カタクリズム

ウナムムル

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3章:死者の国編

第18話 表と裏

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【表と裏】







戴冠式まで残り1時間、アムリタ城内

「はぁ・・・はぁ・・・くそっ!何でこの俺が逃げなくてはならないっ!」

レンブラン・ノイシュタット・リ・アムリタは城内を走っている
死をばら撒くだけの存在と化したZEROから逃げるため、彼は走っていた

「はぁ・・・はぁ・・・レヴィめ、首を跳ねてやる・・・はぁ・・・はぁ・・・」

彼はZEROの変化が緑の蛇団長であるレヴィの仕業と思っていた
何が新しい力だ!何がゾンビだ!あんな汚物など使うべきではなかった!
酷い臭いを撒き散らし、この俺に臭いが染み付いたらどうしてくれる!
くそっ!くそっ!ルアの奴!この俺に剣を向けるなど許さんっ!
いつでも俺の後ろを金魚の糞のようについて来ていただけの存在じゃないか
それが何故・・・父上は気が触れていたのだ!
あんな奴が王の器だのと言わなければ殺しはしなかったものを・・・

全てはルアのせいだ!死・・・そうだ、奴は死んでしまえばいい!

だが、もう近衛騎士団もゾンビもいない・・・どうする
ルアが連れてきた連中は手練揃いだった
しかし、ZEROのあの力、おそらく全滅だろう
という事はルアもあの場で死んだか?くくっ、それは好都合だな

そんな事を考えながら走っていると、背後から足音が近づいてくる
振り向いたレンブランは眼にする、自分と同じ顔の男を・・・

『ルアァァァアッ!!』

レンブランは振り向きながら抜刀をする
アムリタ王家の紋章が彫られた煌びやかな黄金の剣を・・・

『レノォォォォッ!!』

ルアもまた抜刀する、レノが持つ剣と全く同じ物を・・・
いや、1つだけ二人の剣には違いがある、柄部分に煌めく宝石が違うのだ
レノの剣はその激情を現したかのような赤い宝石が埋め込まれており
ルアの剣には彼の穏やかな心を現したかのような青いの宝石が埋め込まれている
この剣は二人の両親が彼等の誕生を祝して作らせた2本の剣である
双子であるレンブランとルーゼンバーグに合わせて寸分違わぬ剣を2本用意したのだ
それぞれの剣に埋め込まれている赤と青の宝石は実は同じ物である
1つの宝石を熱を加える事で変色させ2つに分けた
この宝石は誠実と勇気という意味を持っている
二人に真心のある勇気ある男に育って欲しいという願いを込めて作ったのだ

キィィンッ!

両親の想いと裏腹に、その2本の黄金の剣がぶつかり合い火花を散らす

「ぶっ殺してやるっ!」

「くっ・・・」

狂気にも似たレノの表情に、ルアは刹那だが臆する
ギリギリ・・・という鍔迫り合いが続く中、レノは笑っていた

「ずっとお前が気に入らなかった!
 やっと・・・やっとだ、やっとお前を殺せるなぁっ!!』

「レノ・・・っ!どうしてそこまで僕を・・・っ!」

「お前は愛されていたのさ!父上にも!母上にも!」

「そんな!僕達は等しく愛されていたよっ!」

「お前がそんなだから腹が立つんだよ!!
 お前は何も分かっていない!
 父上はお前を王に選ぶつもりだった!
 母上は・・・母上は!お前にだけ微笑んでいたっ!!」

「・・・・・」

「母上はな、俺には厳しい言葉しかくれなかった
 だがお前は違う!いつだって母上はお前に微笑んでいた!
 解るか?この惨めな気持ちが!解るか?この憎しみがっ!!」

「そんなことは・・・違うよ・・レノ」

「何が違う!お前は両親に愛されていた!
 俺とは違うんだよ!俺は邪魔だったんだ!愛されてなどいなかった!!」

「違うんだよ・・・レノ・・・」

「だから奪ってやった・・・お前から全てを!
 母上は病死ではない、俺が殺したんだよ、くっ・・くくっ
 父上と同じくなぁ!俺がゆっくり毒を盛って殺してやったんだよ!!」

「嘘・・・母様は病気で・・・嘘だ!レノッ!」

「はははははははっ!おめでたい奴だなお前はっ!
 母上が悪いんだ、お前しか愛さないからな、だから殺してやった」

「レノ・・・・」

ルアの手がわなわなと震え、唇を噛み締めている
その表情が見たかったレノは勝ち誇ったようにニヤける・・・が

『お前は・・・・お前だけは許さないっ!!』

ルアの見せたこともない怒りの表情に一瞬臆してしまう
鍔迫り合いはルアが勝ち、レノはバランスを崩して数歩下がる

「・・っ!くっ、くくくっ・・・いいぜ、殺し合おうぜ兄弟!」

レノは身体を左に向け、右腕と右足をルアへと向ける
その構えはまるでフェンシングのようなスタイルだ
ルアは身体を右に向け左腕と左足をレノへと向けている
そっくりな二人の容姿も相まって、合わせ鏡のような二人だった

マリアンヌは走り出したルアの後を追い、やっとの思いで二人に追いつく
彼女が最初に目にしたのは2人が剣を交える場面だった
弟同士の殺し合い、避けられぬとは言え、一番見たくないものを目の当たりにしていた

『ルア!』

彼女の叫びは二人の皇子に届き、二人の視線が彼女に集まる

「兄弟で殺し合いなど止めなさい!他に解決する方法はきっとあります!」

マリアの言葉はルアの胸に刺さる
ルア自身もレノを殺したくなどない、だが仕方のない事なのだ
しかし、レノにはマリアの言葉は響いてはいなかった・・・

「くくっ・・・ほら見たことか、姉上までお前しか見ていない
 結局お前等には俺は邪魔者でしかないんだよ!だから全員殺してやる!」

油断したルアを思い切り蹴飛ばし、レノは切っ先をマリアへと向ける

「姉上ぇ、まぁずは貴女からだぁ」

「っ!」

レノの狂気にも似た表情にマリアの頬が引つる
そして、レノがマリアの方へと走り出すと、不意に足の自由が奪われ
彼の身体はそのまま前のめりに倒れ込んでしまう
顔面を大理石の床に強打したレノは鼻から血を流し
足を掴む存在へと憎悪の眼差しを向ける

『ルアァッ!』

「させない!姉上は殺させない!」

「離せ!離せ!このっ!」

必死にレノの足にしがみつくルアの背中を黄金の剣の柄で殴り続ける
チェインシャツを着込んでるとは言え、鎧を着ていないルアには激痛だった

「ぐっ・・・・うっ・・・嫌だ!離さ・・・ないっ!」

「ならば・・・死ねっ!!」

レノは剣をくるりと逆手に持ち替え、切っ先をルアの背中へと当てる

『やめてええええええ!』

マリアの悲痛の叫びが城内に響く・・・そして、ルアの何とも言えない声が洩れた

「おおぉ・・・・がはっ」

レノの持つ黄金の剣の切っ先は5センチほどルアの背中に突き刺さり
傷口からは少量だが血がにじみ出ていた

「ふ・・ふふ・・・はははははっ!死ねっ!死ねっ!」

レノが剣を引き抜き、再びルアの背中を刺そうとすると
遠くから1本の槍が飛んでくる、それはレノの持つ黄金の剣を弾き、剣は宙に舞った

「フゥーッ!間一髪?俺お手柄じゃね?」

『っ!誰だ!』

「調子に乗るでない、まだ終わっておらんぞ」

槍を放ったのはドラスリア騎士団アシュ・ブラッド
そして一緒に来たのはドラスリア騎士団長バテン・カイトスだ

「ドラスリア騎士団だこの野郎!・・・で、どっちがクソ皇子だ」

「お前・・・それを分からず助けたのか・・・・」

「団長見分けられるんっすか!?すげぇっすね」

「いや、俺も見分けはつかんが・・・何となく解るだろう?」

「マジっすか、俺全然っすわ」

頭を掻くアシュに苛立つレノはゆっくりと立ち上がり、自身の剣を拾う

「貴様等全員殺してやる」

「お、あれクソ皇子っぽいな、あいつで正解っすよね、だんちょー」

「あぁ、間違いないな、やっこさん殺る気だから気をつけろ」

「あんなクソに俺が負けるわけねーっつーの」

「お前、槍をさっき投げただろう」

「げ・・・そうだった」

コントのような二人にレノの苛立ちは限界に達する
歯茎から血が出るほど噛み締め、血走った目を大きく見開き
レノが黄金の剣を構えたその時、ルアがふらつきながら立ち上がる
背中からは大量の血を流し、今にも倒れそうな姿だった

「ドラスリアの方々、助けて頂いた事は感謝する
 だが・・・げほっ・・・手出しは無用・・・これは僕の役目だ、解ってくれ」

「へっ、そう言われちゃぁ仕方ねぇ、な?だんちょー」

「んむ」

「感謝する・・・げほげほっ」

口からも血を吐き出しながら、ルアは黄金の剣を構える

「ルアァ、そんなナリで俺と殺ろうってのかぁ?あぁん!?」

「そうだよ、レノ・・・・げほっ・・・僕は・・・貴方を倒す
 そして、父上や母上の無念を晴らし、姉上を・・・アムリタを救う!」

「いいだろう、最初にお前を殺してやる」

「アムリタの名にかけて、僕は勝つ!!」

そして、二人の剣が交差する・・・・






アムリタ城内、玉座の間

赤い絨毯が敷き詰められ、宝石で出来たような巨大なガラスのシャンデリアが煌めく
沢山の燭台の灯りが照らしており、室内は明るい
この広間には大勢の貴族が押し寄せており、がやがやと騒がしい
前日から城に入っている彼等は外での騒ぎなど知る由もなく
ここにいる半数の貴族は城を出た時に卒倒するだろう
二人の巫女による究極融合魔法で破壊された豪邸は数知れないからだ

だが、ここにいる全員が城内外で何かが起こっているのは気づいている
激しい揺れを幾度も感じたからである
そして、アスタロトの心臓が解放された時に放出された魔力を
本能的に感じ取った人は大勢いた

「一体どうなっているんだろうね」

「さぁ?近衛騎士団に訪ねましたが今はここから出ないでくれと・・・」

「賊が城内に侵入したのかしら?怖いですわ」

「先程の揺れはやはり砲撃か何かか?」

「まさか、壁が破られるとは思えませんな」

「そうであったな、我が国の壁は傷一つ掴んからな!ははははっ」

「そうでございますわ、きっと式の祝いの花火でも暴発したのでございましょう」

「ははは、それは何とも情けない」

くだらない会話、危機感など無いに等しい愚かな貴族ども
それがこの場にいる中で唯一貴族でない者の彼等への評価だ
彼女の名はラスール・ナビィ、褐色の肌に白いフード付きのローブを身に纏い
ターバンで顔の大半を隠している独特な雰囲気を漂わせる女性だ
彼女はその背に黒い狐の紋章を掲げており
その紋章こそ、砂漠の国メンフィスの者である証である

近年、強大な力を手に入れた大国アムリタと親睦を深めるため
王命により遠路遥々こんな場所まで足を運んだのだ
丁度時期がよく、新王の即位式に立ち会う事が出来たのは幸運と言えよう
貴族どもの会話は愉快なものではないが、国のためにと我慢できる
だが、先程からの揺れや膨大な魔力の波はただ事ではないのは確かだ
この国で何かとてつもない事が起きている、それだけは間違いが無かった

ナビィはメンフィスの中でも優れた人物である
それは呪術的に、という意味だ
彼女はこの魔法の弱い世界では珍しく、それなりの魔法を使いこなす事が出来た
と言っても、ラルアースでは中の上程度の実力ではあるのだが・・・
彼女の属性は火、炎の魔法を得意としていた

そんな彼女にとって、アスタロトの膨大な魔力は肌で感じられるものであり
尋常ならざる存在が現れたのだけは解っていた
しかし、不思議な事にその膨大な魔力は嘘だったかのように消え失せている
あれほどの魔力を放つ存在を倒せる者がこの国にいるという事だ
噂に名高い神の使者、アムリタ聖騎士団・青の大鷲オエングス・オディナだろうか
それとも死の槍を持つという、アムリタ聖騎士団・赤の獅子団長クー・セタンタか
どちらにしろ、驚異である事には変わりないか・・・

あれほどの常軌を逸した魔力に勝利できる存在
それは単騎で国すら落とせるような存在という事になる
いや、待てよ?そもそも単騎で勝ったという前提が間違っているかもしれない
そうだ、あんな化物みたいな存在に勝てる者がいる訳がない
聖騎士団達で倒したのだろう・・・そうであってほしい
でないと、メンフィスでは到底勝ち目のない相手という事になってしまうから・・・

そんな事を考えていると、何やら貴族達が騒がしくなる
チラリとそちらに目を向けると、玉座の間の巨大な扉がゆっくりと開き始めていた

ギギギギギ・・・・

開いた扉の先には1人の男が立っていた
黄金の剣を腰に刺し、眩しいほどの輝きを放つ黄金の鎧を身に纏い
厚手の純白のマントを背負っている
静まり返った玉座の間に、その男の歩く度に発する鎧の音が響いていた
彼は玉座の前へと行き、横に2歩ほどズレてからそこで立ち止まる
そして、自分が入ってきた巨大な扉の方へと視線を向けた
すると、紅い薔薇のような女性が玉座の間に入って来る所だった

真紅のドレスに黄金の髪飾り
そして、その贅沢の極みの装飾すらも霞む美貌を持った女性
あれがアムリタの美姫(びき)マリアンヌ・フュンシュタット・リ・アムリタだろう

彼女もまた玉座の前へと歩を進め、お淑やかに先に来た男へとお辞儀をする
男が軽い会釈をし、二人は貴族達の方へと身体を向けた
その瞬間拍手喝采が起こり、玉座の間は途端に騒がしくなる
赤い服を着た一団が同時にラッパを吹き、戴冠式の始まりを告げていた

玉座の前に立つ男が片手を挙げ、拍手を止めさせる
そして、美姫マリアンヌと男は向かい合い、男はゆっくりと片膝をつく
腰の剣を抜き、それを両手で掲げると、その剣をマリアンヌが手に取る
黄金の剣を片膝をつく男の肩に置き、宣言する

「この者の神聖なる資質に対し、
 神の御前にて戴冠の儀を以て、我はこの者に宣言する」
 
「はい」

「汝の御手は強くあれ、心は麗しい言葉にあふれ、神は汝の力に喜びたり」

「・・・・」

「新王・・・レンブラン・ノイシュタット・リ・アムリタの誕生である」

オオオオオオオオオオオォ!!

一斉に拍手が起こり、会場の気温が上がったかのような錯覚すらする
立ち上がり、紅い宝石が煌めく黄金の剣を受け取った
レンブランはそれを天高く掲げ宣言する

「俺はこの国をより良いものへと導く!
 だが、俺はまだ若い・・・貴族の方々よ、力を貸してほしい!」

オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!!

先程よりも大きい歓声が上がり、その拍手はしばらく鳴り止まなかった






新王誕生のお祝いは夜通し続いた
様々な料理が並び、国民全員を酔わすほどの酒が並び
音楽隊が愉快な音を鳴らし、それに合わせて躍る者、歌う者もいる
この日、アムリタ城は飲めや歌えやの大騒ぎだった

夜空には花火は上がり続け、夜の闇を照らす光明のごとく輝いている

祝賀会会場外

「陛下」

「ディムナか、表をあげよ」

「はっ!」

「この度はよく働いてくれた、感謝する」

「勿体無き御言葉」

「そんなかしこまらないでくれ、疲れてしまうよ」

「陛下、口調が・・・」

「あ、これはいけないね・・・まだ慣れないんだ」

「ゆっくり慣れれば良いので御座います
 しかし、他の者の前では・・・・よろしくお願いします」

「本当に僕にできるのか分からないけど・・・頑張るよ」

「いつでもお力になりますが故、何なりとお申し付けください」

「ありがとう、助かるよ」

もう気づいた人もいるだろうが、新王レンブランとはルーゼンバーグなのだ
彼等は双子である、そのため彼等を見分けられる人物などいないに等しい
大半の者が、服装や口調、そういったもので見分けていた・・・そこを利用したのだ






戴冠式前日・・・アムリタ聖騎士団"青の大鷲"兵舎

「本当ですか、皇子よ」

「はい、僕はレノと・・・兄と戦います」

ルアはエイン達と別れた後、その足で青の大鷲の兵舎を訪れていた
団長ディムナ・マックールは彼が立ち上がるのを予想していた
ディムナはルーゼンバーグという男の真の姿を知っているからだ
幼い頃のルアは賢く、優しく、根が真面目な子だった
しかし、ルアはある日を堺に愚かな行動を取り始める
ディムナはそれを彼の演技であると見抜いていた
そのためエイン達に彼を説得するよう頼んだのだ

「皇子が立ち上がるのを心待ちにしておりました」

ディムナは膝をついて頭を垂れる
それをルアが手で制し、彼を立ち上がらせ、現状を把握するため質問攻めにしていた
だいたいの状況を把握したルアは久々に頭をフル回転させる
何が最善で、何が必要ないか、どうするべきか
様々な案が脳内を駆け巡る中、ディムナが1つの案を提示する

「皇子、大事なお話が御座います・・・」

「なんだい」

「今、アムリタにレンブラン皇子という人物は必須と言っていいでしょう」

「・・・・そうだね、民は彼の力を信頼している」

「はい、王が崩御されたと知ればレンブラン皇子を次の王にと思う事でしょう」

「僕はああやって生きてきたから、それは解っているよ」

「ここで王の崩御、そして次の王たる皇子が死亡というのは・・・」

「国が傾くと」

「はい」

「で、団長には考えがあるんだね?」

「はい・・・・その前に1つ聞いても宜しいでしょうか」

「なんだい」

「ルーゼンバーグ皇子、貴方の覚悟は如何ほどか」

「覚悟・・・・もう心は決めたよ、僕は姉上を、国を守る」

「その言葉に偽りはありませぬか」

「誓おう、我が名にかけて」

ルアの表情は凛々しいものだった
その顔を見たディムナは軽く微笑み、顔を引き締めてから言う

「レンブランと入れ替わっていただく」

「・・・・本気かい?」

「はい」

「・・・・いや、無理だよ、バレるよ」

「いえ、可能だと思われます」

「何故だい?」

「正直に申し上げまして、私達にはお二方の見分けがつきませぬ
 口調や服装などで判断はできますが、それが入れ替わったら・・・」

「なるほど」

「馬鹿げた考えだとは思います、ですが・・・」

「うん、馬鹿げてるね
 でも、この国には必要な事なのかもしれない」

「・・・はい」

「解った、やってみよう・・・・力を貸してくれるんだろう?」

「はっ!この命にかけて!」

「死んでもらっては力を貸してもらえないじゃないか、ダメだよそれは」

「はっ!申し訳ありません」

「ははっ、硬い硬い、頼むよディムナ」

「はっ!」





こうしてルアはレノと入れ替わる事を決意した

戴冠式後の夜、祝賀会会場外

ルアとディムナは二人で話し込んでいた
話が一段落したところでディムナの表情が険しいものへと変わる
その変化を察したルアは喉まで来ていた言葉を飲み込み、彼の言葉を待った

「陛下、我が剣を受け取りください」

「ん、いいよ」

「陛下・・・口調を・・・」

「あ、ごめんね・・・・ごほんっ・・・よかろう」

ディムナは抜刀し、片膝をついて両手で剣を持ち上げる
それを取り、ルアは彼の肩に剣を置いた

「我が忠義は御身のために」

「受け取ろう・・・・はい、ディムナ」

そう言って再び柔らかい表情に戻ったルアは剣をディムナへと返す
はぁ、と大きなため息を洩らしながら立ち上がったディムナは言う

「陛下、頼みますぞ・・・」

「分かってるって」

こうして戴冠式の夜は深けてゆく・・・・
ルアの胸の中には深い傷痕が残り、彼だけはこの日を祝ってなどいなかった






戴冠式まで残り50分、アムリタ城内

「ルアァ、そんなナリで俺と殺ろうってのかぁ?あぁん!?」

「そうだよ、兄さん・・・・げほっ・・・僕は・・・貴方を倒す
 そして、父上や母上の無念を晴らし、姉上を・・・アムリタを救う!」

「いいだろう、最初にお前を殺してやる」

「アムリタの名にかけて、僕は勝つ!!」

レノが走り出し、ルアもふらつきながら向かっていく
二人の剣は交差し、ルアの剣はレノの右脇腹へ、レノの剣は空を斬った

「ぐぅっ・・・お前、この兄を斬ったな」

「おあいこ、だろ」

「殺す!殺す!殺す!」

「守る!」

二人の渾身の一撃が放たれた
レノの剣はルアのチェインシャツを大きく切り裂くが肉には届かず
ルアの剣はレノの胸に深々と刺さっていた

「がっ・・・・ぐふっ・・・お・・・お前・・・だけは・・・」

「レノ・・・・もう休んでいいんだよ」

ルアは剣を手放し、レノの身体を抱きしめる

「レノごめんね、父上や母上は分からないけど・・・
 僕は・・・・少なくとも僕だけはレノを大好きだったよ」

レノの目からは大粒の涙が溢れ、整った顔立ちはしわくちゃに歪んでいた

「愛してる、レノ」

「・・・はっ・・・俺はルアが嫌いだ」

「それでも僕は愛してるよ」

「・・・・ルアなんか・・・嫌い・・だ」

「ありがとう、兄さん」

「・・・・・」

「・・・・・うぅ・・・・・レノ、レノ、レノォ!」

「・・・・・・」

『レノォォォォォッ!!』

ルアの悲しみに満ちた叫びが虚しく城内に響き
それを見ていたマリアの目からもとめどなく涙が溢れていた

「馬鹿だよ、レノは・・・・父上も母上もレノを愛していたに決まってるよ」

馬鹿だよ、馬鹿だよ、とキツく彼の身体を抱きしめていた

その後、ルアはプララーから治療を受け、戴冠式へと出席した
扉の前に立つ彼の表情に、姉であるマリアは二人の皇子の姿を重ねていた



メンフィスの使者であるラスール・ナビィは祝賀会中にある男に声をかける
その男とは近隣の国で知らぬ者はいないオエングス・オディナだ

「では、あの魔力の元を倒したのはラルアースの民だと?」

「はい、クー団長のお墨付きです」

「・・・・そうか・・・聖域の民にはそれほどの力が・・・・」

「えぇ・・・あ、忘れていました」

「む?」

「実はラルアースの民に1人、メンフィスの紋章の漆黒の盾を持つ男がいまして」

『な、なんだとっ!!』

彼女の大声に辺りの者が一瞬目を向けるが
声の主がメンフィスの女と知り、誰もが無関心になる
この国の貴族達は田舎者のメンフィスの者になど興味がないのだ

「その盾と同じく、彼の鎧も同じ光を飲み込むような漆黒でした」

「馬鹿な・・・それは常闇の・・・」

「やはりご存知なので?」

「え、あぁ・・・知らない事もない」

歯切れの悪い返事にこれ以上は聞かない方がいいなと判断したオエングスは言葉を止める

「では、私は用がありますので失礼
 お話できて光栄でした、メンフィスのナビィ殿」

「こちらもよい事を聞けた、ありがとう、神の使者殿」

「オエングスでいいですよ」

「これは失礼した・・・助かった、オエングス殿」

「いえ・・・では、失礼します」

「えぇ、ごきげんよう」

オエングスと別れたナビィは頭をフル回転させる
彼が言うには常闇の鎧と盾を持った男がいるというのだ
それが何故かラルアースの民だと言うから驚きだ

「道理で見つからない訳か・・・」

そんな独り言を洩らし、彼女は夜風に当たりに外へと向かう
星と花火の光で外は明るかったが、気持ちのよい風が吹いていた
先程聞いた衝撃的な話と酒で火照っていた体には心地よい

「急ぎ、帰らねばなるまいな」

ナビィは決意をし、星を眺めていた




後日、前王ヴァーテンベルグの崩御が国民に知らされる
そして、アムリタ聖騎士団"緑の蛇"が裏切り、大量の死者を使って反乱を起こした
その混乱をレンブラン率いる青の大鷲・赤の獅子
レンブラン王の友であるラルアースの民によって鎮圧される
しかし、その時にルーゼンバーグ皇子は命を落とした、と発表された

国は混乱したが、それはすぐに治まる事となる
レンブランもとい、ルアが上手く国を引っ張っているからだ
もちろん、青の大鷲や赤の獅子の力によるものも大きいが



こうしてアムリタの混乱は幕を閉じた
エイン達やハーフブリードは更なる混沌へと巻き込まれてゆく事となる
だが、それは少し先の話だ
今の彼等は激戦を終え、その身を休めるのだった



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