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緑望惑堂ハイギエネ、霊蛇が隠すは真理の儀仗編
12.今回ばかりは弟子として1
「さて、決意表明もしたことですし薬草園に急ぎますか。あの謎生物には何が効果的なのか分からない以上、状態異常を起こす薬は様々な種類を多めに作っておかねば」
あの、俺を置いてさっさと話を進めないでくれませんか。
さっきのことを説明して欲しいんですが、アドニス先生。
目で強く訴えかけてみるが、さっきあんな事を行ったくせに俺のこの熱い視線には気付かないらしい。背中が遠くなっていく……って置いてくなよ!!
慌てて追いかけて再び横に並ぶと、ようやくアドニスは俺を見る。
……おい、なんだその満足気な感じの「ふっ」て顔は。
からかってるなら怒るからなと睨むが、アドニスは何を考えているのかもハッキリと判断できないアルカイックスマイルで俺を見下ろすばかりだ。
く、くうう……コイツが何を考えてるのか全然わからん……。
恋愛感情でやらしいことをするって言ってたけど、どういうこと。
あ……アドニスってこんなこと言うヤツだったっけ……?
横を歩きながらも、まだ相手の言葉の意味が理解できなくて、さっきの変な宣言がぐるぐると頭の中を飛び回る。
恋愛感情。恋愛感情って、なんだ。
アドニスが俺を好きってことか?
いや、それは、その……否定できない事ではあるけど。
でもアドニスってこんな事を言うようなヤツでは無かったんじゃないか。
いつも飄々としているし、俺のコトも好きと言いつつからかってばっかりだし、正直な話そういう感情とちょっと違う「好き」なんじゃないかとも思ってたのに。
……だって、アドニスの行動はブラックと全然違うし……。
そう思うのも当然だろ?
ブラックは源泉かけ流しかってくらいの勢いでスキスキ言ってくるけど、でもその時は抱き締めて来たり、その……好きじゃないヤツにはしないことばっかりしてくるから、恋愛なんて初めてな俺だって「ああ、これがそうなんだ」と納得してしまえる説得力があったワケで。
こ、恋人ってホントにこんな風にイチャイチャすんだなって、俺も思ったんだよ。
でもアドニスはそういうんじゃないじゃないか。
俺のダチみたいにからかってくるし、自分の顔の良さを知ってるのかってくらいに、わざとらしく近付いて来ては「冗談ですよ」って感じで俺をおちょくるし。
だから、真面目に俺を想ってくれているのは分かってるけど、やっぱりブラックと俺の関係みたいな「好き」じゃないのではって、心のどこかで思ってたんだ。
そもそも、アドニスは俺にえっちな事をしてきたけど、それは実験目的って言うか、俺の曜気を絞るためっていうか……ともかく、ブラックみたいなスケベ心で俺の事をどうこうするって感じじゃ無かったじゃないか。
だから、性欲を伴わない「好き」だとばかり……。
っていうかアドニスのイメージだと、えっちな事を直接してくる感じに思えなかったんだよ。いや同性のスケベ心なんて想像しないんだけどさぁそもそもが!
と、ともかく……今までそういう感じだったから、びっくりしたんだよ。
「恋愛感情をもって辱める」とか言われて……。
…………ほ、本当にどういう意味なんだろう……。
っていうか、そんなことしたら間違いなくブラックが黙って無いと思うんだけど。
アドニスはそれも解っているだろうに、何でそんな事を言ったんだ。
もしかして、これも何かの作戦ってヤツなのか?
でも俺を動揺させてどうするんだよ。そうしたら何か良いコトが有るのか?
まさか、アドニスがブラックみたいに性欲のみで動くわけがないだろうし……。
「何を考えているかは知りませんが、薬草園に着きましたよ」
「え゛っ!?」
びっくりして周囲を確かめると、いつの間にか俺は渡り廊下に接したガラス扉の前に立ち止まっていた。い、いつの間に……。
「考え事をしながら歩くのは君の悪いクセですねえ。こういう事も、師匠として指導をするべきなんでしょうか」
「いっ、いいっ、しなくていいです! そんでここで何の材料を集めるんだ!?」
さっきの言葉があまりに衝撃的過ぎて、どうしても平然としていられない。
冷静に答えようとしたのだがつい声がつっかえてしまって、俺は慌てて取り繕う。
そんな姿が余程滑稽に見えたのか、アドニスは困り眉でくつくつと苦笑した。ぐ、ぐぬぬ、元はと言えばアンタのせいだってのに……!
「ああ、すみませんね。面白くてつい……。まあ、まず入りましょうか」
そう言いながら、アドニスはガラスの扉を開ける。
ここは……最初に訪れた薬草園かな。
誘われるままに中に入ると、やはり普通の植物園とは違う風景に再会した。
様々な植物が植わっているけど、観察するためじゃなく使用するために育てられているからか、薬草も木々も用途ごとに分かれているし、同じ植物が固まっている。
その方が使いやすいってのはそうなんだけど、やっぱちょっと違和感があるよな。
まあ俺も植物園なんて動物園に付属してるとこしか行ったことないんだが……。
「さて、まず一通り材料を集めましょうか」
「う、うん……なんの薬を作るんだ?」
「先程も言いましたが、状態異常の薬です。麻痺、蝕毒、混乱、睡眠……とりあえず一般的なものをそれぞれ二十本作りましょう。強いモンスターは、今挙げた様々な毒に耐性がある物もいますからね。あの図体だと一本では即効性も無いでしょうから、まとめてぶつけるために、その程度の量が必要なんですよ」
なるほど、あのチョウチンアンコウなモンスターは、かなりデカかったもんな。
そんな相手にぶつける薬なのだから、多めに持っておいた方が良いって事か。
ゲームだと、どんなモンスターでも一本だけ使えば効果が出るもんだけど、異世界では現実と一緒で致死量ってのがあるんだな……。
にしても、植物の毒を使うんだから、アドニスなら【緑樹のグリモア】の力で直接植物から毒をバーッとだしても良さそうなもんだが、どうして薬なんだろう。
「グリモアの力じゃ毒は出せないのか?」
純粋に疑問で問いかけると、アドニスは難しい顔で腕を組んだ。
「確かに、私と君であれば可能でしょうが……薬効を抽出して凝縮しますから、そこは薬を使った方がやはり手っ取り早いんですよ。それに、薬にしておいた方が、万が一精神が乱れた時でも使用できますからね」
「あ、そっか。確かに薬の方が使い勝手が良いもんな」
「ええ。それに、私も【グリモア】とは言っても、やはり器具を用いずに植物の毒を濃縮したり、植物の形そのものを変える力はありませんからねえ。素直に薬を作るのが確実ですよ」
あ……そっか、グリモアってそういう部分は厳格なんだっけ。
【緑樹】のグリモアは、俺と一緒で植物を種や現物なしで無限に出現させることが出来るけど、それだって「アドニス自身が持つ曜気が続くまで」という限定的なものだし、頭の中で想像した“存在しない植物”を出現させることもできないのだ。
それに、グリモアの力で出現させた植物は消えてしまう。
植物を新たに生み出したり、デタラメな生命力を持った植物を出現させたりってのは、俺のもつ【黒曜の使者】だけの特殊能力なのだ。
【グリモア】ってのも、案外面倒な制約が多いんだよな。
万能に思えるけど、弱点が無いってワケでも無いのがちょっと不思議でもある。
まあ、それは置いといて……薬ってのはやっぱ有用ってことだな。
解説に納得した俺にアドニスも満足したように頷くと、改めて植物園を見渡すように頭を動かして「ふむ」と声を零した。
「この際ですから……状態異常を起こす薬の調合も君に教えましょうか。全てを一気に教えると君は理解できないでしょうから、まずは一つということで」
「えっ、ホント!? やるやる!」
思ってもみない言葉についよろこんではしゃいでしまうが、アドニスは呆れず俺の顔を見て問いかけてくる。
「先程挙げた状態異常の薬のなかで、何を先に知りたいですか」
「えーと、そうだなあ……やっぱここは麻痺かな? 殺さずに捕獲するって時に役に立ちそうだし……」
「なるほど、冒険者の考え方ですね。……まあいいでしょう、では、実用的な麻痺毒を作る材料を教えます。私独自の調合なので、市販の薬より強力ですよ」
何故か機嫌良さそうにそう言いながら、アドニスは迷いなく目当ての薬草の方へと歩き出す。何故初めて探索する場所を知ったように動けるんだろう。
不思議に思ったが……考えてみればアドニスは【グリモア】だし、この世界の植物の知識に関しても申し分ないプロなのだから、目当ての薬草が在る場所なんてすぐに見分けられるのだろう。
うーむ、やっぱこういう所は普通に凄いよなあ、コイツ。
薬に関してなら、さっきみたいなヘンな事は挟んで来ないし……。
「どうしました、ツカサ君。さっさと採取して調合しますよ」
「はっ、はい!」
思わず弟子のように受け答えしてしまうが、これから調合を教わるのだから今回は本当に「弟子」として接した方が良いのかも知れない。
例え偽物だって、教わる時はキチンと教わる姿勢を見せないとな。
そんな事を考えつつ、俺はアドニスに付いて採取を手伝ったのだった。
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