おっさん、悪役令嬢になる

香水

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材料の下準備

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 硝石。

 それは、人の糞尿を腐らせ少し燃やした藁や草を重ね、それを何層にもしたものから硝石が表面に湧いてくる。

 ただ、このやり方はかなり時間がかかる上に微量しか取れないので、将来はもっと効率的に作れたらいいが、この世界にはそんな便利な道具も材料も無いので自分で作らなければならない。

「あの・・・、レイお嬢様?それは一体・・・?」
「人間とか牛とかの糞尿だ。運ぶの手伝え」

 というわけで私は今、セバスと共に大量の糞尿の入った壺を自分の領地に持ち込んでいた。

 馬車で半日。
 異常な臭いの充満する馬車の中で、ただひたすらに我慢していた。
 セバスも苦悶の表情で目に涙が浮かんでいるが、仕方がない。

 硝石畑を作るためだ。
 簡易的な屋根を作り、その中に作る。
 辺りにひどい臭いが充満しているが、仕方がない。

「これは、強烈ですね」
「だろうな。嫌だったら新しく人を雇うといい」

 これは、誰かがしなければならない仕事だ。

「そういえば、火薬は上手くできたか?」
「はい!少量だったので小さな爆発ではありましたが、出来ました!」
「よし」

 上手くいったみたいだ。

「できたな。これを放置しておけば半年後くらいにはある程度表面に浮かび上がってくるはずだ」
「硝石がですか?」
「そうだ」
「レイお嬢様は博識なんですね」

 セバスが何か言いたそうにしているが、まあいいだろう。

 あとは硫黄。
 これは、武器工房の要らない鉱石の中にたまに混じっているが、どこから仕入れているのかくらいは知っておきたい。

「あとは硫黄だな。明日、武器工房に行って流通ルートを聞くぞ」
「かしこまりました」

 帰りの馬車は行よりも多少はマシにはなっていたが、それでも体に着いた悪臭は取れない。

「臭いな」
「ですね」

 この臭い、水を浴びるだけでとれるだろうか。

 股間に手を置く。
 ・・・何もない。

「シャンプーを作ろう」
「え?」

 この世界には石鹸はあるがシャンプーはない。
 これは死活問題だ。

 特に、私の髪は長い。
 早速屋敷に帰ったら作ろう。

「帰ったら植物性の油と水と灰を用意しろ」
「あの・・・シャンプーとは・・・?」
「いいから用意しろ。わかったな」
「・・・はい。それで植物性の油とは・・・」
「オリーブオイルだ。それしかないだろう」

 シャンプーは作ったことないが、とりあえず汚れさえ落ちればいい。
 出来れば香草なんかもあればいいのだが、今は汚れを落とすだけでいい。

 あと、灰よりも重曹の方が汚れは落ちるのだが、無いのだから仕方ない。
 灰でも代用品にはなるはずだ。

*
「用意いたしました」

 屋敷に帰ると、セバスはすぐに動いてくれた。

「ありがとう」

 目の前には、容器に入った水とオリーブオイル、そして灰が置かれている。

「・・・これをどうするのですか?」
「混ぜるだけだ。見ていろ」

 私は全部を一つの容器に入れた。
 そして、棒を使って混ぜ始める。

「これは何に使うのですか?」
「髪の汚れを落とすのに使う。お前も使え。臭いぞ」
「え!?臭いですか!?」

 たぶん、私も臭いのだろう。
 あれだけ糞尿を運んだのだ。
 このまま誰かに会うのはまずい。

*
「これは・・・いいですね・・・」
「そうだろう」

 適当に作ったシャンプーではあったが、そこそこ汚れは落ちたと思う。
 鏡を見ながら櫛で髪を解く。
 それにしても、私はそこそこ綺麗な外観をしている。
 ゲームのキャラクターだからだろうか。
 スタイルもかなりいい。

 胸を揉む。
 柔らかい。

「・・・お嬢様。何をしておられるのですか?
「気にするな。儀式みたいなものだ」

 髪の毛も大事にしないとすぐに傷んでしまう。
 シャンプーでそこそこツヤも出たし、きれいになったが、これからは毎日洗うようにしようと思う。

「これは商品にはしないのですか?」

 聞かれる。
 してみるのもありかもしれない。
 ただ、このままでは商品にはならないことは間違いない。

「このままではダメだな。香りをつけないと。例えば柑橘系の香りとか」
「わかりました。早速、明日から作って売ってきます!」
「わかった」

 まあ、別に作る予定は無かったが金にはなりそうだ。
 この国の文明レベルは実際のところかなり低い。
 趣向品の需要もそれなりにはあるだろう。

「果物の皮を入れてみるといい。香りのバリエーションを増やしてみると売れるかもな」
「はいっ!」

 セバスはこの適当なシャンプーがたいそうお気に入りの様だった。
 今まで髪を洗うなんて発想無かったのだろう。

*
 翌日。

 私とセバスは武器工房に来ていた。

「おい。親方はどこだ」

 作業をしている見習いに聞く。

「あ!レイお嬢様!この前は処分品を引き取ってくださってありがとうございました!」
「御託はいい。親方を出せ」

 早くしろ。
 そう言いかけたとき、

「おお!お嬢さんじゃないか。またゴミを引き取りに来たのか?」
「いや、今回は違う。どこから仕入れているのかを聞きに来た」

 工房の奥から親方が出てきた。
 出来れば早いところ硫黄の流通ルートは確保しておきたいところ。

「こいつが私の代わりに話を聞く。よろしく頼む」
「セバスと申します。よろしくお願いいたします」

 セバスが優雅にお辞儀をする。

「金の話とか、そういうことはこいつにしてくれ」
「おや、今度は武器を買いに来てくださったのですかい?」
「そんなわけないだろう。以前貰った鉱物が大量に必要なんだ」

 剣なんていらない。
 銃が欲しい。

「なんだ、でしたらセバスの旦那。奥に来てくれ!」
「かしこまりました」

 セバスが奥に連れていかれる。

 私はセバスが連れていかれるのを確認した後、武器工房を見渡す。

 武器工房。
 主に作っている物は剣。
 鉄鉱石を溶かして、型に流し込んでいくスタイルのようだ。

 型に流し込んだ鉄を水で冷やして砥いでいく。

 古典的な手法。
 嫌いじゃない。

 ただ、あれでは錆び易い剣が出来てしまうのは明白。
 しかも、鉄だけじゃなくていろんな不純物が入ってしまうのではなかろうか。

「ここの剣はすぐに折れてしまうのでは?」
「え!?どうしてそう思うんですか?」
「剣の中に不純物が入りすぎている。きちんと炉で精錬して鋼にしないと」

 鉄を鋼にする。
 本来鉄鉱石の中には炭素が多分に含まれている。
 これを叩いたり潰したりして、炭素の含有量を限りなく少なくしたものが鋼だ。

「・・・どういうことでしょうか?」

 まったく理解できていないようだった。

 まあいい、百聞は一見に如かずだ。見せてみよう。

「作り上げた剣を見せてみろ。強度を試す」
「は、はい」

 剣を差し出してくる。
 やっぱりだ。しなやかさが無いし、所々に凹凸が目立つ。

「これを・・・」

 地面に横向きにたたきつける。
 すると、

「ああっ!なにを!?」

 剣は簡単に折れてしまった。

「ちゃんと精錬していないから折れる。炉を借りるぞ」

 折れた剣の先端と根元を重ねて炉に放り投げる。

「柔らかくなったらハンマーでひたすら叩くんだ。ハンマーはあるか?」
「はい・・・」

 ハンマーを受け取り、剣を台の上にのせてひたすら殴る。
 伸びて平たくなったら折り曲げてまた炉に突っ込む。

 これを繰り返すだけだ。

「わかったな?しっかりやれよ」
「はい・・・」

 私は少し疲れたので見習いの小僧に丸投げする。

 仕方ないよね。
 だっておっさんだもの。

「終わったか。セバス」
「はい。非常に素晴らしい商談でした。早速来月から話をつけて下さるそうです」

 セバスはホクホク顔だ。

「そうか。上手くいったなら良かった」

 私たちは屋敷に帰る。

 今日はかなり疲れたので、帰りは終始無言だった。

 
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