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少女と神子様

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「さあてと、ユナの友達!友達はっと」

高速で走り抜けたナギは、ユナ達を置いて既に風の精霊の泉に到着していました。 空を見上げれば暗く、ナギは自身の輝きで辺りを見渡しながら奥へ奥へと進んで行きます。



───はぁ、それにしても薄暗いなぁ、
なんていうか、ソレールはもっと仕事しろっての。光の神様の癖に半端な黄昏だけだなんてツマラナイことになっちゃってさ。せめてずっとお昼とかに出来なかったのかなぁ。本当に‥‥‥やれやれだよ。

まぁ、今日に関しては大禍時だから仕方ないけどさ。



  そんな事をつらつらと考えているうちに、緑色の淡い光たちが見えます。何やら談義をしているようなのは、風の精霊達です。
  
  それは、普通の人間には決して見えない光景。

その光景に、ナギはめんどくさそうに舌を出しました。風の精霊達は少々お喋りが過ぎるのでナギは苦手なのです。



  うわぁ、面倒臭そうだなぁ。
 よし、違うところに行こう‥‥‥

リーンゼィルの職務怠慢だ!という声が聞こえた気がしましたが、気にする気はナギにはありません。
  移動しよう目を閉じていると、少し離れたところから子供の悲鳴が聞こえました。


 ‥‥‥はぁ、多分ユナの友達だろうなぁ。
面倒なことにならないといいけど。

 まぁ、仕方がないかなぁ


 ナギはその声の方角へと風の精霊達に見つからないように光の速さで、木々を反射しながら飛び、あっという間に辿り着いたへとたどり着きます。
目の前には、大きく真っ白で、もっさりとした毛の生えた人間の大人よりも更に大きな蜘蛛。幾数もの赤い瞳をギョロギョロさせながら子供達を追い詰めていました。

  ナギは蜘蛛にも気がつかれないように静かに気づかれないように、子供達の後ろに回り込みます。


 これって、助けるべきだよね?


 本当は、こんなところに迷い混むなんてよっぽどの馬鹿か酔狂だから、放っておきたいんだけれどなぁ?けれど、そんな武器や素手じゃあ流石に追い払えないと思うし‥‥‥


  ぼんやりと眺めて考えていると女の子は大地を蹴って彼女の後ろの──詰まるところナギの後ろにある木に飛びのって、しなる木の元に戻る反動を利用し威力を増した蹴りを巨大な蜘蛛にぶちこみました。
 可哀想な声をあげて蜘蛛は高い悲鳴をあげています。


 ナギは一度ポカンと口を開くと呆然としたまま、その挙動を一同を逃さず見ていました。



「あー、気持ち悪いかった!!よし!次!!」


 彼女は男よりも漢らしく、掛け声をあげます。


 いや、次じゃない
 次じゃないよ!

 ねぇ、僕は眼がおかしくなってしまったんだろうか?

 おかしいなぁ、彼女多分16歳ぐらいじゃないかな?どうして自分の二倍もある蜘蛛を撃退しちゃってるんだい?
 しかも、あの蜘蛛、よくみたら森の守り人の手下じゃんか!君が倒すべき相手じゃないじゃん!
こ、 このままだと、森の守人の下部が減ってしまう‥‥‥他の助けに来た仲間もぶちのめされかねないし‥‥‥

 あぁ‥‥‥もう!仕方がない

  フワリと浮かんでナギは彼女と蜘蛛の間に立ちはだかり鈴の音を警告のように鳴らします。


「ねぇ、君、もう十分だからさ、一度森を抜けなよ」


 そっと優しく声をかけますが興奮している彼女の耳には届きません。


「新手ね!ユナを見つけて帰るまで!!いくらでも私が相手になるわ!」

「いや‥‥‥ちょっと落ち着いてよ!」



  冷静にナギは語りかけますが彼女の耳には届きません。長い足から繰り出される蹴りや拳をナギはその小さな体で軽々避けていきます。
 拳がナギのそばスレスレを通りますが、それを軽々と交わしながらナギはため息をつきました。


「あのさ、いくら僕でもこの程度のスピードなら避けるのは訳ないんだよ」

「くぅ!」


  ナギに避けられながら彼女は未だに拳を奮い続けています。ナギはそんな彼女を見てもやれやれとため息をついてグルリとアンジェの後ろにまわってトンと軽く突き飛ばせば、アンジェを容易く転がしてしまいました。
  
  その後ろを鋭い風が通り抜けて木が折られてしまいます。ナギが、突き飛ばさねば折られていたのはアンジェの方です。

  そんな事など気にした様子もなくナギはふわふわと宙に浮いていました。


「ユナを見つけるまでねぇ。 
ん?おや、もう追い付いたんだ。ユナならあっちからきているよ」


  そう言った途端にナギのスレスレを矢が通り抜けます。


「ほら来たでしょ」

彼女はニコリと微笑みました。
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