異世界日帰り漫遊記!

御結頂戴

文字の大きさ
927 / 1,149
迷宮都市ヘカテクライオ、秘めたる記憶と誘う手編

3.護国庁に現る傑物

 
 
   ◆



「さ、こちらへ」

 俺達を検問した警備兵が、わざわざ馬車を開けてくれる。
 王都の兵士しての礼儀……しかも、ブラックが限定解除級の激強げきつよ曜術師だからか、俺達のあつかいは非常に丁寧ていねいだ。藍鉄あいてつだって「兵士が使う厩舎きゅうしゃで大切にお預かりします」だったしな。まあ俺はオマケ感が否めないが、それは置いといて。

 うやまわれるべきはブラックだろうなと思い一番に馬車を出るのをゆずると、ブラックは複雑そうな顔をしたが素直に馬車を下りた。
 俺も出ようとすると、兵士が手を差し伸べてくる……が、それを阻止するかのように、ブラックが俺の手首をつかんでムリヤリ引き降ろした。

「ツカサ君は僕の恋人だから、そういう気遣きづかいはいらない」
「ちょっ……」
「は、はっ。左様で……」

 ブラックがにらむのを見て、また兵士さんがビクッと震えあがる。
 おいおい、何を怖がらせてるんだお前は。さっきのは、俺が降りやすいように手を差し伸べてくれただけだろうに。そんな威嚇いかくするんじゃないよ。

「ブラック! アレはただの礼儀ってか手助けだってば!」
「いーや信用ならない。ツカサ君はすぐ変なオスに目を付けられるんだから……」
「お前が言うかそれを」
「あの~……ご、ご案内を……」

 思わずツッコミを入れてしまったが、今はグズグズしてらんないんだった。
 俺はブラックの肩を小突こづくと、兵士さんの方を向く。と、相手はやっと安堵あんどしたかのように息を吐き、馬車を停車させたロータリーから階段を上がり始めた。
 白く横長の、大きな階段だ。

 その登る動きに合わせて上を見て、俺は建物の全景を確認した。

「ここが護国庁ごこくちょう……」

 見上げた建物は、やっぱりでっかい。
 三階建ての大きな西洋風建築ってのは今までも見た事があったし、神殿風な感じで階段の先にでっかい両扉がある建物も見た事があったけど……この建物は白を基調にしていて、なんかこう……俺の世界の国会議事堂を思い出すな……。

 三階建てとはいえ、横に広がる建物は屋根も同じ高さだし、真ん中だけその横にびた屋根より一段高いからかもしれない。いやまあ、中央以外は普通の屋根だから、議事堂みたいに全部白いってワケじゃないんだけどね。
 この建物の雰囲気ふんいきだって、やっぱり異世界っぽいわけだし。

 そう思って見上げた真正面は、やっぱりファンタジーな物がかかげられている。
 中央に三角錐さんかくすいの屋根の塔が埋め込まれた建物は、その屋根のすぐ下に特徴的な紋章を取り付けているのだ。
 その紋章は、やっぱり俺の世界のモノとは少し違う。

 この国の騎士団か兵士の紋章なのか、下が鋭角になった盾型の枠の中には開いた門が描かれており、その中央には美しい龍のようなものが舞っていた。

 これが護国庁ごこくちょうの紋章ってやつなんだろうか。
 門も西洋風の華美な感じだけど、そこに東洋風の龍ってのが不思議だな。

 いや、この世界だと東洋風の「龍」は神様サイドの使徒だから、ありがたい存在なんだっけか。人類を守ってくれる神獣ゆえシンボルになってるのかも知れない。
 でも確か……ラスターがひきいる騎士団の紋章とは違うような気がする。

 これは一般的なライクネスの兵士が使うものなのかもしれない。

 そんな紋章がかかげられた白亜の建物か……うーん、なんか緊張してきたぞ。
 言わば国防のかなめみたいな所だろうし、失礼な事だけはやらかさないようにしよう。心の中でそう思いながら、開かれた扉の中に入る。

 エントランスホールは緋毛氈ひもうせんかれた高級な作りで、華美ではないものの王都の施設だと言う事をしっかり思い知らせるような調度品や、なんかマッチョな彫刻が美術館のようにポツポツと設置されていた。

 何故マッチョ。ちからの象徴ってヤツなんだろうか。
 怪訝けげんな目でポージングを決める彫刻を流し見つつ、俺達は受付を経て応接室で“担当の者”を待つことになった。

 兵士さんも一応同行してくれていて、ソファに座る俺達の後ろに待機しているのだが、これはこちらの見張りもねているのかも知れない。
 まあそのくらいの警戒は当然だよな。

 にしても……応接室というにしてはシンプルな部屋だな。
 なごませ要素なのか花をけた花瓶かびんや絵画はあるが、それ以外のものとなると椅子机の他には紋章入りのタペストリーや、この国の警備兵のお仕事とか偉業をたたえる張り紙くらいしか見るものが無い。

 でも、張り紙の内容にはちょっと興味を引かれるな。
 ライクネスは【勇者】や騎士団が人気みたいだけど、兵士も兵士で結構治安維持に頑張っているらしい。侵入してきた盗賊団の捕縛や、悪質な奴隷商人達の摘発てきはつなど、街を中心に活躍してるっぽいな。

 この国の騎士団は、各地に出向いて仕事をするらしいし……それを考えると、兵士との差別化が出来てるってことなんだろうか。
 ……そういや俺、ラスター以外の騎士ってほぼ見たことない気がするぞ。
 騎士団も【勇者】と同じように地方を飛び回っているからなのかな。

 だとすると、中々に大変な仕事だなぁ……。
 いやまあ、大都市の治安維持ってのも相当大変な仕事なんだけどさ。

 そんなことを考えながら、兵士達の功績一覧ポスターをながめていると――――扉をコンコンとノックする音が聞こえた。ややあって、人が入ってくる。

「やあ、お待たせして申し訳ない。貴方がたが【モンペルク】からの使いか」

 凛々しくて重みのある……女性の声。
 なにっ、女性だと。

 思わず振り返った俺の目に入ってきたのは――――

「はわっ……! じょ、女性の兵士さん……!?」

 思わずときめいた声をらしてしまったが、それも仕方ないだろう。
 なんせ、部屋に入ってきたのは長身でスタイル抜群な美女だったのだから……!

「やあ、可愛い子から熱い視線を受けるなんて悪くない。たまには事務も引き受けてみるものだな! はっはっは!」

 そう言って快活に笑う彼女は、俺達の向かい側のソファに座る。
 ううむ、やっぱり女性としてはかなり身長が高い。ブラックといい勝負だ。それに、俺よりもガタイが良くて鎧が似合っている……つまりはマッスル美女か。

 でも、その反面彼女の顔はかなりすずやかな感じに整っている。
 美男美女が大半であるこの異世界においても、一際ひときわ目立つ容貌だ。眉は細く整いキリリとしていて、二重の目は長い睫毛まつげふちどられている。高く細い鼻梁びりょうと常に笑みをたたえる唇は、ふとすれば可憐なご令嬢にも思えた。

 けれど、自信に満ちた凛々しい表情が、彼女を男勝りにしているのだ。
 じれ一つない銀に輝く髪を肩に流して微笑む様は、女性ではあるが男以上に威厳を感じる雄々しさに満ちていた。

 こ、これが女騎士……じゃなかった女兵士さん……!
 本物を見ると、「くっ、殺せ!」とか思う間もなく格好いいと思っちゃうな。
 こんなお方、男も女も関係なく惚れちゃいますわ……まさかお役所みたいなところでこんな素晴らしい出会いがあるなんて……さてはラッキーデイなのか!?

 今からこんな美女と会話できるとか嬉し…………。

「つーかーさーくーんー?」
「ごっ、ゴホゴホ! あ、え、ええと……自己紹介した方が?」

 俺は何も考えてない考えてないぞ。鼻の下なんて伸ばしてません。
 だから横から凄い顔でにらんでくるんじゃない。話を進めよう。

 そう思って美し格好いいお姉さんを見やると、相手は俺にニコッと笑ってくれた。
 うっ…美女の微笑み……! ありがとうございます!

「では、私から自己紹介させていただこう。私はイライザ。イライザ・クルーシャルという者だ。役職は護国警備隊総兵士長をやらせて貰っている」
「ごこ……っ、えっ、じゃっ、じゃあ一番偉い人……っ」
「イライザ・クルーシャル……あの【銀獅子ぎんじしのイライザ】と呼ばれる女戦士か」

 えっ。そんな格好いい二つ名があるんですか。
 ていうか何でそんな事を知ってるんだよブラック!
 それくらい有名って事なのか。それともお前もまさかイライザさんに注目してたっていうのか。強敵は記憶に残っているってヤツか!?

 二人の顔を交互に見て問うかどうか迷っていると、イライザさんがまた笑った。

「はっはっは! いやあ“紫月しげつ英傑えいけつ”に名を覚えられていたとは光栄だな。それとも“炎髪えんはつの美剣士”のほうが良かったか?」
「二度とその名で呼ぶな」
「わあッやめろブラック剣を抜こうとするな!! す、すみませんすみません!」
「おっと君は二つ名が嫌いだったのか。それはすまない」

 急に殺意を出してイライザさんに剣を抜こうとするブラックを止めるが、イライザさんは全く怖がっていないようだ。
 かなりの胆力の持ち主なのか、それとも事がおさまると確信しているのか……ううむあなどれない人というのは確かみたいだな。

 ともかく話を早く終わらせたいんだろ、とブラックをなだめすかしつつ俺はイライザさんに自分達の名前を告げて本題を切り出した。

「しょ、書類を読んですでにご存じとは思いますが……俺はツカサでこっちがブラックです。それで、さっそくなんですが……」
「うむ、例のびんだな。それと報告か。今一度詳細を話して貰いたい」

 笑みを収めたイライザさんは、俺達に真剣なまなざしを向ける。
 この人なら全てを信じてくれそうな気がするけど、まだわからないよな。

 相手はこの国の兵士を統括する“総兵士長”なのだ。
 快活に笑う女美丈夫という感じだけど、でもその地位にいるのなら、それだけではないはず。こっちも覚悟してかからないとな。

 そう考えて少し緊張しながら、俺達はイライザさんに全てを話した。












 
感想 1,277

あなたにおすすめの小説

愛されたいだけなのに

まさお
BL
我儘令息だったノアは一回目の人生で最愛の人からの裏切りの末、殺される。 気がつくと人生が巻き戻っていて人生二週目が始まる。 しかしまた殺される。 何度も何度も繰り返した人生の中で自分が愛されることを諦めてしまう。

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕

みやこ嬢
BL
2023/01/27 完結!全117話 【強面の凄腕冒険者×心に傷を抱えた支援役】 孤児院出身のライルは田舎町オクトの冒険者ギルドで下働きをしている20歳の青年。過去に冒険者から騙されたり酷い目に遭わされた経験があり、本来の仕事である支援役[サポーター]業から遠退いていた。 しかし、とある理由から支援を必要とする冒険者を紹介され、久々にパーティーを組むことに。 その冒険者ゼルドは顔に目立つ傷があり、大柄で無口なため周りから恐れられていた。ライルも最初のうちは怯えていたが、強面の外見に似合わず優しくて礼儀正しい彼に次第に打ち解けていった。 組んで何度目かのダンジョン探索中、身を呈してライルを守った際にゼルドの鎧が破損。代わりに発見した鎧を装備したら脱げなくなってしまう。責任を感じたライルは、彼が少しでも快適に過ごせるよう今まで以上に世話を焼くように。 失敗続きにも関わらず対等な仲間として扱われていくうちに、ライルの心の傷が癒やされていく。 鎧を外すためのアイテムを探しながら、少しずつ距離を縮めていく冒険者二人の物語。 ★・★・★・★・★・★・★・★ 無自覚&両片想い状態でイチャイチャしている様子をお楽しみください。 感想ありましたら是非お寄せください。作者が喜びます♡ ムーンライトノベルズにて改稿版を掲載しました。