βが番になる方法

叶希

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2話

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……結局その後のことは覚えていない。疲れ果てて眠って、朝起きると隣にはお客さんが居らず、周りを見渡すとソファーの方に座っていた。

「あっ!おはようございます」
そう声を掛けると、
「おはようございます。体は大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です……」

気まずい。何を話せばいいのか……。
そう思っていると、お客さんが俺のいるベッドに近寄ってきた。
「お兄さんの名前は何ですか?」
「え!?あ、俺……自分の名前は深山です。深い山で深山」
なぜ急に名前を聞かれたのだろう。ただのコミュニケーションか?そう思いながらお客さんの方を見ると、自然と顔に目が行く。αらしい精悍な顔立ちだ。昨夜見えた顔と比べると、眼光の鋭さが落ち着き賢い印象を覚える。

じっと顔を見ていた俺も名前が知りたいと思われたのか、お客さんも改めて名前を言った。

「私は高宮です。……あの、連絡先を交換しませんか?」
「え、あ、はい。分かりました?」
突然そう言われた。なぜだろう。ただの店員に対してこんなに聞くものか?今までの仕事ではほとんどそんなことは無かったが……。まぁ今まで対応したことが無いタイプだから今までは当てにならないだろうが。

「ありがとうございます。ところで、時間は大丈夫ですか?」
「え……もう8時!?すみません、もう出ないと!」
今日は一限が無いとは言え、ここから家に帰って支度してだと大分時間ギリギリになる。
着ていたバスローブから手早く自分の服に着替え、荷物を取りに店に向かう。
「バタバタしてすみません!ありがとうございました、お客さ……高宮さん!」

そうして部屋を後にした。店に一言告げ、駅まで走り、一息ついて電光掲示板を見る。俺の乗る電車は五分後に来ると表示されていた。
ギリギリ間に合ったが、息が切れて仕方がない。体力が回復しきっていないのに全力疾走してきたからだ。

「普通に取り乱して出てきちゃったけど大丈夫か?」
お客さんを放置したまま出てきた事を実感し、少し不安になる。
いつもはもっと早くに起きて落ち着いて部屋を後にできるのに。

そんなことを考えていると電車が到着した。
荷物を持って立つと、少し立ちくらみがした。顔の火照りと息切れもまだ収まっていない。幸い席は空いていて、座って家まで帰ることができた。
時間が無かったので昨日着た服は出しっ放しのまま、必要な荷物を持って大学に向かった。





その日の大学が終わり、バイト先に向かう途中。
「あ~疲れた~~」
あの後は遅刻はしなかったが疲労感が強く、授業の内容が頭に入った気がしない。もうこのまま帰って寝てしまいたいくらいだ。

「お疲れ様で……っ!?」
店に着いて、いつも通りに裏口の扉を開けて中に入っただけだった。なのに、それなのに急に体から力が抜けて熱を帯びる。膝が抜けて鞄の中身が飛び散る。
「どうした、深山!」
木崎の声がする。物音に気づいてこちらに来たんだろう。
「あ、木ざ、き。なか、急に」
出した声は自分にすら届かないほど小さな声だった。木崎に届いたかどうかは分からないが、俺の前から立ち去り、入れ替わりに店長が目の前に現れる。

「深山くん!大丈夫ですか?今日はもう帰りましょう。立ち上がれます?」
「あ……は、い」
体を支えられて立ち上がる。頭がクラクラする。
「車で送りますね……。皆さん!少し留守にするのでお願いします」

店長の声が聞こえる。こんなに体がきつくても、意識だけはハッキリとしていた。
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