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1章 麦味噌の記憶 〜つみれと大根とほんのり生姜〜
⑪
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不幸というのは、どうして重なるのだろう。
神様は惨い運命を用意していると、つくづく実感した。
翔と別れてから一週間後、アキのスマホに警察から連絡があった。
「父が……死んだ?」
大学を卒業してから一人暮らしを始め、アキは父と意図的に距離を取っていた。
同じ東京に住んでいるとはいえ、連絡を取ることを控えていたのだ。
父への愛情を感じることができず、そればかりかアキの不幸な人生はほとんど父のせいだと、恨みを抱いていた。
もし父が離婚せず、普通の家庭として生きていけていたら、こんな辛いばっかりの人生ではなかったはず。
だから父のことはなるべく考えないようにしていたのに……まさかの知らせだった。
「おい胡桃! 落ち込んでいる暇なんてないぞ! お前が忌引き休暇でいなかったせいで仕事が溜まってるんだ。今すぐクライアントのところ行ってこい!」
お通夜や葬式などを諸々済ませて、まだ父の死も受け入れられていない状態なのに、上司は容赦がなかった。
精神的に疲弊しているのに、身も心も休む暇がない。
父の死は、思っていたよりもダメージが大きかった。
「恋人との別れ、父親の死、そして上司からのパワハラ……あなた大変だったわね」
そう言って、サリがコップ一杯の水をアキに渡す。
アキは俯きながら「辛かったです」と漏らした。
猫神様が同情するように溜息を吐く。そのままアキの眼前まで行って、低い声で聞いた。
「それで、ここに来たってか」
心の整理がつかなくなって、いよいよ会社を休んでしまった。
色んなことから逃げたいと思っていた時に、春風からメッセージが入ってこの食堂に来た。
そういう流れだった。
「はい……会社の同僚からここを紹介されて……それでここに来ました」
サリが「なるほどね……」と言って、食べ終わっている食器がのったトレーを下げる。
アキは小声で「ご馳走様でした」と発した。サリは首を振って「まだ食べれるでしょ?」と聞いた。
「え、まだあるんですか?」
「ううん。みそ汁、もう一杯飲まない? いっぱい作ったから」
アキはちょうど、おかわりしたいと思っていたところだった。
芝居染みた表情で「余っているなら……」と答える。本当は率先しておかわりしたいくらいなのに。
神様は惨い運命を用意していると、つくづく実感した。
翔と別れてから一週間後、アキのスマホに警察から連絡があった。
「父が……死んだ?」
大学を卒業してから一人暮らしを始め、アキは父と意図的に距離を取っていた。
同じ東京に住んでいるとはいえ、連絡を取ることを控えていたのだ。
父への愛情を感じることができず、そればかりかアキの不幸な人生はほとんど父のせいだと、恨みを抱いていた。
もし父が離婚せず、普通の家庭として生きていけていたら、こんな辛いばっかりの人生ではなかったはず。
だから父のことはなるべく考えないようにしていたのに……まさかの知らせだった。
「おい胡桃! 落ち込んでいる暇なんてないぞ! お前が忌引き休暇でいなかったせいで仕事が溜まってるんだ。今すぐクライアントのところ行ってこい!」
お通夜や葬式などを諸々済ませて、まだ父の死も受け入れられていない状態なのに、上司は容赦がなかった。
精神的に疲弊しているのに、身も心も休む暇がない。
父の死は、思っていたよりもダメージが大きかった。
「恋人との別れ、父親の死、そして上司からのパワハラ……あなた大変だったわね」
そう言って、サリがコップ一杯の水をアキに渡す。
アキは俯きながら「辛かったです」と漏らした。
猫神様が同情するように溜息を吐く。そのままアキの眼前まで行って、低い声で聞いた。
「それで、ここに来たってか」
心の整理がつかなくなって、いよいよ会社を休んでしまった。
色んなことから逃げたいと思っていた時に、春風からメッセージが入ってこの食堂に来た。
そういう流れだった。
「はい……会社の同僚からここを紹介されて……それでここに来ました」
サリが「なるほどね……」と言って、食べ終わっている食器がのったトレーを下げる。
アキは小声で「ご馳走様でした」と発した。サリは首を振って「まだ食べれるでしょ?」と聞いた。
「え、まだあるんですか?」
「ううん。みそ汁、もう一杯飲まない? いっぱい作ったから」
アキはちょうど、おかわりしたいと思っていたところだった。
芝居染みた表情で「余っているなら……」と答える。本当は率先しておかわりしたいくらいなのに。
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