番外 異世界日帰り漫遊記

御結頂戴

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クロウ×ツカサ

考えうる限りの一番最悪で幸運な事故 前編

 
 
リクエスト:クロウがツカサに完全挿入する話(下着越しに挿入とかもアリ)

 本編の設定準拠ですが、本編とはまったく関係ない話なので
 まあそう言う世界線も有るか…みたいな感じで見て頂けると嬉しいです。
 油断したらこうなるよねっていう。クロウも所詮ケダモノなので……。

 長くなったので切りました…_| ̄|○ 後編にエロ有りです。明日更新。
 クロウは嫁をシラフで褒めまくるタイプなので長くなりがちです…

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 とんでもない失態を犯してしまった。

 今更ながらに頭を抱えるが、だからと言って、この現状が変えられようはずもない。しかし、帰還した時の事を考えると頭が痛くなるのはどうしようもなく、クロウは今の状況にひたすら焦る事しか出来なかった。

(迂闊だった……。まさか、橋が落ちて谷間の川に流され、こんな場所に流れ着いてしまうとは……)

 ――事の起こりは、今朝。
 ブラックがウァンティア候(※シアンの事)に所用で呼ばれて、丸一日留守にする事になり、クロウとツカサはその間宿に待機する事になった所からだ。

 最初は大人しく宿で待っていたクロウとツカサだったが、しかし、いざ待機するとなると手持無沙汰で、どうにもつまらない。
 いや、クロウとしては寝ているだけで時間が過ぎた事だったのだが、小柄な故に活発なツカサにはその待ち時間が我慢できなかったらしく、彼は唐突に「ギルドに行って依頼を受けに行こう」と言い出したのである。

 ツカサが言うには、路銀が心許ないのでギルドで依頼を受けたいとの事だったが――まあ、あの出かける時のウキウキした可愛らしい態度からすると、ただ単に自分が冒険したかっただけだろう。

 この地域は来たばかりでまだ歩き回ってもないし、何よりツカサは風景や街の様子を見るのが大好きだ。新しい土地に来て、好奇心が疼いたに違いない。
 そういう所が幼くて可愛らしくてたまらず、クロウもつい「ツカサに付いて行く」と了承してしまったのだが……それがいけなかった。

 日帰りで出来る物をと選んだ依頼は、この街から少し離れた場所にある山間の森に生えていると言う、特殊な薬草の採取依頼。
 これだけなら、熊の足で半刻程度で行ける距離だったので、こちらとしても異論は無かったのだが……いざ着いてみると、この依頼が非常に厄介な物だった事に気付いてしまった。何が厄介かというと、まずこの森の“低さ”だ。

 森の木々は低木と言う訳でもないのに異常に背が低く、ツカサには問題のない高さであっても、クロウには非常に歩き辛い場所だった。しかも、何故か木の根は全てが土の中に埋もれており、地盤沈下でも起こったのかと思うような有様だった。
 そんな状態にもかかわらず、木々や草花はこれと言って枯れている訳でも無い。
 むしろ生き生きとしていて、本当に不思議な光景だった。

 しかし、それがこの森の真の姿の手掛かりであった事を、クロウは見逃してしまっていた。異常な低木の森という手がかりを掴んでいながら、クロウはまんまと森の罠に掛かってしまったのだ。……お蔭で、こんな状態になってしまった。

「グゥ……」

 喉の奥で思わず唸り声を鳴らしながら、周囲を改めて確認した。
 返す返すも、ここに来た経緯の迂闊さが悔やまれる。

 森の歩き辛さにばかり気を取られて、谷間の川を越える木の橋が老朽していた事に気付かず、ツカサと共に川に落ちて――――彼を守りながら流されていたら、いつの間にかこの場所にいた。

(やはり、変な空間だ……。一体なんなんだここは)

 今、クロウとツカサが居るのは、低木の森以上に異様な空間だ。
 見る場所全てが透き通ったナニカで形作られた、鍾乳洞のような場所。不思議と明るく視界に問題はないが、だからといって安心できるような光景では無かった。

 なにせ、鍾乳洞……のような形をしているが、全てが謎の物質によって形作られている洞窟だ。半透明で水色の地面や壁はどこを触っても柔く、まるでスライムのような感触で、どうにも危険な感じを覚えずにはいられなかった。ここがもしスライムの体内ならば、自分達は間違いなく消化されてしまう。それに、土の気配を感じられないココでは、曜術を使う事も難しい。
 ツカサも溺れかけて体力を消耗している。明らかに危機的状況だった。

(こんな場所に、ツカサを連れて来てしまうとは……)

 ちらりと隣を見やると、自分と同じようにずぶ濡れのままのツカサが、不安そうに辺りを見回しているのが目に入った。
 好奇心旺盛なツカサと言えども、やはり不安と怯えの方が勝ってしまったらしい。
 さもありなん、スライムの恐ろしさを知っていればこそ、このような空間には警戒せざるを得なくなってしまうのだから。
 けれど、ツカサは気丈にもこちらを見上げて来た。

「クロウ……大丈夫か……?」

 自分はあまり表情が出ない性質だというのに、優しいツカサはこちらの機微を敏感に感じ取って、細やかに心配してくれる。
 素直な性格のせいで眉は困ったように寄せられ、幼さの残るつぶらな目は、クロウの顔を一生懸命に見上げていた。その様子と言ったら、幼い獣にも勝る愛らしさで。こんな状況だというのに、目の前の愛しい少年は心を引き絞られるほどに魅力的だと心の中で悶えずにはいられなかった。

 改めて嫁にして孕ませたいと言う欲望が沸いて来るが、今はそんな将来を考える余裕はない。しかし、せめてツカサを不安にさせないようにはせねばと思い、クロウはいつもより少し胸を張って、大丈夫だと力強く頷いてやった。

「大丈夫だ、心配ない。……オレが責任をもってブラックに半殺しにされる」
「だからその覚悟は要らないってば! と、とにかく……ブラックが帰って来る前に早いとこ街に戻らないと……ぼーっとしてる場合じゃないよな」

 クロウの失態によってこの状況が引き起こされたと言うのに、それでもツカサはこちらの落ち度を糾弾しようともしない。きっと彼は自分に非があると思い込んで、己の迂闊さを恥じているのだろう。この現状は、自分よりもか弱いツカサを守る事が出来なかったこちらの失態に因るものだというのに……。

(ツカサ……本当にお前は優しすぎる……)

 ツカサ自身もブラックに淫らな罰を与えられてしまうかもしれないのに、それでも彼はクロウへの横暴を「自分がされる事より酷い」と思ってくれているのだ。
 そんなツカサの献身が、クロウにとっては何よりも心を温めてくれた。

(しかし、拷問と言うならツカサへの“お仕置き”の方が酷いと思うのだが)

 彼の中では武力による折檻の方が辛いと考えているようだが、クロウとしては、頭が狂うほどの快楽で躾けられる折檻も同等に怖い物だと認識している。

 現にツカサは今まで知らなかった快楽を教え込まれ、こんなに純粋無垢な少年だというのに、もうどこを触ってもオスの思い通りに反応してしまう熟れた体に作り変えられてしまっているのだ。全身が水に濡れて、張り付いたシャツに薄らと透ける健康的な色の平らな胸ですら、最早男らしい硬さなどない。

 ベストが無ければ、更に男を誘うだろう子猫の肉球のような可愛らしい色の乳首が透けている様を拝めるだろうに……と考え、クロウは邪な方向に曲がった己の思考を散らした。

(いかんな、ツカサが扇情的すぎて、どうにも股間が疼いてしまう……。何の事を考えていた。……ああそうだ。折檻の事だな。まあ、その折檻をツカサに与える側のオレが言う事ではないか……)

 しかし、オスであればそうなってしまうのは仕方がないとクロウは思う。
 何故なら、この幼さを残した少年は、酷くオスの情欲を誘うからだ。

 ツカサが“ならぬこと”を犯した時、ブラックはツカサを容赦なく断罪する。その時のツカサと言ったら、嗜虐心と性欲を掻き立てるような哀れな顔をするのだ。

 正直な所、そこまでの「約束破り」を犯したのかと思う時も有るのだが、ツカサのあの「お仕置き」と聞いた時の、青ざめて愛らしい大きな目を見開く顔と言ったら、追い詰められた獲物のようで興奮せずにはいられなくて。

 結局、クロウも獣人が最も尊ぶ本能……「欲望」を抑える事が出来ず、ブラックの「お仕置き」にかこつけて、おこぼれにありついてしまっていた。

 もちろん、暴力で無く悦楽と屈辱によってツカサを躾けるのは、ただの酔狂だけではない。彼は生来のお調子者で、喉元過ぎれば熱さを忘れるような根明な性格が故か、暴行を受けてもケロッとしている事が多いのだ。
 現に、ツカサは今まで何度も痛い目に遭っているというのに、自分に好意をもって接してくる相手であればすぐに気を許し、簡単に近付けてしまう。

 それでいてその失敗にヘラヘラと笑うのだから、始末に負えない。恐らくツカサは、故郷では何度も怒られ過ぎて、「怒られ慣れている」のだろう。それゆえに、彼は己の価値を見誤り、卑下し、いつもの事だからと笑って忘れてしまうのだ。身体的苦痛も、彼にとっては過ぎた事にしかならないのである。

 ――弱い痛みの経験だけでは、人は学ばない。
 だから、ツカサの自尊心を強く揺さ振る行為である性行為によって、彼の純粋な心を傷つけて躾けざるを得ないのだ。なにせ、彼はこの世界に来るまで人と肌の接触を持った事が無い、珍しいほどに初心な少年だったのだから。

 ……危機感と言う本能は、一度体感しなければ目覚めない。
 だからこそ、ブラックはツカサにとって一番効果的な「快楽による折檻」を行っているのだろう。まあ、変態的な趣味が多分に含まれてしまっているのは間違いないだろうが、そこは人の事を言えないので閉口しておく。

(やりすぎな所は否定しないが……こればかりは、ツカサが悪いな。オスを無意識に誘うような行動ばかりするから、ブラックが図に乗るんだ)

 そんな事を考えていると、ツカサが不意に呼びかけて来た。

「なあなあクロウ! この洞窟、向こう側から水が流れて来てるみたいだぞ。ちょっと調べてみたんだけど、そう遠くない所に水の出口があるみたい」

 いつの間にか気持ちを切り替えたらしいツカサが、四つん這いで床に両手両膝を付いたままこちらを振り返っている。
 どうやら水の曜術の最上位【アクア・レクス】を使って、水の通り道を把握してくれたらしい。四つん這いで振り向いているのは、頭痛が酷いからだろう。あの術は、使用すると情報量の多さからか副作用としてツカサに頭痛を齎すのである。
 本当なら使いたくなかっただろうに、クロウの事を思って使ってくれたのだ。

(ツカサ……お前は本当に優しい……)

 しかし、その格好は扇情的過ぎる。
 いくら頭痛が酷かったとはいえ、こちらへ向けて獣のように尻を突き出すなんて、誘っていると取られても仕方がない。
 一瞬覆い被さりそうになってしまったが、今はそんな場合ではないとクロウは首を振って、ツカサが立ち上がるのを手伝ってやった。

「……ツカサすまない……。オレが考え込んでいる内に……」
「へへ、気にすんなって。早く帰って、風呂にでも入って温まろうぜ」
「ツカサ……」

 改めて、この少年を愛して良かったと思う。
 抱き締めたい気持ちを抑えて鼻で深い呼吸を繰り返し、クロウはとにかくツカサと先に進む事にした。

「しっかし……凄い洞窟だよな……マジでスライムみたいにプニプニしてんだもん」

 裾を絞って服の水気を切りながら歩くツカサが、天井を見ながら不意に呟く。
 その言葉に引っかかる部分が有って、クロウは首を傾げた。

「ム? この洞窟はスライムで出来ているのではないのか?」

 水色で半透明で、ツカサが言うように四方八方どこを触ってもプニプニしている。
 鍾乳洞がまるごとスライム化したかのような洞窟なのに、スライムではないとは。
 どういうことだと頭上に疑問符を浮かべるクロウに、ツカサは得意げに歯を見せてニカッと笑うと、えっへんと言わんばかりに腰に手を当てた。

「ふっふっふ……クロウ君、聞いて驚くんじゃないぞ。実はこの洞窟はな……全部、固形化した水で出来てるんだよ!」
「固形化した水……?」
「どういう理屈かは俺も良く解んないんだけどさ、ここってどうやら滝壺のかなり下に存在する場所らしくって、その滝壺から落ちて来た水が半固形状態で固まって、洞窟の形になってんだ。さっき【アクア・レクス】で調べたけど間違いないぜ。それに……あ、見えてきたな。あれみて、クロウ」

 前方を指さされてじっと見て見ると、そこにはなんと、天井から木の根っこが大量に生えている光景が広がっていた。
 ツカサ曰く、この根っこは低木の森の木々のものなのだという。

 あの森はこうした不可思議な水の洞窟の上に作られたが故に、根を広げる度に沈み、こうして地面の下の水の洞窟へとめり込んでしまうようだ。

「依頼に有ったコドクネシラズって、もしかしてこの辺りにあるんじゃないかな。依頼の内容からすると、アレって何かこの洞窟と同じ感じの木の実っぽかったし」
「ああ、なるほど……」

 依頼では、この森のどこかに生えている「コドクネシラズ」という謎の果実を幾つか採取して来て欲しいとの事だった。

 その果実は緑色をした半透明の不可思議な果実で、頑丈な薄皮の中の液体を食すのだと言う。説明を聞くと、確かにこの不可思議な洞窟と似ているようだ。
 しかしどこに有るのだろうかと思いつつ、天井から数多くの根が生えている区域へと足を進めると……。

「お……」
「見つけた! うわっ、コドクネシラズって木の根っこに生える果実だったんだ……。そりゃ見つかんないワケだよ……」

 そう。ツカサの言う通り、不可思議な半透明の果実は、なんと天井から生えた木の根にたわわに垂れ下がっていたのである。
 特に甘い匂いも美味そうな匂いも感じなかったため気付かなかったが、どうやらこの木の実は洞窟の特殊な環境で生成されるものらしい。

(嫌なニオイが無い所からして、無害ではあるだろうが……解せん木の実だな)

 獣人族というものは、ある程度“自分に害がないかどうか”の範囲で、様々な物の臭いを判別する事が出来る。

 クロウは毎回この嗅覚でツカサを手助けして来たが、今回は不発だったようだ。
 本当に今日は役立たずなばかりだなと思わず落ち込んでいると、ツカサが自分の様子をまた理解してくれたのか、実を取って笑顔で差し出してくれた。

「これ、なんか食べられるみたいだし、元気が出るみたいだからさ。腹ごしらえしてさっさと出口見つけよーぜ! 濡れたまんまじゃ風邪引いちゃうからな」
「ツカサ……」

 ヘヘ、と少年らしい照れくさそうな笑顔を見せて、笑いかけてくれるツカサ。
 明らかに自分を元気付けてくれているのだと分かると、クロウは己の不甲斐なさに恥じ入ってしまった。守るべき存在であるツカサに励まされているなんて、オスとしてとても恥ずかしい事だ。

 しかもツカサは全身ずぶ濡れで、今にも風邪に取り憑かれそうだというのに、文句ひとつ言わず自分を元気付けようとしてくれている。
 愛しい存在にここまでさせて落ちこむだなんて、オス失格である。
 クロウは自分の弱い心を心の中で殴打して、ツカサの手から果実を頂いた。

「ム、ありがたく食べるぞ」

 そう言うと、ツカサはクロウの頭の上と顔を見て、嬉しそうに笑って頷いた。

(……もしや、オレはまた耳を動かしていたのだろうか……むむ……それが本当なら恥ずかしいな……。ツカサの前だと、どうしても耳が動いてしまうのが恨めしい)

 自分では制御しているつもりなのだが、ツカサと一緒に居ると心が舞い上がってしまうらしく、クロウは自分でも驚く程に素直に感情を表してしまっていた。
 耳で感情を悟られてしまうなんて、武人としては恥ずべき事なのだが……しかし、ツカサに嬉しそうに微笑まれると、つい素直になってしまうのだから仕方がない。

(まあ、ツカサにカワイイと言って貰えるならいいか)

 他の人族どもに「可愛い」などと言われるのは侮られているように思えて怒りが湧くが、ツカサが喜びながら言う分には構わない。むしろ嬉しい。
 クロウの事を好いている、と一目で分かるほどの態度ばかりを見せてくれるツカサだからこそ、クロウもすんなりとそう思えた。

「んーっ、なんだこれうっま! 飲むゼリーみたい!」

 ノムゼリーというのは良く解らないが、ツカサの幸せそうな顔を見ているとクロウまで心が温かくなってくる。クロウは別段そこまで美味いとは思わなかったが、こうしてツカサが笑顔になると、それほどでもない物も美味いと感じてしまう。
 まったく、恋慕の情とは厄介な物だ。

「栄養補給しながら進も。この先をずっと行って、抜け道みたいなのを上がったら、元の低木の森の中に戻るみたいだから」

 ほの甘く限りなく液体に近い固体を啜りながら、ツカサは通路の遠くを指さす。
 妙な感触の洞窟は奥まで続いているが、どうやらここは木の根のように入り組んでいるらしく、ヘタに横道などに入ると危険らしい。

 だが、それも、ツカサの曜術とクロウの鼻が有れば問題はない。
 洞窟全体が凝固した個体の水と言う事も有ってか、ツカサの脳内にはこの洞窟の地図がはっきりと見えているようだ。
 そこに自分の鼻を加えて、地上の土の匂いを探れば、さして迷う事はない。

(オレ達はとてもいい相性だ)

 獣人族の夫婦は狩りを片方に任せる事が多いが、戦の時には共に戦う。
 ツカサは土の曜術に足りない部分を補い、自分を補助してくれている。つがいとは、お互いを支え補う相棒でもある。ならば、やはりツカサは最適な妻ではないか。
 そう考えると、クロウは思わず獣の部分を動かさずにはいられなかった。

「ん……あそこが抜け道かな?」

 食べきったコドクネシラズの皮を懐紙に包んで丁寧にしまいながら、ツカサは進行方向の右手にある壁を見やる。
 するとそこには、何やら小さな穴のような物が有った。

 近付いてみると、その穴からは新鮮な風が吹き込んで来ていて土の匂いをこちらに運んで来ているのが分かる。どうやらここから脱出できるようだ。
 しかし、その穴はなんというか……非常に、狭かった。

「半透明の洞窟なおかげで抜け道の中の幅もうっすら分かるけど……これ、俺が入っても大丈夫かな……」
「穴を広げてみるか? 弾力がある壁なら、なんとか広げられるかもしれん」
「そんなこと出来るの!?」

 クロウの言葉にすぐ頼り切ったような輝く瞳を向けて来るツカサに、クロウは自分の口元が緩むのを感じながら鼻息荒く頷いた。

「うむ。オレはやれる。誇り高き一族の息子だからな」

 残った皮まで咀嚼して気合を入れると、クロウはいびつな穴の両端を持った。
 ぐっと力を籠め、筋肉を膨張させつつ手を動かす。すると、みち、みち、と妙な音を立てながら、穴が少し広くなった。かなり力を加えているつもりだったのだが、あまり広がってはいない。この洞窟は半固形の水で出来ているとツカサは言っていたが、それにしてはかなりの強度だった。

 世の中には、人族や魔族以上に不可思議なものがまだまだ存在するらしい。

(それにしても、なんだか急に暑くなってきたな……ここが外気よりも涼しかったからなのか? 風邪でも被っていたらいかんな。帰ったらちゃんと風呂に入るか)

 筋力を使っているからなのか、徐々に体温が上がり体の表面がじんわり汗ばんで来た。思った以上に川の水に浸かっていた事が響いているようだ。
 そのうち心臓までどくどくと鳴り出したが、ここで手を離す訳にはいかない。
 クロウはぐっとこらえるとツカサに抜け道に入るよう促した。

「オレが後ろからついて来て、穴を広げてやる。先に、入ると……良い」

 そう言うと、ツカサは何かを感じ取ったのか心配そうにこちらを見上げて来た。

「クロウ、大丈夫か……? もしかして風邪引いたんじゃ……」
「大事ない。さ、早く。ブラックが帰ってくる」
「う、うん……」

 ブラックの事を出すと、ツカサは不承不承と言った様子だったが、すぐに頷いて腰を屈めると野鼠のように両手を突いて抜け道に上半身を入れた。
 半透明の洞窟が故か、中に入ったツカサの背中は丸見えだ。多少乾いたとはいえまだ衣服が濡れているせいか、布はぴったりと体にはりつき背中の線がくっきり見えてしまっていた。あんな頼りなく幼い背中でも、彼はもう他人の所有物なのだ。

 ブラックが、という言葉を頭に付け足しただけで、素直に頷いてしまうほどに。

(…………なんだかイライラするな……)

 そんな事など、先刻承知だ。だからこそ自分は今二番目の雄として振る舞い、彼を妻として娶る事を許されるまで傍にいると誓ったのだ。
 なのに、何故今になって苛々してくるのか。

 自分でもよく分からない事に、熱に浮かされた頭で考えて――――

「ッ、クシュッ!!」

 思わずくしゃみをし、手を放してしまった。

「ふぎゃっ!?」

 尻尾を踏まれた猫のような声をツカサが上げる。
 慌てて目の前を見ると、そこには……最初の時よりもかなり収縮してしまった穴に、腰をガッチリと捕えられて動けなくなってしまったツカサが居た。










 
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