上 下
8 / 96
1章 麦味噌の記憶 〜つみれと大根とほんのり生姜〜

しおりを挟む
「猫神様、そんなに見つめられたら、食べてる方も緊張しますよ。ねぇ?」
「え、ええ……まあ」
「ワシのことは気にしなくていいから、食べるんだ」

 アキは再びその生姜が香る白っぽいみそ汁を啜った。
 味噌自体の甘みと大根の甘みがマッチしている。そして鶏団子の味もパンチが効いていて、すぐにご飯が食べたくなった。
 たった一口のみそ汁に対して、アキはお米を二、三口と口に運んだ。

「こんなに美味しいみそ汁……食べたことない」

 続けて生姜焼きも口にした。想像よりも遥かに食べやすい。しょっぱさがなく、ちょうどご飯に合う味付けだった。
 アキは綺麗な三角食べを見せている。

「だろだろ。こいつのみそ汁はな、出汁が決め手なんだ。あれが旨味を最大限まで引き出してるんだよ」

 猫神様が得意げに話し出した。
 アキは確かにと同意しながらも、箸を進めるペースを落としはしない。
 サリはキッチンの中に置いてあるカウンターチェアに座って頬杖をつきながら、アキの食べっぷりを嬉しそうに見ていた。

「あなた……死にたいんでしょ?」

 止まることなかった箸の勢いが、サリの一言でピタッと止まった。
 アキはサリに目線を移す。サリの目つきが今までよりも鋭くなったことを確認してから、咀嚼を続けた。
 ゴクンと飲み込んだ後に「どうして私のことを?」とおそるおそる聞く。

「ここに来るってことは、そういうことだから」

 サリの真剣な表情は緩むことがない。
 ここに来るってことはそういうこと……アキはいまいちピンと来ていなかった。
 コップ一杯の水を一気飲みした後に、サリに質問する。

「それって、どういう意味ですか?」

 同僚の春風にオススメされただけ。それなのにサリは、まるでここに来るのが運命だったかのように言っている。
 自殺したいという気持ちがあることに間違いはない……でも、どうしてサリがそれを知っているんだろう。

「この食堂はね、冥土と繋がっているの。あなたが死ぬか、それとも生き続けるか、その分岐点にあるお店なのよ」
しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

フロンティア ストーリア

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

勇者Bの冒険

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

春のおさんぽ

エッセイ・ノンフィクション / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

うるうる年

大衆娯楽 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

縁に降る雪

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

処理中です...