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3章 人気の合わせ味噌 ~焼きネギと舞茸入り贅沢豚汁~

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「ん? んんー?」

 アキが目を覚ますと、そこは狭い小部屋の中だった。
 部屋中が本棚で囲まれており、推理小説やら歴史小説やらがびっしりと並んでいる。
 その部屋の中心に、布団と掛け布団が一枚ずつ。
 アキが起きた時には、掛け布団が足にしかかかっていなかった。

「あれ、私寝ちゃってた!?」

 飛び起きるように立ち上がる。
 布団の下は畳だ。畳に体重がのると、少しミシミシという音が鳴ったのを確認した。
 小窓が一つだけあって、そこから入ってくる太陽の光で、もうお昼に近いのではないかと察知する。

「あれ? なんか良いニオイがするぞ?」

 寝屋の引き戸を引くと、目の前に階段がある。
 隣にも同じような部屋があるみたいだけど、覗くのはやめておいた。
 やや重い体を無理やり動かして、階段の下に降りていく。

「あら、おはよう。昨日は飲み過ぎたみたいね」
「あ、サリさん」

 階段を降りると、ちょっとしたダイニングテーブルがあって、その小さな空間には誰もいない。
 奥のパントリーを通過して、昨日までどんちゃん騒ぎをしていた店内に出る。
 キッチンには昨日と同じ姿をしたサリが立っていた。

「ネトって楽しくなるとすぐ調子にのるからね。ああいう時は断ってもいいのよ?」
「……すいません。でも、今更家に帰るのも無理な気がしたので」

 昨日から使っていた椅子に座って、頭皮マッサージをする。
 頭痛がチクチクと、アキを襲っている。
 すると猫神様がひょこっと顔を出して、アキの視界に入ってきた。

「まあ、こんな非現実世界を知ったら、元には戻れないわな」
「猫神様……おはようございます」
「お前さん、昨日は死ぬほど愚痴ってたな」

 愚痴……? アキは飲み始めてから朝までの記憶がまるでなかった。
 頭も痛く、ただ楽しそうに酒を注いでくるネトの顔だけが思い浮かぶ。

「私……どんな愚痴をこぼしていました?」
「ほぼ全部の悪口を言ってたぞ。会社とか世の中に対してとか」
「それはお恥ずかしい」

 優しいサリは目尻を下げながら「ストレス発散も大事よね」と笑ってくれた。
 その表情に救われたアキは、サリが置いてくれたコップ一杯の水を一気に飲み干し落ち着くことにした。

「あ、あれ? ネトさんは?」

 唐突に質問するアキ。
 今朝までここにいたはずのネトは、どこに行ってしまったのか。
 猫神様がいつものポジションに横になりながら、嫌みっぽく言う。

「あいつは夜の部担当だからな。散々飲んで帰っていったよ」
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