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𝐓𝐫𝐮𝐞 𝐋𝐨𝐯𝐞 𝟐

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『私は暫く仕事で不在ですので、麗二様を宜しくお願いします』


昨日交換したばかりの白雪のアドレス…と共に今朝方送られてきたばかりのメールを眺めながら絶句する。早速ワンツーマンで麗二のお世話をするなんて無茶振りだ。着ている最中のシャツのボタンを留めながらメールを打つ。


「こ…『これはしないといけない…みたいな絶対条件って有りますか』……っと」


お世話係としても、彼の側に居た友人としても、家族としても、どの様な立場でさえ麗二の機嫌を損ねる様な事はしたく無い。念の為聞いておかないとだ。それに、もうあの冷たい視線をこれ以上受けたく無い。そう思いながらメールを送ると、直ぐに返信が来た。恐る恐るメールを覗き込み、首を傾げる。


「『駅前のエンジェル・クランチで林檎タルトをワンホール買う』…?」

(エンジェル・クランチって、行列が毎日出来るって噂の有名なケーキ店……だよね?)


林檎タルトワンホール……えっ、もしかしてコレは買いに行かないといけないやつなのだろうか。タラー…と背中に嫌な汗が流れる。麗二の部屋に行く時間まで後三十分。ケーキ店迄そんなに遠く無いから今からでも間に合……いや、無茶だ。いやいや、でも……







「………何でケーキ?」


呆れた様な視線を投げてくる目の前の彼に「えっ」と思わず声を出す。
暫く黙った後、麗二はギョッとした様子を見せながら「もしかして、今買いに行ったのか」と仰天する。あれから結局自転車で全速力で買ってきたのだが…形は多分崩れていない。無言でケーキの白い箱を開ける彼。中から出て来たのは、綺麗にスライスされた林檎が散りばめられたタルト。形が崩れていない事を確認し改めて安堵する。


「聞いていなかったのかもしれないけど、林檎タルトは午後のオヤツ用にいつも白雪に買いに行って貰っている」

「えっ……」

「……君は気付かなかったのか。朝からケーキって普通に考えても重たいでしょ」


こ、これ、三時のオヤツ用だったの……?!
ていうか、言われてみれば確かに…朝からケーキなんて普通に考えてもおかしい。

サーッと青褪める僕。慌ててその場で「申し訳御座いません!」と頭を下げるが、麗二は僕を責める事無く、ただジッと眺めて「別にいい」と素っ気無く返す。


「それより、こは……お世話係についての件だけど」

「!」


シーツを身体に巻き、縮こまる様にしてケーキを食べ始める彼。伏せた睫毛を押し開けながら僕を見据えると「座って」と目の前のソファへ促される。相変わらず散らばった床の物を掻き分けながら「失礼します」とソファに移動する。麗二は一つ息を吐くと、冷淡な視線を向けながらハッキリと次の瞬間告げる。


「君から白雪に言ってくれないか。俺のお世話係を辞めたい……と」
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