ある復讐とその後の人生

来栖瑠樺

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第4章

衣装選び

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 夏休みが終わり、学校が始まった。
皆、夏休みの間に、たくさん外出したんだろう。日焼けしてる人が多い。皆の話題は、夏休み行った場所の話が多い。
私は、講義のある部屋に一直線に行き、ドアを開ける。そして、辺りを見回して、真理奈と琉斗の姿を探す。2人を見つけて、近づくと向こうも気づいてくれた。
「おはよう」
声をかけると、2人ともジッと私の髪を見ている。
やっぱり、似合わない?
そのことで、owlとの会話を思い出す。
 この間、owlに会って、「いつも、同じ髪色で飽きないですか?」
と私の長い髪を見ながら言われる。
「飽きない。地毛」
「え!地毛?ハーフですか?どこの?あーでも、それより地毛で金髪なら、綺麗な色に染まりそうですね」
確かに母が外国人で、ハーフではある。顔のホリは、少し深めだ。それより、なぜ、私の髪を染める話になる。
「俺、染めるの得意ですよ!1度Bloody roseさんの髪に、染めたい色があるんですよね」
「染めるなんて、誰も言ってない」
「イメチェンですよ。学校の友達にも、褒めてもらえる自信ありますよ」
「・・・」
「じゃあ、決まりで」
そう言って、owlは上がピンクで、下にいくにつれて茶色になっていくグラデーションの髪色に染めた。
「どうですか?」
「たまに、髪色変えるのも悪くない」
「素直じゃないですね」
owlに笑われ、何のことか分からないが、無視した。
 そして、染めてからの初めての登校。
2人に、なんて言われるか気になる。
「可愛い~!」
「似合っている」
2人からの反応が良くて、安心した。
「急に変えて、どうしたの?」
「飽きたから変えた」
真理奈の質問に、嘘で答える。
「そうなんだ!どっちも似合うから良いね!」
「ありがとう」
しばらく、この髪色にしようと思った。

 今日の講義が終わり、私は、ある場所に向かっている。真理奈と琉斗に出会ったときに来たカフェだ。
そこに向かっている理由は、昼食中に琉斗に言われたからだ。
「今日時間あるか?紅音に話があるんだ。真理奈にも関係してる。学校が終わったら、最初に出会ったときに行ったカフェに来てくれ」
私は頷いた。そういえば、朝から真理奈の様子が変だったな。チラチラ見てくる。そのことと関係してそうだ。
「話って?今日の真理奈は、私のことをチラチラ見て、様子が変だね」
「あのね・・・えっと・・・」
「俺達、結婚することにしたんだ」
しどろもどろになっている真理奈の代わりに、琉斗が言った。
「結婚?いつするの?」
2人が婚約者同士なのは知っているが、報告するってことは、時期が早まったってことか。
「今年の冬にすることになったの。本当は、卒業後にしようかなと思ってた。同棲していくうちに、結婚したい気持ちが強くなって、お互いの親を説得したんだ」
頬を赤らめて説明する真理奈と、真理奈の肩を自分の方に引き寄せる琉斗。
その様子を見て、2人は幸せなんだなと伝わってくる。
「へえ。学生結婚か。おめでとう」
「「ありがとう」」
2人とも嬉しそうに笑う。急な話だが、2人が決めたことだから良いと思う。

   「それで、紅音にお願いがあるの」
「なに?」
真理奈からのお願い?結婚のことで?結婚に関して、自分にできることがあるのか?
恋愛に関して無縁なのに。
「結婚式で着るドレスに関して、意見がほしいの」
「・・・私の?」
「うん」
「新郎になる、琉斗じゃなくて?」
「だって、琉斗は買い物のときに、服を試着して意見を聞いても、どれも似合うしか言わないんだもん」
「・・・」
「そんな目で見るな。しかたないだろ。どれも似合うんだよ」
そんな目とは、どんな目だ。分からない。
確かに琉斗なら、どれも似合うと言いそうだな。
「なんで私なの?真理奈は、他にも友達いるのに」
「なんでって。紅音だからに決まっているじゃない。他にも友達はいるけど、紅音は、上部だけで接してこないと思うんだよね。他の子を信用してないってわけじゃないよ。紅音は、正直に言ってくれると思うから。それに今のあたしにとっては、紅音は、親友だから。琉斗も思っているんじゃない?」
「そうだな。真理奈を通じて思うことがたくさんあったけど、自分より人のことを優先してくれる。紅音だったら、友達より、親友の方がしっくりくるな」
今のは、聞き間違いじゃない。はっきり聞こえた。【親友】と。私のことをそんな風に思ってくれるのか。
逆に私にとっては、なんだろう。2人のことを【親友】と思っているのだろうか。
「・・・そっか。ありがとう」
「紅音は?あたし達のことを、どう思っている?」
「・・・自分にとって大切な存在。でも、どこからが親友と言うのか分からない」
「それは、もう親友だよ。大切な存在なんでしょ。その気持ちが変わらない限り、あたし達は親友だよ」
「そっか・・・。私は、友達や親友の意味も教えられてばかりだね」
「全然いいよ」
「その意味が、分かっただけで十分だ」

 次の休みに3人で出かける。まずは、真理奈と琉斗が結婚式をする教会に行く。
外観を見た後、中に入っていく。
「大きな会場ではないんだね」
「うん。学生結婚だし、家族と紅音しか招待しないから」
「公にしたら、費用もかかるから。他の人には、事後報告でいいと思ってる」
真理奈と琉斗の言葉を聞いて、疑問に思うことが1つ。
「招待客に、私も入れていいの?」
すると、2人はキョトンとした顔をしてる。
あれ?何か変なこと言った?
「え、逆になんでダメなの?」
「紅音には、これからドレス見てもらうし」
「いや、ドレスは見るけど、招待客が私以外は、2人の家族でしょ。そこに、私がいていいのかなーとか。1人増えたら、その分費用増えちゃうから」
私の言葉を聞いて、2人は、可笑しそうに笑っている。
「そんなことを気にしてたの?」
「紅音は、俺達の親友なんだから、招待するに決まっているじゃないか。お金のことは、気にしなくていいから」
「・・・・・ありがとう。ドレス選び楽しみ」
2人が私に対しての思いは、毎回伝わっていたが、聞くたびに私の心が、毎回暖かい気持ちになる。
結婚式のお祝い品は、何をあげようか。
「とっても楽しみ。早く行きましょ」
真理奈の一言で、ドレスを選ぶために移動する。今は、3人の穏やかな雰囲気が、協会の中に広がっていくようだ。

 目的地に着き、部屋の中には、たくさんのドレスが並べてあった。
「わあ~!たくさんある!どれにしよう~!」
目を輝かせて、辺りを見回してドレスを触り、興奮状態の真理奈。
「真理奈。候補とかあるの?こう言う系が良いとか?あとは、露出を避けたいとか?」
「それがね・・・露出は嫌ではないよ。デザインは、シンプルなAラインも良いし、マーメイドラインも良いとも思ってる。でも実際に見たら、他のデザインも良いなと思っちゃて・・・。振り出しに戻ちゃった」
「なるほど」
私は真理奈の候補とは、真逆のことを考えて、目的地まで歩いて考えている候補から、ドレスを漁る。
「紅音?」
後ろから付いてくる真理奈に、声をかけられたが、無言でドレスを見る。
「これ似合いそう」
選んだドレスは胸元まで開き、ビジューが、散りばめられ、スカート丈は、前がひざの少し上で、後ろになるにつれて、波打つように、だんだん長くなってる。後ろ姿は、ロングスカート丈で床を引きずるタイプだ。
「全然考えてなかったデザイン・・・」
予想外のデザインに困惑してる真理奈に、ドレスを押し付けた。
「とりあえず、試着してきなよ」
「う、うん」
戸惑いながらも、ドレスを受け取り、スタッフさんと一緒に、試着室に入って行った。
待つこと10分ちょっと。試着室のカーテンが開かれた。
「どう?似合う?」
私の選んだドレスを着て、髪を軽く結い上げた真理奈が、この部屋に来たときと同じように、目を輝かせて聞いてきた。
「うん。似合うよ。あとは、琉斗が何て言うかだね」
「そっか。想定外だったけど、これ実際着たら、とても可愛い!」
「琉斗呼んでくるよ」
 私は、未来の花嫁姿を見てもらうために、待機室にいる琉斗を呼ぶ。そして、一緒に、真理奈のいる部屋に戻ってきた。
「どう?琉斗。紅音が選んでくれたの」
「・・・」
「琉斗?」
琉斗に感想を求めても、無言で真理奈を見てるだけ。再度呼びかけても、反応なし。
琉斗を見ると、これは見惚れてると分かった。まだ、完全なドレスアップじゃないのに、本番どうするつもりだ。
私は、琉斗の背中を軽く叩いた。
「イテッ!なにすんだよ!紅音!」
「そんなに強く叩いてない。それより、真理奈のウェディングドレス姿を見て、琉斗が無言だから、未来の花嫁が不安がってる」
それを聞いて、ハッとして、真理奈を見る琉斗。
「ごめん。あまりにも綺麗だから見惚れてた。似合っている」
「ありがとう」
2人の赤面状態が続くので、わざとらしく咳払いした。
2人は、自分達の世界から現実に戻ってきた。
 すると、琉斗はスマホを取り出し、ドレスを着た真理奈を収める。
「ウェディングドレスは決まったね!あと、お色直しが1回あるの。それも、紅音の意見が聞きたいから、手伝って」
「分かった。次は、真理奈が選んでみれば?ロングもありだと思うよ」
「分かった」
真理奈が選んだドレスは、少し赤みが入ったピンクの生地に、花がピンク赤、紫が散りばめられている。スカートは、大きく広がっている。
「似合っているよ。琉斗は、また見惚れて無言にならないようにね」
「分かってる!このドレスも似合う」
「良かった!これでドレスも決まった!ありがとう、紅音!」
「確かに。俺だったら、きっと決まらなかった」
2人に感謝された。ドレス選びに付き合っただけなのに。
真理奈が着替えている間に、琉斗に問いかける。
「琉斗のは、決まったの?」
「ああ。真理奈に合わせて選んだ」
真理奈のドレス姿の写真を見ながら、ニヤついてる琉斗。ちなみにカラードレスの写真も収めてる。
今の琉斗の表情。事情を知らない人からすれば、怖いから気をつけろって感じだと、密かに思っていた。

 真理奈が、試着室から出てきたので、帰ることにした。車内で、真理奈から話しかけられる。
「紅音。今日は、ドレス選びに付き合ってくれて、本当にありがとう。2着とも、とても気に入ってる」
「良かったよ」
「紅音が結婚するときは、あたしも、ドレス選び付き合うから」
「・・・」
「この間、琉斗から聞いたんだけど、紅音は、まだ恋愛はいいんだってね。いつか、彼氏ができたら、ちゃんと紹介するんだよ」
「そうだな。紅音の彼氏が、どんな人か気になるな」
「・・・分かった」
その後、2人は今後の結婚について、ずっと話していた。
 私は、窓の外を見ながら思った。
真理奈が、私のドレス選びをすることはない。その前に、私は姿を消しているから。
それに、恋愛は今後もするつもりがない。

 私は、復讐が終われば、その後のことなんて何も考えてない。正直、どうでもいいと考えてしまう。
だから、今は、2人を通じて知った感情や出来事を思い出にしたい。
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