おっさん、悪役令嬢になる

香水

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気が付けば、女の子

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「君とはもうやっていけない!今後一切!僕に近付くな!」

 気が付くと、婚約破棄を突き付けられていた。

 ・・・男に。

「は?」

 落ち着こう。
 相手は恐らくまだ二十にもならない若造だ。
 そして私は、今年35を迎えるおっさん営業マンだ。
 ついさっきまで、得意先との宴会で一発芸をしていたところだ。

「とぼけるな!貴様の数々の愚行!耳に届いているぞ!」

 何のことだかさっぱりだ。
 私の渾身の一発芸が気に食わなかったのだろうか?
 というかここはどこだろうか。

「ん?」

 ふと手を見る。
 きれいな手だ。
 すべすべしていて、それでいて弾力がある。

 そして胸の位置には・・・二つの膨らみがあった・・・。

「私にはさっぱりだ・・・」

 胸を揉む。
 柔らかい。

「な・・・なな・・・。何をしている!?」

 次に、股間を触る。
 ・・・無い。

 あるはずの私の息子、いや、私の分身といってもいいそれが、なかった・・・。

「馬鹿な・・・!」

 突如として訪れた受け入れがたい現実。
 
 その現実を目の当たりにして、私の頭に血が上る。
 ありえない。
 私はまだ結婚もしていないし、恋人もいないが、将来は自分の子供を作り、その子供と一緒に公園を走り回るんだ・・・!
 そして、そして・・・。

 頭の中を駆け巡る混乱と押し寄せる吐き気をに私は耐えきれず・・・。

「う・・・うぷ・・・・おげええええええ」

 吐いた。

 そして、気絶した。

*
 私はしがないサラリーマンである。

 総合商社に勤めていたが、売るものは千差万別。
 時には食料品だったり、時には本だったり。

 とにかく、売れるものは何でも売る人間だ。

 だから、私の見る夢はいつも物を売り込んでいる夢だ。

 物を売って、金を得る。
 その為だったら、何でも犠牲にしてきたし、何でも切り捨ててきた。

 しかし、今日の夢はいつもの夢とは違うようだった。

 なんと私が美少女になり、悪と戦う物語。
 私のポーズに合わせてナレーションの声が響く。

 見た目は美少女!中身はおっさん!その名は!

『わたしだ』

 声と共に現れたのは、自分の顔。

「うおわああああ!!!!!」

 飛び起きた。
 それにしても、ひどい夢だった。
 最初は自分が女になっていて、なぜか知らないが男から婚約破棄をされているのだ。

 せめて女にしてくれ。

 それにしても、あの胸の感触。リアルだったなあ。
 そう言えば、等身大の人形を売ったこともある。

 あの人形の胸の感触に近いな。

 そう思い、自分の胸を触る。
 柔らかい。

「嘘だろ・・・」

 気が付けば、私は女になっているようだった。
 そして気が付けば、涙が零れ落ちていた。

「失礼いたしますレイお嬢様。御当主様がお呼びです」

 私の部屋に勝手に入ってきたメイドが勝手に言伝を残して勝手に去っていく。

 その光景をみて、なぜだかさらに涙が溢れた。

「ふん・・・。まあいい」

 切り替えていこう。
 たぶんこれもまだ夢だ。
 そうに違いない。

 私は部屋から出て、廊下に出る。

 広い廊下だ。
 私が住んでいた部屋は1Kの凄まじく狭い上に、びっくりするくらい隙間風の通る空間だった。

「あの、そこのメイドさん」

 ちょうど、メイドさんが歩いていたので声をかける。

「はい。どうされました?レイお嬢様」
「御当主様のところに行きたいんだけど」

 メイドは驚いた顔をして、私を案内し始める。

「なんだか、お嬢様の雰囲気が少し変わったような気がします」

 彼女について行っていると、話しかけられた。

「だろうな」

 なんせ、今の自分はおっさんサラリーマンなのだ。
 年季が違う。

「こちらです」
「ありがと」

 案内された扉の前に立つ。
 緊張する。
 冷や汗が出てくる。

「失礼します!!!」

 第一印象をよくするためには、元気の良さが大切だ。
 だから、私は初めての相手と商談をする場合はとにかく元気の良さをアピールするためにでかい声を出すように心がけている。

 ただ、ひとつだけ誤算があったとすれば、最初から嫌われている相手にそれをしてしまうと、逆効果になる場合もあるということだ。

 つまり、

「お前には常識というものがないのか!ノックもしないで!」

 こういうことだ。
 
 別にいいじゃない。ノックなんて。

 僕に怒号を飛ばしているのは、貫禄のある素敵なオジサマ。
 髭が似合っている。
 私も、将来はあんなオジサマになりたいと思っている。

「申し訳ございませんんん!!!」

 ただまあ、郷に入っては郷に従えというし、常識が無かったのは認めよう。

「婚約破棄の件だが・・・」

 オジサマは真剣な顔になり話し始める。

「あの話は本当の事なのか?」

 どの話だろうか。
 ゲロをぶちまけた話か、気絶した話か、乳を揉んだ話か。
 まあ、どれにしても全部本当だ。

「はい。事実です」
「そうか・・・」

 オジサマの顔がより一層険しくなる。

 何か判断ミスを犯したかもしれない。
 そう思えるほどの剣幕。

「申し訳ございません」

 とりあえず謝っとこう。

「卒業後は、どうするつもりだ?」

 聞かれる。
 卒業とは何ぞや。
 童貞か?
 いや、まさかな。ハハッ・・・。
 
 ・・・いかん。涙が出てきた。

「領地を与えよう。辺境の、小さな場所ではあるが。上手く領地を強くして見せよ。よいな?」

 私の涙をみてオジサマが何かをくれるらしい。

 やっぱり、女の涙って強いぜ。

「卒業まであと一年あるが、学園にはまだ通えるか?」

 心配してくれてる。
 どうもありがとう。
 だが、私ももうおっさんなのでな。
 これ以上は涙は流せんぜよ。

「通います!」

 涙を拭い、大きな声で、はきはきと。

「そうか。わかった」

 少しだけ心配そうな顔をしているが、

「失礼します!」

 私は部屋を後にした。
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