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【第156話】手紙 その3
しおりを挟むグラドの過去は青年期も辛いものだった。リーファと別れ、妻のエトルと死別し、双子の息子も兄トルバートが拉致される……神様はグラドに恨みでもあるのだろうか。
きっと子供二人の名前は両親からそれぞれ部分的にとって、グラハムとトルバートになったのだろう、子の名付けではよく聞く話だ。グラド・エトル夫妻も魔獣寄せさえなければ、どこにでもいるごく普通の幸せな家庭を築けていたのかもしれない。
「僕のお父さんには兄がいたんですね、つまり僕からして叔父にあたる人が……。せめて拉致された後も生きていてくれればいいですけど……。その先の事も書いてあるかもしれませんし、読み進めますね」
そう言ってグラッジは手紙の続きを読み進めた。
――――トルバートが拉致されたのはあくまで私を困らせるのが目的のはずだから、殺されることはないと判断し、私はエトルを優先した。しかし、結果エトルは亡くなり、トルバートは行方が分からないままだった。あの時、エトルは自身の死を確信したうえで、私にトルバートを追いかけるように言ったのだろうか? だとしたら私は痛恨のミスを犯したと言えるだろう――――
――――最愛の妻が亡くなり、子供は拉致されて、もう生きるのが辛くなっていた私だったが、そんな私に生きる力を与えてくれる存在がいた。それが運よく拉致されずに残った赤子のグラハムだ。この子だけは何が何でも守り抜いてやると誓い、私は再び立ち上がった――――
――――しかし、村の人間は拉致事件をきっかけに私がイグノーラという国で厄介者扱いされていることを知ってしまい、私へ村から出て行くように命令してきた。仕方なく、村を出て行く事になった私とグラハムは長い放浪の旅に出る事となった――――
――――私は村を出てまず、街道沿いを歩く行商人を掴まえて、多めの報酬と一緒に一通の手紙とエトルのペンダントを渡した。その手紙はエトルの遺族にエトルが亡くなったことを伝える為のもので、ペンダントは遺族側で墓に備えてもらうためだ――――
――――本当は遺体をエトルの実家まで運びたかったのだが、魔獣寄せを持つこの身だ、山の辺鄙なところに一軒だけ建っているエトルの実家では、私が近づいている間に魔獣寄せを感知した魔獣が家を囲んで襲撃する可能性もあるから、万が一を避けて近づかない方がいいだろうと考えた――――
――――手紙には他にも『平原に建てたエトルの墓にエトルの体を埋めた事』と『毎年命日の十日前に私とグラハムで墓参りをすること』を誓う文章も添えた。十日前にしたのは、エトルの遺族が命日に墓参り出来るようにする為に敢えてずらしたのだ。そうすれば、かち合って魔獣寄せで迷惑を掛けることもないだろうと考えたからだ――――
――――しかし、命日が近くなって私とグラハムがエトルの墓参りに行くと、そこにはエトルの両親と妹のエリーゼがいた。敢えて十日ずらしたにも関わらずここにいるという事は何が何でも私に恨みを晴らしたかったのかと思ったが、そうではなかった。なんと遺族の三人は一言も私を責める事なく「エトルを愛してくれてありがとう」と言ってきたのだ――――
――――そんな事を言ってもらえる資格なんてないのに……私はただただ涙を流した。そして、エトルの両親は孫のグラハムを見て、エトルの忘れ形見だと涙を流した。私はこの時グラハムをエトルの両親に預けた方がいいかと考えたが、二人からは「老い先短いワシらが育てるより、父親であるグラド君が育てた方がいい」と言って断られた――――
――――だが、妹のエリーゼだけは違った。エリーゼは俺の事を見つめながら「私がお姉ちゃんの代わりにグラハムの母親代わりになってあげたい。だからグラドさんとグラハム君の旅についていかせて」と言ったのだ。当然私も最初は断ったのだが、エトルの時と同じようにエリーゼは「私はお姉ちゃんより頑丈で戦いや旅にも慣れているから面倒はかけないから大丈夫!」と半ば強引についてくることになった。見た目と言動が似ているせいで少しエトルが重なって見えた――――
――――そこから私と息子と妻の妹という不思議な組み合わせの旅が始まった。私達は野営をしながら各地を放浪し、人々との接触を極力避けつつ、トルバートの行方を追った。結果今日に至るまでトルバートと再会する事は叶わなかったが、三人の旅は楽しかった。エリーゼは自身が言っていた通り、本当にタフな女性で、戦闘でも旅でも何ら心配する点はなかった――――
――――グラハムは傷ついた私の心を癒すかのように、優しく立派な人間へと成長していった。幸い魔獣寄せのスキルも無さそうで、魔術も剣の腕もメキメキと上達していった。それに、エリーゼの事も実の母親ではない事を理解したうえで『お母さん』と呼び、懐いていた。長い旅路を経てもエリーゼと男女の関係になる事はなく、私はエリーゼを本当の妹の様に大事にし、エリーゼもまた私の事を大切にしてくれた――――
――――変わった家族関係ではあるものの、この幸せがずっと続けばいいと願っていた私達だったが、グラハムが七歳の頃、再び悲劇が起きた。なんとエリーゼがプロネス病に罹ってしまったのだ。プロネス病は遺伝する事が多いらしく、エリーゼ、エトルの母親も過去に罹ってしまったらしい――――
――――エトルの事を思い出し辛い気持ちになったが、今回は絶対に守ってみせる。私はエリーゼを担いで辺境の町の医者に預け、今後の生活にも困らないように旅で得た財宝も全て渡して生活の為に充ててもらう事にしたのだが、エリーゼは思い詰めた顔で「グラハムに人並みの生活をさせてあげた方がいいのでは」と提案してきた――――
――――人並みの生活……それは、グラハムが私とエリーゼの元から離れて、普通の家庭で同年代の子供達と一緒に学校生活をおくるという意味だ。エリーゼの言う通り、グラハムはずっと旅に連れまわしていたせいで、私達以外の人間とろくに会話したことがない。自身がプロネス病でほとんど動けなくなったことに加えて、グラハムが立派に成長したことで、養子に出すという選択肢が浮かんできたようだ――――
――――私とエリーゼは深く話し合った結果、グラハムを養子に出す事を決めた。幸いローラン家というイグノーラでも有名な家が、グラハムの優秀さに目を付け、グラハムを預かってくれる事となった――――
――――別れの日……グラハムは喉が枯れる程に泣き叫び、別れを嫌がっていて、泣き顔と泣き声がずっと脳裏から離れなかった。最愛の息子と別れるのは最大の苦痛ではあるが、息子が元気に育ち、幸せになる事が私にとって一番の望みだ――――
――――エリーゼとは約六年一緒に暮らし、共に支え合ってきた。貴重な若い時代を私の息子の為に割いてくれた事は一生忘れない。エリーゼはプロネス病が治ったら、一人寂しく旅を続ける私についていってあげると言ってくれたが、私は「エリーゼは新しい家族を作ったり、夢を追いかけるなりして自分の幸せを優先してくれ」と言って、逃げるようにエリーゼの元から去った――――
――――本当はついてきて欲しかったが、私は関わる人間を全て不幸にしてしまう悪魔だ。人と関わる資格なんてないんだと割り切り、そこから約三十年間一人旅を続けた。毎日ひたすら歩き続け、寄ってくる魔獣を機械的に倒し、死なない為に食事を取る……何のために生きているのか分からず、気が狂いそうになる度に、私の使命はトルバートを見つける事と、エトルの墓に花を供える事だと考え、正気を保つように努めた――――
=======あとがき=======
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