11 / 29
第1章
第3話(2)青年は勇者
しおりを挟む
「そなたは最寄田静香……だな?」
「は、はい……」
わたしは頷く。
「ふむ……三日目か、ついに出会うことが出来て良かった……」
灰色の髪をした青年は胸に手を当てて、微笑む。なかなかにハンサムな顔立ちをしている。長く伸びた髪は美しくなびいており、爽やかさを感じさせる。まさに絵に描いたようなイケメンだ。だがしかし……。
「……」
わたしは自然と距離を置こうとする。青年がそれに気が付いて、首を傾げる。
「うん? いかがしたのか?」
「いや、なんというか……」
「ひょっとして……警戒をしているのか?」
「ま、まあ、そうですね……」
一昨日の昨日、昨日の今日だし、しょうがないだろう。わたしは素直に頷く。
「ふふっ……我は決して怪しい者などではないよ」
「そ、そうですかね⁉」
わたしは思わず大声を上げてしまう。ブレザー姿の高校生が集まっている中で、ロールプレイングゲームの登場キャラクターのような恰好をしている男性はどう考えても怪しい寄りだと思うが。昨日も思ったが、コスプレイヤーの集まりというわけでもないのに。
「そうだ。だからそんなに警戒しないでもらいたい」
「……何故にわたしの名前を知っているんですか?」
「それはもちろん、そなたに用があるからだよ」
「そ、そなたって……趣味というものは人それぞれだと思いますけど、いきなりロールプレイングゲームごっこというのはちょっと……結構ハードルが高いというか……」
「! あっはっはっは……!」
青年は声高らかに笑う。わたしはちょっとムッとしながら尋ねる。
「な、なにがおかしいんですか?」
「いや、失礼……我は別にごっこ遊びをしているつもりではないよ。こういうものだ」
青年は服の中に隠していた剣を見せてくる。
「え? け、剣ですか、それ……? ええっと……?」
「ああ、我の名はジャッキー=バラバンという。この世界にやって来た勇者だ」
「ゆ、勇者⁉」
わたしは思いもかけないフレーズに驚く。
「そうだ、ごくごく普通のな」
ジャッキーと名乗った青年は長い髪をかき上げる。
「勇者はごくごく普通ではありませんよ!」
「そうか?」
「そうですよ! 初めて見ました!」
「初めて?」
ジャッキーさんは驚いて目を丸くする。
「ええ、初めてですよ! レアリティで言えばSSRです!」
「こんなに大きな街だというのに?」
ジャッキーさんは両手を広げて、周囲を見回す。
「はい」
「近くにある新宿……駅という場所はこの世界で一番の利用者数だと聞いたのだが?」
「そ、それはそうらしいですね……」
「それならば中にはいるだろう、勇者の一人や二人くらい」
「い、いや、それはもしかしたらいるかもしれませんけど、そんないちいち確認したりとかはしませんから……仮にいたとしても日本で勇者の需要はあまり無いんじゃないですか、知らないですけど」
「勇者の需要が無い? ふむ……この日本という国……やはり興味深いな……」
ジャッキーさんは顎に手を当てて呟く。
「……あの、もういいですか? ホームルームが始まってしまいますので……」
わたしはその場から離れようとする。
「あ、ちょっと待ちたまえ……!」
「はい?」
わたしは呼び止められ、振り返ってしまう。
「………」
ジャッキーさんは少し目を閉じた後、片目を開いて周囲を伺う。
「あ、あの……?」
「……うん、とりあえずは大丈夫のようだ」
ジャッキーさんは頷く。
「は、はあ……?」
「……そうだな……放課後にまた話をしたいのだが……お願い出来るかな?」
「え、ええ……」
わたしは露骨に困惑する。
「おや、困惑しているようだな。どうしてだ?」
「いや、どうしてだって言われても……」
「そなたにとって不利益な話ではないはずだ」
「……もう十分不利益を被っていますよ」
自称勇者だというちょっと痛い青年と朝から立ち話……他の生徒からジロジロと見られている。どんな噂が立てられてしまうのやら……。
「……不利益だと?」
「いや、いいです。失礼します」
「待っているぞ」
わたしは軽く会釈をし、その場を後にして、教室へと向かう。夕方になり、ホームルームも終わる。この痛いイケメンと鉢合わせしたりしないように裏門から帰れば……。
「げっ……」
裏門から帰ろうとしたわたしは顔をしかめる。ジャッキーさんが何故かいたからだ。
「やあ……」
「……何故ここに?」
「いや、我もホームルームが早目に終わったものでな……この辺りを散策していた」
「……そ、そういえば、もしかしてなんですけど……」
「ああ、我は転入生?というやつだよ」
「せ、制服を着ていなくても良いんですか?」
「特例で認めてもらった」
「そんなことが可能なんですか?」
「可能だ。なんといっても勇者だからな」
「……散策って……暇なんですか?」
「暇とは随分だな。初めて訪れる場所を隈なく探すというのは冒険の基本だ」
「ぼ、冒険ですか?」
「ああ、この世界は我にとっては真新しいことだらけだからな。ある程度は慣れたが」
「……今朝もこの世界だとかなんとか言っていましたけど……」
「ああ、我はそなたたちとは違う世界、異世界からやってきたのだ」
「異世界……そういう設定なんですね……やっぱりごっこ遊びじゃないですか……」
わたしの少々イラついた視線にジャッキーさんは苦笑交じりで応じる。
「やや棘を感じるな……あ、現れたな、モンスターだ。さあ、共に討伐と参ろうか」
「はいいいっ⁉」
ジャッキーさんの提案にわたしは驚く。
「は、はい……」
わたしは頷く。
「ふむ……三日目か、ついに出会うことが出来て良かった……」
灰色の髪をした青年は胸に手を当てて、微笑む。なかなかにハンサムな顔立ちをしている。長く伸びた髪は美しくなびいており、爽やかさを感じさせる。まさに絵に描いたようなイケメンだ。だがしかし……。
「……」
わたしは自然と距離を置こうとする。青年がそれに気が付いて、首を傾げる。
「うん? いかがしたのか?」
「いや、なんというか……」
「ひょっとして……警戒をしているのか?」
「ま、まあ、そうですね……」
一昨日の昨日、昨日の今日だし、しょうがないだろう。わたしは素直に頷く。
「ふふっ……我は決して怪しい者などではないよ」
「そ、そうですかね⁉」
わたしは思わず大声を上げてしまう。ブレザー姿の高校生が集まっている中で、ロールプレイングゲームの登場キャラクターのような恰好をしている男性はどう考えても怪しい寄りだと思うが。昨日も思ったが、コスプレイヤーの集まりというわけでもないのに。
「そうだ。だからそんなに警戒しないでもらいたい」
「……何故にわたしの名前を知っているんですか?」
「それはもちろん、そなたに用があるからだよ」
「そ、そなたって……趣味というものは人それぞれだと思いますけど、いきなりロールプレイングゲームごっこというのはちょっと……結構ハードルが高いというか……」
「! あっはっはっは……!」
青年は声高らかに笑う。わたしはちょっとムッとしながら尋ねる。
「な、なにがおかしいんですか?」
「いや、失礼……我は別にごっこ遊びをしているつもりではないよ。こういうものだ」
青年は服の中に隠していた剣を見せてくる。
「え? け、剣ですか、それ……? ええっと……?」
「ああ、我の名はジャッキー=バラバンという。この世界にやって来た勇者だ」
「ゆ、勇者⁉」
わたしは思いもかけないフレーズに驚く。
「そうだ、ごくごく普通のな」
ジャッキーと名乗った青年は長い髪をかき上げる。
「勇者はごくごく普通ではありませんよ!」
「そうか?」
「そうですよ! 初めて見ました!」
「初めて?」
ジャッキーさんは驚いて目を丸くする。
「ええ、初めてですよ! レアリティで言えばSSRです!」
「こんなに大きな街だというのに?」
ジャッキーさんは両手を広げて、周囲を見回す。
「はい」
「近くにある新宿……駅という場所はこの世界で一番の利用者数だと聞いたのだが?」
「そ、それはそうらしいですね……」
「それならば中にはいるだろう、勇者の一人や二人くらい」
「い、いや、それはもしかしたらいるかもしれませんけど、そんないちいち確認したりとかはしませんから……仮にいたとしても日本で勇者の需要はあまり無いんじゃないですか、知らないですけど」
「勇者の需要が無い? ふむ……この日本という国……やはり興味深いな……」
ジャッキーさんは顎に手を当てて呟く。
「……あの、もういいですか? ホームルームが始まってしまいますので……」
わたしはその場から離れようとする。
「あ、ちょっと待ちたまえ……!」
「はい?」
わたしは呼び止められ、振り返ってしまう。
「………」
ジャッキーさんは少し目を閉じた後、片目を開いて周囲を伺う。
「あ、あの……?」
「……うん、とりあえずは大丈夫のようだ」
ジャッキーさんは頷く。
「は、はあ……?」
「……そうだな……放課後にまた話をしたいのだが……お願い出来るかな?」
「え、ええ……」
わたしは露骨に困惑する。
「おや、困惑しているようだな。どうしてだ?」
「いや、どうしてだって言われても……」
「そなたにとって不利益な話ではないはずだ」
「……もう十分不利益を被っていますよ」
自称勇者だというちょっと痛い青年と朝から立ち話……他の生徒からジロジロと見られている。どんな噂が立てられてしまうのやら……。
「……不利益だと?」
「いや、いいです。失礼します」
「待っているぞ」
わたしは軽く会釈をし、その場を後にして、教室へと向かう。夕方になり、ホームルームも終わる。この痛いイケメンと鉢合わせしたりしないように裏門から帰れば……。
「げっ……」
裏門から帰ろうとしたわたしは顔をしかめる。ジャッキーさんが何故かいたからだ。
「やあ……」
「……何故ここに?」
「いや、我もホームルームが早目に終わったものでな……この辺りを散策していた」
「……そ、そういえば、もしかしてなんですけど……」
「ああ、我は転入生?というやつだよ」
「せ、制服を着ていなくても良いんですか?」
「特例で認めてもらった」
「そんなことが可能なんですか?」
「可能だ。なんといっても勇者だからな」
「……散策って……暇なんですか?」
「暇とは随分だな。初めて訪れる場所を隈なく探すというのは冒険の基本だ」
「ぼ、冒険ですか?」
「ああ、この世界は我にとっては真新しいことだらけだからな。ある程度は慣れたが」
「……今朝もこの世界だとかなんとか言っていましたけど……」
「ああ、我はそなたたちとは違う世界、異世界からやってきたのだ」
「異世界……そういう設定なんですね……やっぱりごっこ遊びじゃないですか……」
わたしの少々イラついた視線にジャッキーさんは苦笑交じりで応じる。
「やや棘を感じるな……あ、現れたな、モンスターだ。さあ、共に討伐と参ろうか」
「はいいいっ⁉」
ジャッキーさんの提案にわたしは驚く。
0
あなたにおすすめの小説
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる