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お茶会
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コーヒー。
時間に追われている人間であるならば、かなりの人がお世話になっているであろう飲み物。
その苦さは眠気を覚まし、その香りは自身のエンジンを動かす。
まさにガソリン。
そう言ってもいい。
私は今、コーヒーを前にして佇んでいる。
もう夜中だ。
屋敷の皆は寝静まっている。
先日セバスが調達してきたコーヒー豆から作ったコーヒーだ。
挽きたてなので、すごく香りがいい。
生前は幾度となくお世話になってきたコーヒー。
ただ、その時とは比べ物にならないほど香りが良いと感じるのはなぜだろうか。
きっと、当時の私はコーヒーというものをあまり味わえてはいなかったのだろう。
味覚というものは非常に奥が深い。
その時の感情や、気温、湿気などでも感じ方が変わってくるのだ。
恐る恐る、湯気の立ち上るカップに口をつける。
深い香り。
口に含むと、苦みが広がり、酸味、甘みが奥の底からにじみ出てくる。
口の中からも、強い香りを感じる。
気が付くと私は、涙を流していた。
かつてこれほどまで美味しいコーヒーを飲んだことがあっただろうか。
こんなにもコーヒーを味わって飲んだことがあっただろうか。
色々な感情が頭の中を駆け巡る。
胸を揉む。
柔らかい。
とにかく、コーヒーに関しては早急に商品化しなければならない。
流通量を増やせば、価格もそれなりに安くできたりするだろう。
*
お茶会。
私は今、そういう名前のよく分からないイベントに参加している。
どうやら、学園のイベントの一つの様で、タダで飯が食えるらしい。
そう、思っていた。
ただ、現実は違った。
明らかに今の私は浮いている。
周りのキラキラ女子達がなぜかいつもよりもキラキラしていて近付けない。
彼女たちはお菓子の置かれているテーブル周辺を陣取っていて私にはあの場に潜り込んで飯を食らうなんてできない。
「・・・帰るか」
私はぼそりと呟き、立ち上がった時だった。
「レイ様? どちらに行かれるのですか?」
振り返ると、マリアがいた。
彼女も来ていたようだ。
「もう帰ろうかなー、なんて・・・。ははっ」
なんだか、憐みの目が向けられている気がする。
しょうがないよね。だっておっさんだもの。
「そんなこと言わずに! 一緒にお菓子を食べましょう!」
彼女が天使に見えた。
こんな私でも、彼女のような良き友とめぐり合わせてくれるなんて。
神はきっと実在するのだろう。
「ありがとう。マリアさん。けど、いいの? 他の方から白い眼を向けられますよ?」
「いいんです。だって、私も浮いてますから」
彼女が笑顔を向ける。
気のせいだろうか。
彼女の背後から後光が見える。
「浮いてるの?」
「はい。私は平民出身ですから・・・」
そういえばそんな設定だったな。
平民と王子様の恋。
何か熱いものを感じるな。
股間に手を置く。
・・・もしここに私の息子がまだいたら、きっとその状況を聞くだけで元気になるかもしれない。
「・・・? あの? レイ様?」
「いや、なんでもないよ」
彼女が持ってきたお菓子に手を伸ばす。
マカロンのようだ。
色鮮やかに並べられている。
口に入れる。
・・・不味い。
「・・・これ、美味しくない」
「え? そうですか? 私は好きですけれども」
「だって、全然甘くない」
彼女が私の顔を見てクスクスと笑う。
なんて美しいんだろうか。
まるで、天使が降臨したかのようだ。
この整った顔立ちが、王子様達に気に入られたんだろう。
その後も、私は彼女とのキラキラ談笑タイムに入った。
私は特に、レイセス商会の今後の方針について熱く語った。
彼女は何も理解できていないようだったが、それでいいのだ。
乙女の話題など、私は持ち合わせていない。
「あら? マリアさん? 私達もご一緒してもよろしいかしら?」
私とマリアの間を邪魔する不届き者が現れた。
「え、ええ。どうぞこちらに」
マリアは緊張の面持ちで椅子を用意する。
そんな光景を見ながら私は、彼女にも友達はいるのかと、そう思っていた。
「それにしても、平民の分際でお茶会に参加するなんて言い御身分だこと!」
「・・・申し訳ございません。ロイド王子に誘われてですね・・・」
「あなたのような下賤な者が、どうしてロイド王子と仲良くなれるのよ!」
「・・・申し訳、ございません」
「その態度がむかつくわ! ねえ! レイ様!」
女の子がキーキーわめいている。
どうやら、彼女達とマリアはあまり仲がよろしくないらしい。
そして、私に話を振ってくる。
どうしよう。
こんな時、どんな顔すればいいか分からないんだよね。
「レイ様もなんとか言ってやってくださいよ!」
別の女の子に催促される。
分かった。
彼女達とマリアを仲良くさせるために、私は場を和ませる事にしようと思う。
長年の営業で培った接待術!とくと見るがいい!
「わ、私が昨日シャワーを浴びていた時の事ねんだけどね」
震える声を抑えながら話す。
女の子たちの視線が私に集中する。
生まれて初めてだ。
こんなに何人もの女の子に視線を向けられるのは。
「乳首から毛が生えてたんだよねー。ショックでしたわー」
*
私は、もうお茶会には参加しない。
帰りながら、そう誓った。
そもそも、得意先との接待では私は仕事の話以外は下ネタしか話していないのだ。
あの時のあの空間。
一瞬、時間が止まったかと思ったほど静かになった。
そりゃあそうだ。
お茶会であんな話題はダメなのだろう。
少し考えればわかることじゃないか。
ただまあ、マリアと彼女たちは少しだけ打ち解けていたようなので結果オーライだろう。
別にいいじゃない。
私が不幸になっても、そのおかげで私以外の人が幸せになれるのならその方がいいに決まってる。
特にそれがマリアならばなおさらだ。
彼女には結構酷いことをしてきたからな。
時間に追われている人間であるならば、かなりの人がお世話になっているであろう飲み物。
その苦さは眠気を覚まし、その香りは自身のエンジンを動かす。
まさにガソリン。
そう言ってもいい。
私は今、コーヒーを前にして佇んでいる。
もう夜中だ。
屋敷の皆は寝静まっている。
先日セバスが調達してきたコーヒー豆から作ったコーヒーだ。
挽きたてなので、すごく香りがいい。
生前は幾度となくお世話になってきたコーヒー。
ただ、その時とは比べ物にならないほど香りが良いと感じるのはなぜだろうか。
きっと、当時の私はコーヒーというものをあまり味わえてはいなかったのだろう。
味覚というものは非常に奥が深い。
その時の感情や、気温、湿気などでも感じ方が変わってくるのだ。
恐る恐る、湯気の立ち上るカップに口をつける。
深い香り。
口に含むと、苦みが広がり、酸味、甘みが奥の底からにじみ出てくる。
口の中からも、強い香りを感じる。
気が付くと私は、涙を流していた。
かつてこれほどまで美味しいコーヒーを飲んだことがあっただろうか。
こんなにもコーヒーを味わって飲んだことがあっただろうか。
色々な感情が頭の中を駆け巡る。
胸を揉む。
柔らかい。
とにかく、コーヒーに関しては早急に商品化しなければならない。
流通量を増やせば、価格もそれなりに安くできたりするだろう。
*
お茶会。
私は今、そういう名前のよく分からないイベントに参加している。
どうやら、学園のイベントの一つの様で、タダで飯が食えるらしい。
そう、思っていた。
ただ、現実は違った。
明らかに今の私は浮いている。
周りのキラキラ女子達がなぜかいつもよりもキラキラしていて近付けない。
彼女たちはお菓子の置かれているテーブル周辺を陣取っていて私にはあの場に潜り込んで飯を食らうなんてできない。
「・・・帰るか」
私はぼそりと呟き、立ち上がった時だった。
「レイ様? どちらに行かれるのですか?」
振り返ると、マリアがいた。
彼女も来ていたようだ。
「もう帰ろうかなー、なんて・・・。ははっ」
なんだか、憐みの目が向けられている気がする。
しょうがないよね。だっておっさんだもの。
「そんなこと言わずに! 一緒にお菓子を食べましょう!」
彼女が天使に見えた。
こんな私でも、彼女のような良き友とめぐり合わせてくれるなんて。
神はきっと実在するのだろう。
「ありがとう。マリアさん。けど、いいの? 他の方から白い眼を向けられますよ?」
「いいんです。だって、私も浮いてますから」
彼女が笑顔を向ける。
気のせいだろうか。
彼女の背後から後光が見える。
「浮いてるの?」
「はい。私は平民出身ですから・・・」
そういえばそんな設定だったな。
平民と王子様の恋。
何か熱いものを感じるな。
股間に手を置く。
・・・もしここに私の息子がまだいたら、きっとその状況を聞くだけで元気になるかもしれない。
「・・・? あの? レイ様?」
「いや、なんでもないよ」
彼女が持ってきたお菓子に手を伸ばす。
マカロンのようだ。
色鮮やかに並べられている。
口に入れる。
・・・不味い。
「・・・これ、美味しくない」
「え? そうですか? 私は好きですけれども」
「だって、全然甘くない」
彼女が私の顔を見てクスクスと笑う。
なんて美しいんだろうか。
まるで、天使が降臨したかのようだ。
この整った顔立ちが、王子様達に気に入られたんだろう。
その後も、私は彼女とのキラキラ談笑タイムに入った。
私は特に、レイセス商会の今後の方針について熱く語った。
彼女は何も理解できていないようだったが、それでいいのだ。
乙女の話題など、私は持ち合わせていない。
「あら? マリアさん? 私達もご一緒してもよろしいかしら?」
私とマリアの間を邪魔する不届き者が現れた。
「え、ええ。どうぞこちらに」
マリアは緊張の面持ちで椅子を用意する。
そんな光景を見ながら私は、彼女にも友達はいるのかと、そう思っていた。
「それにしても、平民の分際でお茶会に参加するなんて言い御身分だこと!」
「・・・申し訳ございません。ロイド王子に誘われてですね・・・」
「あなたのような下賤な者が、どうしてロイド王子と仲良くなれるのよ!」
「・・・申し訳、ございません」
「その態度がむかつくわ! ねえ! レイ様!」
女の子がキーキーわめいている。
どうやら、彼女達とマリアはあまり仲がよろしくないらしい。
そして、私に話を振ってくる。
どうしよう。
こんな時、どんな顔すればいいか分からないんだよね。
「レイ様もなんとか言ってやってくださいよ!」
別の女の子に催促される。
分かった。
彼女達とマリアを仲良くさせるために、私は場を和ませる事にしようと思う。
長年の営業で培った接待術!とくと見るがいい!
「わ、私が昨日シャワーを浴びていた時の事ねんだけどね」
震える声を抑えながら話す。
女の子たちの視線が私に集中する。
生まれて初めてだ。
こんなに何人もの女の子に視線を向けられるのは。
「乳首から毛が生えてたんだよねー。ショックでしたわー」
*
私は、もうお茶会には参加しない。
帰りながら、そう誓った。
そもそも、得意先との接待では私は仕事の話以外は下ネタしか話していないのだ。
あの時のあの空間。
一瞬、時間が止まったかと思ったほど静かになった。
そりゃあそうだ。
お茶会であんな話題はダメなのだろう。
少し考えればわかることじゃないか。
ただまあ、マリアと彼女たちは少しだけ打ち解けていたようなので結果オーライだろう。
別にいいじゃない。
私が不幸になっても、そのおかげで私以外の人が幸せになれるのならその方がいいに決まってる。
特にそれがマリアならばなおさらだ。
彼女には結構酷いことをしてきたからな。
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