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古代要塞アルカドビア、古からの慟哭編
12.戦況を楽観するなかれ
昼も過ぎて夕方になり、そろそろ日が落ちるという頃。
俺達が異様な畑で種を植えたり、クロウに土の曜気を放出して(貰うフリをしつつ、俺が土に曜気を送ったりして)いると、ブラックとロクショウが帰ってきたという報告が入ってきた。どうやら怪我もなく帰ってきてくれたらしい。
つい胸を撫で下ろしつつも、俺は早速五人を迎えに行くことにした。
背後で「あんなに嬉しそうな顔をして……健気なメスですねえ……」だとか「ウム、良き妹は良き嫁でもあるな」とか血迷った発言が聞こえた気がするが、無視だ。俺は何も聞いてない。聞いてないからな。
ともかくみんなが無事だったのは本当に喜ばしい。
さっそく、人目に付きにくい王宮の奥に位置している浮島の泉がある庭園にたどり着くと、そこには既にロクショウの背中から降りたブラック達がいた。
おお、やっぱり王宮の人達に囲まれているな……ってそりゃそうだよな。
ロクショウは“準飛竜”だから王宮の人達に敬われているし、カウルノスは次期国王なのだ。それにナルラトさんだって腕利きの斥候だし、ブラックもそんな人達と一緒に戦う……どころか牽引して飛んでったワケだから、そりゃ人だかりも出来よう。
獣人族は自分より強い相手には素直に服従する人達だ。
たとえ人族であっても、その強さのオーラが隠しきれないブラック相手では無視する事も出来ないのだろう。
ま、まあ……ブラックはすごく強いからな。ふふん。
…………ふふん、じゃなくて。ナニ考えてんだ俺は。今のナシ。
ゴホン。ともかく、囲まれるのは何もおかしいことではない。男としてちょっと妬ける光景だけど、実力相応ってヤツだしな。間違いなく強者であるブラック達ならば、彼らにチヤホヤされるのも当然といえよう。
……べ、別にほかの意味で妬いてるなんてことは無いからな。
この状況でなにを考えてるんだ。
「あっ、ツカサくぅう~ん!」
そんな人だかりの中で、情けないようないつもの声が聞こえる。と、同時に、声の後にボウンと音が聞こえて人だかりの方から白煙が流れてきた。
一瞬目の前が見えなくなる。だが、これはロクショウが変化の術を使った時に出る白煙なので危険はない。きっと、小さい姿でこちらに来てくれるのだろう。
ならば、俺は両手を広げてロクショウを待っていてやらねば。
瞬時にそう思い、嫌悪感などまるでない水蒸気のように清らかな白煙の中で、俺の可愛い相棒を待ち受けていると――目の前にいきなりデカい影が現れた。
「ギャッ!?」
「ああんツカサ君ただいまぁあ!」
気色悪い喘ぎ声のような謎の声を漏らしながら、俺に勢いよくぶつかってきた影。
ナニがぶつかって……いや、俺の腕に飛び込んできて俺を抱きしめたのかなんて、一発で理解してしまった。
「ぶ、ブラック……っ」
「おかえりは? ねえねえツカサ君おかえりは言ってくれないのう」
相変わらずオッサンがシラフで言うような言葉じゃない言葉を浴びせかけてくるが、確かにただいまにおかえりを言わないのは気分が悪いものだ。
なので、とりあえず俺はブラックの抱き着き攻撃を甘んじて受け入れながら冷静に挨拶を返した。
「分かった分かった、おかえり!」
「もっと恋人同時っぽく言ってよう」
「だーもー注文が多い! あとこんなトコで抱き着くなっ、離せっ」
がっちりした大人の腕から逃れようとするが、やっぱり俺の体力じゃ抜け出すことは出来ない。必死にもがいているうちに背後から抱きしめられるような形になり、そこに丁度ロクショウが飛んできたので、俺は仕方なくその状態でロクを抱きとめた。
ぐうう……不本意だけど、まあロクショウをギュッと出来たからよし……。
「キュー!」
「おかえり~、よく頑張ったなぁ、えらいなあロク……! 怪我はない?」
一番怪我をしやすい役目だったロクの小さくて可愛い顔を見つめると、ロクは黒いヘビの頭をコクコクと動かし、クリクリした緑青色のおめめをパチクリさせる。
ウッ……も、もはやこの世界において、仕草の可愛さでロクショウに敵うヘビちゃんなど居るはずがない……これは、これは最高にかわいすぎる……ッ。
「きゅっ……キューッ! キュキューッ!」
「ツカサ君鼻血鼻血」
「ハッ……い、いかんいかん……天国に飛んでくところだった……」
「僕ツカサ君のそういうとこ本当に理解できない」
まだ俺を抱っこしてるお前に言われたくないわいっ。
こんな状態だからマトリョーシカみたいになっちゃってるじゃねーかこの。
なんなら変人はお互い様だと睨みたくなるが、そんな口論を仕掛ける前にナルラトさんがこちらに飛び込んできた。
「はっ、はぁ……はぁ……や、やけんおいは、こがんとは苦手やって言うたとにっ! ハァ、はぁあ……」
「な……ナルラトさん?」
やっと逃れてきた、とでもいうように肩で息をして俯き膝に手を置くナルラトさん。
明らかに疲れているようなポーズだったし、動揺した時に出てくる謎の九州弁ぽい方言も出ていたので、心配になり声をかけると、相手は慌てて顔を上げた。
「うっ、おっおう! つ、ツカサか……いや、その……大丈夫。……それより報告だ。アンノーネに取り次いで、謁見を頼む。お前達も一緒に来てくれ」
「え……う、うん……」
俺達も一緒に謁見ってことは……作戦は上手くいったんだろうか。
そう思ってブラックの顔を振り返り見上げると、相手は一度ニコッと笑って見せたが、しかし今回の戦果に何か思うところがあったのか、少し難しそうな表情を滲ませる。
ブラックがそんな思わしげな顔をするなんて……何かあったんだろうか。
ロクもみんなも無傷みたいだし、酷い結果にはならなかったみたいだけど……それでも、ブラック的には“良くないこと”が起こってたって事だよな。
……なんだか、俺も嫌な予感がしてきた。
ともかく、話を聞かなければ。
――――そんなこんなで、言うが早いかトントン拍子でドービエル爺ちゃん達との会議がセッティングされて、俺達は再び会議室にてまみえることとなった。
今回もデハイアさん含む【五候】の人達が呼ばれており、マハさんエスレーンさんも同席している。当然、補佐としてアンノーネさんもいた。
……ついでに兵糧の話をするために、ジャルバさんだって居てもいいと思ったんだけど……こういう場では、同席できないらしい。それがルールなら仕方がないか。
まあ、俺達の行動はデハイアさんとクロウが話してくれるだろう。
身分差で同席できない人がいる事への寂しさを感じつつも、俺達は互いの報告と――――それと、意外にも独自に動いて情報収集をしていた【五候】の人達の話を交えて報告会をすることになった。
まずは、最重要であるブラック達の「戦果」だ。
真っ先に挙げられ報告を了承したブラック達は、自分達の目で見てきたことを克明に言葉にして説明した。どんな攻撃をして、どのように敵が反応したのか。
それに対して、どんな被害が出てどんな影響があったのか……を。
「――――ッ……」
報告を終えた後。
誰にでも分かりやすい言葉に砕いて冷静に説明したブラックに対し、その場の誰もが絶句して言葉を失っていた。
いや、ブラックの弁舌に何かあったのではない。
あまりの出来事に、全員が言葉を失っていたのだ。
……さすがに俺も、敵のザリガニが仕掛けてきた予想外の行動には驚きを隠す事が出来なかった。
だって、まさか。まさか……――土の曜術、だなんて……。
――――だけど、王族達は他の事にも驚いているみたいで。
「貴方は……いったい……。本当に、人族なのですか……?」
【五候】の中の紅一点、上品で優しげなおばさまであるトエティさんが問う。
デハイアさんですら、他の人達と同じように目を見開いてブラックを見つめていた。だけど、ブラックはこんな雰囲気が慣れっこなのか冷静に答える。
「私自身は、正真正銘人族の胎から生まれたと思ってますよ。獣耳も長耳も角もないのなら、私は人族でしか在りえないでしょう」
よそゆきの言葉使いで返答するブラックに、その場の空気が冷たくなる。
いや、ブラックがあえて冷たくしたというべきなのだろうか。
嫌味のように答える事なんてなかったのに、それでもブラックにとっては……今の質問は、あまり問われたくない事だったのだろう。
……俺なら「人族を超えたパワーすぎるだろ……」とか良いような意味で受け取ってしまうが、ブラックにとっては嫌な問いだったのかな。
何故そう、他人を敢えて拒絶するような言葉を返すのか、その真意は俺には分からなかったけど……でも、なんだか胸が苦しくなって、俺はブラックの袖を横からそっと掴んだ。すると、相手はこちらを向いて。
「…………」
表情のない、いや、表情を見せないようにした冷静な大人の顔だ。
だけど、俺はなんだかそんなブラックの顔が嫌だった。
「……ブラック」
大丈夫か。何か、傷ついているんじゃないのか。
菫色の綺麗な瞳を見つめながらそう呼びかけると――――相手は、ようやくフッと薄く笑って、袖を引っ張った俺の手に自分の手を合わせてきた。
言葉はないけど、「大丈夫」と言っているような笑顔だ。
でも、あんな顔されて平気だなんて思えるかよ。
ちょっと睨むと、ブラックは少し雰囲気を和らげてから再び【五候】の方を見た。
「ともかく、私がどういう存在であろうとも……貴方がたが心配するようなことに関心は有りませんよ。……私の大事なものを傷つけるのであれば、話は別ですが」
「そ、それはない。……絶対に」
ブラックの言葉が何を指しているのかすぐに理解したのか、マハさんの弟であり、現カンバカラン領主である【五候】のナラハさんが言い繕う。
他の【五候】達も、動揺は残しつつもその言葉にそれぞれ頷いた。
あのルードルドーナですら一瞬怯えたような顔を見せたから、本当にブラックは彼らにとって“普通じゃない”存在なんだろうな。
……でも、確かに、得体のしれない巨大ザリガニに易々と巨大な術で対抗できる人が出てきたら、そりゃ怯えるのも無理はない。
ブラックが嫌なことを言われたっぽいのは俺も嫌だけど……でも、相手の立場からすれば、俺達はあくまでも「まだ全幅の信頼は出来ない外様」だもんな。
国を守るべき人達なんだから、それは仕方のないことだろう。
ブラックだってそれは理解しているから、ちょっと突っついたのかもしれない。
嫌な言葉に言い返す気持ちもあっただろうけど、得体のしれない相手に不安になっている彼らにとって、これ以上の“正体不明”は負担なはずだ。
だから、あえて嫌な言葉に乗って、自分が敵と味方の間のどこに席を置いているのかを示したのだろう。
敵でもないけど味方でもない。でも、最低条件さえ守れば協力はする。
そんな風に印象付ければ、奇異の目は向けられるとしても「こいつはそういう奴だ」と一度思ってもらえれば、それ以降不必要に疑われることもない。
……なんか恥ずかしいし、自惚れてるみたいで自分がイヤになるが……けれど、ブラックが不当に距離を置かれることがなくなるなら、その……お、俺だって、こ……恋人、だし、ブラックを守るためにも堂々とするんだからな。
言葉で言ってもまだ信用できないなら、ブラックが言うように俺が要だぞとバッチリ示して、ブラックはちゃんと協力してくれる人間だと見せつけてやるのだ。
そうすれば、みんな納得して偏見なくブラックのことを見ようとしてくれるはず。
クロウやドービエル爺ちゃんの仲間だもん。きっと分かってくれるはずだ。
改めてそう意気込みフンと勇ましく息を漏らす俺の横で、ブラックは何故かクスリと笑って、場の空気を換えるように言葉を続けた。
「……まあ、いいでしょう。話を戻しますが、敵の攻撃について私の予想がほぼ確定となったので、お話します。……と言っても、皆様がご存じないであろうことなので、詳しく説明しなければ行けないのですが……聞いていただけますか」
そう言ってブラックがドービエル爺ちゃんの方を見る。
俺もつられてそっちを向くと、爺ちゃんとマハさん達はこくりと頷いた。
詳しく説明して良いという合図だ。
許可を得たブラックは、再び【五候】を見渡した。
「では、お話しします。……先ほど報告した巨大移動要塞の反撃について……私は、以前から“とある可能性”を探っていました」
「可能性……?」
デハイアさんが片眉を上げて訝しげな顔で呟くのに、ブラックは頷く。
そうして、俺をちらりと見た。
「……正直に言えば……私としては、当たって欲しくない可能性でした。ですが、先ほど直接相対して、その可能性を肯定せざるを得なくなった」
「…………その、可能性ってなんなんだ……」
口数が少ない美青年の【五候】であるアシル・ナーランディカが問う。
その静かで妙に通る声に、ブラックは視線を止め――――低い声で、答えた。
「……この世には、いくつかの“頂点と言える圧倒的な力”が存在します。獣人に神獣という頂点の種族が存在するように、人族にもそういった“能力の最高到達点”と言うべきものが存在する。……仮に、その頂点の力と一度相対した者がいるとすれば――――その威力を二度と見間違うこともないほどの、力が」
ブラック。
お前、何を言ってるんだ。
頭の中で不意にそう呟いてしまうが、声になって出てこない。
なんだか、俺まで背筋が寒くなってきた。だけどこの悪寒は、ブラックが強いからだとかそういう事に対しての悪寒ではない。
これは。
これは、まるで……――――
「おい、ブラック待て。それって……」
視界の端で、クロウが腰を浮かせて中座になる。
それほど動揺しているのを見て、周囲が再びざわつき始めた。
だが、ブラックの冷静で感情を切り離した言葉は止まらない。俺の悪寒をさらに逆撫でするかのように……ブラックは、言い切った。
「あの巨大要塞を動かす力は、間違いなく……私が知っている力です。
その名は
魔導書・アルスノートリアの一つ
【礪國の書】
――……私が持つ力に、私が知る力に匹敵する……魔導書ですよ」
どうして、今その言葉が出てきたのだろう。
何故ブラックはそんな事を、いつからそう予想していたのか。
色んな考えがぐるぐる頭を巡るが、どっと出てきた体中の冷や汗と悪寒を抑える術だけは考え付くことも出来なかった。
→
※ツイッ…Xで言ってた通り遅くなりました
(;´Д`)寝落ちです…
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