【完結】貧乏公爵(令嬢)マルゲリータの失踪

カズモリ

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ダルマータ国

15. 過去の話

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 アルフィアスがマルゲリータと婚約した、という噂はすぐに広まった。
 エドワード=フォン=パールがパルクルトへ旅立ってからすぐ、アルフィアスは王帝に呼び出された。

「どういうつもりだ?」
「何がですか?」

 王帝はプライベートに使用している執務室で、テーブルを挟んで真向かいに座る息子をジロリと睨みつけると、深いため息をつく。
「よりによって、エメラルド家とはな。ルビー家や、シトリン家の娘との縁談の方がよほど価値がある。没落公爵に何の用があるのだ。今からでも考え直せ」

 アルフィアスは玉座のように自室のソファにふんぞりかえる父を見て、首を横に振る。

「それはできません」
「醜聞を気にしているのか?」
「いいえ。マルゲリータ嬢でなければ、この話は成立しないからです」

 王帝は眉をピクリと動かした。

「エメラルドがどのような家か、ご存じですよね? 陛下」

 王帝は片手をスッとあげると、執務室に控えていた従者へ席を外すように促した。

 従者は頭を下げると、静かに部屋の外へと出て行き、扉が閉まったのを確認すると、王帝は先刻よりも低い声でアルフィアスへ語りかける。

「旧六帝以外、何にもないが?」
「ご冗談を」
「冗談ではない。アルフィアス、何を意味するか分かっているのか?」

 王帝の問いに応える代わりにアルフィアスはにこやかに微笑んだ。
「私は簒奪者にはなりたくないです」

 このひと言が王の逆鱗に触れたのは言うまでもない。

「二度目はない」

 それでも、王は耐えた。
 ここで感情的になることは愚かだと考えたからだ。
 ソファから立ち上がり、部屋を出ようとドアノブに手をかけた時、背後から息子の声がして、急いでドアノブから手を離した。

「我らは精霊国の王を騙して、この地を納めているではないですか。ダルマータ創世記という自分達に都合の良い話を作りだしてまで……」

 アルフィアスの言葉は最後まで語られることがなく、王の拳がアルフィアスの頬に届いた。

 鈍い音が聞こえ、アルフィアスはソファから転げ落ちる。

「言ったはずだ」

 王は部屋を後にすると、物音を聞きつけて駆けつけた衛兵に「中にいるものを捕らえよ」と伝えた。

 衛兵は王帝が出てきた部屋の扉を開けると、そこには頬を押さえながら、立ちあがろうとしていたアルフィアスが目に入り、躊躇った。

 無理もない。後継者を捕らえよ、などという命令を受けたのだから。

「私を捕らえよ、といわれたか?」

 アルフィアスは衛兵に問う。
 衛兵は気まずそうに少しの時間押し黙り「はい」と述べて、アルフィアスの腕を掴む。

「歩ける」
「ご命令です」

 アルフィアスは金色の髪をかき上げると、その奥にある深い青い瞳で衛兵の姿を見た。
「……そうか」

 まだ、若そうだ。そして、純粋そうだ、と。
 

 アルフィアスが幽閉されたのは王邸の西の塔の最上階だった。
 幽閉と言っても、風呂やトイレはあり、ベッドも用意されていた。

 ただ、自由だけは奪われていた。

 アルフィアスは、飾り窓から外を見て、空を飛ぶ鳥を眺めていた。

 旧六帝はかつてはみな王だった。故に、どの家門もみな、懇意にしている精霊がおり、長年仕えている。

 パール家はニーブという光を司る鳥の精霊を、ルビー家は炎を司る精霊を、シトリン家は雷を司る精霊、ジェット家は大地を司る精霊、エメラルド家は植物を司る精霊が代々契約していた。

 だが、サファイア家だけは契約している精霊がいない。
 当たり前だ。

 水を司る精霊を偽りの青色の宝玉の中に閉じ込めて、この地を統べているのだから。
 そして、それができるのはただ一人。

 アルフィアスはマルゲリータの横にいる従者であるリュカスの顔を思い浮かべる。

「早く、戻ってきて、本当のお姫様」

 アルフィアスは小さな窓にもたれかけ、そのようにつぶやいた。


 アルフィアスは最後にマルゲリータに会った時を思い返した。
 アルフィアスが真実を述べると、マルゲリータは苦虫を潰したように切ない顔を見せた。
 その顔が忘れられない。
「これは賭けですから」
 少し寂しそうに言ったその声が、緑色の瞳が潤んだことも全て、覚えている。



 リルルは力を使い果たし、倒れた。それと同時に小瓶の粒が七色に輝き、エドワードはリルルの手から小瓶を拾いあげると、
小瓶の中の小さな粒を眺めながら、顎に手を置き、何かを思い出そうとしていた。
 
 小瓶を海底火山から取り出した壁面に近づけると、壁面にくっついている石もキラキラと光り輝きだした。

「ダルマータ創世記の第六章に光り輝く宝玉の話があった」
 深い青色を見た後、小瓶と火山壁を離してテーブルに置いた。
「マルゲリータは我々がこの壁面を削り取るまで現れなかった。それは、この壁面もトリガーの一部なのでは、と思ったのだが」

「考えは正しいようですね」

「光り輝いたとて、王宮にある宝玉が偽りである、とする証拠にはならないだろう」

 クリスタはリルルを抱き抱えると、ソファに寝かせてやる。

「リルル様の言っていた話には続きがあります」
「あなたは知っていると?」

 クリスタは首を縦に振る。

「妖精王の娘は、妖精ではなく、人でした」

 リルルを見ながら、クリスタはそう言った。
「だろうな」

 エドワードの言葉にクリスタが昔話を紡ぎ始める。


 320年前、妖精王リュカスは、人間界に訪れた際、人間の娘に恋をし、そして、その娘を連れて、妖精界へと戻り、娘はリュカスの子を産み落とした。

 不憫なことに、リュカスの連れてきた娘は、程なくして死亡した。妖精界と人間界では時間の流れる速度が同じでも、人は妖精の一生の10分の1の時間でしか生きられない。
 最愛の人を亡くしたリュカスは娘を大事に育てた。半分は妖精の血が流れている、とは言え、腹の中の栄養は人間である母からもらったからか、リュカスの娘は妖精の素質より、人としての血の方が強かった。

 それでも大切に育てた。娘が16になった時、ならず者との間に子を成していた。
 徐々に膨らむ腹を見て、リュカスは娘の母の最期を思い出した。

 この国へ連れてきたが故、あまりに早い生を終えた妻を。
 ヒトはヒトであり、人間界から連れ出してはならなかったのだ。

 人の血が濃いこの娘の産む子は、妖精の血が濃いのだろうか。それとも、人の血が濃いのだろうか。
 
 リュカスは生まれてきた孫を見て、人型の四肢、翠の瞳そして、真っ赤な赤毛を纏うその赤子は、紛れもなく人そのものだった。

 リュカスは娘と孫を、かつて自分が連れ去った女の生家へと預け、育ててもらう代わりに、妖精王自ら、この家門の末裔まで子々孫々、仕えることを約束した。

 妖精国に戻ったリュカスは自分の後継が成人するまで、代理の王を立てるよう側近に依頼した。
 だが、その側近は人の血を混じった半端者に王冠を授けたくなかったのだ。

 だから側近はリュカスを出し抜き、人間界のサファイア家と手を組んだ。サファイアには人間の国の統治を、自分は妖精国の王として君臨するために、密約を締結した。

 それがおよそ300年前の出来事だった。





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