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古代要塞アルカドビア、古からの慟哭編
57.至らぬものだからこそ
「おいコラ! ツカサ君に何してんだテメェ!!」
“何か”が自分にぶつかる前に、ブラックの恫喝するような声が響く。
一拍遅れて俺が振り返ると、そこには――――
長く伸ばした爪を振り上げる、ジャルバさんの姿が在った。
「やっぱり……」
起き上がる俺と、腕を凄い力で握りしめるブラックに狼狽えた相手は、普段の紳士的な姿なんて嘘みたいに慌てはじめた。
「クソッ、お前ら何でここにいるんだ!! さっき確かにここから離れたはず……っ」
「お前を泳がすために離れたに決まってんだろ。……というか、何でお前に種明かししなきゃいけないんだ? 良いからつべこべ言わずに死ねよ」
ブラック言い過ぎ。
……とはいえ、種明かしと言っても大層なものではない。
俺と強制的に乳繰り合ったブラック達は、あの後いったん体を洗うために、俺と共に風呂場に移動した。その時に【幻術】を使い、自分達と同じ姿をした“幻影”を作って、その場から二人とも離れたように見せかけたのだ。
あとは、部屋の中で気配と足音を消して移動し、俺が一人で寝ている……という、絶好の殺害チャンスを逃さない犯人を捕らえるだけ。
説明すれば、なんてことのない作戦だった。
…………まあでも、ブラックの反則級チートスキルとも言える“質量を持った”精巧な【幻術】が無ければこの作戦は出来なかったんだよな。
あと、油断していたとはいえ、獣人ですら気付かないほどの隠密行動なんて、普通の人間に出来る芸当ではないので、まあそこを考えればブラックとクロウにしか出来なかった作戦とも言えるが……それはともかく。
敵を攻撃できないって制限があるとはいえ、巨大な船を包み込む事すらも可能な“幻”から、本物と見紛うほどのヒトの偽物を作り出せるんだから、そりゃジャルバさんが素直にワナにかかったのも仕方ない。
俺だって、ブラックの術を知らなかったら普通に騙されていただろう。
……とはいえ、やっぱり幻術……とりわけヒトの形をしたモノを動かすのは非常な曜気の量と操作の緻密さを要求されるみたいで、おいそれと出来ないしそもそも偽の幻影を近くでみたら、すぐニセモノと分かっちゃうくらいに顔や細部がぼやけた粗悪なマネキンぽかったので、簡単に使う事は出来ないんだけどね。
それに騙されたってことは、ジャルバさんは遠くから俺達を見張っていたのだろう。
「……ナーランディカ卿、やはり貴方がルードルドーナをあんな風にしたのか……」
体力おばけのブラックに手首を捕まれて逃げ出せないジャルバさんがもがいていると、クロウが物陰から出てくる。
どうやら、相当怒っているらしい。色々な酷い事をされてもやっぱり弟だからなのか、クロウは相当腹に据えかねているようだ。雰囲気が黒くて怖いものになっている。
そんなクロウにジャルバさんは硬直したが、すぐに取り繕って引き攣る笑顔を浮かべると、今更な言い訳を喋り出した。
「は、ははは。嫌だなあ……何を勘違いしてるんだい。私はただ、彼を……」
「ツカサを、なんだ? 仮面の男達に『あの少年が居たせいで負けた』とでも唆されたのか? それとも、今までと同じであいつらの手下として始末しに来たのか……」
クロウの背後からゴゴゴゴと地獄の釜の蓋が開くような嫌な音が聞こえているような気がする。ていうか、何なら顔に影が掛かって目が怒りでギラギラ光っているし、牙まで剥き出しにしてるじゃないか。
また魔王モードになりそうなくらいの迫力に、ジャルバさんが青ざめて怯んだ。
そんな温度の下がった寝室に、また新たな訪問者が現れる。
「父上と母上達が、ルードの様子を訝しんでいたのはこういうことだったのか」
「大丈夫かツカサ! 妹になんということを!」
「……妹……?」
カウルノスに、一人飛ばしてジャルバさんと同じ一族であり“五候”の一人――……アシル・ナーランディカ候がいた。
……デハイアさんのせいで、アシルさんが怪訝そうな顔をしてるじゃないか。
クロウと同レベルに無表情で眠たげな顔をしているが、ジャルバさんと同じ垂れた熊耳の黒髪美青年なのに。
いやもう、それは置いといて。
これだけの人数が居れば、さすがに観念しただろう。
ブラックが腕を離すと、ジャルバさんは一応抵抗だけはやめたみたいで、警戒したような顔を見せつつ手首をさすっている。
……まあ、ここにはブラックだけじゃなく、クロウやカウルノスまでいるし、武闘派のデハイアさんもいるからな。こんな状況では無理に逃げられないと悟ったんだろう。
俺がベッドに座り直すと、ブラックはさりげなく横に立って不満げに腕を組む。
「それで、どうするんだ? 今自白すれば楽になるぞ」
「何をおっしゃる、私には別にやましい所など何一つありませんよ」
あくまでも潔白だと言いたげな相手に、カウルノスは冷たい目を向けると、懐から何やら紙束を取り出して俺の膝にポンと投げた。
その分厚い紙束の表紙を見て、ジャルバさんがギョっとする。
さもありなん。何故ならこれは……彼が今まで「紛失」として横領していた食糧や金を記したいわば“裏帳簿”のようなものだったのだから。
「とある協力者のお蔭で、簡単に見つかったぞ。食糧庫はナーランディカの一族が管理しているが、実質的な管理は全てお前一人で行っている。財務管理や倉庫に関する物事すべてに指示を通せる存在は、俺達家族か、一族を統括するアシル……もしくは、お前しかいない」
カウルノスの冷静な言葉に、ジャルバさんは険しげな顔で汗を垂らしていたが、しかしフゥと溜息を一つ吐くと肩を竦めて見せた。
「……やれやれ。見つかってしまっては仕方ない。私が横領をしていた事は、素直に認めましょう。ですがだからといって仮面がどうのこうのなんて話は知りませんよ」
「貴様ッ、この期に及んで……!!」
カッとなるカウルノスを、デハイアさんが抑える。
きっと、カウルノスも長男として今までの事に怒りを覚えているんだろう。
心の底で憎み合っていても、ずっと一緒に戦ってきた仲間なんだ。群れの仲間としても、ルードルドーナを操っていたジャルバさんを許せなかったんだろう。
――――そう。
ルードルドーナの感情を逆撫でして異常な憎しみを植え付け、そのうえでクロウやカウルノスを殺そうとさせた犯人は……ジャルバさんだったのだ。
だからこんなにも、クロウとカウルノスが怒っている。
仮にも、賢竜殿下と呼ばれた人物なんだ。父親と母親に対しては従順だったルードルドーナが、自ら国を破壊するような事に手を貸すとは考えにくい。
そもそも、兄弟を殺すというだけなら、もっと他に方法が有ったのだ。
それなのにルードルドーナは【教導】の集めた冒険者を向かわせたり、彼らが有利になるように、姿を現して俺達を襲った。あんな、普通じゃない精神状態で。
数々の行動が、親を愛する凄まじい感情と剥離しすぎている。
なにより、母親のエスレーンさんの真価は【占術】だけじゃないと、あれほどまでに激昂して俺達にまで素を出してしまったくらいなのだ。
そこまで愛する母親が平和を願っているのに、悪い人間に手を貸すのは変だ。
だとすると、あんな異常な状態になるほど洗脳し操った存在がどこかにいる。
しかし、あいつらとルードルドーナの接点はどこにもなかったし、そもそもどうやって連絡を取っていたのかも不明な状態だった。
ただ手掛かりは【リン教の経典】だけ。それだけで、狂うとは思えない。
ならば考えられることはただ一つ……――――
王宮の中にもう一人、【教導】の協力者がいた。
あの【礪國】の曜気が入った土を入手する事が出来、俺を人気のない場所に誘導してヨグトさんに殺害させることが出来た人物。
そんなのもう、一人しかいなかった。
「確かに、今までは推測しか立てられなかったし、その裏帳簿も関係が無いことだと言い逃れできる状況だろう。……だが、それは今までの話だ」
俺の頭の中の推理を継ぐように、クロウは不機嫌そうな声を隠しもせず、ジャルバさんを強く睨みつける。あまりの剣幕にジャルバさんの体が小さく震えたが、相手の胆力も中々のものなのか、焦っていながらも冷静さを装って口を笑みに歪める。
「ほう……では、いま、何が変わったと? 話によれば賢竜殿下は幼児になったかのように騒ぎ暴れて、未だに陛下と妃殿下が慰めておいでなのでしょう? それに、私は、仮面の男?などという存在は聞いた事も無い。なんでしょうかその男は?」
わざとらしく疑問に思える部分を上滑りした声で発し、ジャルバさんは「やれやれ」とでも言いたげに肩を動かして両掌を天へ向けるジェスチャーを見せた。
焦りは見えるけど、それでも冷静に事を読もうとしているみたいだ。
……くそっ、こういう人って敵に回すと本当に厄介なんだよな……。
だけど、もう逃がさないぞ。
ルードルドーナが未だに正常な状態に戻らないのも、きっと理由がある。
早く認めさせて、その理由や仮面の男達の行方を聞き出さないと。
そんな逸る気持ちを心の中で押し込んでいると、今まで黙っていたアシルさんが、一歩進み出てジャルバさんを長い睫毛が縁どる目でじっと見やった。
「…………ジャルバ。我々はお前に悟られないよう秘密裏に、倉庫の管理記録から今までの輸出入の記録を全て、一族総出で遡った」
「何も出てこなかったでしょう?」
絶対的な自信があるのか、ジャルバさんから少し焦りが消える。
しかしアシルさんは弱る事も無く、ただ淡々と続けた。
「ああ。……だが、お前に疑惑が無くとも“あちら”はどうだ?」
「ッ……!?」
表情を変えずに言いきるアシルさんに、ジャルバさんが息を呑む。
明らかに部屋の空気が変わったことを感じて、場の全員が拳に力を込めた。
それを知ってか知らずか、アシルさんは続けた。
「お前が消失したと記録を付けた品物を一つずつ洗い出し、陛下がお使いになっておられる人族と瞬時に通信する道具……確か【偽像球】と呼ばれる道具を用いて、人族どもの大陸の港へ連絡を取った」
「――――!!」
今度こそ、ジャルバさんの顔色が蒼く変わる。
だがアシルさんは眉一つも動かさず、涼やかな顔のままでジャルバさんを見た。
「そこの人族達の名前を出したところ、ラッタディアの港を良く知る者が詳細を即座に調べ直してくれてな。その結果……――――お前が“ある商会”から発注したという、道具や食料の半分ほどが、こちらでは発注者の名義が変更されことごとく消失していた。そのうえ、それらも半分は虚偽の項目で……中身は、人族が使う武具や鉱石などだったそうではないか」
「……っ、そ、それは……!!」
「今はその“ある商会”には触れん。……だが、国の金を使って民を謀り……そのうえ国を危険に曝した貴様の所業は……到底許されることではない……!!」
アシルさんの眉と目が、徐々に吊り上っていく。
怜悧な美貌だったその顔が怒りに歪んだと同時、彼の頭から雄山羊のツノのような形の綺麗なツノが一対現れた。
そのツノは磨かれた紫水晶のようにつるりとして綺麗だったけど、きっと彼はクロウと同じように、感情が荒ぶって本来の姿を見せてしまったんだろう。
だが、その姿を見て、ジャルバさんがビクリと体を震わせる。
確かに綺麗な人が起こったら威圧感が凄いけど……でも、俺にはそう凄いようには感じない。クロウの魔王モードを見てるからなんだろうか?
思わずその疑問に意識を取られてしまったが――――俺が意識を逸らした間に、もう事は決着していた。
ジャルバさんが、崩れ落ちるようにその場に座り込んでしまったのだ。
「おい、ジャルバ。お前何故こんなことをした」
デハイアさんが、カウルノスを抑えながら訊く。
カウルノスは相変わらず鼻息荒く睨みつけていたが、しかし実際は冷静らしく、鼻をフンフンと鳴らしているが飛び掛かるほどの力ではないようだった。
結局のところ、ジャルバさんはこの場の全員に「手加減」をされている。
それを強く感じたのか、彼はがくんと俯き、今まで綺麗に整えていたオールバックの髪から前髪を垂らすほど力を失ってしまった。
数分、そのまま沈黙が続く。
もう既に飽きたのかブラックが隣に座ってきて、その反動のせいでちょっと尻が跳ねてしまったが、その間抜けな軋みの音が切っ掛けになったのか、ジャルバさんは口を開いてポツリと呟いた。
「――――だよ」
「あ?」
アシルさんが怒りのあまり、顔と全く合わない返答をする。
だがそれがジャルバさんの感情を逆立てたのか、項垂れた様子から一転、さっきとは比べ物にならないほどの怒りの形相で牙を剥き出しにして怒鳴った。
「お前のような欠陥品が五候に選ばれて、私が選ばれなかったからだよ!!」
大声で言い返したジャルバさんに、アシルさんは少し驚いたように目を開く。
そんな様子を見て、横に座ったブラックが呆れたように呟いた。
「結局、慢心か」
慢心。
それはどういう意味だろうか。
ブラックの冷めた横顔を見上げる間にも、ジャルバさんは捲し立てる。
「私は今までずっと国に尽くしてきた、幼い頃から技量を認められ、幼いながら文官に取り上げられてからずっとずっとずっとだ!! 私が!! 一番、ナーランディカに於いて国に貢献していた!!」
「……」
それに異論は無かったのか、アシルさんは黙っている。
きっと、それは本当の事なのだろう。
「だが結果はどうだ!? 私は分家筋という理由だけで五候選定から降ろされ、お前のような、人族相手にも気を使えない無表情で無関心の能無しが選ばれた!! 本家の血筋と言うだけで、私よりも劣ったお前が選ばれたんだ!! それの何が不満かだって!? 不満じゃないわけがないだろうが!! 未だに私の代わりに管理すら任されていないお前が! 私の! どこをッ!! 肩代わりできるんだァア!!」
…………そうか……そういうことか。
だからジャルバさんは、簡単にルードルドーナを仲間に引き込めたのか……。
「……確かに私は、お前のように算術に秀でているわけでも、外交官として人族どもに愛想を向けられる顔もない」
「ならッ!!」
「だが私には、そこまで蔑まれようと……野心や邪心など抱けない」
「ッ……!!」
紳士の皮を失ったジャルバさんの叫びに、静かにアシルさんが答える。
その真に迫った言葉に、ついにジャルバさんは言葉を失った。
今の勢いなら「嘘だ」と切り捨てて更に激昂しただろう。
だけど、アシルさんの表情がいつの間にか冷静さを取り戻した無表情に戻っているのを見て、その場の全員が彼の言葉は真実だと悟ったんだ。
……本当に、そういう野心を抱けない性格の人なんだと。
「……陰で、私がお前に負担をかけていると噂されているのは知っている。それは真実であり、訂正する気もない。勉強してはいるが、それもお前のように計算づくで他を上手く欺けるような帳簿を書く腕すらないんだ。……だから、私はお前に一族が担うべき全ての管理を任せていた。そうした方が良いと、皆に言われたから」
「お前はいけしゃあしゃあと……ッ!!」
「だがなジャルバ。一人で何でもできるという事は、誰にも任せられないという事だ」
「なっ……」
困惑するジャルバさんを、アシルさんは見つめる。
野心も技術もない彼にとって、ジャルバさんは上の存在だ。しかし、そんな上手の相手を羨む心すらアシルさんは抱けないんだろう。
本当に自分が未熟だと思っているから、野心なんて湧かないんだ。
それを知ってか、ジャルバさんは何を言えば良いのか分からないみたいだった。
「ジャルバ……五候は、確かに秀でた者達の集まりだ。しかし、それは“群れの者達を率いる能力が優れている”という意味で、技術的なものを問うわけではない。皆、それぞれが欠陥を持ち、自分の弱みを理解している。だからこそ他人に任せ、部下を信じ、適切に仕事を割り振ることが出来ることを重要視するのだ」
アシルさんの言葉に、デハイアさんが頷く。
カルウノスも、今は怒りが静まり暴れてはいなかった。
「ああ、そうだな。……俺もメイガナーダ領ではひたすら無力だ。手伝ってくれる仲間がいなければ、結束しなければ生きて行けなかった。どれだけ自分が強くても、国を背負うには一人の力じゃ出来ない事が多すぎるんだよ」
高位の三人が、それぞれに頷く。
アシルさんとデハイアさんだけでなく、カウルノスもそう思っているんだろう。
確かに……国って、王様一人じゃ動かせないものなんだよな。
何かの役職の人だって同じで、誰かと協力しなければ大きな組織の運営なんてとても出来たものじゃないんだ。
それは、動物としての“群れ”も一緒だ。
生きていくために役割を分担し、お互いを守り合い、厳しい世界を生きている。
だからこそ上に立つ人は、自分の欠陥を知り、協力の必要性を重要視し、他人の力を信じる人でなければならないんだろう。
俺には深いところは分からないかも知れない。
でも、誰かを信頼することが大事だってことは、痛いほど理解できた。
それをジャルバさんもようやく受け入れたんだろうか。
デハイアさんの静かな言葉に、彼はただ眉を悲しげに歪め、呆けた方に口を小さく開いたまま沈黙していた。
「……ジャルバ、すまなかった。……私は、お前の能力を未だに越えられていない。それでいて、お前に頼りっぱなしだった。全てを率なくこなしていると思い込んで、お前がこの私を認めていない事に気が付くべきだったんだ」
「…………アシル、さま」
「獣であれば、群れの長を誰もが夢見るもの。……この居心地のいい優しい群れの中にいると、それを忘れてしまう……。だからこそ、私はお前が有能であるがゆえの苦悩を嗅ぎ取るべきだったんだ」
至らない存在だからこそ言える言葉。
素直に自分の負けを認めて、ジャルバさんの心を掻き乱さないように誠実な態度で謝るアシルさん。……本当なら、そんな事なんて言わなくていいはずだ。
ジャルバさんは悪い事をした。
だから、それだけを糾弾してさっさと捕まえればよかった。
けれどそれじゃいけない。ジャルバさんが心の底から反省できない。
それをアシルさんは分かっていたから、彼の不満を受け入れたうえで自分の至らなさを謝罪して、嫉妬や憎しみを肯定したんだ。
「…………」
「だが、ジャルバよ。お前がやった事は許されない。この国を愛するドービエル陛下も、お許しにはならないだろう」
「……はい……」
「ルードルドーナ殿下を、解放してやってくれ」
そう言うと、ジャルバさんは再びガクリと項垂れて答えた。
「……私は、【教導】の使いと言う仮面の男達としか会ってはいませんが……アレは、彼らが言う所の“ノロイ”という毒だと言っておりました」
「……ッ!?」
呪い、だって……!?
ちょっと待て、呪いって言うのはこの世界じゃ失われたもののはず。
なのに、なんで【教導】達が使えるんだよ。
というか呪いの毒ってなんだ!?
「なるほど、ノロイか……。分かった、それは人族である彼らと共に話し合いをする。一先ずは尋問が行われるだろう。……では行こうか」
「……はい」
アシルさんに促されるまま立ち上がったジャルバさんは、項垂れて肩も落ち、背筋も曲がっている。最初に出会った時の、背筋を伸ばした紳士の面影はない。
そんな姿に何だか心が痛くなり、胸に触れるシャツの裏の指輪を握る。すると、そんな俺に気が付いたのか、ジャルバさんはやつれたような顔で軽く振り返った。
「ツカサさん、本当に……すみませんでした。貴方には色々と酷い事をした」
「あ……ああいえ、俺の事は気にしないで。ああいうのも慣れっこだから」
いや慣れちゃいけないんだけど、本当この世界じゃブスブス刺されまくってるからな俺は。幸い酷い怪我にもならなかったみたいだし、気にしてない。
……両隣の二人からは嫌などす黒いものを感じるが、それも気にしないでおこう。
ともかく大丈夫だと手を振ると、ジャルバさんは気弱に微笑んだ。
「…………宴の前に、仮面の男達がやってきて……私に『人族の大陸に戻るから、あとは操り人形を好きに使え』と言われました。それ以上の事は分かりませんが……あの男達は、ツカサさん達を知っていて気にしているようでした。ですから、くれぐれも気を付けてください」
その言葉は、本当に俺達を心配しているような声音だ。
だから、俺はしっかりと頷いて「わかりました」と返してやった。
俺に出来る事は、それくらいしかない。
だけどジャルバさんは少しホッとしたように顔を緩めると、そのまま会釈をして前へと向き直り、アシルさんとデハイアさんに連れられて行った。
「……これで、ようやく終わった……のか……?」
三人の姿を入口越しに追いながら、カルウノスが問いかけてくる。
その言葉に、ブラックは大きなため息を吐いた。
「まだあのクソ緑熊が残ってるだろ。もしあの垂れ耳熊がいう事が本当なら……もう打つ手はないってことにな」
「おいおいおいこらこら! あるだろどうにかする方法!!」
「なにっ、ツカサ本当か!?」
ブラックがムリヤリ全てを終わらせようとしているのを、必死に阻止する。
とんでもないと立ち上がると、カウルノスが救いを見つけたようにキラキラした瞳で俺を凝視してきた。ウッ、そ、そのオッサンなのに子供みたいな顔をするのやめろ。
思わず後退るが、カウルノスは弟を救いたいのか詰め寄ってくる。
「どうなんだツカサっ!! 正直に言ってくれ!!」
「ツカサ君言わなくていいよ! もうさっさと帰ろう!」
「う、ぐ……うぐぐぐ……」
だけど、このまま帰るわけにはいかない。
またブラックがヘソを曲げるだろうけど、でもこれは俺達にも関わる事だし、なによりクロウが心配している弟を放っておくのは仲間として出来ない……。
「ツカサ……」
「う……で、出来ます……。でも、ちょっと問題があるんですけど……」
「問題があっても構わん!! 頼む、今すぐにノロイとやらをどうにかしてくれ、ルードの事を救ってやりたいのだ!!」
そう言われると……俺も弱いわけで……。
だって、救ってやりたいなんて兄心を見せられたら、兄弟が欲しかった俺としては、ジーンとくるものがあるわけでして……。
「…………わかりました。今から行きましょう……」
観念して声を絞り出すと、右と左から立体音響でため息が聞こえる。
……そういえば俺は何故三方をオッサンで固められているんだろうか。
軽く現実逃避しながらそう思ったが、現実は一ミリも変化してくれなかった。
→
※めちゃ朝になっちゃった…:(´◦ω◦`):スミマセ…
そんな中でもイイネとエールありがとうございます!!
難しい場面も頑張ってかけました!!!
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