声に恋する君に恋した

塚口悠良

文字の大きさ
11 / 29
3.学生の本分

3-1.一緒にいたい

しおりを挟む
 そろそろ期末試験が近いということで授業ごとにテスト範囲の提示がなされはじめる。俺はもともとテスト勉強をガッツリするタイプではないけれど、橘はどうだろうか。集中的に勉強するタイプならしばらくは遊ぶのを控える必要が出てくる。それはなかなかさみしいものがあるが、学生の本分は勉強であることは明白だ。テストの成績が悪いとその後遊ぶどころではなくなる。我慢するしかないよな、と思っていると、近くの女子集団が問題集を突き合わせながら唸っている。その中で画期的な発言を拾った。勉強会をやろう。女子たちはそう言っていた。確かに、同じ範囲を勉強するなら一緒に勉強したっていい。ナイスアイデアをいただいてしまおうと心に決めて隣で次の授業の教科書を机に並べている橘に声を掛ける。
「なあ、テスト勉強一緒にやんない?」
「え、でも北見いっつも成績上位だろ。俺結構詰め込み型だし一緒にってもさぁ」
「分かんないとこあんなら教えるよ。俺普段そんな勉強しねえし」
「……お前、あんまそれ人に言わんほうがいいよ」
 橘は呆れたようにため息をついた。何が言いたいかは概ね理解できるけど、まあさあ。人には得手不得手というものがあるから。授業中に大体の内容を理解してほぼ記憶できてるから、毎日の復習だけで事足りてるだけなんだよな。必要ないことをわざわざやらないし、学年一位を取りたいわけでもない。だから特別勉強しない。それだけのことだ。
「でも、まあ……北見がいいなら一緒に勉強しよ。数学苦手でさぁ……教えて」
 まさに次の教科が数学なのも相まって橘が机に突っ伏して唸る。数学は暗記もないから結構得意教科だ。二つ返事で快諾してひとまずは安心する。これでテスト期間中も橘といられる。そこまで考えて一瞬ヒヤリとした。どうしてそこまでして俺は橘と一緒にいようとしてるんだ今までは好きでひとりでいたし、友だちもいないわけじゃない。でも、ここまで四六時中一緒にいる友だちは初めてのことだから、正直正常な距離感を掴めずにいる。これは、世間一般に見てマトモか? いや、世間一般はこの際どうだっていい。橘に気味悪がられなければそれでいいんだ。パラパラと教科書をめくりながらニコニコしている橘を見て、おそらく杞憂に終わるであろう心配を脇に置くことにする。距離感おかしいと思われたら謝って考え直せばいい。何より、毎日一緒にいて飽きない友人ができたことそれ自体があまりにめでたい。この縁を大切にしたいと思うのはなんら不自然ではないだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕たち、結婚することになりました

リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった! 後輩はモテモテな25歳。 俺は37歳。 笑えるBL。ラブコメディ💛 fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

王弟の恋

結衣可
BL
「狼の護衛騎士は、今日も心配が尽きない」のスピンオフ・ストーリー。 戦時中、アルデンティア王国の王弟レイヴィスは、王直属の黒衣の騎士リアンと共にただ戦の夜に寄り添うことで孤独を癒やしていたが、一度だけ一線を越えてしまう。 しかし、戦が終わり、レイヴィスは国境の共生都市ルーヴェンの領主に任じられる。リアンとはそれきり疎遠になり、外交と再建に明け暮れる日々の中で、彼を思い出すことも減っていった。 そして、3年後――王の密命を帯びて、リアンがルーヴェンを訪れる。 再会の夜、レイヴィスは封じていた想いを揺さぶられ、リアンもまた「任務と心」の狭間で揺れていた。 ――立場に縛られた二人の恋の行方は・・・

何度でも君と

星川過世
BL
同窓会で再会した初恋の人。雰囲気の変わった彼は当時は興味を示さなかった俺に絡んできて......。 あの頃が忘れられない二人の物語。 完結保証。他サイト様にも掲載。

僕を守るのは、イケメン先輩!?

BL
 僕は、なぜか男からモテる。僕は嫌なのに、しつこい男たちから、守ってくれるのは一つ上の先輩。最初怖いと思っていたが、守られているうち先輩に、惹かれていってしまう。僕は、いったいどうしちゃったんだろう?

嫌いなあいつが気になって

水ノ瀬 あおい
BL
今しかない青春だから思いっきり楽しみたいだろ!? なのに、あいつはいつも勉強ばかりして教室でもどこでも常に教科書を開いている。 目に入るだけでムカつくあいつ。 そんなあいつが勉強ばかりをする理由は……。 同じクラスの優等生にイラつきを止められない貞操観念緩々に見えるチャラ男×真面目で人とも群れずいつも一人で勉強ばかりする優等生。 正反対な二人の初めての恋愛。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

処理中です...