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【第348話】旅の逆行
しおりを挟む俺とリリスはグラッジ主導のもとリヴァイアサンに港町ポセイドへ送り届けてもらった後、町中にあるレストランで食事をしていた。
久々にポセイドへ来たものの、正直俺はポセイドにあまり思い入れがない……ここはヘカトンケイルからシンバードへ行く途中に定期船に乗り込んだ場所であるというだけで、あの時に滞在したのも数時間程度だからだ。
それはリリスも同じはずだから最終決戦前にわざわざポセイドに来た理由がさっぱり分からない。俺はリリスに尋ねる事にした。
「何でリリスはポセイドに来たかったんだ? ここには俺が有名になるきっかけとなった新聞を発行してくれた新聞社こそあるけど、特別何か休暇を楽しめる何かがあるとは思えないが……」
俺が問いかけるとリリスは二回目のおかわりを平らげ、旅の目的を話し始める。
「実はポセイドに用があるわけではないんですよ。私が行きたい場所はヘカトンケイル山岳地帯の『天の糸』でして、そこに行って二人でキャンプがしたいのです」
天の糸と言えば、ポセイドの南方にあるヘカトンケイル山岳地帯で一番高く、細い山の事だ。あの時は天の糸の頂上を覆う雲海に運よく隙間が現れて、その隙間から見える大地めがけて一気にアイ・テレポートで下山した記憶がある。
天の糸からは綺麗な景色を眺められたけれど、その前後の移動が過酷だった記憶があるし、次はテンポよく移動できるとは限らない。一応大丈夫なのか聞いておくことにしよう。
「キャンプ? あの標高が高くて気温の低い場所でか? せめてもう少し普通の場所の方が……それに俺達は一回登り切って天の糸からの景色を堪能したわけだし」
「あの時は定期船の関係上、長時間景色を眺める時間はありませんでしたし、それに色々理由があるんですよ。ちゃんとガラルドさんに満足していただけるプランも考えていますから安心してください。それじゃあ防寒と旅の準備を整えたら早速むかいましょう!」
リリスの言う理由とやらが気になるところだが、こんなにもリリスが行きたがっているならついていく方が良さそうだ。それに、他の場所がいいんじゃないかと言ったものの、天の糸に行くのが少し楽しみになってきている気持ちもある。リリスと二人きりで見た初めて且つ唯一の絶景だし、とても感動した記憶があるからだ。
あの日リリスが雲海を眺めながら『綿の海みたいですね』と言って感動していた横顔は印象に残っている。
俺も雲海に加えて雲の切れ間から見える高原や木々に感動して『天界とはこういう場所のことを言うのかもしれないな』と深く感動して呟いた覚えがある。だから、体に疲れを残さない程度に楽しみつつ、リリスに満足してもらえるよう努める事としよう。
俺達は早速食糧と防寒着を揃え、テントに使えそうな断熱性に優れた大布を調達し、準備を整えた。
本当はもっとキャンプ道具をガッツリと揃えて持っていきたいところだが、あんなに高くて道中の足場もよくないポイントに行くとなったら必要最低限がいいだろう。それに俺が地属性魔術で簡易小屋を作れば二人旅の始まりを思い出していいのではなかろうか。
俺達は荷物を持ってポセイドから天の糸への移動を始めた。以前は天の糸からポセイドへ一直線にアイ・テレポートで飛ぶことが出来たが、今日はあいにく雲がガッツリと視界を塞いでいるようだ、仕方ないから俺達はこまめにアイ・テレポートを刻みながら山岳地帯を進んでいった。
標高が少しずつ高くなり、人間二人分と荷物を何度もアイ・テレポートしてくれたリリスの体力が心配だ、俺は声を掛けることにした。
「リリス、体力は大丈夫か? 酸素も薄いし寒さも増してきたからペースを落とした方がいいんじゃないか?」
「いえ、正直かなり余裕があります。あの頃の私は今と比べて全然体力が無かったんだなぁって実感しちゃってます。私達は長い旅を通して相当成長していたんですね」
「確かに顔色を見る限り平気そうに見えるな。リーファとしての力も加わったし、それ以上にリリス自身ずっと体力と魔術の鍛錬を頑張ってきたから相当逞しくなったんだろうな」
「……ディアトイルからの帰還以降、周りからは『リーファの力を取り戻せてよかったね』と言われる事が多くて、女神リリスとしての私が上書きされた気分になる事が多かったです。だけど今、ガラルドさんは『それ以上にリリス自身ずっと体力と魔術の鍛錬を頑張ってきたから相当逞しくなった』と言ってくれて凄く嬉しかったです。私の始まりはリーファですけど、今の私はリリスですから」
きっと周りの人間も悪気があって『前世の力』に言及した訳ではないと思う。それでも『五英雄の肩書』『壮絶な過去』『偉大な言動の数々』が彼女を輝かせて見せてしまうのだろう。
だけど、俺の仲間はリーファではなくリリスだ。故に後から付け足された力より、伸ばし続けていた力の方がずっと印象に残るのは当然だ。だから『嬉しかった』と喜んでいるリリスには、この言葉を返そう。
「ずっと一緒に旅をしてきたのはリリスだからな。リーファはリリスの一部でしかないさ、俺にとってはな」
「ガラルドさん……」
俺の言葉を受けるとリリスは何故か腕で顔を隠してしまった。何か変な事でも言ってしまっただろうか? そんな心配をしていた俺をよそにリリスは腕で隠したまま自身の顔を俺の胸に埋めると、何故かそのまま顔を見せないように俺の後ろへ回り込み、両腕を俺の両肩にかけた。
「ふふふ、ガラルドさんは中々女心が分かっている台詞を言いますね。そんな女たらしのガラルドさんは罰として私を背負って天の糸まで行ってください」
「どんな理屈だよ……まぁいいか、リリスもタフになったとはいえ、それでもアイ・テレポートが疲れる技であることには変わりないからな。雲と霧で視界も悪い事だし、俺がバテるまではおんぶしてやるとするか」
「わぁーい! ガラルドさん大好き~!」
調子のいいリリスは完全に足を浮かせて全体重を俺の背中に乗せた。その時俺は以前の旅でリリスを背負った時よりもずっと軽く背負えているように感じた。それはリリスが痩せてしまったのではなく、俺のパワーがかなり強くなっていたからだ。
強くなったのはリリスだけではないようだ。全知のモノクルである程度数値的に強さの上昇を知る事は出来たけれど、感覚的に成長を実感できるのも嬉しいものだ。俺は岩場を飛び移る猫の様に素早く身軽な動きで山を登っていった。
「ガラルドさんこそ逞しくなり過ぎですよ! もう、私のアイ・テレポートはいらないかもしれませんね」
「天の糸も近くなってきたし、このままおんぶで運べるかもな。よ~し、いっちょサンド・ステップで上方向へショートカットしちまうか。しっかり掴まってろよ……サンド・ステップ!」
天の糸の根元から断続的に視界を遮っていた霧を猛スピードで突き破りながら俺は進み続けた。一回の跳躍ごとに10メード以上上昇しながら近づいていくこと十数分……俺達は思っていた以上に早く天の糸へ到達する事が出来た。
数百日ぶりに訪れた天の糸はあの頃と変わらない狭い円状の頂上に少しだけ種類の変わった草花を咲かせて出迎えてくれた。そして、日が短くなってきたこともあり天の糸から見える景色は以前訪れた時よりも少しだけ赤みがかった夕方の雲海が広がっている。
=======あとがき=======
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