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3章 人気の合わせ味噌 ~焼きネギと舞茸入り贅沢豚汁~

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「今日の出汁はあご出汁よ。トビウオから取った出汁ね」
「すごい……凝ってますね」
「うーん、意外と簡単よ。これをみそ汁に使っていくわ」

 料理ができるサリのことを、アキは羨ましく思う。アキは食べる専門で、作ることをあまりしないから余計にそう思った。
 あご出汁なんてスーパーに売っている市販のものしか知らない。まさか自分で取っているとは。
 それは猫神様も夢中になるよな……皿が乾くまでペロペロしている猫神様を見ながら、自分自身もこの店の味に舌鼓を打った。
 アキも皿と汁椀を空にして、ご馳走様をする。

「せっかくだから、今日もお客様のこと見てみれば? 昨日ネトのお客様と一緒にいたんでしょ?」
「あ、はい。いいですか? 今から家に帰るのは、ちょっと無理そうなので……」
「ネトがそうしろって言ったんだもんね? 私はもちろんウェルカムよ」

 サリの親切な言葉が刺さる。
 この店に入り浸るなんて、予想だにしていない展開になっている。
 どん底な生活から、非現実的で数奇な世界に入るとは。

「あなたをこの店に導いてくれた男の人、今どこにいるんでしょうね?」
「……ええ。春風君どこにいるのかな」

 春風に連絡を取ろうと思えば取れる。でも、もしかしたら神様の一種かもしれないという疑いがある以上、怖くて連絡できなかった。
 もし、死を選ばなかったことに落胆されたらどうしよう。
 神様だとしたら、私が辛そうに生きているのを見て、ここに導いてくれた。
 それでも生きることを選ぶ、つまりは厳しい道を選んだなんて、春風が知ったら驚くに違いない。
 春風は今のアキを見て、どう思うのか……そして今どこにいるのか。

「この際連絡してみたら?」
「ええ?」
「怖いかもしれないけど、向こうは普通の人間として生きているのよ? 平然を装って連絡したら、きっと返信してくれるわよ」
「でも、神様だってこと、向こうは知られたくないですよね?」
「まあね……でもこの店を紹介したということは、神様関係者であることは間違いないわ。知られるのは時間の問題だと思っているはず」

”ガラガラ”
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