魔術師見習いの成長譚

☆タク☆

文字の大きさ
上 下
108 / 108
【本編】第4章 捲土重来

第22話

しおりを挟む
ライト「はぁっ、はぁっ、なんで、こんな…!」

時刻は午前8時半。
ライトとエンリはまさに学園へ向かう道を走ってる最中だ。

エンリ「間に合うかな…!?」

ライト「いや、いける。急ごう!」

結局昨晩は今日のことを完全に忘れて2人で話し込んでしまい、起きる時間が遅くなってしまったさまだ。
ドタバタと2人で家中を駆け回り、妹のミミに笑われ、母親には笑顔で見送られた。
しかし、こうして走る学園の日々の1ページも、なんだか面白くて仕方がない。

ライト「やっと…着いた……。」

エンリ「ライトくん、大丈夫…?」

ライト「うん、早く講義室に行こう。」

お互い励まし合い高め合う関係ならば、時に躓きすれ違うこともある。
しかし、その壁を越える…いや、壊すことができる絆がより一層強くしてくれる。

ライト「っぷははっ!!」

こんな些細で下らない1ページも魔術師になる道の1ページ。
面白おかしく笑ってしまいたいほどに、この学園では様々なページが彩られる。
そのページが続く限り、前に進める。

アギト「おはようございます。珍しくギリギリですね。」

ライト「はぁ…おはようございます、アギトさん。」

息を整え、自席に座る。
途端に緊張がどっと押し寄せ、心臓の音がバクバクと聞こえてきた。

ライト(大丈夫、やれることはやった。)

力を抜き、深呼吸をする。
しかし、思わず力が入ってしまう。

???「あら、もしかして緊張してるのかしら?」

そう声をかけてきたのはリディアだった。
こうして会うのは以前対戦して以来で少し気まずい空気になる。

リディア「またヘマかますなんて、有り得ないわよね?」

ライト「わかってます。必ずC組が勝ちます。」

リディア「…言うようになったわね。まぁ、せいぜい頑張りなさい。」

普段通り素っ気ない態度で目も合わせず言葉だけを残して去っていく。
しかし、そのおかげで肩の力が少し抜けた気がした。

リズ「ライトくんおはよ!」

ライト「おはよ、リズ。元気だな。」

リズ「当たり前だよ!今日すっごく調子がいいんだよ~!」

ライト「それは良かった。お互い頑張ろうな。」

リズ「うん!」

やはりリズと話すと自然に力が湧いてくる。
彼女の元気さは今までで1番だろう。
その眩しさに最初は目を細めたが、今は共に輝くと決めた。
もう後戻りなどできない。

ベガ「よっ、元気か?」

ライト「ははっ、誰に言ってんだ?」

ライトはベガにニッと笑って言うとベガも安心したように笑った。

ベガ「俺は信じてるぜ。」

ライト「!!…ああ、お前も頑張れよ。」

ベガ「あったりめぇだ。」

ベガと拳を合わせる。
C組全体で良い雰囲気に感じられる。
それも全て練習で吹っ切れたおかげだろうか。
みんなが緊張しているはずなのに、それを感じさせないくらい笑って楽しんでいる。
このクラスなら負けないと思わせるほどに。

ノア「おはようございます。」

ノアが講義室に入ると、各々が席につき、講義室内はしんと静まり返った。

ノア「本日の行事の概要について、もう一度説明をします。」

今回の行事は夏季休暇前、最後の行事となる。
それもあってか、これまでの行事よりも大規模な50vs50vs50のクラス対抗戦だ。
入学してからの4ヶ月間の集大成となるが、まさにそれに適した行事だと思う。

──ピピピピピッ

今回の行事のルールを改めて振り返る。
形式はPtポイント争奪戦となるサバイバルゲーム。
参加人数は150人、クラス対抗だ。
制限時間は8時間。
生き残ったメンバーが同クラスになるか、制限時間終了まで行事は続き、制限時間終了の場合エリア上に残っている生徒の合計Ptポイントが1番多いクラスが勝利。
ポイントは次の通りだ。

・小型個体モンスター 1Pt
・中型個体モンスター 3Pt
・大型個体モンスター 5Pt
・敵プレイヤー    10Pt
・????        50Pt

ライフ制で0になれば強制退場となりPtポイントは全て失われる。
1クラス3人代表を決め、代表者3名が獲得するPtポイントは通常の3倍になるが、倒された時倒された相手にその時点で持っているPtポイントを全て与える。(※代表者では無い者が倒されても相手にPtポイントが奪われることはなく、相手に10Pt加算される。)
代表者が誰かは他クラスの人は知ることが出来ない。

ライト(この行事の肝になってくるところは代表者の存在。倒されずにどれだけPtを伸ばせるか。)

枠は1クラス3人。
A組もB組も代表者になりそうな候補者はある程度考えられているが実際はどうかわからない。
C組こそその心理を利用して3名を決めたのだ、他のクラスも意外なところから選択してくる可能性はある。
ただ──。

ライト(やはりA組はルナの存在。C組のようにあえて選ばれてない可能性もあるけどどのみちルナを倒さないと勝ち目は薄い。)

もちろんB組でも言えることだ。
B組にもラヴィをはじめとして、フブキやセレン、イリスもいる。
対してC組にはアギトやリディア、ソラにオペラと、お互いに警戒する存在はいる。
もちろん全クラスに共通して言えることだが、その警戒すべき存在はあくまでも最優先というだけで、他の生徒も侮れない。
特に前回の行事と上級生の試合の見学。
この2つに刺激を受けた人は少なくないはずだ。

ノア「以上です。改めて質問があればお答えします。」

全ての説明が終わり、質問者は現れなかった。
この後、遂に始まる。
魔術師への道の経験となる時間が。
そして、汚名返上の瞬間が。
あのような失態をする自分はもういない。

ノア「それでは大聖堂に移動しましょう。」

全員が立ち上がり、番号順に列になり廊下へ出る。
コツコツと50人の足音が静かな廊下に鳴り響く。
その音は余計に緊張の渦へ引き込むように身体を興奮させた。

──ガチャ

大聖堂の中へゾロゾロと入っていく。
大聖堂には既にA組とB組が静かに並んでいた。
その横に並び、全員の人数を確認したノアは大聖堂から去っていった。
教職員は確か別室で行事の様子を見ていたはずだ。
魔法によって表示された大きな画面にいくつもの場所が移り変わって表示され、フィールド全体を見てるらしい。

ライト(……。)

ドクドクと痛いほどに大きく、うるさく鳴り響く心臓の鼓動を噛み殺すように、目を瞑り深呼吸をした。
しかし無意識に肩から手へと力が入り、拳を強く握りしめていた。

ライト(さっきまでの威勢はどうしたんだよ。大丈夫、やるべき事はやっただろ。)

自分に強く言い聞かせるが、余計に全身が力み腕も足も震えだす。

ライト(くそ、情けないな。)

どれだけ自信がついてもあの件以来の行事だ。
大丈夫だと思っていても内心は焦りや不安でいっぱいなのかもしれない。
すると、右手に温かい感覚がれた。

リズ「みんないるよ。」

ライト「リズ…。」

右手に触れた温かな感触はリズの手だった。
リズが手を包むように心もその温かさに包まれた。

ライト(そうだ、1人じゃない。ミューズさんにも教わった。)

入学してから沢山の人にお世話になった。
クラスメイトだけではない、同じ雷属性の実習に参加している生徒に、担任のノア、実習担当のカインやヒナ、生徒会長のミューズ、療養を担当してくれたリサ。
その他にも沢山いる。
この魔術師の世界に入って、迷い嘆きもがいて、1度は挫折してもこうして戻ってこれた。
その過程では様々な人に感謝しなければならないような出来事ばかりだった。

ライト「ありがとう。」

リズ「えへへ、頑張ろうね!」

『みなさん、おはようございます。只今より、行事を開催致します。』

アナウンスがかかる。
次第に景色は白く染まりあげる。
周りの人も見えなくなってしまった。
次に目の前に広がる景色はフィールド。
その時には始まっているのだ。

ライト?『捲土重来といくぞ、過去をぶち壊せ。』

ライト「ああ!」

踏み出した1歩目は行事の開始を意味すると同時に、新たな世界の開始の意味でもある。
ゆっくりと幕が上がった。


  第4章 捲土重来 ~完~

しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。


処理中です...