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第1章
第1話(4)祓いの才能
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「ふむ……」
天馬さんが腕を組んで、顎をさすりながら、わたしのことを見つめる。
「いや、ふむじゃなくてですね……」
「やはり……」
「え?」
「……違いますかね」
「はい?」
「いや、霊感というのが」
「? どういうことですか?」
「話の便宜上、霊感と言っていましたが、あまりしっくり来ないんですよね……」
「あ、ああ、そうですか……」
「なにかもっと適切な言葉があるような……」
「はあ……」
「そうだ……!」
天馬さんがポンと手を打つ。
「……一応聞いておきましょうか」
「静香さん、貴女は『妖力アンテナ』を張っているんですよ」
「はあっ? ア、アンテナですか?」
「そうです」
「それを張っていると?」
「ええ、もうビンビンに」
「そんなの張った覚えはありませんよ。髪の毛も逆立っていませんし」
「なんとか逆立てられません?」
「なにを言っているんですか」
「その長くて綺麗な黒髪を固めてですね……」
「しませんよ」
「そうですか……」
天馬さんは肩を落とす。
「なんでちょっとガッカリしているんですか……」
「まあ、冗談はともかく……」
「冗談だったんですか?」
「ええ、貴女が妖を引き寄せやすくなっていることは本当ですが」
「それは冗談じゃないんですか……」
「そうです。それに加えて……」
「加えて?」
「この土地が妖の通り道のようになっているのです」
「通り道?」
「そうです」
天馬さんが首を縦に振る。
「では、あの三つ目小僧さんも……」
わたしは三つ目小僧を指し示す。
「そうですね……散歩がてら人間にちょっかいをかけようとしているのだと思います」
「それはまた……はた迷惑な散歩ですね……」
「ええ、ですからそういう迷惑なものは祓ってしまわなければなりません」
「はあ……」
「……というわけで、妖退治……ご協力いただけますね?」
「いやいや、そう言われても困りますよ!」
わたしは右手と首を同時に左右にぶんぶんと振る。
「ええ?」
天馬さんは目を丸くする。
「ええ?って言いたいのはこっちの方ですよ。妖退治だなんて……」
「ご経験はない?」
「そんなものあるわけがないでしょう」
「ああ、そうなのですか……」
「……」
三つ目小僧がいよいよこちらに近づいてくる。
「き、来ましたよ!」
「妖退治……ご一緒出来れば心強かったのですが……」
「だから、人違いかなにかじゃないですか? わたしは極々普通の女子高生ですよ?」
「まあ、とりあえずそういうことにしておきますか……」
「とりあえずって……」
「少し下がっていてください」
「は、はい……」
わたしは天馬さんの斜め後方に下がる。
「さて……」
天馬さんが構える。
「……!」
三つ目小僧が急に加速して迫ってくる。わたしは驚く。
「は、速い⁉」
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
「!」
天馬さんが言葉を唱えながら、両手の指を素早く組みかえて、手を振ると、衝撃波のようなものが発生し、三つ目小僧が後方に思い切り吹っ飛ぶ。
「す、すごい!」
「大したことではありません……」
「アニメで見たやつですよ! 今の指をなんかこうやってこうやるやつ!」
わたしは興奮気味に声を上げる。我ながら語彙力が無い。
「『九字切り』です。いわゆる『九字護身法』の一種ですね」
「はえ~」
わたしは間の抜けた声で感心する。天馬さんが頭を掻く。
「まあ、この程度ならご協力は要らなかったですかね……ん?」
「………!」
「ええっ⁉」
わたしは驚いた、三つ目小僧が起き上がったかと思うと、巨大化したからである。
「三つ目入道になるとは……これはなかなか珍しい……」
「……‼」
「むっ⁉」
三つ目入道が一瞬で天馬さんの懐に入り込む。
「………‼」
「うおっ⁉」
三つ目入道が拳を叩き込む。見るからに強烈な攻撃である。それを食らった天馬さんが後方へ吹っ飛ぶ。
「て、天馬さん⁉」
わたしは振り返って尋ねる。
「きょ、巨体に似合わぬ素早さ……油断してしまいました……」
天馬さんが自らの腹部を抑えながら苦しそうに呟く。
「だ、大丈夫ですか⁉」
「ぼ、ぼくのことは良いですから、ご自身の心配を……!」
「えっ⁉」
「…………!」
「うわっ⁉」
三つ目入道が拳を振り下ろしてきた。わたしはとっさに横に飛んで、それをかわす。
「………」
「あ、危なかった……」
胸をほっと撫で下ろすわたしに体勢を立て直した天馬さんが告げる。
「今の一撃をかわすとは、静香さん、やはり貴女には才能がある……!」
「た、たまたまですよ!」
「ご謙遜を……貴女には……そう、『妖ハンター』の才能があります!」
「さっきから、『妖力アンテナ』とか、『妖ハンター』とか、ダサくないですか⁉」
「ダ、ダサい⁉」
わたしの言葉に天馬さんが愕然とする。
「…………」
三つ目入道がその大きな三つの目でこちらを睨んでくる。
「う、うわっ⁉ て、天馬さん、どうすれば良いんですか⁉」
「さあ……」
「さあって? な、何をショック受けているんですか⁉」
「ダサいって言われた……」
「撤回はしませんけど、立ち直ってください! このままだと……!」
「……九字を結べば良いのではないでしょうか?」
「や、やったことないですよ!」
「その辺はまあ、適当に……」
「て、適当にって⁉」
「…………‼」
「ええい、ままよ!」
「⁉」
「ええっ⁉」
わたしが見様見真似で九字を結ぶと、ピンク色のモグラが地中から現れ、三つ目入道を豪快に吹き飛ばして、霧消させる。モグラは地中に潜る。天馬さんが驚き交じりに呟く。
「い、今のは『華土竜』……意外なお友達をお持ちですね……」
「し、知らない方ですけど⁉」
「妖ハンター……もとい、祓い屋として優秀だ……」
戸惑うわたしをよそに、天馬さんは深々と頷く。
天馬さんが腕を組んで、顎をさすりながら、わたしのことを見つめる。
「いや、ふむじゃなくてですね……」
「やはり……」
「え?」
「……違いますかね」
「はい?」
「いや、霊感というのが」
「? どういうことですか?」
「話の便宜上、霊感と言っていましたが、あまりしっくり来ないんですよね……」
「あ、ああ、そうですか……」
「なにかもっと適切な言葉があるような……」
「はあ……」
「そうだ……!」
天馬さんがポンと手を打つ。
「……一応聞いておきましょうか」
「静香さん、貴女は『妖力アンテナ』を張っているんですよ」
「はあっ? ア、アンテナですか?」
「そうです」
「それを張っていると?」
「ええ、もうビンビンに」
「そんなの張った覚えはありませんよ。髪の毛も逆立っていませんし」
「なんとか逆立てられません?」
「なにを言っているんですか」
「その長くて綺麗な黒髪を固めてですね……」
「しませんよ」
「そうですか……」
天馬さんは肩を落とす。
「なんでちょっとガッカリしているんですか……」
「まあ、冗談はともかく……」
「冗談だったんですか?」
「ええ、貴女が妖を引き寄せやすくなっていることは本当ですが」
「それは冗談じゃないんですか……」
「そうです。それに加えて……」
「加えて?」
「この土地が妖の通り道のようになっているのです」
「通り道?」
「そうです」
天馬さんが首を縦に振る。
「では、あの三つ目小僧さんも……」
わたしは三つ目小僧を指し示す。
「そうですね……散歩がてら人間にちょっかいをかけようとしているのだと思います」
「それはまた……はた迷惑な散歩ですね……」
「ええ、ですからそういう迷惑なものは祓ってしまわなければなりません」
「はあ……」
「……というわけで、妖退治……ご協力いただけますね?」
「いやいや、そう言われても困りますよ!」
わたしは右手と首を同時に左右にぶんぶんと振る。
「ええ?」
天馬さんは目を丸くする。
「ええ?って言いたいのはこっちの方ですよ。妖退治だなんて……」
「ご経験はない?」
「そんなものあるわけがないでしょう」
「ああ、そうなのですか……」
「……」
三つ目小僧がいよいよこちらに近づいてくる。
「き、来ましたよ!」
「妖退治……ご一緒出来れば心強かったのですが……」
「だから、人違いかなにかじゃないですか? わたしは極々普通の女子高生ですよ?」
「まあ、とりあえずそういうことにしておきますか……」
「とりあえずって……」
「少し下がっていてください」
「は、はい……」
わたしは天馬さんの斜め後方に下がる。
「さて……」
天馬さんが構える。
「……!」
三つ目小僧が急に加速して迫ってくる。わたしは驚く。
「は、速い⁉」
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前!」
「!」
天馬さんが言葉を唱えながら、両手の指を素早く組みかえて、手を振ると、衝撃波のようなものが発生し、三つ目小僧が後方に思い切り吹っ飛ぶ。
「す、すごい!」
「大したことではありません……」
「アニメで見たやつですよ! 今の指をなんかこうやってこうやるやつ!」
わたしは興奮気味に声を上げる。我ながら語彙力が無い。
「『九字切り』です。いわゆる『九字護身法』の一種ですね」
「はえ~」
わたしは間の抜けた声で感心する。天馬さんが頭を掻く。
「まあ、この程度ならご協力は要らなかったですかね……ん?」
「………!」
「ええっ⁉」
わたしは驚いた、三つ目小僧が起き上がったかと思うと、巨大化したからである。
「三つ目入道になるとは……これはなかなか珍しい……」
「……‼」
「むっ⁉」
三つ目入道が一瞬で天馬さんの懐に入り込む。
「………‼」
「うおっ⁉」
三つ目入道が拳を叩き込む。見るからに強烈な攻撃である。それを食らった天馬さんが後方へ吹っ飛ぶ。
「て、天馬さん⁉」
わたしは振り返って尋ねる。
「きょ、巨体に似合わぬ素早さ……油断してしまいました……」
天馬さんが自らの腹部を抑えながら苦しそうに呟く。
「だ、大丈夫ですか⁉」
「ぼ、ぼくのことは良いですから、ご自身の心配を……!」
「えっ⁉」
「…………!」
「うわっ⁉」
三つ目入道が拳を振り下ろしてきた。わたしはとっさに横に飛んで、それをかわす。
「………」
「あ、危なかった……」
胸をほっと撫で下ろすわたしに体勢を立て直した天馬さんが告げる。
「今の一撃をかわすとは、静香さん、やはり貴女には才能がある……!」
「た、たまたまですよ!」
「ご謙遜を……貴女には……そう、『妖ハンター』の才能があります!」
「さっきから、『妖力アンテナ』とか、『妖ハンター』とか、ダサくないですか⁉」
「ダ、ダサい⁉」
わたしの言葉に天馬さんが愕然とする。
「…………」
三つ目入道がその大きな三つの目でこちらを睨んでくる。
「う、うわっ⁉ て、天馬さん、どうすれば良いんですか⁉」
「さあ……」
「さあって? な、何をショック受けているんですか⁉」
「ダサいって言われた……」
「撤回はしませんけど、立ち直ってください! このままだと……!」
「……九字を結べば良いのではないでしょうか?」
「や、やったことないですよ!」
「その辺はまあ、適当に……」
「て、適当にって⁉」
「…………‼」
「ええい、ままよ!」
「⁉」
「ええっ⁉」
わたしが見様見真似で九字を結ぶと、ピンク色のモグラが地中から現れ、三つ目入道を豪快に吹き飛ばして、霧消させる。モグラは地中に潜る。天馬さんが驚き交じりに呟く。
「い、今のは『華土竜』……意外なお友達をお持ちですね……」
「し、知らない方ですけど⁉」
「妖ハンター……もとい、祓い屋として優秀だ……」
戸惑うわたしをよそに、天馬さんは深々と頷く。
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