声に恋する君に恋した

塚口悠良

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5.約束のお泊まり会

5-1.お泊まり会開始!

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 今日は昼から橘が家に来る。といってもそれは別にいつものことだ。だが、ひとつ決定的に違うことがある。それは、今日は橘がうちに泊まるということ。友だちと泊まりで遊ぶという経験がないからなんとなくソワソワするというのはもちろんある。しかし、それよりなにより母さんがすでに大張り切りで仕込み始めている晩ご飯に度肝を抜かれている。父さんもそれを見てニコニコしているし、なんとも落ち着かない。約束の時間まであと十分。椅子から立ち上がったり座ったりを繰り返していると面白がった父さんに声を掛けられる。
「祐介、お前今日彼女でも来るのか」
「はぁ⁉ 説明したろ橘だよ。今日泊まってくから飯一緒に食うんだぞ!」
「分かってる分かってる。あのイケメンくんだろ? 挨拶くらいしかしたことはないけど、いい子そうだったな」
「いいヤツだよ。あいつガチオタだからめちゃくちゃ気が合うんだよ」
「それは良かった。友だちは宝だもんなぁ」
 うんうん、と頷きながら微笑ましそうに笑う父さんにこれ以上文句をいう気にもならずため息をついて椅子に座る。それから数分でインターホンが鳴り、橘がやってきた。
「……お邪魔します」
「はいよ。……なんか荷物でかいな」
 落ち着かない様子は橘も同じだったようで、あんまり合わない視線に苦笑いする。橘の背後に背負われているリュックがあまりにでかいのも気になって覗き込むと、そこには登山用かと思うほどの大ぶりのリュック。約束は一泊のはずだし、男の泊まりってそんなにいろいろ必要ないんじゃないかと思ってたけど、橘はなにを持って来たんだ。
「な、なんか……あれもこれもって詰め込んでたらすごいことになって……あんま気にしないで」
「あ、そう? まぁいいけどね」
 気にするなといわれてしまえばそれ以上を無理に求めることもない。いつも通り自室に案内する手前で、リビングの両親を見つけた橘が二人に駆け寄る。
「あの、今日はお世話になります。これ、心ばかりの品ではありますが……」
 そんな風にいって紙袋を渡しているのを見てぎょっとしてしまう。普通友だちの家泊まりに来るのに菓子折持ってくるか? そこまで気を遣わせていたかと妙な焦りを覚えていると母さんと父さんも目を丸くしていた。
「あらあらあら気を遣わなくていいのにぃ」
「いえ、ただでさえいつもお世話になっているので……。ここのフィナンシェ美味しいので良かったら……」
 菓子折を受け取った母が困ったような、嬉しそうな顔で笑っている。友人が家族にも好かれるというのは悪い気はしない。どこか誇らしい気分で橘を回収して部屋に向かった。
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