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古代要塞アルカドビア、古からの慟哭編
38.魂を愚弄する1
「な……なに、これ……」
高い天井を規則的に並んだ柱が支え、遠い向こうの壁まで続いている。
光が降り注ぐ空間は、そんな広大さを見せつける奇妙な空間だった。
……いや、この程度なら、巨大な神殿の大広間くらいのものだ。全てが土で出来ているとしても、珍しいと思うだけで奇妙とは思わなかったかもしれない。
だけど、その柱の合間に並んでいる異形がその感覚を失わせている。
「外に居るゴーレム……と、同じもののようだけど……」
「ムゥ……だが、曜気の気配はせんな。すべてスカスカの脆い土のようだ」
先行してブラックとクロウがゴーレムを調べるが、どうやら彼らには動く余地も残っていないみたいだ。スカスカの土ってことは……触れたら崩れちゃうのかな。
今だって、頭が無かったり半分崩れてたりして、かなりボロボロなんだけど……。
『土の、お人形……』
「うん……動かないらしいけど、どうしてこんな所にあるんだろうね……」
怖がって俺の足にしがみつくクラウディアちゃんをなだめながら、俺もブラック達に近付いてゴーレムを間近で見てみる。
確かに……これは、動きそうにない。気配でなんとなく分かる。
「動くもの」とか「生きてるもの」って不思議と“物”とは違うような感覚がすることが多いんだけど、このゴーレム達には全然そんなのが無いんだよな。
本当に置物っぽいというか、土で人形を試作したって感じだ。
仮にこの土人形達がしっかりとした形を保っていたとしても、外で動いている無数のゴーレムのような動きは出来ないかも知れない。
あいつらは上半身と腕が巨大で、下半身がヤケにスリムな感じの独特な形をしていたが、ここに捨て置かれている奴らは形が不揃いだ。
片腕だけが異様に大きかったり、頭がウニのようにトゲトゲしていたり、大きなワリに頭身が小さくてムカデみたいな足が付いていたり……。
ともかく、それぞれ崩れているから「ただの土塊」と分かるけど、そうでなければいつ俺達を襲ってくるか分からない感じで恐ろしかった。
「にしても……ここは何だ。どうにも妙なニオイがして気に入らん……」
すん、と鼻を鳴らしてクロウが珍しく分かりやすい感じに眉を顰める。
何のニオイがするんだろうと嗅いでみるが、地下特有の冷えてじっとりした空気のニオイくらいしか嗅ぎ取ることが出来ない。
「クロウ、妙なニオイって……?」
「こっちだ。この先から流れてくる。……あまり良いニオイではないな」
やはりピンとは来ないが……クロウが指し示す方向は明らかに奥にある別の部屋への入口だ。他に通路が無いので、きっとその先にアクティーがいるだろう。
だとすれば、クロウが嗅ぎ取っているニオイは、もしかしたら俺達にとっては良くないニオイなのかもしれない。
……でも、クラウディアちゃんのためにも、進まないわけには行くまい。
俺達は意を決して、崩れゴーレムが左右から威圧してくる道を進み、件の入口から別の場所へ抜けた。
相変わらずガッチリと固められた硬い土で出来ているが、今度は通路らしい。この通路も真っ直ぐ伸びているが……何故こんな通路を作ったのだろう。
左右に部屋らしき場所があるが、通りすがりに眺める部屋は、アジトで見た簡素な部屋と変わりがない。
でも、土の寝台の上にマットレスらしきものや掛け布が乗っかっていて、今まで誰かが使用していたような生活感があった。
もしかして、アクティーや【教導】達は、ここで寝ていたのだろうか。
探れば何か見つかるかもしれないと思ったが、しかし部屋にはベッドの上以外に土ではないモノなど見当たらず、私物らしきものも全く存在しない。
土を掘って作られた棚や机にも、私物をしまう場所が全くなかったのだ。
そもそも、ここの部屋はまるで独房みたい部屋の構造なせいで、個人的な物を隠す場所がない。余計な家具も何一つないのだ。
きっと、教導達は自分の痕跡を残さないようにしているんだろう。
そこまで慎重に動いているヤツらが、どうしてこんな場所を作ったのか分からないが……これだけ異様なんだ。何かの意味があるはずだよな。
――――それはブラックも考えていたのか、俺がヤケに緊張している間にも部屋をざっと調べて、小難しそうな顔をしていた。
何かに気が付いたんだろうか。それとも、予測を立てている途中なのかな。
まあいずれにせよ、ブラックが何も言わないって事は、確信があるような予測ではないって事なんだろう。なんにせよ、今は進むしかない。
俺達は通路の先にある次の部屋への入口を見やると、また歩き出した。
……でも、さすがにここまで来ると俺にも分かる。
「…………」
自然と喉が締まり、鼓動がヤケに強く聞こえて緊張感に足が重くなっていく。
別に敵と対峙したわけでもないのに、それでも一直線の通路の終点にある部屋に近付くたびに、嫌な汗がじんわり湧いてくるのだ。
……明るい通路の先にある、薄暗くて中が見えない部屋。
きっと、あの先には……嫌なものがいる。
行かなければアクティーに会えないが、しかし彼女に簡単に会える気がしない。
クロウがさっき「良くないニオイがする」と言ったが、それが肌感覚でわかるような、妙な感じだった。……だからと言って、止まることは出来ないけど。
俺に出来る事と言えば、あの入り口をくぐって何を見たとしても、クラウディアちゃんをすぐに庇えるように覚悟を決めておくことだけだ。
ブラックとクロウの背中を見ながら、そう決心して。
息を止めながら敷居を潜ると。
「――――っ……!?」
途端、大きなスイッチがバチンと入るような音がして、薄暗い部屋が明るくなる。
そのタイミングの良さに、思わずクラウディアちゃんの庇うように体を捻ったが……部屋の全景を見て、俺は驚きのあまりそれ以上動けず硬直してしまった。
だが、それも仕方のない事だっただろう。
何故なら、俺達が入った部屋には――――
常軌を逸した“もの”が並び、それらを平然とした態度で背にしている、
異常者達が居たのだから。
「おや、思ったより随分とお早い到着で」
軽い口調でそう言いながらクスリと笑うのは、異常に背の高い黒衣の男。
獣人族とも余裕で渡り合えそうな体をした男は、背後に全く同じ動きをする二人の仮面男を従えて、こちらを警戒するでもなくただ見つめてきた。
だが、俺はその視線に意識を合わせ続ける余裕がない。
だって。……だって、こいつらの後ろには。
“崩れたゴーレム”達を真似たような“崩れたけもの”が
薄く青い光に、まるで展示品のごとく照らされ並べられていたのだから。
「貴様ら……なんだ、それは……」
クロウの怒りとも驚きともつかない声が、男達に放られる。
だが黒衣の大男――――【教導】は、クロウのそんな声に表情一つ変える事もなく、目深に被ったフードから鼻の先端と口を見せて微笑んでみせる。
「おや、獣人の貴方のお知り合いかと思ったんですが、どうやら違うようですね」
「違うのか?」
「違うみたいだな」
背後に控えた仮面の男達が、からかうように繰り返してクスクス笑う。
だが、クロウはそんな安い挑発に乗らない。
俺の前で静かな背中を見せながら、それでも感情が見える声で続けた。
「ソレが知り合いだろうがなんだろうが、どうでもいい。オレは、お前達がソレを如何にして手に入れて並べたのか。それを聞いている」
「なるほど。……貴方は、慈悲深い獣王の御子息とお見受けしていたのですが……どうやら、彼よりも幾分か冷静で冷酷なようですねえ。ええ、ええ、実に好ましい! 私としましては好感度が高いので、お教えしましょう」
何を言っているのか理解できないが、相手はクロウを高く評価したらしい。
どういう理由だろうが、説明を受けられるなら何でもいい。
あまりにも醜悪極まる目の前の光景を理解できる理由があるのなら、早く理解して頭の中を整理したかった。そうでもしないと、耐え切れそうになかったのだ。
だって。
並べられた“崩れたけもの達”は、明らかに……
……巨大な獣人の死体を繋ぎ合わせて作られた、剥製のように見えたから。
→
※予告なしで遅れちゃいました(;´Д`)モウシワケナイ…
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