魔術師見習いの成長譚

☆タク☆

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【本編】第2章 暗闇に差す残光

第10話

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ライト「《エレキスパイラル》!」

何回トライしただろう。
次こそはという気持ちを捨てることなく取り組み続けた。

ライト「う、浮いた…!!」

ヒナ「おぉ!ナイスファイト!」

あれから数時間、どの生徒も苦戦を強いられたが次第に続々と成功者が現れた。

ヒナ「それにしても、みなさん大分成長しましたね!」

胸の前で両手を合わせて優しく微笑みながら言った。

ヒナ「最初は誰も出来なかったのに、今はみんな問題なく《エレキスパイラル》が使えてるじゃないですか。」

確かに言われてみればそうだった。
その事実こそが成長出来てるんだと示唆している。

ヒナ「それではまた全体の流れを通してやりましょうか!」

《エレキスパイラル》で空に飛ぶ練習を終え、いよいよそれを交えての実践に移る。
この応用技は1人で多数の敵と戦う時や、集団戦に特に適しているが、1vs1の場合だと《ブリッツストーム》からの追撃がやりやすくなるという利点がある。

ライト「今度こそ…!」

全員が再び練習を始める。
まだ安定しない人もいるが、ほとんどの人は安定して宙へ飛べている。
正確に《エレキゲイザー》を放つ為には飛んでから体の重心や向きを調整しなければならない。
飛ぶ瞬間にバランスを崩してしまえば即不可能だ。
空中戦というのは思っていたよりも何十倍何百倍と難しい。

ライト「《エレキゲイザー》!」

相手より上から使う範囲攻撃はかなり強力だ。
単体ではなく範囲というところに強みをしっかり活かすことが出来る。

ライト「どうでしたか先生!」

ヒナ「凄く体勢も安定してて良かったと思います!ライトくんは感覚を掴んでからが早いですね!」

自分でもよく出来たと思ったが、先生から見ても良かったようで安心した。
明日に迫るタイマン勝負でこの技がどれだけ通用するだろうか。
明日が楽しみで仕方がなかった。

ヒナ「みなさん凄い!まだ実習が始まって2時間程度なのに、もうこの技を習得しちゃって。先生普通に負けちゃうかもなぁ。」

生徒の成長に驚くしかないヒナ。
今年の新入生はどの子も個性的で強い子が多い年代だと伝えられていたが、本当にそれは間違っていないようだ。

ライト「さすがに先生には敵いませんよ。」

心の声が漏れるように小さい声で呟く。
先生本人には聞こえてないだろうが、恐らくここにいる生徒全員が同じことを思っているだろう。

ヒナ「どうしましょう、みなさんの成長が早すぎて時間が余ってしまいましたが…。」

ヒナは考え悩む。
当初の予定ではもう少し苦戦していい感じの時間になると見込んでいたらしい。

ヒナ「カイン先生のグループもありますから、先に昼食をとるわけにもいかないし…。本当は午後からだけどこのグループだけで対戦形式でやってみる?」

新しい魔法を教えるのもカイングループとのズレが出来てしまうのでそれもしたくはない。
そうなると、午後の実習で行う対戦形式か今までに教えた魔法を復習するかの2択にはなる。

「いいと思いますよ!」

生徒の中でそういう声がいくつも上がる。
ヒナもこうして考えを指摘してくれる人がいてくれて嬉しいだろう。

ヒナ「じゃあそうしましょう!とりあえず明日はクラス内で戦うので、別クラスの方と戦うようにしてくださいね!」

同クラスの人と戦うのも悪くないと思うが、経験の為もあってか別クラスの人と戦う方が合理的だろう。

???「ねぇ、ライトくん。」

背後から声をかけられる。
後ろを振り向くとそこに居たのは身長の高い男性がいた。
眠くなるような優しくて柔らかい声。
髪は黒髪で長く、白いドレスのようなワンピースのような服を着ている。

ライト「えっと、はい。」

???「よかったらボクと組まないかな?」

組むのは別に構わないことなのだが、一度も話したことがないので返答に困った。

ライト「えっと…。」

???「あぁ、自己紹介が遅れたね。B組のセレン、最初の実習の時は話が出来なかったから記憶にないと思うけど、これからよろしくね。」

その男性はセレンと名乗り、右手を差し出してきた。
ライトも右手を差し出し握手を交わす。

ライト「セレンさんですね。俺ライトって──」

セレン「あぁ、知ってるよ。別クラスなのに君の噂をよく耳にするんだ。」

そんな噂が立っていることなどライトは知らず、なにか立つようなことをした記憶もない。

ライト「そ、そうなんですか?」

セレン「ああそうだとも。だから君と是非手合わせしたくてね、構わないかい?」

ライト「は、はい、いいですけど…。」

B組に属するセレンと組むことになった。
お互い50mほど距離をとって向き合う。

セレン「それじゃあ、始めようか。」

にこっと余裕そうな笑顔で言う。
ライトと戦ったことはないが勝つ自信があるということなのだろうか、あるいは──

ライト「お願いします。」

軽く礼をして体勢に入る。
一方セレンは余裕そうな表情のままただ立っているだけだ。

ライト(舐められてるのか?だったら──)

一歩前へ踏み出し地面を蹴る。
急加速してセレンの懐まで一瞬で辿り着く。

ライト(見返してやるだけだ!)

ライト「《スパークル》!」

セレン(速い、思ってた以上だ。でも──)

セレンはライトの攻撃を見切るように最小限の動きで綺麗に躱した。
その後の近距離戦の攻撃も全て躱される。

セレン(この動き…まだ戦闘慣れしてないのか?)

軽々と軽快に避けていく。
余裕そうな表情は崩さないままだ。

ライト(くそっ、全部避けられる。攻撃パターンが単純なのか?)

手を止めては反撃されるとわかっていた。
初手の《スパークル》を回避した時点でかなりの実力者ということはライトにもわかっている。

ライト(魔法を挟もうにもこれだけ近距離で密接していては魔法を使う間に反撃を食らう。《雷切》なんてもってのほかだ。)

そこでライトは先程やった技を思い出す。
あれでなら距離をとれるかもしれない。

ライト「《ブリッツストーム》!」

こんな至近距離で不意をついた一撃も綺麗に躱される。
足元の前へ魔法を放ち後ろへ飛ぼうとする。

ライト「《エレキスパイラル》」

先程の練習よりも綺麗に飛ぶことが出来た。
最高の調整だ。

ライト「《エレキゲイザー》!」

セレンは当然全て避ける。
しかしこれで距離は取れた。
ライトは着地と同時に右手で地面を殴った。
バチバチと音を立てて周囲に電気が生まれる。

ライト「《雷切》!」

直後、先程の《スパークル》よりも速く急接近する。
高いところからの着地と接続したおかげか魔法のパワーもいつもより断然高い。
それに加えて距離もより短い。
セレンは反応が遅れたのかその場から動かず、そのままライトの雷切がセレンに直撃した。

──ドゴォォン!!

接触と同時に砂塵が舞い、地面も抉れ亀裂が入る。
周囲の人もそちらの方へ目を向けた。
やがて舞っていた砂塵が散り、視界が晴れてきてようやくライトを全員が何が起こったかを理解した。

ライト「なっ…!?」

雷切で振りかざした右手はセレンの左手でしっかりと掴まれていた。
その左手は手のひらの辺りから血が流れ垂れているのがわかる。

セレン(もしかすると彼は、自身が持つ力を認識していないのかもしれない。)

セレン「ありがとうライトくん、楽しかったよ。」

バイバイをするように右手を上げてどこかへ歩いていく。

ライト(楽しかったって…避けてただけじゃないか。)

彼もまたアギトやリディアのような施設に通ってた人なのだろうか。
不意打ちの攻撃も全て躱され、《雷切》も受け止められた。

ライト(まだまだなんだよな、俺。)

ひとつ、またひとつ成長してもなお未だに届かない高い壁。
その壁は諦めたくなるほど至難で絶望的だ。
そんなことはライトもわかっている。

ヒナ「2人とも大丈夫~?先生が治療するからちょっと待って──」

セレン「あー先生、自分はもう治したんで大丈夫です。」

そう言って左手を見せてくる。
先程まで血まみれだった左手は傷一つ付いておらず、血の跡すらもない。
どこまでも抜かりない人だ。

ライト(くそっ…くそっ!)

ただ悔しいとしか言えなかった。
それもそうだろう、全ての攻撃を躱された挙句に「楽しかった」と一言残して治療さえも1人でこなしてしまう。
完全敗北、何もかもが敵わない相手だと思い知らされる。

ヒナ「それじゃあそろそろお昼休憩にします。一度学園に戻るので集合してください!」

ヒナの集合がかかる。
しかしライトにその声は届いていなかった。

ヒナ「ライトくん?」

ライト「あ、は、はい!すいません。」

そこでようやく気づいたライトは急いでみんなのいるところへ向かう。
全員が揃い、ヒナが詠唱した。

ヒナ「《転移》!」

視界が白く染まる。
慣れないこの景色さえも気にならないほどどこか気が散っていた。

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