【完結】貧乏公爵(令嬢)マルゲリータの失踪

カズモリ

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ダルマータ国

17. 手がかりと罠

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 クリスタの深い翠色の瞳が、窓ガラスから漏れる光に反射し、ゆらゆらと輝いた。
 エドワードは、やはり、この瞳はとても綺麗だな、と思うと同時にマルゲリータを思い返した。

「マルゲリータは自分の意志で、精霊国に行ったと思うか?」
「契約がある以上、リュカスが主人を強制することはできません」
「……だよな」

 エドワードは腕組みした手を外し、顎に手を置く。
「では、マルゲリータはどのようにして、精霊国に行ったのだろうか」
 クリスタは彼の癖なのだろうか。考えながら話す際、斜め上に視線を移動させた後、エドワードに視線を移動した。

「あの海底火山を越えるには人間だと息も続かない上に、水圧もかなりかかるでしょうから、人間には難しいと思います。もちろん魔力があれば別ですが、それでも、骨が折れるでしょう。そうなると、リュカスが力を貸したのか、あるいは、安易に行き来できる場所があり、そこを利用したものかと」
「……だよな。そうなると、おそらく後者なのだろう」

 クリスタはカップを持ち上げて、一息つくことにした。
 リュカスが手を貸してまで、あの海底火山を越えさせるわけがないことを、エドワードは知っているからだろう。
 その上で、エドワードが言っているのは、クリスタにこの300年の間に安易に精霊国と人間界が行き来できる方法を見つけただろう、というのを指している。

クリスタはエドワードの銀髪の奥にある漆黒の瞳をとらえながら口を開く。

「目星はいくつか、ありますよ。後で、地図を持ってきましょう。人海戦術とするか、慎重に進めるか、考えないといけませんしね」

 エドワードは概ねクリスタの意見に賛成だ。だが、出会いの経緯を考えると、クリスタはもっと核心を得ているのではないかと思えてくる。
 例えば、またエドワードを試しているのか、と。

 ジトリとエドワードが、クリスタを見る。
「クリスタ、キミはマルゲリータと手を組んでいただろう。目星どころか、ドンピシャの場所を知っているのではないのか?」
「え、疑っています? まあ、状況を考えるとそうですけど、残念ながら、今回は知りませんよ」

 クリスタは誤解をとりたいらしく、うーん、と回答を思案している。
「確かにマルゲリータさまとリュカスからは手紙を受け取りました。ですが、精霊国に行くなんて知らなかったですし、そもそも、私の力では精霊国にいけないですよ」
「本当に?」
「本当ですって! 仮に行けるとした場合、それなら、何故エドワード様を待たなければいけないのですか? なんのメリットもないですよ」
「だな」

 マルゲリータがわざわざ、エドワードとリルルに暗号めいた周りくどい手法をたててまで、海底火山に来るように仕向けない。
 やはり、あの壁面は絶対に、回収しなくてはならないものだと推察できる。
 そうでなければ、あんな危険を冒してまで、険しい道を通過する必要もない。そして、あの火山を抜けて、小瓶を渡したらすぐに戻るよう伝えたのは、派手な動きのために、相手に見透かされるリスクでもあるのだろう。

 わざと相手に見透かされるため、とも取れるが、この小瓶に何の価値があるのだろうか。
 いずれにせよ、リルルが回復するまでは話が聞けないな、とエドワードは気持ちを落ち着かせるためにも息を吐く。

「悪かった。目星について教えてくれないか?」

 クリスタは先刻まで飲んでいたカップを机の端に置くと、書斎を出ると、しばらくして、応接室に飾ってあった絵を持って戻ってきた。

「また戻したのか?」
「いろいろ、あるんですよ」

 絵画を机に置くと、その額縁を外し、中にしまってある地図を出した。地図はパルクルトの街と、このダルマータ国全体の地図の2枚が入っており、クリスタはダルマータ国の地図を机に広げる。
 エドワードはクリスタの広げた地図を見ようと、クリスタの隣へ腰掛ける。

 ダルマータ国は横に長い楕円形に似ており、王都を中心として、放射線状に道路や川、山が広がっている。

「パルクルトにあればよかったのですが、残念ながらそうではなく、ピアリの街になります」
 クリスタが、そう言って地図の西側に指を置く。

「ピアリ、か」
 各土地は貴族によって統治されており、もちろんパール家も領地をもち、エメラルド家も領地はあった。
 だが、マルゲリータは領地の権利をパール家に売却し、その資金をエメラルド家の領民へ寄附した。
 女一人で領地経営は無理よ、と言っていたが、エメラルド家の領地はこの国のどこよりもうまく行っており、マルゲリータの言葉が半信半疑だったが、王を説得し、領地権利の譲渡契約を結んだ。
 ピアリの街はエメラルド家がパール家に売却した領地になる。

「パルクルトでの仕事が終わったら、すぐに行ってみよう」

 エドワードならばすぐにでも汽車に乗り、ピアリへ向かうのでは、と思っていたクリスタにとって、思いがけない返答が来た。
 エドワードがパルクルトでやらなければならない仕事というのが気にはなるが、話の腰を折りたくないので、クリスタは気にしないことにする。

「ピアリの街は要塞都市となっており、その中心に位置する教会が、二重構造になっており、隠し部屋になっていました。そして、教会の隠し部屋にある模様がありました」
「模様?」
 クリスタは、地図から指を離し、先刻取り外した額縁の裏をエドワードに指し示す。確かに何かの模様が彫られているが、小さすぎて肉眼で見ることができない。
 エドワードが目を細めていると、クリスタが部屋の隅に置いてあるチェストから虫眼鏡を取り出し、エドワードへ手渡す。
 エドワードは「ありがとう」と礼を言った後、虫眼鏡をかざし、肉眼で確認できなかった額縁の模様を確認する。
 草花で作った王冠の中に獅子が遠吠えをしているような絵が彫られていた。
 家紋のような雰囲気を感じるほどの格式高さがあるが、残念ながらエドワードはピンと来なかった。
 エドワードは色々な家紋を見てきたが、このような家紋を持つ家は、エドワードの記憶上ではない。
「見えましたか?」
「ああ」
「これはリュカスの紋様しるしです」

 クリスタの言葉にエドワードは妙に納得した。

「この紋様が部屋の扉の上部にありました。大きさも今見たものと大差ないです」

 なるほど。だから、見せたのか、とエドワードは納得する。
「おそらく、リュカスそふエメラルドの娘そぼとやり取りをする際につけたものでしょう。未婚の女性が教会に長時間いても怪しまれない。人である彼女と行き来するための手段だったと考えています」

 だから、ピアリなのか。エドワードは妙に納得した。

 エドワードは虫眼鏡をクリスタに返却すると、クリスタがチェストへ虫眼鏡を戻す後ろ姿を見ながら、自分が掴んでいる情報も出しておくべきだと思い、口を開く。
「隠し部屋とまでは行かないが、パルクルトの街にも似たような構造を持つ教会があった。だが、詳しく調べていないから、どのような仕掛けがあるかわからない」。買い取ったから、後で調べ」
「ええ!  買ったのですか」

 クリスタの冷静な叫びにも似た声は、チェストを閉じる音と共に発せられ、幾分か大きな音を立てて出した。その音に驚いたエドワードは言葉を遮られた。

 しばしの沈黙の後、エドワードは尋ねにくそうに問う。
「まずかったか?」

 クリスタが深く息を吐く。
「それ、罠かもしれませんよ?」

 クリスタの声の後、静寂が流れた。
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