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緑望惑堂ハイギエネ、霊蛇が隠すは真理の儀仗編
3.本を識る人1
◆
「瞳の棟」は、クラシックな雰囲気を重視しているのか、飴色を基調とした木製の壁や装飾が特徴的な建物だ。
なんかこう……ゴシック~だとかバロック~とかいう単語が思い浮かぶが、正確な所は俺にはよく解らない。ともかく、艶めく飴色の壁が暖色の明かりに淡く照らされていて、格式高い建物だと言う事を感じさせた。
分厚い木の板を丁寧に削って作ったのだろう壁の浮彫の装飾は圧巻だが、ここまで贅沢に木材を使った建物ってのはあまり記憶にない気がする。
普通、どこのお城でも壁紙とかだもんな。
なのにこの「瞳の棟」は、壁紙なんてどこにも見当たらない。
まるで巨木から切り出したような一枚板を惜しげも無く壁に詰めているなんて、この世界でもかなり珍しいんじゃないか。
いや、これだけ木の曜術師がいるからこそ可能なのかな?
というか、手間暇がかかり過ぎるからみんなやらないだけなのかも。
こういったファンタジーな世界なら、大樹なんていくらでもありそうだし……切り出すのも、曜具があれば可能だろう。なのにあまり見かけないという事は、造るのも相当に面倒臭いのかも知れない。
もしくは、木属性の曜術師が関わってるから出来る建築と言う事か……?
まあともかく、荘厳ながらも独特な感じってのは間違いないな。
そんな建物だからなのか、全てが徹底的に木製のモノで作られている。
床も大理石かと思いきやなんと石のように色を鈍く反射する硬い木材で、高い天井の上から吊り下げられているキラキラしたシャンデリアも木製だという。
金色に光っているのに、あれも金属じゃないのか。
驚くと、イスヤ学院長は「私ども薬師が扱う薬草と同じように、樹木にも特殊なものが存在するのですよ」と笑っていた。
そういえば……確か、トランクルで家具を作る時に、樵のおじさんから特殊な木材の話を聞いたような気がする。
確か、この世界では樵や木工職人が木製の家具を作ってくれるんだけど、その時に特殊な強化剤とか木材で、耐久度や様々な効果を追加できるんだよな。
それに、魔素を退ける木や、この前知った【エレマニ】という中まで白い木材の話もある。そういやどれもこの近くで聞いた話だな。
ライクネス北部でこういう特殊な木材がよく使われるのって、もしかして北部に木の曜術師が集まってたからなのかな?
……って、今はそんなことを考えてる場合じゃないか。
ともかく、俺達はイスヤ学園長に連れられて、院長室に足を運ぶ事になった。
そこで、学院の中の様々な場所に入るための許可証の書類に目を通す事になったのだが……予想通りというか何と言うか、やはり入出には制限が付いていた。
研究室棟は危険だからと言う名目で禁止だし、毒草を取り扱う薬草園には必ず院の責任者が付き添わねばならない。まあ、これは当然だし良いんだけど、学生寮の学士達の個室も立ち入り禁止ってのは少々意外だった。
そんなこと考えてもいなかったから驚いたけど、これはたぶん学院から何かを持ち出す取引とかを防ぐためなんだろうな。
危険物や貴重品も多い学院だから、それはまあ致し方ない。
むしろ、このような制限はあるだろうと予測していた。
しかし……これで図書室になんの制限もついてなかったのが解せない。
貴重な資料の宝庫だと言うのに、まったく警戒されていないのだ。
俺達が、というかアドニスが上手く誘導して「図書館の蔵書を見たい」と話をした時も、二つどころか一つ返事で「ぜひご覧ください!」だもんなぁ……。
この世界でも他の異世界と一緒で本は高価なものだし、どう考えても気軽に許可を出すなんておかしいと思ってたんだが――――
その疑問は、実際に図書館に到着すると、すぐに解消されることとなった。
「まさか……無断持ち出し厳禁の“おまじない”が仕掛けてあるとはな……」
俺の背丈より数段高い本棚から本を取り出しつつ、呟く。
――――そう。それが、来客にも図書館を解放出来ている理由だ。
この図書館の入口には、なんと「貸出カウンターを通らず本を持って行こうとした人を見分けて、無断持ち出しをさせない」おまじないが仕掛けてあったのだ。
「もし持ち出そうとしたら、入り口を潜る前に警戒音が鳴るんだよな。……俺の世界の万引き防止センサーみたいなものなんだろうか……?」
たぶん、曜具を使用しているのだろうが、でも曜具の姿がどこにもないんだよな。
まあ、対策されないように隠されているんだろうけど、ともかく出入りできる場所が一か所しかなく窓も無いので、回避不可能ってワケだ。
来客でも出入りできるのは、そのシステムに自信があるからなんだろう。
まあ、俺達にとってありがたい事ではあるんだけど……。
「でも、やっぱり重要な記録とかは見当たらないんだよなぁ……」
中二階まで作られている巨大な図書館なので、目的のものに関連する本があるかも知れないと探しているんだけど……まったくと言っていいほど見当たらない。
いや、貴重な本がいっぱいあるのは分かるんだけど、魔女だとか薬師以外が作る薬について詳しく書かれているような本が無いのだ。
あっても「民間人の薬草利用について」とか、曜術師じゃない人達が薬草を使う時の様子や統計なんかを記録した本くらいで、魔女のマの字もなかった。
四人がかりで小一時間ほど探しているんだけど、それでも誰も「見つけた」と言わないって事は……やっぱりブラック達も見つけられていないんだろう。
ブラックは本を読む速度が尋常じゃ無く早いし、ちょっとでも記述があるならすぐ発見できる凄い能力を持ってるのに、それでも未だに動きが無いのだ。
ってことは、やっぱりここには無いってことなんだろうか?
……いや、俺もまだ担当の場所全部を探し終えてないんだから、がっかりするのは早いよな。気を抜かずに最後まで探さねば。
そう思い、俺は自分に割り当てられた場所の最後の区域――図書館の端の方の棚を見るために、その棚の列に入ろうとした。と。
「ぶぐっ!?」
曲がった瞬間、何かにぶつかって思いっきり変な声を出してしまう。
思っても見ない衝撃に耐え切れず尻もちをついてしまったが、一体何にぶつかったのか。あの感触は棚では無かったんだが。
そう思い、正面を見やると。
「っあ、も、申し訳ないだすっ……い、いや、ですっ! 大丈夫スか!」
非常に聞き覚えのある声と、特徴的な方言口調。
ぶつかったのは――――なんと、ラスコーと呼ばれていたあの勉ぞ……ゴホン。
分厚い瓶底眼鏡で目を隠した、ヒョロながのお兄さんだったのである。
「あなた、ラスコーさん……? どうしてここに?」
「えっ、あっ!? い、いやそれはこっちの台詞ダスよ、なすて学院に……?」
俺の手を掴んで立ち上がらせてくれる、意外と力の強い相手。
困惑したように眉をハの字に歪めているが、説明して良い物だろうか。
そうは思ったが、いや、と思い直す。
ラスコーさんはこの学院の学士……つまり生徒なのだ。
生徒ならば俺達が知らない事も知っているかもしれない。
魔女の薬って情報だけなら、俺達の目的を見抜けるワケもないだろうし、手伝って貰った方がより正確な情報を得られる可能性が高いよな。
そう思い、俺はラスコーさんに「薬師以外が作る薬」の記述がある本を探していると説明した。……もちろん、自分がアドニスの弟子であり、師匠がそうのような本を探している、というウソの情報を織り交ぜて。
こうすれば、詳しい事は聞かれないし、俺も会話でボロを出さずに済む。
魔女の薬なんて、普通の人には絶対に作れないシロモノだけど……もしかすると、似たような危険な薬を作る人が出て来ちゃう可能性もあるからな。
ラスコーさんはそんな人ではないだろうが、用心は大事なのだ。
なので、なるべく色々ぼかした説明をしたのだが、ラスコーさんは俺を疑う素振りも無く「なるほど」と頷き、考えるように腕を組んでいた。
「あの高名なアドニス様のお弟子さんとは……どうりで高潔で……。ううむ、分かったダ……です! ワスで良ければ協力するッスよ!」
「ホントですか!? ありがとうございます!」
隠しきれない方言がこぼれ出てしまっているが、もう何も言うまい。
協力して貰えるのが素直にありがたくてお礼を言うと、何故かラスコーさんは硬直し、驚いたようにまじまじと俺を見やる。
あれっ、ど、どうしたんだろうか。
何かマズい事でも言ってしまったのだろうかと不安になったが、そうでは無かったようで、ラスコーさんは慌てて顔を少し背けると、ポリポリと頭を掻いた。
「え、えと……ともかく、心当たりのある本がいくつかあるから、ここの机に持ってくるッス!」
あがり症なのか、顔が赤くなってしまっているラスコーさんは、俺の返事も聞かずにささっと俺の前から消えてしまった。
行動が早いな。いやありがたいけども。
「……本を持ってきてくれる間に、最後の棚を見ておくか」
そんなことを思いながら、ざっと棚を見ようとすると――――ラスコーさんがすぐ戻ってきて、俺が確認する前の棚から数冊抜き出すと、俺に呼びかけて来た。
「このくらいスかね。あのっ、一応ワスが思い当たるぶんは見つけて来たので、机にどんぞ。ささ、こっちッス」
「えっ、もう見つけてくれたんですか!?」
あれから十分も経ってないんだけど!?
思わず驚いてラスコーさんを凝視すると、相手は赤面して、目を逸らすように顔を軽く横に向けてしまった。めちゃめちゃ照れてるな。
でも、探してきてくれたのは本当にありがたい。
「あっ、え、えと、その、目的のものっぽい記述がある場所、教えるんで……!」
「それも助かる……! よろしくお願いします!」
俺だけでは探すのに苦労していたのだ。
ガイドが横に居てくれたら、調べ物もスムーズに行くかもしれない。
……つーか、本の記述を正確に覚えているのってかなり頭がいい証拠だよな。
【味材】の腕は最悪だけど、やはりラスコーさんは優等生のようだ。
そんな風に色んな書物から特定の文字を抜き出せるほど覚えていられる人なんて、ブラック以外で初めて見たかもしれない。
何にせよ、今は物凄く助かる。
ラスコーさんの優しさには感謝してもしきれないと思いつつ、俺は最後の本棚からも書物を数冊抜き出して抱えているラスコーさんを見ながら、彼が目的の本を積んでおいてくれている場所へ向かった。
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