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𝐓𝐫𝐮𝐞 𝐋𝐨𝐯𝐞 𝟕

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あの後ーー…僕は麗二にイかされて、容易く達してしまった。その瞬間発情が徐々に治まり、同時に匂いも薄くなったので、雨が弱くなったのをタイミングに彼等の所へ向かった。勿論こっぴどく叱られた。しかし、僕達があんな事をしていた事は、二人とも気付く由が無かった。






『……イったな』


目の前の彼の掌に、ドロリと自分の出した白濁が広がるのをボーッと見ているのに気付きギョッとする。慌てて『ごめん、麗二!』と手で拭くが、彼は気に留めていない様子で『いいよ』と微笑を浮かべた。


『匂い…だいぶ落ち着いたな。今なら雨に紛れて行けそうだ』

『あ……うん』


何となく気恥ずかしさを覚えながら返答する。麗二はスクッと立ち上がり、ガタガタと軋む扉を横に開けた。そして此方の方を振り返り、次の瞬間、ひょいと軽々しく抱えてしまった。突然のお姫様抱っこに『うぇっ?!』とみっともない声を出す。


『麗二、いいよ、今はだいぶ落ち着いてるし、皆見てるから』

『だめ。イったばかりでフラつくだろうし、何より琥珀には色々迷惑掛けたし』


いや…明らかに僕が誘っていたのに。
グッと吃り、そのまま視線から逃げる様に、彼の鍛えられた腕の中で縮こまる。そんな僕の心情を察したのか、彼は片手で自分の着ていたパーカーのフードを被せてきた。顔を上げると、麗二だけが視界にいた。


『戻る迄、ソレで顔隠して』

『ーー……うん』


そう言って雨の中、僕を抱えて無言で歩き出す麗二を眺めながら、好きだ、ともう一度密かに思った。同時に思う。このまま彼の腕の中にずっといられたらーー…なんて。まさか、そう思ったのが今後の僕達の関係を揺らがすフラグになるなんて、この時は思いもしなかったんだ。



_______
____


「はぁーー…本当に楽しかったなぁ」


うっとりと、あの夏の事を思い返しながら机に突っ伏する自分の頭がポスンと何かで叩かれる。上目遣いに見上げると、「琥珀、幸せそうだね」と笑いながら声を掛けてきた睦美。あの海の日から会っていなかった彼は、心無しか少しだけ痩せた様に思えた。気になりつつも「睦美、久し振り」と、身体を起こすと、彼はムスッとした表情で続ける。


「そのご満悦って顔。麗二様とさぞかし良い夏を送れたみたいだね?」

「うっ……僕って分かりやすいのかな」


頬に手を当てて見せながら思わず呟くと、彼は呆れた様に「いや、否定しないのかよ」と笑った。隣に座りながら「で、どんな事したの」と、更に深入りしてくる。


「その話、俺も詳しく聞きたいな。海の時も何かあったみたいだし?」

「智也!」


ひょこっと、睦美の後ろから姿を現す智也に、睦美がすかさず「乗っかからないでよ、バカとも」と肘で突く。直ぐ様、彼はニマーッと不敵な笑みを浮かべながら「そんな事言っちゃっていいの?」と茶色の紙袋を持ち上げて見せる。


「この夏休み中に新作のパンを考案したんだけど。特別に製作して持って来たのになぁ。どうやら俺のパンを食べてくれるのは琥珀だけみたいだ。よし、このパン二つとも琥珀に差し上げましょう」

「あぁー、もう!面倒臭いな、要るってば!一つは俺のでしょ!」


智也のパンをいつも楽しみにしているのは睦美本人なのに素直じゃないなぁ。そこが可愛いんだけど。ふふ、と微笑を浮かべると、案の定睦美に「その顔やめて琥珀」と指摘してくる。慌てて頬を引き締め、「えっと…」と本題に入る。
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