瀑布どころか、海の栓が抜けたみたいな水の迸りようだね……」
ブラックも気が付いて驚いたのか、思わず足が止まる。
もう少しで領主の館がある街の頂上に到着するという、蛇行した道の最後のカーブ。建物もまばらになったそこから見えるのは、とんでもない大きさの滝だった。
いや、大きさからするとナイアガラみたいな規模ではない。そこまで大きくは無いんだけど……でも、日本のでっかい滝くらいは確実にある。
っていうか……ダムかな。そうだ、でっかいダムで見学できるような、とんでもない勢いの放水みたいな感じで、岩壁から急に水が噴き出てるんだよ。
ブラックが言うみたいに、まるで栓が抜けちゃったみたいに勢いよくドバドバと。
……滝とは言うけど、こんな風に噴き出すような感じは俺からすると滝じゃないようにも見える。山の岩肌から急に出て来るからそんな風に思えるのかなぁ……。
ともかく、凄まじい勢いの水源だってのは分かった。きっと、あの下には大河に続く川が有るんだろう。小高い丘くらいには登って来たから、領主が住む館からはその川が見えるはずだ。
「けど……あんまり音がしないな」
「そうだね。普通、滝と言うと近付けば凄い音がするもんだけど……」
「キュ~……」
ブラックの言う通りだ。
滝つぼに落ちる音や、そもそも水が勢いよく落ちる音なんかがするもんだよな。
けれど、こんなに近くで見ているのに、俺達には何の音も聞こえない。
どういう事だろうかとロクと一緒に首を捻ったが、やっぱり街は静かなままだった。
「もしかして、なにか術とか特殊技能とかが使われてるとか?」
「まあ、考えられるとしたらそうだろうね。とは言えここで唸ってても始まらないし、館に急ごう。面倒臭い用事は早く済ませた方が良いからね」
「またお前はそう言う事を言う……でもそうだな。一刻も早くクロウと合流しなくちゃ。ドービエル爺ちゃんが言ってたことも心配だし……」
そう言いながらブラックの顔を見ると、相手は何故か妙な顔をした。
「……やっぱもうちょっと散歩してから行こうか」
「だーもーお前は何だってそうクロウに厳しいんだ! ほれっさっさと行くぞ!」
「ええ~?」
言いだしっぺが何で嫌がってるんだっ。
いい加減にしろと無駄にデッカい背中を押しながら、最後のカーブを抜けて行くと、横目に高い壁が見え始めた。どうやら頂上の平たい場所全てが領主の館の敷地になっているみたいで、かなり大きい感じだ。
この壁は白く艶やかな鉱石が使われていて、かなり強固な印象を受ける。獣人の大陸では特殊な鉱石がいっぱい採取できるって話だから、この壁もそういう未知の鉱石を使った物凄く防御力が高い壁なのかも知れない。
うーん、やっぱり辺境伯の館ってのは二次元も現実も守りが強そうだな。
そんな事を思いつつ、道の終わりへと辿り着く。
するとそこには大きな門が聳え立っていた。
……これは……象さんでも楽々通れそうな門だな。
門番が動かすのが大変そうだが、獣人は人族より力が強いという話なので、こんな重そうな金属の門も軽々動かしてしまうのかも知れない。
けど……その門番さんが見当たらないな。
開けて貰いたいんだけど、どうすればいいんだろうか。
門を形作る太い金属の格子を掴みつつ中を覗くと、そこには人族の館とあまり変わりが無い庭園が見える。館への道の左右に植わった植物は、幕府の近くで水も豊富だからなのか生き生きとしているように見えた。
「ブラック見て、めっちゃ草生えてる!」
「ツカサ君もうちょっと情緒のある言い方しようよ……きみ木の曜術師でしょ……」
「うぐっ、だ、だって、王都以外でこんなに植物生えてるの初めてだし……っ」
一番初めに目に入ったのが草だったんだから仕方ないじゃん。
……仕方ないじゃん!
お、俺だって情緒は有るんだからな、その気になれば多分洒落た言い回しくらいは、その……と、とにかく、今のは不可抗力だ!
だからロクちゃんも呆れないでお願い。
「……どなたですかな?」
「えっ……」
情緒がないと呆れられているのを必死で弁解していて気が付かなかったが、いつの間にか誰かが俺達に気付いてくれていたようだ。
でも、誰だろう。聞いた事のない、お爺ちゃんっぽい声だけど。
再び門の中を振り返ると、そこに居たのは……もっふりとした長毛の豪華な耳……恐らく、山羊だろうか……を持っている、白髭が立派な老紳士だった。
ちょっとだけツノが生えているけど、山羊か羊かちょっと判断がつかない。
どちらだろうかと変な所で迷っていると、俺の逡巡など知らないブラックが一歩進んで相手に問いかけた。
「私達は、国王陛下の命によりこちらに参りました。こちらの書状をご覧ください」
そう言いつつ懐から書状を取出し、門の隙間から相手に渡す。
すると、執事のお爺さんはそれを広げてじっくり見やると、それが本物であることを確認したのか俺達を見て頷いてくれた。
「書状、確かに。お待たせして申し訳ありません……いま門を開きます」
お待ちくださいと言いつつ、おじいさん執事は書状を胸ポケットに入れると――そのまま、門をがっしりと掴んで、思いっきり開いて見せた。
ゴゴゴゴゴという凄まじい音を立てながら、そりゃもう「いつもの事ですから」と言わんばかりのパワフルさで。
…………獣人はおじいちゃんでもかなりのパワーがあるらしい……。
い、いや、この世界の住人って、そもそも人族も腕力が尋常じゃないんですけどね。
「先に到着された御二方の部屋へご案内します。さあ、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
つい面食らってしまったが、気を取り直して館へと足を踏み入れる。
……やっぱり館の中は植物が溢れていて、外の荒廃した風景が無ければ人族の大陸にある普通の領主の館となんら変わりは無かった。
っていうか、規模からすればかなりの大領地を治める領主レベルだ。
館への道の途中には分かれ道が有ったし、その先には庭園が有るような感じで、蔦が絡まったアーチがかすかに見えたもんな。
とにかくここは、オアシスと同じくらいの植物が生えているみたいだ。
もしかしたら領主が植物に関して造詣が深いんだろうか。こんなに人がいない土地で、この規模の植物を維持し続けるなんて、領主自身にもそれなりに知識が無けりゃ出来ないような気がするし。
となると……あの会議の時に出会った、かなり睨んでくる【五候】のおじさんがこの植物を守っている事になるんだけど……あの人そんな植物好きそうかな……。
どっちかって言うと酒女煙草が好きそうなダーティーなオッサンに見えたけど……。
「ここが領主の館です。さ、どうぞ。殿下は今、一階の食堂におられるでしょう」
「あ、ご丁寧にどうも……」
「ツカサ君、一々返事しなくて良いんだよ。そういう仕事なんだから」
ぐうっ、わ、分かってますよ。でもつい返答しちゃうんだよ。
つーかブラックの野郎、こう言う所でちょいちょい「こんなコト結構経験してますけど」みたいな経験者感出してくるんじゃないよ。
そりゃまあ、歴戦の冒険者なんだし、若い頃から領主の館なんか呼ばれまくってるんだろうから馴れるのも当然なんだけどさ。
でも経験値あります的な姿を見せられると我慢出来ないのは何故だろう。
同じ男としてなんか悔しいのかも知れない。
いやもう色々負けてるんですけどね。でもなんかたまにイラッとしちゃうんだよね。
俺もわりと意地っ張りだなと心の中で反省しつつ、館の中に入れて貰う。
……うん、中も王宮とあんまり変わらない感じだな。
人族の洋風な館とは趣が違って、壁よりも柱を見る数が多い。
天井も高くて、中庭を中心とした大きな回廊を中心に部屋が作られているようだ。
入ってすぐの玄関ホールからも、開け放たれた大扉から中庭が見えた。
館、というと俺はすぐ洋風を思い浮かべちゃうけど、やっぱ違うもんだよなぁ。
開放感のある中庭を横目に見つつ、別の廊下に入って暫し歩いて行くと――執事さんが、扉のないアーチ型をした入り口の前に立った。
ここが食堂らしい。
「カウルノス殿下、クロウクルワッハ様、お客様をお連れいたしました」
深々と頭を下げる執事さんに、部屋の中から声が聞こえる。
「客? 誰だ……いや、待てよ。この美味そうな匂いは……」
「ツカサ!」
ガタッ、と奥から声が聞こえる。
まだ部屋の入口の前にすら立っていないのだが、と思っていたら、どんどん足音が近付いて来て――――
「わぷっ!?」
入り口から飛び出て来た、褐色のでっかい何かに激突されてしまった。
いや、これは。
「おいこら駄熊!! なに抱き着いてんだテメエ!!」
「ツカサ……っ」
紛れもない、俺達の大事な仲間であるクロウその人の体だった。
→
※ぐおおまたセーフ時間からはみ出てしまった……_| ̄|○
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