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𝐓𝐫𝐮𝐞 𝐋𝐨𝐯𝐞 𝟔

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『いや、それなら折角だし麗二さんも連れて来てもいいぞ』

「えっ?でも、それじゃあ二人は…」


連れて行けるのなら連れて行きたいが、それでは二人に気を遣わせてしまう。その悩みを汲み取ったのか、智也はあっけんからんとした様子で『俺は別に気にしないよ』と告げる。因みにこの事は睦美に既に告知済みらしい。


『まぁ、それは彼と相談して決めてよ。折角社会復帰したんだし、学生の内に楽しい事いっぱいしていたいじゃん』

「そ………っか。そうだよね」


言うて自分達は、高校二年生。沢山遊べるのは、せいぜいこの一年くらいだろう。来年は進路の事や、この家の事で話し合う時間が増えそうだし、確かに今の内に遊んでおくのも良いかもしれない。色々思った末、麗二を誘ってみる事にした。少しだけ話した後、「じゃあね」と電話を切った後、彼の方を振り返り、「あの、さ」と話題を切り出してみる。


「今話していたんだけど、麗二、一緒に海行かない?」

「………海?」

「うん」


恐る恐る頷くと、考え込む様子を見せる麗二。透さんは「貴方行ったら溺れるんじゃ無いですか」とクスクス揶揄っている。間髪入れずに肘で打った直後、彼はスッと顔を上げる。


「それは二人き…」

「友達も居るんだけど……麗二さえ良ければ一緒に……って」


ピクッと反応した彼が「…智也って人?」と顔を顰める。どうやらあまり好印象を持っていない様なので、慌てて「良い人だよ」と弁明する。


「学校でいつも一緒にいるんだけど凄く良い人なんだ。もう一人、睦美って子も居るんだけど彼もまた優しくて。少しツンとしてるけどね」

「………ふーん」

(あ……あれ?)


何とか説明するものの、ブスッとした感じになっていく麗二を見て戸惑う。やっぱり、いくら自分の友達だからといっていきなり行動を一緒にして遊ぶなんて無理があるかな。やっぱり、麗二の件は無しにして貰おうしか無さそうだ。


「ご、ごめん、麗二。行きたくないなら無理に来る必要は無いんだよ。二人とも良い友人だから、一度麗二にも会ってみて欲しいという僕の我儘……」

「誰も行かないとは言ってないだろ」


不意に話を遮られると同時に強めの口調が降りかかってくる。
えっ、と驚いて顔を上げると、ジッと僕を見据えたまま黙りこくる麗二が居た。どこか腑に落ちなさそうな表情が気になるが、これは……OKと捉えても良いという事だろうか。そうと来れば早速準備をせねば。「じゃ、じゃあ詳しい話はまた折り入って」と思わず興奮した態度を見せた自分は、慌てて部屋から立ち去った。残された二人は暫く沈黙を貫いていたが、片方が「分かりやすいですね」と眼鏡の鼻の部分を持ち上げる。


「くれぐれも嫉妬で暴走して琥珀様に迷惑掛けないようにですよ」

「………分かってる」


透さんの厳しい注意の一言に、麗二は苦々しく呟いた。何も知らずに、のほほんと海の事を考えていた自分は、呑気に海の準備に取り掛かり始めていた。

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