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Episode00 始まり
#00 プロローグ 俺たちは一度死んだ
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「ハハハ」
俺は乾いた笑いを浮かべる。
「こんなの理解出来ねぇよ。……理解したくない。こんな現実、沢山だ!」
立ち尽くす。
足元には俺の大切な人。楓。
俺は叫ぶ。
「許さねぇ。絶対に許さねぇ」
◇
「流宇〔るう〕ってバカだよね? 理解した、ばっかり言ってさ」
掃除の時間。
ほうきの柄先でコンコンと突いてくる楓〔かえで〕という阿呆。
「ウゼぇ」
無視を決め込む。
かまうと余計にウザ絡みするのが、この阿呆〔楓〕だからだ。
「つうか。流宇さん。理解した、理解したって、何を理解してんの?」
コンコン、ウゼぇ。
「だから痛いっつの。阿呆はお前だろ。楓」
柄先を払いのけながら抗議してみる。
楓は払いのけられた柄がイキオイを持ったのをこれ幸いにと慣性に任せフルスイング。一回転した柄は俺の頭をホームラン。ライトスタンド一直線。
「いや、マジで痛いから。洒落になってないからな」
とタンコブが出来てそうな頭をさすりながら再び抗議してみる。
「ウハハ」
大笑いし始める楓。
「そのボケ最高! 流宇。なあ、なあ、あたしとコンビ組もうぜ?」
コンビとはお笑いのだな。
こいつはお笑い好きで自分にはツッコミに才能があると信じている。その実、ボケの方に適性があるんだけど本人には言わない。
言ったら面倒くさい事になるだけだからな。
というかだ。そもそも楓が最高なボケと言った俺の発言、どっちかと言えばツッコミじゃないか? そんな勘違いをするお前こそ阿呆だろう。なんて言ったら、もう一度、ホームランだろうな。今度は特大場外への。楓の阿呆はスポーツ万能な筋肉阿呆だからな。
「理解した」
「ああ? 理解しただって。またそれ。で、何を理解したって?」
俺がなにを考えているのか分からないからこそ訝しむ楓。
答えない俺にしびれをきらし、ふざけながらもストレートに聞いてくる。
「なにを考えておる。流宇殿」
俺は茶色い瞳を閉じる。静かに。
その態度が気に入らなかったんだろう。いきなりの攻撃。
「とうっ! 突き!」
「痛いッ! 突きじゃねぇから。楓。マジ痛いから。死ぬから」
「安心せい。峰打ちじゃ。ホホホ」
「突きに峰打ちとかねぇよ! 普通に刃先が刺さるから!」
近くで見ていた旧友が大声で叫ぶ。
「そこ。夫婦漫才してないで、ちゃんと掃除しなさいッ!」
楓は顔を真っ赤にして腕をブンブン振って叫ぶ。
「夫婦じゃない! 漫才じゃない! 今の気持ち、憤慨、論外、心外!」
俺は静かに苦笑い。
やっぱり、お前はボケの方が似合ってるって。
まあ、その勘違いもお前らしいけど。
……そんな日常を送っていたんだ。平凡な日常を。
つい数時間前まで。そして事態は悪化していく。俺たちは知らない男に襲われたのだ。無論、俺たちが襲われるような理由はないし、そもそも、その男が誰なのかも分からなかった。
ともかく幼なじみで腐れ縁な楓と一緒に下校していた最中、いきなり目の前に現われた暴漢が問答無用で襲ってきたのだ。
喧嘩は弱いとは言え、一応、俺も男だ。
だから楓を守ろうとした。
「下がってろ」
と。
でも俺より血気盛んな楓は……。
「あんたさ。弱いくせにあたしの前に出るなよ。あたしがやるっつうの」
と拳を固めて指をポキポキと鳴らす。
「スポーツ。まあ、喧嘩だけど、それはあたしの領分。この楓様のね」
楓が俺との位置を入れ替える。
暴漢の手には銃刀法違反上等な刃渡り20cm超えなアーミーナイフ。
それを体の前方へと晒しながら睨んでくる。
俺は素早く楓の前に出る。
「こい」
「あたしがやる!」
なんて息を巻き、そして、楓は、また俺との位置を入れ替えようとする。
俺は、楓を突き飛ばして、そのまま男に突進する。
「楓、この隙に逃げろ」
「やだね」
ナイフが俺の首へと襲いかかる。
咄嗟に暴漢の手首を掴む。ナイフを封じた。
だったらと暴漢は反対の手を握り込み、その拳で俺の頬を撃つ。
衝撃でよろける。
それでも、なんとか楓だけは逃がしたい。
だから倒れている場合じゃない。
男だから。
いや、男だからとか、そうじゃない。
楓だから。助けたいのが楓だから倒れてる場合じゃないッ!
やってやる。絶対に守る。
「だから、やだね、っつたろうが。弱いのに格好つけすぎ」
あたしがやる。
「流宇はバカなんだから、すっこんでろ」
と暴漢の頬に唸りを上げた楓の右ストレートがジャストミート。
ガコッと鈍い音がする。骨が砕ける音。
「ククク」
と暴漢が笑った。嗤った。嘲るよう。効かないとばかり。
まるで死神の抱擁とも思えるそれ。
甘い香りを持った陽炎が立ちのぼる。ゆらりと波打ちここを支配する。
「あれ?」
唐突。楓の素っ頓狂な声。
それこそ理解不能と言わぬが如くな調律が狂ったピアノの歌。
突風吹き荒れる海原の上で暴風に逆らって、ひらひら舞い狂うカモメ。
「あれれ?」
ハハハ、楓の喉から絞り出される絶望。
「あちゃ。やっちまったな。バカなのはあたしの方か。失敗。失敗」
流宇……。
そう続けるつもりだったんだろう。
悲しみが満ちた楓の瞳が必死でそう訴える。
もはや言葉を続けられないとばかりに。
「楓ッ!?」
俺の絶叫が隔絶された空間に響き渡る。
駆け寄る。胸に刺さったナイフを握る。
今すぐにでも引き抜きたい。引き抜きたいけど、それが更なる事態の悪化を招くかもしれないと考えると恐くなる。いや、事態の悪化が恐いんじゃない。今、手の中で消えゆく、ぬくもりが失われるのが恐いんだ。
静かに霧散する命をつなぎ止められない無力さが恐いんだ。
「かえでぇぇ!!」
ごめん。
流宇。
ごめんね。
「不測の事態だ。応答求む」
暴漢が無情にも楓の胸からナイフを引き抜き、同時にスマホで誰かと会話を交わす。無論、俺は、今すぐにでも、この暴漢を殺したい。殺してやりたい。けれども楓の体から噴き出る血を止める事が先決だと足掻き続ける。
もはや止める事は叶わない血を必死で止めようともがく。
いやだ。
いやだ。
いやだぁぁぁ!
「かえでぇぇ!」
楓。楓。楓ッ! 帰ってきてくれッ! まだいくなッ!
俺には、まだ伝えていない事があるんだ。
お前を好きだって。お前を、ずっと守っていきたいって……。
「諒解!」
なにかを話して結論が出たのか、電話を切って俺へと向き直る暴漢。
「悪いな。これも我らの世界の為だ」
と短く意味不明な事を口走って俺へと殺意を向ける。
同時に事切れる楓。
「……夫婦漫・才、し・たかっ・たな。一度で良いから……るう」
最後に絞り出された想い。
全てがのった温かいそれ。
匂い立つ死が楓をかき消す。
血だけがぬくもりを遺す。
それも徐々に消える。
零れ落ちる俺の心と掬い上げられなかった楓の心。
なに死んでるんだよ。
そんなボケはいらない。お前はツッコミ志望だろうが。
『そのボケ最高! 流宇。なあ、なあ、あたしとコンビ組もうぜ?』
なんて、お前らしいボケの方がいいよ。
コンビなんて、いくらでも組んでやるから、さっさと帰って来いよ。
ここに。
「守れなかった。日常も。なにもかも。俺が弱かったから」
自分を殴り飛ばす。
口内が切れて、口いっぱいに鉄臭さが充満する。
「ハハハ」
俺は乾いた笑いを浮かべる。
「こんなの理解出来ねぇよ。……理解したくない。こんな現実、沢山だ!」
立ち尽くす。
叫ぶ。
「許さねぇ。絶対に許さねぇ」
うつむき涙を零した俺は暴漢へと向き直る。殺意をその目に宿らせ。
「テメェだけはな」
暴漢を睨む。
「許さなくていい。むしろ許すな。かかってこい」
暴漢がナイフを構える。
俺に武器などない。いや、ある。……殺意と根性だ。それを込めた拳も。
死ぬまでやってやる。たとえ死んでも死なばもろともだ。
と唐突。
時間が止まる。いや、ゆっくりと進む。
まるで走馬灯を魅せられるよう。
「……」
あれ? 声が出ない。
あれ? なんで? そんな。そんな馬鹿な。……楓。俺も。……なのか?
俺も。なのか?
あれ?
ポタリ。
ポタリ。
俺の足元に赤い死が満つる。また一つ。また一つ。
死へと誘う甘美な蜜を混ぜた媚薬が匂い立つ。
守れなかった。なにもかも。
ゆらゆらと揺れる赤い子守歌。
「……残念だったな。敵が一人だけだと思い込んだ、お前の負けだ」
そんな。まだ居たのか。もう一人敵が。
目の前にいた暴漢が、また、どこかへと連絡しているのが見える。
「対象を始末した」
それが俺の見た最後の風景だった。
◇
俺たちは、どこで道を間違えたんだろう?
いや、そんな事はどうでもいい。
それよりも楓と俺は死ななければならない存在だったんだろうか?
誰の為に?
何の為に?
どうして?
もし、この世に神さまがいるのだとしたら聞いてみたい。
あなたは誰に対してでも平等なのかと。
そして俺と楓の死も、あの瞬間、平等に訪れるべき死だったのか、と。
まあ、今となっては遠き夢だが。
そうして……、ここから物語は開幕する。
死んで、その先の世界で生きる俺と楓の物語が。
異世界転生でもなく、タイムリープでもない、俺たちだけの物語が。
俺は乾いた笑いを浮かべる。
「こんなの理解出来ねぇよ。……理解したくない。こんな現実、沢山だ!」
立ち尽くす。
足元には俺の大切な人。楓。
俺は叫ぶ。
「許さねぇ。絶対に許さねぇ」
◇
「流宇〔るう〕ってバカだよね? 理解した、ばっかり言ってさ」
掃除の時間。
ほうきの柄先でコンコンと突いてくる楓〔かえで〕という阿呆。
「ウゼぇ」
無視を決め込む。
かまうと余計にウザ絡みするのが、この阿呆〔楓〕だからだ。
「つうか。流宇さん。理解した、理解したって、何を理解してんの?」
コンコン、ウゼぇ。
「だから痛いっつの。阿呆はお前だろ。楓」
柄先を払いのけながら抗議してみる。
楓は払いのけられた柄がイキオイを持ったのをこれ幸いにと慣性に任せフルスイング。一回転した柄は俺の頭をホームラン。ライトスタンド一直線。
「いや、マジで痛いから。洒落になってないからな」
とタンコブが出来てそうな頭をさすりながら再び抗議してみる。
「ウハハ」
大笑いし始める楓。
「そのボケ最高! 流宇。なあ、なあ、あたしとコンビ組もうぜ?」
コンビとはお笑いのだな。
こいつはお笑い好きで自分にはツッコミに才能があると信じている。その実、ボケの方に適性があるんだけど本人には言わない。
言ったら面倒くさい事になるだけだからな。
というかだ。そもそも楓が最高なボケと言った俺の発言、どっちかと言えばツッコミじゃないか? そんな勘違いをするお前こそ阿呆だろう。なんて言ったら、もう一度、ホームランだろうな。今度は特大場外への。楓の阿呆はスポーツ万能な筋肉阿呆だからな。
「理解した」
「ああ? 理解しただって。またそれ。で、何を理解したって?」
俺がなにを考えているのか分からないからこそ訝しむ楓。
答えない俺にしびれをきらし、ふざけながらもストレートに聞いてくる。
「なにを考えておる。流宇殿」
俺は茶色い瞳を閉じる。静かに。
その態度が気に入らなかったんだろう。いきなりの攻撃。
「とうっ! 突き!」
「痛いッ! 突きじゃねぇから。楓。マジ痛いから。死ぬから」
「安心せい。峰打ちじゃ。ホホホ」
「突きに峰打ちとかねぇよ! 普通に刃先が刺さるから!」
近くで見ていた旧友が大声で叫ぶ。
「そこ。夫婦漫才してないで、ちゃんと掃除しなさいッ!」
楓は顔を真っ赤にして腕をブンブン振って叫ぶ。
「夫婦じゃない! 漫才じゃない! 今の気持ち、憤慨、論外、心外!」
俺は静かに苦笑い。
やっぱり、お前はボケの方が似合ってるって。
まあ、その勘違いもお前らしいけど。
……そんな日常を送っていたんだ。平凡な日常を。
つい数時間前まで。そして事態は悪化していく。俺たちは知らない男に襲われたのだ。無論、俺たちが襲われるような理由はないし、そもそも、その男が誰なのかも分からなかった。
ともかく幼なじみで腐れ縁な楓と一緒に下校していた最中、いきなり目の前に現われた暴漢が問答無用で襲ってきたのだ。
喧嘩は弱いとは言え、一応、俺も男だ。
だから楓を守ろうとした。
「下がってろ」
と。
でも俺より血気盛んな楓は……。
「あんたさ。弱いくせにあたしの前に出るなよ。あたしがやるっつうの」
と拳を固めて指をポキポキと鳴らす。
「スポーツ。まあ、喧嘩だけど、それはあたしの領分。この楓様のね」
楓が俺との位置を入れ替える。
暴漢の手には銃刀法違反上等な刃渡り20cm超えなアーミーナイフ。
それを体の前方へと晒しながら睨んでくる。
俺は素早く楓の前に出る。
「こい」
「あたしがやる!」
なんて息を巻き、そして、楓は、また俺との位置を入れ替えようとする。
俺は、楓を突き飛ばして、そのまま男に突進する。
「楓、この隙に逃げろ」
「やだね」
ナイフが俺の首へと襲いかかる。
咄嗟に暴漢の手首を掴む。ナイフを封じた。
だったらと暴漢は反対の手を握り込み、その拳で俺の頬を撃つ。
衝撃でよろける。
それでも、なんとか楓だけは逃がしたい。
だから倒れている場合じゃない。
男だから。
いや、男だからとか、そうじゃない。
楓だから。助けたいのが楓だから倒れてる場合じゃないッ!
やってやる。絶対に守る。
「だから、やだね、っつたろうが。弱いのに格好つけすぎ」
あたしがやる。
「流宇はバカなんだから、すっこんでろ」
と暴漢の頬に唸りを上げた楓の右ストレートがジャストミート。
ガコッと鈍い音がする。骨が砕ける音。
「ククク」
と暴漢が笑った。嗤った。嘲るよう。効かないとばかり。
まるで死神の抱擁とも思えるそれ。
甘い香りを持った陽炎が立ちのぼる。ゆらりと波打ちここを支配する。
「あれ?」
唐突。楓の素っ頓狂な声。
それこそ理解不能と言わぬが如くな調律が狂ったピアノの歌。
突風吹き荒れる海原の上で暴風に逆らって、ひらひら舞い狂うカモメ。
「あれれ?」
ハハハ、楓の喉から絞り出される絶望。
「あちゃ。やっちまったな。バカなのはあたしの方か。失敗。失敗」
流宇……。
そう続けるつもりだったんだろう。
悲しみが満ちた楓の瞳が必死でそう訴える。
もはや言葉を続けられないとばかりに。
「楓ッ!?」
俺の絶叫が隔絶された空間に響き渡る。
駆け寄る。胸に刺さったナイフを握る。
今すぐにでも引き抜きたい。引き抜きたいけど、それが更なる事態の悪化を招くかもしれないと考えると恐くなる。いや、事態の悪化が恐いんじゃない。今、手の中で消えゆく、ぬくもりが失われるのが恐いんだ。
静かに霧散する命をつなぎ止められない無力さが恐いんだ。
「かえでぇぇ!!」
ごめん。
流宇。
ごめんね。
「不測の事態だ。応答求む」
暴漢が無情にも楓の胸からナイフを引き抜き、同時にスマホで誰かと会話を交わす。無論、俺は、今すぐにでも、この暴漢を殺したい。殺してやりたい。けれども楓の体から噴き出る血を止める事が先決だと足掻き続ける。
もはや止める事は叶わない血を必死で止めようともがく。
いやだ。
いやだ。
いやだぁぁぁ!
「かえでぇぇ!」
楓。楓。楓ッ! 帰ってきてくれッ! まだいくなッ!
俺には、まだ伝えていない事があるんだ。
お前を好きだって。お前を、ずっと守っていきたいって……。
「諒解!」
なにかを話して結論が出たのか、電話を切って俺へと向き直る暴漢。
「悪いな。これも我らの世界の為だ」
と短く意味不明な事を口走って俺へと殺意を向ける。
同時に事切れる楓。
「……夫婦漫・才、し・たかっ・たな。一度で良いから……るう」
最後に絞り出された想い。
全てがのった温かいそれ。
匂い立つ死が楓をかき消す。
血だけがぬくもりを遺す。
それも徐々に消える。
零れ落ちる俺の心と掬い上げられなかった楓の心。
なに死んでるんだよ。
そんなボケはいらない。お前はツッコミ志望だろうが。
『そのボケ最高! 流宇。なあ、なあ、あたしとコンビ組もうぜ?』
なんて、お前らしいボケの方がいいよ。
コンビなんて、いくらでも組んでやるから、さっさと帰って来いよ。
ここに。
「守れなかった。日常も。なにもかも。俺が弱かったから」
自分を殴り飛ばす。
口内が切れて、口いっぱいに鉄臭さが充満する。
「ハハハ」
俺は乾いた笑いを浮かべる。
「こんなの理解出来ねぇよ。……理解したくない。こんな現実、沢山だ!」
立ち尽くす。
叫ぶ。
「許さねぇ。絶対に許さねぇ」
うつむき涙を零した俺は暴漢へと向き直る。殺意をその目に宿らせ。
「テメェだけはな」
暴漢を睨む。
「許さなくていい。むしろ許すな。かかってこい」
暴漢がナイフを構える。
俺に武器などない。いや、ある。……殺意と根性だ。それを込めた拳も。
死ぬまでやってやる。たとえ死んでも死なばもろともだ。
と唐突。
時間が止まる。いや、ゆっくりと進む。
まるで走馬灯を魅せられるよう。
「……」
あれ? 声が出ない。
あれ? なんで? そんな。そんな馬鹿な。……楓。俺も。……なのか?
俺も。なのか?
あれ?
ポタリ。
ポタリ。
俺の足元に赤い死が満つる。また一つ。また一つ。
死へと誘う甘美な蜜を混ぜた媚薬が匂い立つ。
守れなかった。なにもかも。
ゆらゆらと揺れる赤い子守歌。
「……残念だったな。敵が一人だけだと思い込んだ、お前の負けだ」
そんな。まだ居たのか。もう一人敵が。
目の前にいた暴漢が、また、どこかへと連絡しているのが見える。
「対象を始末した」
それが俺の見た最後の風景だった。
◇
俺たちは、どこで道を間違えたんだろう?
いや、そんな事はどうでもいい。
それよりも楓と俺は死ななければならない存在だったんだろうか?
誰の為に?
何の為に?
どうして?
もし、この世に神さまがいるのだとしたら聞いてみたい。
あなたは誰に対してでも平等なのかと。
そして俺と楓の死も、あの瞬間、平等に訪れるべき死だったのか、と。
まあ、今となっては遠き夢だが。
そうして……、ここから物語は開幕する。
死んで、その先の世界で生きる俺と楓の物語が。
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