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迷宮都市ヘカテクライオ、秘めたる記憶と誘う手編
3.護国庁に現る傑物
◆
「さ、こちらへ」
俺達を検問した警備兵が、わざわざ馬車を開けてくれる。
王都の兵士しての礼儀……しかも、ブラックが限定解除級の激強曜術師だからか、俺達の扱いは非常に丁寧だ。藍鉄だって「兵士が使う厩舎で大切にお預かりします」だったしな。まあ俺はオマケ感が否めないが、それは置いといて。
敬われるべきはブラックだろうなと思い一番に馬車を出るのを譲ると、ブラックは複雑そうな顔をしたが素直に馬車を下りた。
俺も出ようとすると、兵士が手を差し伸べてくる……が、それを阻止するかのように、ブラックが俺の手首を掴んでムリヤリ引き降ろした。
「ツカサ君は僕の恋人だから、そういう気遣いはいらない」
「ちょっ……」
「は、はっ。左様で……」
ブラックが睨むのを見て、また兵士さんがビクッと震えあがる。
おいおい、何を怖がらせてるんだお前は。さっきのは、俺が降りやすいように手を差し伸べてくれただけだろうに。そんな威嚇するんじゃないよ。
「ブラック! アレはただの礼儀ってか手助けだってば!」
「いーや信用ならない。ツカサ君はすぐ変なオスに目を付けられるんだから……」
「お前が言うかそれを」
「あの~……ご、ご案内を……」
思わずツッコミを入れてしまったが、今はグズグズしてらんないんだった。
俺はブラックの肩を小突くと、兵士さんの方を向く。と、相手はやっと安堵したかのように息を吐き、馬車を停車させたロータリーから階段を上がり始めた。
白く横長の、大きな階段だ。
その登る動きに合わせて上を見て、俺は建物の全景を確認した。
「ここが護国庁……」
見上げた建物は、やっぱりでっかい。
三階建ての大きな西洋風建築ってのは今までも見た事があったし、神殿風な感じで階段の先にでっかい両扉がある建物も見た事があったけど……この建物は白を基調にしていて、なんかこう……俺の世界の国会議事堂を思い出すな……。
三階建てとはいえ、横に広がる建物は屋根も同じ高さだし、真ん中だけその横に伸びた屋根より一段高いからかもしれない。いやまあ、中央以外は普通の屋根だから、議事堂みたいに全部白いってワケじゃないんだけどね。
この建物の雰囲気だって、やっぱり異世界っぽいわけだし。
そう思って見上げた真正面は、やっぱりファンタジーな物が掲げられている。
中央に三角錐の屋根の塔が埋め込まれた建物は、その屋根のすぐ下に特徴的な紋章を取り付けているのだ。
その紋章は、やっぱり俺の世界のモノとは少し違う。
この国の騎士団か兵士の紋章なのか、下が鋭角になった盾型の枠の中には開いた門が描かれており、その中央には美しい龍のようなものが舞っていた。
これが護国庁の紋章ってやつなんだろうか。
門も西洋風の華美な感じだけど、そこに東洋風の龍ってのが不思議だな。
いや、この世界だと東洋風の「龍」は神様サイドの使徒だから、ありがたい存在なんだっけか。人類を守ってくれる神獣ゆえシンボルになってるのかも知れない。
でも確か……ラスターが率いる騎士団の紋章とは違うような気がする。
これは一般的なライクネスの兵士が使うものなのかもしれない。
そんな紋章が掲げられた白亜の建物か……うーん、なんか緊張してきたぞ。
言わば国防の要みたいな所だろうし、失礼な事だけはやらかさないようにしよう。心の中でそう思いながら、開かれた扉の中に入る。
エントランスホールは緋毛氈が敷かれた高級な作りで、華美ではないものの王都の施設だと言う事をしっかり思い知らせるような調度品や、なんかマッチョな彫刻が美術館のようにポツポツと設置されていた。
何故マッチョ。力の象徴ってヤツなんだろうか。
怪訝な目でポージングを決める彫刻を流し見つつ、俺達は受付を経て応接室で“担当の者”を待つことになった。
兵士さんも一応同行してくれていて、ソファに座る俺達の後ろに待機しているのだが、これはこちらの見張りも兼ねているのかも知れない。
まあそのくらいの警戒は当然だよな。
にしても……応接室というにしてはシンプルな部屋だな。
和ませ要素なのか花を生けた花瓶や絵画はあるが、それ以外のものとなると椅子机の他には紋章入りのタペストリーや、この国の警備兵のお仕事とか偉業を讃える張り紙くらいしか見るものが無い。
でも、張り紙の内容にはちょっと興味を引かれるな。
ライクネスは【勇者】や騎士団が人気みたいだけど、兵士も兵士で結構治安維持に頑張っているらしい。侵入してきた盗賊団の捕縛や、悪質な奴隷商人達の摘発など、街を中心に活躍してるっぽいな。
この国の騎士団は、各地に出向いて仕事をするらしいし……それを考えると、兵士との差別化が出来てるってことなんだろうか。
……そういや俺、ラスター以外の騎士ってほぼ見たことない気がするぞ。
騎士団も【勇者】と同じように地方を飛び回っているからなのかな。
だとすると、中々に大変な仕事だなぁ……。
いやまあ、大都市の治安維持ってのも相当大変な仕事なんだけどさ。
そんなことを考えながら、兵士達の功績一覧ポスターを眺めていると――――扉をコンコンとノックする音が聞こえた。ややあって、人が入ってくる。
「やあ、お待たせして申し訳ない。貴方がたが【モンペルク】からの使いか」
凛々しくて重みのある……女性の声。
なにっ、女性だと。
思わず振り返った俺の目に入ってきたのは――――
「はわっ……! じょ、女性の兵士さん……!?」
思わずときめいた声を漏らしてしまったが、それも仕方ないだろう。
なんせ、部屋に入ってきたのは長身でスタイル抜群な美女だったのだから……!
「やあ、可愛い子から熱い視線を受けるなんて悪くない。たまには事務も引き受けてみるものだな! はっはっは!」
そう言って快活に笑う彼女は、俺達の向かい側のソファに座る。
ううむ、やっぱり女性としてはかなり身長が高い。ブラックといい勝負だ。それに、俺よりもガタイが良くて鎧が似合っている……つまりはマッスル美女か。
でも、その反面彼女の顔はかなり涼やかな感じに整っている。
美男美女が大半であるこの異世界においても、一際目立つ容貌だ。眉は細く整いキリリとしていて、二重の目は長い睫毛に縁どられている。高く細い鼻梁と常に笑みを湛える唇は、ふとすれば可憐なご令嬢にも思えた。
けれど、自信に満ちた凛々しい表情が、彼女を男勝りにしているのだ。
捩じれ一つない銀に輝く髪を肩に流して微笑む様は、女性ではあるが男以上に威厳を感じる雄々しさに満ちていた。
こ、これが女騎士……じゃなかった女兵士さん……!
本物を見ると、「くっ、殺せ!」とか思う間もなく格好いいと思っちゃうな。
こんなお方、男も女も関係なく惚れちゃいますわ……まさかお役所みたいなところでこんな素晴らしい出会いがあるなんて……さてはラッキーデイなのか!?
今からこんな美女と会話できるとか嬉し…………。
「つーかーさーくーんー?」
「ごっ、ゴホゴホ! あ、え、ええと……自己紹介した方が?」
俺は何も考えてない考えてないぞ。鼻の下なんて伸ばしてません。
だから横から凄い顔で睨んでくるんじゃない。話を進めよう。
そう思って美し格好いいお姉さんを見やると、相手は俺にニコッと笑ってくれた。
うっ…美女の微笑み……! ありがとうございます!
「では、私から自己紹介させていただこう。私はイライザ。イライザ・クルーシャルという者だ。役職は護国警備隊総兵士長をやらせて貰っている」
「ごこ……っ、えっ、じゃっ、じゃあ一番偉い人……っ」
「イライザ・クルーシャル……あの【銀獅子のイライザ】と呼ばれる女戦士か」
えっ。そんな格好いい二つ名があるんですか。
ていうか何でそんな事を知ってるんだよブラック!
それくらい有名って事なのか。それともお前もまさかイライザさんに注目してたっていうのか。強敵は記憶に残っているってヤツか!?
二人の顔を交互に見て問うかどうか迷っていると、イライザさんがまた笑った。
「はっはっは! いやあ“紫月の英傑”に名を覚えられていたとは光栄だな。それとも“炎髪の美剣士”のほうが良かったか?」
「二度とその名で呼ぶな」
「わあッやめろブラック剣を抜こうとするな!! す、すみませんすみません!」
「おっと君は二つ名が嫌いだったのか。それはすまない」
急に殺意を出してイライザさんに剣を抜こうとするブラックを止めるが、イライザさんは全く怖がっていないようだ。
かなりの胆力の持ち主なのか、それとも事が収まると確信しているのか……ううむ侮れない人というのは確かみたいだな。
ともかく話を早く終わらせたいんだろ、とブラックを宥めすかしつつ俺はイライザさんに自分達の名前を告げて本題を切り出した。
「しょ、書類を読んで既にご存じとは思いますが……俺はツカサでこっちがブラックです。それで、さっそくなんですが……」
「うむ、例の瓶だな。それと報告か。今一度詳細を話して貰いたい」
笑みを収めたイライザさんは、俺達に真剣なまなざしを向ける。
この人なら全てを信じてくれそうな気がするけど、まだわからないよな。
相手はこの国の兵士を統括する“総兵士長”なのだ。
快活に笑う女美丈夫という感じだけど、でもその地位にいるのなら、それだけではないはず。こっちも覚悟してかからないとな。
そう考えて少し緊張しながら、俺達はイライザさんに全てを話した。
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